クーラーの効いた涼しい部屋でじっくりと楽しみたい、松尾スズキさんと河井克夫さんの連載を綴った「お婆ちゃん!それ偶然だろうけどリーゼントになってるよ‼︎」シリーズ。僕が感じていた“そういうものである”という空気を吹き飛ばしてくれた4冊。
もう今年が終わる。
下半期に入った今、そんな事を耳にする機会がある。12月ともなれば「一年もあっという間だったねぇ」は挨拶かのような定型文になる。
本当にあっという間だろうか!何と比べてあっという間なんだ!と思うけれど、スムーズに会話をするためには↓
Aさん「今年もあっという間だねぇ」
結城 「そうだねぇ。あっという間だねぇ」
これが大人の受け答えだ。もしこの会話を↓
Aさん「今年もあっという間だねぇ」
結城 「そう? あっという間かなぁ。今年一年の事を把握した上で、あっという間って言える? どういう風にあっという間なの?」
なんて聞こうものなら、面倒くさいヤツになってしまう。感じ方は人それぞれだから本当に一年があっという間の人もいると思うし、それで良いと思う。あっという間に感じた一年の出来事を聞きたいとも思う。一年をあっという間に感じなきゃいけない“そういうものである”という空気に抵抗を感じてしまう。
ましてや、忍者になりたいと思っていた15歳の僕はもっと強く抵抗を感じていた。“そういうものである”という決まりが少ない学校が良いと思い新設校として開校される高校が1校あったので、受験をして一期生として入学する事になった。高校も決まり、残りの中学校生活を過ごしている時「忍者になりたいのならウチの事務所に入ってみる?」芸能事務所と関係がある先輩の親御さんにこんなお誘いを頂いた。中3の男の子が「忍者になりたい!」と本気で言っていたので学校でもそれなりに噂になっていたらしい。
31歳の今なら芸能事務所に所属するということはどういうことか分かる。でも忍者になりたかった15歳の僕は「事務所に入ったら忍者になれるんだ!」と完全に勘違いをして二つ返事で事務所に入れて貰った。こうして忍者になれると思い込んだまま役者としての道がスタートした。
おや?これは?忍者ではない?!
途中でそう気づいたけれど自分よりはるかに年上の人達と一緒に芝居をすることは、忍者になりたいと思う気持ちを上回る程楽しかった。
「役者になろうと思ったきっかけは?」
と聞かれることがある。「忍者になろうと思っていたら、役者になっていました」と答えるとポカンとされる。本当に何が起こるか分からない。忍者と同じくらい“そういうものである”という決まりや上限が無い役者を続けていられることに幸せを感じる。
- 著者
- ["松尾 スズキ", "河井 克夫"]
- 出版日
- 著者
- 松尾 スズキ
- 出版日
- 2008-03-31
- 著者
- 松尾スズキ
- 出版日
- 2013-03-14
- 著者
- 松尾スズキ
- 出版日
- 2019-02-20
現在TV Bros.にて連載中のチーム・カラマーゾフの兄弟の罪と罰。松尾スズキさんと河井克夫さんのエッセイ&コミックは毎月楽しみで、次の一ヶ月が早く来ないかなぁとワクワクする。「お婆ちゃん!それ偶然だろうけどリーゼントになってるよ‼︎」シリーズはその前身で現在は月刊化されたTV Bros.が隔週で発売されていた頃のエッセイ&コミック。
前シリーズ最新の単行本「さよならお婆ちゃん」は今年の2月に発売されていて、たまたま入った本屋さんでこのエッセイ&コミックの事を知った。一ヶ月待たなくても読める単行本化されたエッセイ&コミックを一心不乱に読んでいる時間はとてつもなく幸せな時間だった。
タイトルの「お婆ちゃん!それ偶然だろうけどリーゼントになってるよ‼︎」からも感じる、そういうものである。という空気からかけ離れた世界感。奇想天外な角度から綴られるエッセイ&コミックは、そういうものなんか無い!と訴えてくれているようで、とても痛快だった。