小説『Nのために』5つの考察をネタバレ解説!切ない物語の結末、犯人とは?

更新:2021.11.17

まるで何かに操られるように、引き寄せられたかのように、知り合ってしまったNたち。お互いを大切に思っていたからこそ悲劇が生まれ、切ないラストへと繋がっていきます。 しかし、登場人物のその想いがわかるのは、読者だけ。ここに登場するNたちは、自分に向けられている想いに気づかないのです。 今回の記事では、そんなもどかしくも切ないミステリー小説『Nのために』の5つの考察をご紹介します。

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傑作小説『Nのために』が面白い!あらすじを簡単にネタバレ解説

 

高層マンション「スカイローズガーデン」の一室で起きた殺人事件。殺された野口夫妻との関係について、現場に居合わせた20代の4人の男女が、それぞれ証言を始めます。

夫妻も、4人の男女もみんな、頭文字はN。

6人のNが、それぞれ想いをよせるNのために献身し、嘘をつき、歯車を狂わせていく本作。『夜行観覧車』『リバース』などの人気作品を手がけた湊かなえらしい作品で、ラストまでまったく目が離せません。

なぜ野口夫妻が殺されたのかというスリリングな謎解きとともに、人を想うことの切なさが描かれます。

 

著者
湊かなえ
出版日
2014-08-23

本作は2014年10月にドラマ化され、主演を務めた榮倉奈々と共演した賀来賢人が結婚したことでも話題となりました。

主人公・杉下希美と同郷の青年・成瀬慎司を演じた窪田正孝の朴訥で素直な演技が好評で、野口夫妻の夫を演じたチュートリアル・徳井義実の演技が「怖い」と話題に。

他にもドラマオリジナルのキャラクターとして、高野という香川の青景島で駐在員をしていた人物が登場。彼が独自の調査をおこなったことで、小説ではモノローグだった部分がうまく映像化されました。

ギャラクシー賞も受賞した良作なので、ぜひこちらもチェックしてみてください。

 


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『Nのために』の考察1:謎多き登場人物たち

物語の中心にいるのは杉下希美です。彼女が安藤望西崎真人と野ばら荘で知り合い、開発工事から野ばら荘を守ろうと提案したために、野口夫妻の事件は起きてしまいました。

清掃会社でアルバイトをしながら就職活動をしている、K大学4年生の彼女。安藤も杉下と同様に就職活動をし、M商事営業部に就職しました。

そんな彼らの共通の趣味は、将棋。この将棋がまた、安藤の上司となり後に殺害されることとなる野口貴弘と杉下との関係を、複雑にしていくのです。

そんななか、杉下は同窓会で成瀬慎司と再会。香川の青景島で同級生同士だった2人の間にはとてつもない秘密と、恋心が秘められていました……。

それぞれのNが杉下を中心として知り合い、関係を構築し、愛情を抱いたり、憎しみを抱いたり……それが、この物語の肝だといえるかもしれません。
 

父親である洋介に、母と弟とともに捨てられたことが大きなトラウマとなっている杉下。母のようになることを怖れ、自分の手で成功やお金をつかみ取ろうという野望を抱いています。

そんな彼女の欲望が、すべてのNの人生を狂わせていくのです……。

『Nてつもないのために』の考察2:イヤミス < 切ない物語

 

湊かなえの作品は「イヤミス」と称されることが多いですが、本作は読後に「後味の悪さ」よりも、強い「切なさ」が襲ってきます。

家庭環境により追い詰められていた杉下が、安藤や成瀬、西崎に対して抱く思いは、実はとても思いやり深いもの。彼女がもっと、まっとうな家庭環境でいたなら……と思わざるを得ません。

でも彼女は、恋愛に身をゆだねることを、自身に許さないのです。

また、西崎と奈央子の関係も切ないもの。2人が惹かれあうのは「同じ傷を持つから」というたった一点の理由。

にも関わらず分かり合えたと思い込んでしまう彼らの姿は、すべてを読み終えた後に見ると、どこまでも哀れで切ないものなのです。

本作は「イヤミス」ではなく、幸せになってほしいのに誰も幸せになれない、切ない物語なのです。

 

『Nのために』の考察3:散りばめられた伏線や謎!

