アニメといえば日本を代表するエンタメコンテンツ。「国民的アニメ」と呼ばれる作品も数多く、これまで国内外を問わず人々を魅了してきました。では、アニメを制作する人は、どのような方々なのかご存知ですか?今回は、アニメ制作の現場で奔走する人々の、笑いあり涙ありの物語を描いた本作の魅力を、ネタバレを含めながらご紹介します。
本作の舞台はアニメ制作会社です。
主人公である、アニメプロデューサーの有科香屋子(ありしな かやこ)は、伝説のアニメ「光のヨスガ」を撮った監督・王子千晴(おうじ ちはる)の9年ぶりの新作「運命戦線リデルライト」(略称「リデル」)を一緒に制作することになりました。
しかし製作途中に王子が謎の失踪を遂げ、進行に支障が出てしまいます。果たして「リデル」は無事に放送することは出来るのでしょうか。
同じころ、「リデル」と同クールで放送される作品「サウンドバック 奏の石」(略称「サバク」)を初作品として制作する監督・斉藤瞳(さいとう ひとみ)と、アニメ原画を作る会社・ファインガーデンの凄腕原画マンと騒がれている並澤和奈(なみさわ かずな)も、仕事に関する悩みを抱えていました。
一見接点がないように見える3人の女性たちですが、アニメ業界という狭い業界で彼は間接的に関わり合っています。3人がお互いの人生に強い影響を与え始めた時、それぞれにもたらす変化も見どころの一つです。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2014-08-22
タイトルの「ハケン」とは漢字で「覇権」と書き、そのクールで1番の売り上げ実績を上げたアニメのことです。登場人物たちは自分たちの作品をハケンアニメにするべく奔走しますが、それ以上に自分たちが担当するアニメに誇りを持っています。
登場人物たちの設定や物語の展開、業界を緻密に調査した上で書かれた文体などが作家の有川浩とよく似ており、読者の中にはずっと作者を間違えて覚えていた人たちもいた程です。そのため有川浩の作品が好きな方にもおすすめできる作品です。
そんな小説『ハケンアニメ!』はマガジンハウスから出版されており、表紙および挿絵は漫画家として有名なCLAMPが担当しています。また、2017年には文庫版も出版されました。
さらに、2019年10月からSKE48の大場美奈や舞台俳優の小越勇輝、市川しんぺーなどの豪華キャストによる舞台化も決まっており、ますます注目を集めています。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2007-08-11
作者である辻村深月は、『冷たい校舎の時は止まる』で2004年に第31回メフィスト賞を受賞して作家デビューを果たしました。その後、2012年に第147回直木三十五賞を受賞した『鍵のない夢を見る』を始め『子どもたちは夜と遊ぶ』や『かがみの孤城』、『ツナグ』などが代表作として挙げられます。
作者は子どもの時から読書の他にゲームやアニメにも触れて育ち、多大な影響を受けたことを公言しています。今作は世間一般で「辛い」「給料が安い」というイメージを持たれがちなアニメ業界に焦点を当て、「働く人、悩む人、だけどそれでも日々を頑張るすべての人へのエールとなるような小説を」というテーマで執筆したことをインタビューで答えました。
アニメ愛に溢れた作者だったからこそアニメ業界について徹底的に調べ、書き上げることが出来た作品なのです。
辻村深月のその他の著作についてもっと知りたい方は、こちらの記事がおすすめです。
『ハケンアニメ!』の魅力3!アニメ業界が舞台の小説を結末までネタバレ!
