大友克洋は、世界的な評価を得ている漫画家、映画監督です。代表作であるアニメ『AKIRA』は繊細な描写や大胆な構成により、「ジャパニメーション」と呼ばれるブームの先駆けとなりました。大友作品を5つピックアップし、彼の魅力に迫ります。
大友克洋は幼少期から手塚治虫作品を見て育ちました。その影響から漫画家になることを志していたものの、高校時代は映画の世界に没頭し、映画監督になりたいと考えだしました。その後、まずは漫画家としてデビューしますが、映画に没頭した青春時代の経験が、後の映画監督としての下地を作ったことにつながります。
漫画家としては、1973年に『銃声』(原作プロスペル・メリメ『マテオ・ファルコーネ』)により、雑誌「漫画アクション」でデビューします。その後、短編作品を中心に発表し、ニューウェーブという漫画のジャンルを超えた枠組みの流れに乗り、漫画家として注目されるようになります。本記事で後に紹介される『気分はもう戦争』や代表作の『AKIRA』の連載を次々に開始し、メジャー作家としての階段を駆け上りました。
漫画家として活躍を始めた大友克洋がアニメの世界に進出したのは1983です。石ノ森章太郎原作の『幻魔大戦』にキャラクターデザインとして参加しました、その後、キャノンのCMでキャラクターデザインの他、絵コンテ、原画を担当する等、活躍の場を広げます。2007年には漆原友紀原作の『蟲師』で実写映画監督としてもデビューし、さらに活躍の幅を広げ続けています。
ジャンルの枠を越えた作家として活躍し続けるなかで、特に、漫画家としては抜きんでる存在です。漫画界では、表現技法の変化の波に乗り、その領域を広げたことにより、「大友以前・大友以降」という言葉も生まれたほど。これは手塚治虫が開拓した従来の記号と連続したコマ割りの表現技法から、緻密な画面描写とカメラワークでの表現技法へと変化させた大友克洋を評価する言葉になっています。
『AKIRA』が注目されがちな大友作品ですが、他にも素晴らしい作品は多数あります。本記事では、あえて『AKIRA』以外から5つをランキング形式でご紹介します。
そうは言っても『AKIRA』も気になるという方には<漫画『AKIRA』面白さを全巻の名言から考察!あらすじも【ネタバレ注意】>の記事がおすすめです。
大友克洋といえば、ハードなSFやショッキングな表現が印象強い作家ですが、実はこんな作品もあるのです!と言いたくなる本作。連作の「さよならにっぽん」が5本、他3篇が収録された短編集です。
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
- 1981-06-16
『さよならにっぽん』の日本人の主人公は、アメリカのニューヨークで空手道場を開くも、うまくいかず、皿洗いの毎日。そんな主人公を中心に、バンドマンの話や、貧困の話など多数の話が連作形式で収録されています。これといって大きな起承転結は無いながら、主人公の正義感であったり、苦悩であったり、様々な角度から描写された作品となっています。
あえてジャンル分けをするならば「日常もの」といわれるもので、アメリカのニューヨークを舞台に日本人の日常を切り取り、淡々と描写した作品です。コメディ要素があったり、また日常の中で人間の心理に迫った描写があったりと、他の作品とはまた違った味わいのある作品となっています。
1980年代の中ソ戦争を背景とした世界観で、登場人物たちの、それぞれの心理や状況を描いたオムニバス形式の作品です。
主な登場人物は、戦争に参加したい日本人2人と白人1人の3人。3人が道中を共にする話を中心に、戦争に直面した、混乱する日本人を描いた作品となっています。
- 著者
- 矢作 俊彦 大友 克洋
- 出版日
- 1982-01-24
なんと、作者の大友自身もこの作品に登場し、セリフを残しています。
「ところで次はどうすんですかボク達の漫画」(『気分はもう戦争』より引用)
当時の作者自身の葛藤も多少なりとも反映されているのかもしれませんね。コミカルに描かれている場面も多く、戦争というテーマへの風刺が利いているのが印象的です。
戦争という重いテーマを扱っていますが、コメディタッチな部分もあり、重苦しさをあまり感じさせません。しかし、そこはやはり戦争がテーマであり、当時の社会情勢や風刺をきっちりと抑えた、読み手によっては考えさせられることが多い作品、と言えるでしょう。
大友克洋はさまざまなジャンルを超えたニューウェーブ作家であると冒頭で紹介しました。そんな大友克洋の魅力が満載なのがこの一冊、『SOS大東京探検隊』です。連作短編集で、少女漫画的な物から西部劇、4コマまで、多種多様に渡った作品が入っています。
表題の作品は、小学生3人が主人公で、幻の丸の内線、丸の内駅を探す冒険劇。少年時代の冒険という、実験作が多い本作の中では、最も大友克洋らしい作品です。
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
- 1996-02-03
「そこでボク達新聞部が探し出すことにしましたその幻の・・・地下鉄丸の内駅」(『SOS大東京探検隊』から引用)
このセリフを聞くだけで、童心を思い出してワクワクしませんか?
