舞台は第三次世界大戦後の日本の新首都「ネオ東京」。世界を揺るがす謎の存在「アキラ」をめぐる争いに巻き込まれた少年たちの運命を描くSF超大作です。2021年にハリウッド映画が公開予定でしたが、なんと発表2ヶ月後に無期限延期とアナウンスされました。 本記事では、全6巻の各巻のあらすじ・名言を紹介しながら、日本の漫画史に燦然と輝く名作の魅力を、たっぷりお伝えします!ネタバレも含まれますので、苦手な方はご注意ください。
1982年、日本に新型爆弾が投下され、第三次世界大戦が勃発。世界は荒廃と混迷に包まれ、再建の途上にありました。
そして、舞台は2019年、東京湾上に新たに建設された巨大都市「ネオ東京」。
高層ビルが立ち並ぶ新首都から、1年後に迫った東京オリンピックに向けて再開発が進められる旧市街へ続くハイウェイを、毎夜バイクで駆ける不良少年たちがいました。
リーダーの金田を先頭に、彼らがいつもの溜まり場へ向かっていたある夜。仲間の鉄雄が、奇妙な少年と事故を起こしてしまいます。
奇妙な少年とともに、運び込まれた軍の施設で、秘密の計画に取り込まれてしまう鉄雄。科学によって超能力に目覚めた彼は施設を抜け出しますが、力と引き換えに自我を失っていくのでした。
金田は姿を消した鉄雄を追い、軍と反政府ゲリラとの抗争に巻き込まれていきます。軍がその存在を恐れひた隠しにする「アキラ」の正体、そして彼らの運命は?
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
『AKIRA』は、大友克洋によるSF漫画作品。1982年に連載が開始されると、爆発的にヒットしました。1988年には作者本人によりアニメ映画化もされています。
その緻密な画風やサイバーパンク的な世界観は高く評価され、日本のみならず世界のアニメや実写作品にも影響を与えたと言われています。
また多くのファンを魅了するのが、予言的なストーリー。たびたび物語と現実との不思議な一致が見られ、「2020年東京オリンピック開催」も的中させたとして話題になりました。
実は、2019年はまさに物語の舞台となっている記念の年。そんな「AKIRAイヤー」に発表されたハリウッド映画化ですが、脚本とキャスティングが難航し、無期限休止に。突然の映画化の無期限延長に、海外の反応からも大きなショックが伺えます。
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
- 1982-06-28
作者・大友克洋は1954年生まれの宮城県出身。代表作は本作や『童夢』などで、前述のとおり『AKIRA』ではアニメの制作も行っています。
「『AKIRA』も大友克洋も名前は知っているけど…」という人も、カップ麺のCM曲だった宇多田ヒカルの『FREEDOM』ならピンとくるはず。
大友ワールドの特徴は、なんと言っても緻密な背景や物体の描写。それまでデフォルメが当たり前だった日本漫画に、彼が描く写実的な高層ビル群や人物、バイクなどのメカニックな乗り物の精巧さは新しい風を吹き込みました。
発表時の衝撃は大きく、多くの人々がそのクールな作風に驚愕し夢中になりました。「大友以前・以降」と言われるほど、その後の漫画・アニメ作品に影響を与えたことはよく知られています。
まさに昨今、世界を席巻する「ニッポンのアニメムーブメント」の先駆け的存在と言っていいでしょう。
大友克洋のおすすめ作品を紹介した<『AKIRA』以外の大友克洋のおすすめ作品ランキングベスト5!>の記事もおすすめです。
SF漫画界の金字塔とも言われる本作。この名作が時に「迷作」とも呼ばれるのは、複雑で難解に思われるストーリーが理由かもしれません。
「アキラ」をめぐって争う複数の勢力や、暗示的なセリフ、パラレルワールド的な展開など、一度読んだだけでは理解が難しい要素がいくつも絡み合っています。
しかし、この複雑さこそが『AKIRA』を『AKIRA』たらしめる魅力。細密で美しい作画とも相まって、「理解しきれないけど引き込まれる」、「何度も読み返して考察したくなる」、そんな特別な心理効果を生んでいるように思われます。
…と言いつつ、これから読む人には少しハードルが高く感じられるかもしれません。そんな人にも作品の魅力が少しでも伝わるよう、物語の展開を担う人物たちをわかりやすく紹介していきます!
