夏休みの宿題のなかで、ついつい後回しにしがちな読書感想文。「本を選ぶ」「本を読む」「自分なりの感想・意見を書く」という3段構えのハードルが待ち構えています。明確な答えがないのも難しいところでしょう。そこで今回は、中学生におすすめの本5冊を厳選して、感想文を書く時のポイントを解説していきます。
読書感想文の本を選ぶ時のもっとも手軽な方法は、自分と同年代の子が登場する物語を選ぶことです。思春期ならではの感性を共有できるので読みやすいですし、登場人物の気持ちを理解できれば感想文はとても書きやすくなります。
また、無理に背伸びをしないことも大切。課題図書や推薦図書は選りすぐりの良本ばかりですが、興味をもって素直に「読んでみたい」と思える本こそ、自分にとっての良本です。
中学生になると、学校の授業で学ぶ範囲も広く、深くなっていきます。机上の勉強に限界はありますが、本は時空を超えて私たちをいろいろな所へ連れて行ってくれるでしょう。自分の世界を広げるチャンスととらえてみてください。
ちょっと難易度は高いけど知らない世界に触れてみたい、物事の普遍的なテーマについて考えてみたい、そんな向上心や好奇心をくすぐられる本選びもおすすめです。
物語の舞台は16世紀のスペイン。キリスト教徒の伯爵令嬢マリアと、イスラム教徒の少年エルナンドはおじいさんの代から親しい幼なじみです。
エルナンドが暮らすグラナダは、もともとイスラム王朝が栄えていた場所。しかしキリスト教徒に制圧され、イスラム教徒は改宗を迫られていました。元イスラム教徒は「モリスコ」と呼ばれています。エルナンドの一家もまた、モリスコでした。
- 著者
- コンチャ・ロペス=ナルバエス
- 出版日
- 2017-04-15
年頃になったマリアとエルナンドは、お互いに恋心を抱きます。マリアは幼い頃と変わらず無邪気なままでしたが、エルナンドはキリスト教徒たちに支配され、無理やり改宗させられた恨みや悲しみをどう処理していいのかわからず、途方に暮れています。
そして1567年1月、ついにイスラム教の習慣をすべて禁じる政策が強行されました。モリスコたちは立ち上がり、キリスト教徒を襲撃する事件が起こります。
宗教や民族の違いによって勝者と敗者に分断され、悲惨な戦いの果てに、マリアとエルナンドは引き裂かれてしまいました。
信仰や習慣、言葉を奪われ、支配者の言いなりになる悲しみや怒りを想像してみてください。そして21世紀の今もなお、そうした弾圧に苦しんでいる民族がいるのです。この作品は歴史物語でありながら、現代性も十分に含まれた内容になっています。
なぜ人は、宗教の違いで争うのでしょう。なぜ国や権力者は、宗教や民族の争いをあおるような政策をとるのでしょう。宗教の違いを超えて愛し合うことはできるのでしょうか。日本人の宗教感覚との違いはどこにあるのでしょうか……。
本書は、多くの疑問を私たちに投げかけています。その疑問について自分なりに考えて、読書感想文に書いてみてましょう。
第二次世界大戦中、ナチスのアウシュヴッツ強制収容所には、わずか8冊きりの小さな図書館がありました。本書は、図書係に任命された14歳の少女ディタを中心に、収容所内で懸命に生きた人々を描いた作品です。
本の所持が禁じられ、飢えや病気、死に直面する状況にありながら、ディタは命がけで服の下に本を隠し持ち、人間らしく生きる意欲を本に託して使命をまっとうしようとします。
- 著者
- アントニオ G イトゥルベ
- 出版日
- 2016-07-05
アウシュヴッツ強制収容所では、人の命など虫けらほどの価値もありません。わずかな食料と劣悪な環境のなかで過酷な労働を強いられ、働けなくなった者はガス室送りになります。
本が禁止されているのは、囚人となったユダヤ人たちがものを考えることを防ぐためです。しかし彼らにとっては、食事と同じくらい本が大切でした。教養や想像力は、どれほど過酷な環境下にあっても欠かせないものだったのです。
「文学は、真夜中、荒野の真っただ中で擦るマッチと同じだ。マッチ一本ではとうてい明るくならないが、一本のマッチは、周りにどれだけの闇があるのかを私たちに気づかせてくれる」(『アウシュヴィッツの図書係』前文より引用)
使命をまっとうしようとするディタの勇気と行動力は、どこから来るのでしょうか。本を通じて考える力を養うことは、独裁者にとってそれほど恐ろしいことなのでしょうか。あふれんばかりのものに囲まれた私たちは、この本から何を学ぶべきなのでしょうか。
長編なうえに悲惨なシーンも多いため上級者向けですが、主人公は中学生と同年代である14歳の少女です。また事実にもとづいた物語は読みごたえがあります。本好きのみなさんにぜひチャレンジしてほしい一冊です。
舞台は1990年代のオーストラリア。掘っ立て小屋のような待合所でスクールバスを待っている間、子どもたちは退屈しのぎに空想話を語る「お話ゲーム」を始めました。
その日は、アンナという少女が「もしヒットラーにハイジというむすめがいたら」と仮説を立てて、お話を始めます。途中でバスが来たので中断されてしまいましたが、マーク少年は話の続きが気になって仕方ありません。
- 著者
- ジャッキー フレンチ
- 出版日
- 2018-03-09
ハイジは顔に大きなあざがあり、片方の足を引きずらないと歩けません。そのため父親から存在そのものを消され、学校にも行けず、お城のような大きな屋敷に幽閉されています。ヒットラーがハイジを愛しているのかはわかりませんが、ハイジは父親から愛されたいと思っています。
