大人の夏休みにどうですか?自然を満喫したい人におすすめの漫画3選

更新:2021.11.19

今年の夏休みに何をするか、まだ決めてない方も多いのでは?リフレッシュも兼ねて思いっきり夏と自然を満喫したいという方におすすめの漫画を紹介します。

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夏はやはり「自然」に惹かれてしまう

 

夏の気配を感じるにつれて、室内にいることがもどかしく思えてくる。でも休日は疲れてしまって、出かけること自体がおっくう……海や山どころか、公園の緑にすら触れていない……。

そんなあなたにおすすめしたいのが、自然をテーマにした漫画だ。

夏休みのプランを立てる参考にするもよし、ベッドでゴロゴロしながら木々のざわめきや山の静けさを体験してみるもよし。自然を漫画で満喫してみてください。

 

自然のなかで生きる漫画『リトル・フォレスト』

 

田舎暮らしに異常に憧れていた時期がある。環境のいいところに住んで少々の作物を育て、インターネットで絵や執筆の仕事をできないものか……。そう考えていた時に貪るように読んだのが、この漫画だ。作者が東北で自給自足生活をしていた時の体験がもとになっている。

あらすじは、都会で挫折した主人公のいち子が故郷に戻り、スーパーもないような集落で口に入るあらゆるものを作りながら暮らすというもの。彼女はそんな暮らしのなかで、様々な問題を抱えて悶々とする。ラストでは決着をつけるものの、のどかな田舎に来たからといって悩みがチャラになるわけではないという、当たり前のことに気づかされる。

個人的に1番心に刺さったのが、いち子がつぶやく下記のモノローグだ。

「コトバはあてにならないけど、わたしの体が感じたことなら信じられる」(『リトル・フォレスト』より引用)

主人公の生活を通して、たびたびハッとさせられるのがこの漫画の特徴だろう。

また、圧倒的な画力も魅力的。生い茂る木々や田園風景、雪景色などがリアルに目の前に広がり、瞬時に物語の世界に引きずりこまれてしまうのだ。ページをめくるたびに、木の葉の青臭さやムッとするような土の匂い、枝にぶらさがった果実の香りがしてくるようで、カラダが喜びで満たされる。それは大画面で映画を観ている感覚に近い。読み進めるごとに、心身のひずみが治癒されていくようだ。

自然の描写もすごいが、食べ物の描写もまたすごい。あまりに美味しそうで、1話につき最低1回は「うわぁ」と声が漏れてしまうほど。庭で採れるグミや雪の日に食べるひっつみ(練った小麦粉を汁で煮る料理)、フキノトウと味噌で作るばっけみそ、山ウドとミントのフリットとフライドエッグをはさんだバゲット……味を想像しただけで、湧いてくるツバを止めることができない。

自然の恵みを全身で感じたいと思っている人は、ぜひ手に取ってほしい。

 

著者
五十嵐 大介
出版日
2004-08-23

バイクで狩猟、ベランダで解体、新世代猟師の実録漫画『山賊ダイアリー』

 

ハト、ヒヨドリ、鴨、カラス、ウサギ、イノシシ、キジ、鹿、スッポン……岡山で猟師生活をする作者が、この漫画のなかで食べた生き物たちである。

昔旅館で出た「活きアワビの踊り焼き」にショックを受けトラウマになった私だが、本作に出てきたジビエの数々にはものすごく食欲が刺激されてしまった(また食べ物の話!)

野ウサギの糞を食べる衝撃のシーンからはじまり(ビタミン豊富とか)、狩猟免許の取得、銃の購入、初めての獲物の解体と、猟師として1歩ずつ前進していく過程にワクワクする。

山の描写にはピリッとした緊張感があり、猟そのものに至っては驚きの連続だ。撃ち落とした鳥を回収するため冬の湖に全裸で入ったり、罠にかかって暴れまくるイノシシと対決をしたり……いずれものどかな自然というよりは、一歩間違えると死に至るサバイバルなものだ。

作者が経験値を上げていくにつれ、読んでいるこちらの意識も山となじんでくる。黙々と歩いているといつしか自分の呼吸の音しか聴こえなくなることや、神経が研ぎ澄まされて瞑想状態に突入する感覚は、2~3年に1度軽い山歩きをする程度の私にもわかる。

山ならではの幻想的なエピソードもすばらしい。作者がヤマドリを探して歩き回っていた時のこと。ヤマドリは赤い色をした尾の長い野鳥なのだが、ふとしたタイミングで、それが木々の間をスーッと飛んでいくのを目撃する。その姿はまるで手塚治虫の火の鳥のようで、作者は仕留めることもできずに見入ってしまうのだ。神話って、こういうところから生まれたのではないだろうか。

若い猟師ならではだなと思ったのが、バイクを走らせて猟に行ったり、仕留めた鳥の羽をマンションのベランダでむしったりするくだりだ。作者は、イノシシがなかなか罠にかからないのは、自分のトリートメントの残り香のせいではと考えたりもする。そうか、そういうことも猟に関係してくるのか。

狩猟にそれほど興味がなくても、自然の掟を知ることができたり、動物は人間が思っているよりずっと賢いんだなとわかったり、アウトドアの真骨頂を垣間みたような体験をもたらしてくれる漫画である。

 

著者
岡本 健太郎
出版日
2011-12-22

自然とともに人が人を思う気持ちを描く『地上はポケットの中の庭』

 

最後にご紹介するのは、5つの物語が収録された短編集。庭、花園、海、川べりなどを舞台に様々なストーリーが優しいタッチでつむがれる。なかでも一押しなのが、2番目に収録された「ファトマの第四庭園」だ。この作品の舞台は、古い時代の中東かインドあたりと思われる王宮。そこに仕える庭師と王の物語である。

最初に告白すると、私がこの漫画に出会ったのはお店での立ち読みだった。なにげなく手に取って読んでいたところ、あまりの筆力に、店内で涙。ちょっと自分でも驚くくらい。今でもこの作品を読むたびに、親かペットが亡くなったかのような勢いで泣いてしまう。

この短編の主人公は、庭師であるファトマだ。ファトマも王もともに老齢で、王はファトマに大事な私庭を任せるほど、絶大な信頼を寄せている。

彼らは、お互いが少年のときに出会った。王は目が見えない代わりに嗅覚が発達しており、ファトマを庭師に選んだのは、身体から草の匂いしかしないから。王は庭園が人間の匂いで満ちることを好まないのだ。清々しい香りの、適度に野生の趣を残した庭園を王はたいそう気に入っている。

そんな王は病に侵されており、ある夜、ついに危篤状態に陥ってしまう。ファトマは急いで、王が好きそうな紅茶の香りのする植物を摘みに、カンテラを片手に荒れ野に出かける。

状況の切迫ぶりに反して、アザミのような花が一面に咲いている平原は、恐ろしいほどに美しい。ファトマは自分の手が傷つくのもそっちのけで、王のために花を刈り続ける。そしてその途中、季節外れの蛍を見つける。ハッとしたファトマが空を見上げると、そこには無数の流れ星が……。

30ページ足らずの短編なのに、まるで2時間の映画を観ているような濃密さだ。

他の4篇も、良質の映画を観た後のような読後感。美しい自然のなかにおける、人と人との触れ合いを読みたい人におすすめしたい。

 

著者
田中 相
出版日
2011-07-07

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