『AKIRA』の主人公は、あらすじでも紹介した不良少年のリーダー・金田。タイトルの「アキラ」が主人公と思ってしまいがちですが、実は違います。
物語は「アキラ」の存在に揺れる世界の行方と、幼馴染の鉄雄を追う金田の友情劇という2つの軸で展開します。
この「アキラ」の謎を解く鍵が、タカシ、マサル、キヨコと呼ばれる3人の子たち。軍の管理下に置かれる彼らは、みな鉄雄と同じく超能力を引き出された実験体です。なかでもキヨコは未来を予見する能力を持ち、「アキラ」がもたらす運命に抵抗しようとします。
一方、鉄雄は自我と引き換えに得た力に溺れ、強い薬を使わなければ抑えられない副作用にも蝕まれます。また心の内には、あるトラウマが。
そんな鉄雄を導きつつ利用するのが、宗教団体の長・ミヤコ。彼女もまた未来を見通し、「アキラ」を止めようとする1人です。
そして、変わり果てた幼馴染を追い続ける金田。「アキラ」をめぐるさまざまな勢力の争いに飲まれつつも、持ち前の度胸と機転で鉄雄に迫ります。
「科学」「超能力」「少年の苦悩と友情」といったテーマが混ざり合う『AKIRA』の世界のキャラクターたち。彼らの未来は、どこへ向かうのでしょうか?
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
- 1984-09-14
1巻で描かれるのは、鉄雄が超能力を得る顛末。金田たちと高速道路を暴走していた鉄雄は、突如現れた少年を避けきれず、事故を起こしてしまいます。
消えた少年を探す金田は、少年を捕えようとする軍、軍の機密である「アキラ」という謎のワードを追う反政府ゲリラと交錯。その中で、ヒロイン・ケイとの出会いを果たします。
軍の施設に運ばれた鉄雄は、事故と脳神経に作用するドラッグの影響から超能力の可能性に目覚めることに。そして軍が投与した劇薬により覚醒。施設から抜け出しますが、副作用の激しい頭痛に襲われます。
力を使い、別のバイクチームを服従させる鉄雄。頭痛を紛らわそうと、大量の薬を強奪するようになります。暴走した鉄雄を止めるべく、金田は仲間とともに襲撃。そこで起きたある出来事が、金田に鉄雄を追うことを決意させるのです。
この巻の見所は、鉄雄と金田のチームとの闘いです。金田に特別な力はありませんが、抜群の運動神経とアイデアを駆使して鉄雄を追い詰めます。
そこで金田が仲間を鼓舞するために放った一言は非常に有名です。
「ヨタヨタのジャンキーどもになめられてたまるかよ 俺達ァ健康優良不良少年だぜ」
(『AKIRA』1巻より引用)
仲間からの熱い支持を集める金田らしさに、口に出したくなる語感の良さがプラスされた至高の名言です。
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
- 1985-08-27
続く2巻では、ついにアキラの正体が明らかになります。
金田に追い詰められるも、軍が作った特別な薬を手に入れさらに力を得た鉄雄。金田を蹴散らし去ろうとしますが、軍の大佐から力をコントロールするよう提案され、再び施設に戻ります。
金田はケイとともに捕まり、同じ施設で取り調べを受けることに。力によって研究者の思考を読んだ鉄雄は、そこで「アキラ」の存在を知ります。軍も恐れる脅威。それがとある場所に眠らされていると知り、鉄雄は「アキラ」を起こそうと動き出すのでした。
力を持つ者は他にもいました。戦前からの生き残りであり軍の実験隊でもあるタカシ、マサル、キヨコ。彼らは、施設内で「アキラ」や鉄雄の動向を見守っていました。
ケイの意識を操り、鉄雄を阻止しようとする3人。「アキラ」の力を知る大佐、そして金田も施設を脱出し鉄雄を追いますが、鉄雄の力に共鳴した「アキラ」は目覚めてしまいます。
そんな中、鉄雄が口にしたセリフが2巻の名言といえるでしょう。最大の見所であるアキラの姿が明らかになるシーンを、強く印象づけています。
「お前がアキラか」
(『AKIRA』2巻より引用)
ついに明かされた謎に対する読者の感慨と重なる、端的な一言です。
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
- 1986-08-21
衝撃の結末が待つ3巻。
目覚めたアキラを抹殺すべく、軍は人工衛星に搭載したレーザー砲を発射します。この一撃で鉄雄の右腕はちぎれ、辺り一帯は崩壊。金田とケイは隙をつき、アキラを連れ出すことに成功します。
ごく普通の子どもの姿をしたアキラ。感情もなく、まるで起きたまま眠っているかのようです。本当に危険なのか?と疑う2人に、ゲリラを操っていた政治家・根津はアキラを渡すよう迫ります。
根津は宗教指導者・ミヤコに仕える1人でしたが、彼女は根津の私欲を見透かし、阻止しようと動くのでした。
一方、危機感に欠ける政府に痺れを切らした大佐。クーデターを起こし、独断でアキラを追います。 金田とケイ、根津、ミヤコ、大佐がアキラ争奪戦をくり広げる中、ある人物が銃弾に倒れることに。