 

この物語には、幾度か「罪の共有」という言葉が出てきます。この言葉が見事な伏線となっており、当初は「杉下と成瀬の過去」を指す言葉だったはずが、「西崎と奈央子」「安藤と杉下」「杉下と貴弘」「杉下と西崎」のそれぞれに当てはまる言葉となっていくのです。

また杉下の父である洋介が言った「俺の一族は短命だ」という言葉も、とても切ない形で伏線として回収されます。言い放った本人がいつまでも元気であることが、物語において、とてつもない皮肉に感じられるでしょう。

その他にも、ちょっとした言動が物語の最後に影響をおよぼしていくことになります。彼らの一挙手一投足に、ぜひ注目してみてください。

 

『Nのために』の考察4:共依存?奈央子と貴弘の夫婦関係

 

西崎と関係を持ってしまった奈央子。彼女は夫である貴弘から、日常的にDVを受けていました。そんな彼女の様子を見て、西崎はしだいに彼女を救ってやりたいと考えるようになるのです。

しかし、彼女は夫から逃れたいわけではありませんでした。西崎はそのことを見逃していますが、彼女は、夫と親密に見えた杉下に嫉妬しているのです。自分を殴り、痛めつける夫が、他の者に目を向けることを許せずにいたのでした。

そして夫の貴弘もまた、奈央子を殴ってはいるものの、彼女を離したくありません。西崎との逢瀬に感づいた彼は、自宅である高級マンションの玄関に表から閉められるチェーンを取り付け、彼女を監禁状態にします。

奈央子が夢遊病状態でふらふらと外へ出た時に、こけて流産したから……と、チェーンを見つけた杉下や安藤に説明しますが、妻を監禁する理由としてまっとうなものだとは到底思えません。

でも、この夫婦は結局、相手を自分以外の人のものにはしたくないのでした。

傷つけ、傷つけられながらも離れられない。まさに、共依存の関係ですね。

 

『Nのために』の考察5:ラストまで深まる謎!犯人とは?最後に結末をネタバレ解説

 

野口夫妻を殺した犯人として西崎が逮捕されますが、彼は誰も殺してはいませんでした。奈央子のために貴弘を殺そうという覚悟を決めていましたが、肝心の奈央子が、彼にそれをさせなかったのです。

夫妻が死ぬことになったのは、安藤が外のチェーンを閉めていたからかもしれません。自分だけを仲間外れにして、西崎、杉下、成瀬が何かたくらんでいると考えた彼は、ちょっとした出来心から杉下、西崎、野口夫妻がいる部屋のチェーンを外から閉めてしまいます。

つまり、最悪の事態が起きた時に誰も逃げ出せなかったのは、安藤のせいだったのです。

でも杉下は、彼がチェーンをかけただろうと知りつつ、そのことを警察には告げませんでした。彼女は、自分のある行動も事件の原因かもしれないと考えていたのです。

成瀬は、よくわからないながらも、杉下の意を汲みました。彼は杉下にとって、いつもそういう存在なのです。

 

著者
湊かなえ
出版日
2014-08-23

 

杉下はNたちをひっかきまわし、そしてNたちを守りました。

病院でそのことを後悔していないと笑う彼女に、成瀬は、料理人としておいしい料理をふるまってやるという約束をします。しかし、この2人が幸せになれるわけではありません。
 

Nのためにしてきた行動……果たして、本当にNのためになったのでしょうか。

その答えはきっと、読む人によって違ってくることでしょう。切ない結末は、ぜひご自身の目でお確かめください。

 

『Nのために』は、どのNが、どのNを想っているのかを考えるだけでも十分なミステリーとして楽しめるうえ、想像もつかない結末に「もう1度読み直して伏線をたどりたい」という気持ちに駆られてしまう作品です。読み終わった後、もう1度読み返してみたくなること間違いなしです。

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