アニメといえば日本を代表するエンタメコンテンツ。「国民的アニメ」と呼ばれる作品も数多く、これまで国内外を問わず人々を魅了してきました。では、アニメを制作する人は、どのような方々なのかご存知ですか?今回は、アニメ制作の現場で奔走する人々の、笑いあり涙ありの物語を描いた本作の魅力を、ネタバレを含めながらご紹介します。
今作ではメインとなる3人の女性と、彼女たちを取り巻く個性あふれる面々が登場します。
また、本作はアニメ好きやクロスオーバー好きに嬉しい設定があります。
「少女革命ウテナ」の監督・幾原邦彦が王子のモデルだったり、「リデル」の第3話のシナリオを執筆しているチヨダ・コーキは、辻村深月の作品である『スロウハイツの神』にも登場していたり、魅力的な設定の登場人物にも注目してみてください。
本作の魅力は、何と言っても登場人物たちがアニメに込める想いであり、その想いは数々の名言に表れています。
まずご紹介するのは、アニメ好きな人が共感できるであろう名文。有科や斉藤、並澤など、アニメ業界で活躍する人々と接して、彼らの情熱に触れる瞬間必ず書かれている文章です。本作の物語がこの言葉を表現する内容で、まさしく物語の核とも言うべき名言です。
アニメもフィギュアも、男も女も、この業界周りで働く人たちは、皆、総じて”愛“に弱いのだ。自分のやっていることに誇りをもっています、これが好きです、というのを見せられてしまうと、簡単にたらされてしまう。
(『ハケンアニメ!』より引用)
また次にご紹介するのは、アニメだけでなく物作りをしたことのある方が共感できる名セリフです。片思いをしている相手とスカイツリーに出かけている途中で和奈は突然行城に呼び出され、アニメ雑誌の表紙を飾る「サバク」の原画を描かなくてはいけなくなってしまいます。せっかくの休日に、べそをかきながらスタジオに連れてこられた和奈ですが、彼女は斉藤監督に初めて会った瞬間、この言葉を発しました。
「あなただったんですね。あの子たちのおかあさん。」
「お世話になってます。タカヤくんや、トワちゃんに。私は、リュウくん派だけど。」
(『ハケンアニメ!』より引用)
お互いに会ったことはなくても同じアニメやキャラクターに思い入れを持ち、作品を生み出した斉藤監督のことを「おかあさん」と呼び、キャラクターのことを友だちの様に話してくれる和奈に、斉藤は胸に込み上げる物がありました。普段は新潟と東京という離れた場所で仕事をしている2人が、アニメを通して繋がっている尊さを感じられます。
また、本作はアニメが好きな人にだけでなく、仕事で行き詰っている人にも勇気を与える言葉に溢れています。王子が行方を眩ましたため精神的に追い詰められた有科は、ライトノベル作家チヨダ・コーキの編集者黒木から「作家を守らなければならない」という言葉を聞きます。それは作家のマネージャーでもある編集者だけではなく、監督を守るプロデューサーという立場の有科にも当てはまることでした。そのことに思い至った有科が、行方不明になっても自分だけは最後まで王子の味方でいることを新たに決意した時の言葉です。
どれだけだって、一緒に闘う。ダメになるなら、一緒にダメになる。
だから、守らせて。闘わせて、と心から願う。私が望むのは、それだけだ。
(『ハケンアニメ!』より引用)
1つのことに一緒に取り組みうまくいかない状況でも、相手のことを信じる気持ちがこの文章に込められています。
また、行方不明になっていた王子が突然戻ってきた時に、全12話分の絵コンテを有科に渡しながら言った言葉もご紹介します。第4話からの内容が決まらず逃げ出したい心境になりながらも、1人になれる環境を無理矢理作って孤独な作業を続けた王子の意地がよく表れています。自分の作品を信じてくれた彼女に報いるため、必死に仕事に取り組む心境を表現した言葉でもありました。
1つのタイトルが始まれば、その人の時間を俺は三年近くもらうんだよ。俺がやりたいものを形にするっていうそれだけのために、その人の人生を預かるんだ。そのことを考えない日はないよ。監督は、基本、誰かに何かをお願いしないと進めない仕事なんだから。俺だけじゃ何もできないんだ。
(『ハケンアニメ!』より引用)
監督としての責任を果たそうとする意思を感じられます。自分の仕事でも、協力してくれている人の時間を使っているということをあらためて考えさせられ、背筋が伸びる思いです。
ここでは全て挙げることが出来ないほど、たくさんの名言がある本作。あなたに響く名言を、ぜひ探してみてください!
失恋から始まる和奈の物語は女性なら誰しも共感できる内容になっています。
少女漫画のように一目ぼれをしてしまい、相手にその気がないことを知り、恋に破れた和奈。そんな中、自治体との協力で「サバク」を観光資源化する仕事を振られ、苦手な体育会系の公務員と行動をともにしなければいけなくなります。
慣れない外回りや多くの人々との関わり、アニメ業界を知らない人々からの偏見などを経ていくうちに、和奈の心境にも変化が芽生えてくるのです。
リア充を嫌う和奈が見つけた、自分の中に潜む差別とアニメをどのような存在にしていきたいかという想い、彼女の新たな恋を描く展開から目が離せません。
- 著者
- 辻村 深月
- 出版日
- 2017-09-06
「リデル」の放送が終わったあと、王子と有科は一緒のタクシーに乗ります。そこで王子は冗談めかしに、有科にプロポーズともとれる発言をするのです。
有科は王子の冗談に付き合う形で「明日デートがある」と冗談を返しましたが、それを聞いた王子は焦りを見せました。割と本気だったのではないかと第三者である読者は感じる展開。2人の関係の変化が気になる結末になっています。
また、文庫版の特別版ではクリスマスの続編も読めますので、そちらも合わせてぜひご覧になってください。
人々のアニメにかける熱い想いを描いた本作。アニメ好きはもちろんのこと、辻村深月作品が好きな人にもおすすめの一作です。