その他、登場人物のセリフが無く視点だけ描いた作品や、緻密な構成とカメラワークで評価される大友克洋が、あえて4コマ漫画で表現をした作品、細い線で大きな目を描いた少女漫画風な『危ない!生徒会長』など、実験的な作品や失敗作ともとれる作品も含めて、彼の魅力を堪能できる短編集です。
本作も短編集です。しかし、これまで紹介したものと違い、これぞ大友克洋!いったハードなSF作品が満載の一冊となっています。
特に収録作の1つである『FIRE BALL』はファンにはたまらない一作。この作品があったからこそ『AKIRA』が作られ、『童夢』のアイディアにも繋がったと言われています。
そんな『FIRE BALL』のあらすじは、ある兄弟が、世界をコンピューターで支配しようとする政府と、それに反抗するレジスタンスとの抗争に巻き込まれるといったもの。SF作家としての色が強い、大友克洋らしい世界観と、主人公像です。
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
- 1990-04-19
『FIRE BALL』の見開きになっている、ガラクタの無機質な手が、世界を掌握するように水晶を持つ一枚絵は、本作を象徴しており、とても印象的です。
後の『AKIRA』、『童夢』に繋がるハードなSFの世界観に引き込まれるでしょう。SF作家としての大友克洋が好きならば是非一度手に取って読んでも損はない一冊です。
『AKIRA』を除けば、やはりこの作品を外すことはできません。漫画界に革命を起こし、伝説と語り継がれる作品『童夢』です。日本SF大賞も受賞した作品で、これは小説以外では同作品が史上初、という快挙になりました。
主人公は、通称「エッちゃん」と呼ばれる超能力者の少女です。ある団地で変死事件が相次ぎ、担当刑事まで不可解な死を遂げてしまいます。話が進むにつれて、エッちゃんは、ある老人が、この事件の犯人で超能力を使って犯行を行っていることに気づきました。そんなエッちゃんと老人による超能力バトルに団地全体が巻き込まれ・・・
- 著者
- 大友 克洋
- 出版日
- 1982-06-28
「まっかなトマトになっちゃいな・・・・・・・・・・・・」(『童夢』より引用)
ハードSFらしいなんともおどろおどろしいセリフですね。
複雑な画面構成によるカメラワークや、綿密に描き込まれた写実的な描写など、大友克洋の凄みをこれ以上にないほど味わえる作品です。
もっとも印象的なところは、超能力という曖昧なものを題材にしながら、分かりやすく読者に示した表現方法です。コンクリートの壁がへこみ、そこに人がめり込む、そして「ズン」という擬音。実は、こういった表現を初めて漫画で使用したのは大友克洋であり、この『童夢』の1コマだと言われています。
紛れもなく、漫画界に革命を起こした一冊です。
漫画界、アニメーション業界を変えた、大友克洋作品のご紹介でした。大友といえば『AKIRA』が思い浮かびがちですが、その他に目を向けても、魅力的な作品がたくさんあります。気になった作品をぜひ1冊手に取ってみてください。そこには一言では語れない魅力があふれているはずです。その魅力に浸ってはみませんか?