それをきっかけに、アキラの力が暴走。その桁外れな力は「ネオ東京の壊滅」と、もう1つのショッキングな結末を生み出すことになるのです。
アキラの爆発に世界が飲まれていく巻末の数十ページは、まさに圧巻。その迫力は、幼いアキラの姿とのギャップでさらに引き立てられています。
この衝撃を見事に表現するのが、この一言。
「これがアキラだとォ?!」
(『AKIRA』3巻より引用)
まさかこんな子ども1人の力で、軍が、政府が、世界が翻弄されるとは。叫びの主であるゲリラのメンバー・竜の心情が、手に取るように伝わってきます。
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
- 1987-07-01
壊れたネオ東京。荒れた街には、アキラと再会した鉄雄が率いる大東京帝国と、ミヤコを頼る人々が集まるミヤコ教の2集団が形成されていました。
爆発で金田と離れてしまったケイ。なんとか生き延びていたものの、行動をともにするマサルやキヨコの副作用を抑える薬が尽きかけていました。
キヨコはケイに、ミヤコの元へ向かうよう告げます。実はミヤコも、遥か昔に軍に生み出された超能力者だったのです。
そんな中、ミヤコは鉄雄と接触していました。鉄雄は危険な存在ですが、ミヤコにはある狙いが。そしてアキラの力の正体を告げ、鉄雄にさらなる力の開放を迫ります。
大東京帝国の手を逃れつつ、ミヤコ教の神殿に辿り着いたケイたち。そこもまた帝国に襲われていましたが、犠牲を払いながら奮闘します。
勝利を収めかけたそのとき、現れた鉄雄。ミヤコの言葉どおりさらなる力を得た彼は、アキラに似た爆発を起こそうとします。 するとその光の中から、意外な物が出現し……。
4巻の名言は、ミヤコが鉄雄に説いた言葉。
「アキラは流れの中にはおらんのだ」
(『AKIRA』4巻より引用)
アキラの力の巨大さを説明する、実に暗示的なセリフとなっています。
あらゆるものは宇宙の要素の1つでしかないが、そこからアキラ「だけ」が外れている……。作中で「ビッグバン」とも呼ばれるアキラの力ですが、それは宇宙を創造する側、つまりは「神」の域にあるということなのでしょうか。
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
- 1990-11-26
怒涛の展開の5巻。ケイは金田との再会を果たし、生き残っていた大佐や金田のチームの仲間・甲斐らとともに集結します。
ミヤコは自らが考えていた計画をケイに話し、協力を仰ぎます。それは起死回生の一手でしたが、ケイの命を危険にさらすものでした。
覚悟を決めたケイ。彼女を問い詰め計画を知った金田は、自分が決着をつけると言い残し鉄雄の元へ向かいます。
一方、さらなる力を得たと思われた鉄雄でしたが、しだいに制御不能になっていきます。彼の力はより大きなエネルギーを求め暴走し、自我と肉体は崩壊を始めていくのでした。
計画前夜は5巻の名シーンです。思いつめたケイから、今晩一緒にいてほしい……と言われ、ただならぬ様子を察知した金田。
「この次は必ず一晩中つき合ってやるぜ」
(『AKIRA』5巻より引用)
ケイに対する金田の気持ちはそれまではっきりと描かれていませんが、彼女の告白に対する返事である一言は、彼女への愛に溢れています。
絶望的な状況であっても、未来の存在を確信している金田。そんな彼の芯の強さも表す、非常にしびれる名シーンであり名言といえるでしょう。
各勢力が鉄雄を追う中、鎮圧に乗り出した米軍は細菌ガスでの攻撃を開始します。
そのガスの作用で、一時的に力をコントロールする鉄雄。金田は彼の元に辿り着き、自らの拳で目を覚まさせようとします。鉄雄の自我と力がせめぎ合う中、軍の爆撃で2人は散り散りになってしまうのでした。
米軍を殲滅し、ミヤコの力を媒介したケイと向かい合う鉄雄。ほぼ怪物となり果て、力を求めてさまよい始めます。なおも幼馴染を追ってきた金田は、鉄雄に体ごと飲み込まれてしまうことに。
ミヤコの狙いは、アキラと極限まで高まった鉄雄の力をぶつけ合い相殺すること。そして死闘の中、ずっと「眠っている」状態だったアキラが人間としての意識を取り戻すきっかけが訪れます。
いよいよ鉄雄の力は頂点に達し、圧倒的な爆発が世界を包む中、キヨコたちとともに現れるアキラ。「めざめ」を迎えた彼は最後の力を発動し、物語は最大の見所・クライマックスへと加速していきます。
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
- 1993-03-15
その後の結末は書きませんが、ヒントとなるシーン&名言をご紹介。瓦礫に埋もれた街の中、ある人物が「アキラはまだ俺達の中に生きてるぞ!」(『AKIRA』6巻より引用)と叫び走り去ります。
アキラとは、という問いの核心となるこの一言。何を意味するのでしょうか? それはやはり、ラストまで読んだ人だけに分かるメッセージなのです。
金田と鉄雄、2人の少年と世界の運命は。そしてこの物語が、私たちに語りかけることとは、一体。