けれど、父親はヒットラーです。自分の大切な家族が「悪」の象徴だったら、むすめはどうするべきなのでしょうか。
マークは大人たちに聞いてまわりますが、ちゃんと答えられる人はいません。それどころか、なかには面倒くさがる大人たちもいるのです。
「人は、正しいと思ったことをするべきだ。でも、正しいと思ったことが間違っていたら、どうなのだろう?」(『ヒットラーのむすめ』より引用)
どうしたら善悪の違いがわかるのか、周りの人がみんな間違っていたら自分はどうしたらいいのか、マーク少年は考えます。きっと、多くの子どもたちも同じ疑問を抱いたことがあるのではないでしょうか。大人ですら考えることをやめてしまった善悪の境界線。その先に透けて見えるのは、権力者や多数意見に流される順応主義です。
マークがいろいろと疑問を投げかけてくれるので、彼と一緒に考えたり悩んだりしながら、自分なりの答えや、さらなる疑問を読書感想文に書いてみてください。
「何百万のアフリカ人が運ばれた。何百万人が死んだか、だれも知らない。サメたちのほかは。」(『あなたがもし奴隷だったら』より引用)
奴隷制度が合法だった時代、人間が自らの手で作り上げた「この世の地獄」を描いた絵本です。現代黒人画家ロッド・ブラウンの、細部まで丁寧に描かれた絵の説得力に圧倒されるでしょう。
- 著者
- ジュリアス レスター
- 出版日
- 1999-02-01
当時の黒人たちは、人として扱われることはありませんでした。アフリカからアメリカまで3ヶ月もかけて船で運ばれる間、鎖に繋がれたまま狭い棚に押し込められ、寝返りを打つこともトイレに行くことも許されません。過酷な航海の途中で死んだ奴隷たちは、そのまま海に投げ込まれ、サメの餌食になったのです。
命からがらアメリカに辿りついた黒人たちを待ち受けていたのは、過酷な労働。逃走した者は見せしめのため残酷な方法で殺害されました。
かつて奴隷制度が存在していたことは、誰でも知っていることです。しかし人間が他の人間を家畜以下のモノとして、ここまで踏みにじれるものかと絶句してしまいます。
著者は「もし自分がこの人たちと同じ奴隷だったら?と想像してほしい」と言っています。反対に家族や仲間から鞭を手渡され、奴隷を痛めつけることを「よいことだ」と言われた時、自分がどれだけ相手にひどいことができるのかも想像してほしいと……。
「他人の痛みや怒りが想像できたとき、心に理解が生まれる。心に理解が生まれたとき、ひとりひとりの孤独の量は、いくらか減る。」(『あなたがもし奴隷だったら』より引用)
「もしも」と相手の気持ちを想像し、客観性を養うことは、心の成長に欠かせないことです。自分の身の回りの出来事に当てはめてみて「自分がいじめられる立場だったら?」「自分はいじめっ子にどこまで残酷になれる?」など想像してみる大切さを訴えかけてくれるでしょう。
魂がこもった絵を見ると感情を大きく揺さぶられるので、何を感じたか素直に文章にしてみてください。長い文章を読むのが苦手な人にもおすすめです。
中学2年生の陽子は、学校に通うことができない不登校です。ひとつ年下の優しい弟、リンととても仲良し。両親は仕事で忙しいので、いつも姉弟で新しい遊びを考えて夜を過ごしていました。
なかでも真夜中に近所の家に忍び入って、屋根に登り夜空を見上げる遊びは2人の大のお気に入りです。けれど、2人きりの遊びに次々と仲間が加わって……。
少年少女が「自分はちっぽけで孤独な存在だ」という気持ちと向き合う姿を爽やかに描いた物語。「野間児童文芸新人賞」を受賞しました。
- 著者
- 森 絵都
- 出版日
- 2010-06-25
最初に姉弟の秘密の遊びに加わったのは、陽子のクラスメートでリンと同じ陸上部の七瀬さんでした。しかし、3人で屋根に登っているところをパソコンオタクのキオスクに見られてしまいます。七瀬さんとキオスクはそれぞれ悩みを抱えていて、自分を好きになれないでいました。だから2人とも「屋根に登れたら変われるかも知れない」と考えるのですが、思ったようにうまくいきません。
一方の陽子は、友達づきあいが得意ではなく、部活動に突然出なくなった七瀬さんや、窓から落ちて大騒動を起こすキオスクに振り回されます。
まるで宇宙のみなしごのように、心に芽生えた孤独を持て余す4人の少年少女たち。けれど、彼らは気づきます。大人も子どもも、辛い時ほど自分で決断し、自分で解決するしかないのだと。
「ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから。ばらばらに生まれてばらばらに死んでいくみなしごだから。自分の力できらきら輝いてないと、宇宙の闇にのみこまれて消えちゃうんだよ」(『宇宙のみなしご』より引用)
そして、たまに誰かと手をつなぎ合うことができれば、ふたたび自分の力で1歩前進できることにも気づくのです。
登場人物たちの心の成長と友情に触れた後は、「これから自分はどう生きていくべきか」をじっくり考えて、読書感想文に書いていきましょう。
紹介した本は、中学生のやわらかい心に響くものばかりです。読書感想文を書く時は、自分と登場人物を重ね、自分自身のこととして考えてみるのがコツ。また、作者がなぜこの本を書こうかと思ったのか、想像力を働かせてみましょう。その時に感じた気持ちや疑問と向き合い、自分なりの考えや答えを見つけて素敵な読書感想文を仕上げてください。