「吉川英治文学賞」歴代受賞作からおすすめ作品を紹介!賞の特徴や賞金も

更新:2019.8.20

娯楽性の高い大衆小説にを対象に年に1度贈られる「吉川英治文学賞」。ベテラン作家が受賞することが多く、質の高いエンタメを楽しむことができます。この記事では賞の概要と、歴代受賞作のなかから特におすすめしたい作品をご紹介していくので、チェックしてみてください。

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「吉川英治文学賞」とは

 

公益財団法人の吉川英治国民文化振興会が主催し、講談社が後援している「吉川英治文学賞」。国民文学作家と評され、多くの読者に親しまれてきた吉川英治の功績を記念して設立されました。

1962年に前身となる「吉川英治賞」が誕生し、その後1967年に名前を変えて「吉川英治文学賞」の第1回が開催されています。

対象となる作品は、毎年1月1日から12月31日までに発表された小説や評論など。浅田次郎や五木寛之、北方謙三などベテランといわれる作家陣が選考委員を務め、合議によって授賞作が決定されます。受賞者には正賞として賞牌が、副賞として賞金300万円が授与されるそうです。

受賞する作家もベテラン作家であることが多く、「吉川英治文学賞」の受賞作を読んでおけば間違いないといっても過言ではありません。では歴代受賞作のなかから、特におすすめの作品を厳選してご紹介しましょう。

「吉川英治文学賞」を受賞したおすすめサスペンス小説『鏡の背面』

 

新アグネス寮は、薬物依存やDV被害、自傷行為などから「生き直し」を図る女性たちが暮らすシェルターです。

ある日そこで火災が発生。取り残されていた母子を救おうとしたスタッフの小野尚子が死亡しました。尚子は裕福な家庭で育ち、私財を投じて施設を立ちあげた人物。入居者に寄り添い、人望があり、「先生」と呼ばれていました。

しかし、警察の調べによって、死体のDNAが尚子ではないことが発覚するのです。長年の間、彼女になりすまして暮らしていたのは、連続殺人犯の半田明美でした。

著者
篠田 節子
出版日
2018-07-26

 

2019年に「吉川英治文学賞」を受賞した篠田節子の作品です。

作中では「日本版マザー・テレサ」といわれるほど高潔な人生を送っていた小野尚子。いつの間にか連続殺人犯と入れ替わっていました。尚子として暮らすことになった明美は、それまで同様に入居者たちに優しく、穏やかに接していきます。

2人はいったいいつ入れ替わったのか、その理由は何なのか、怪物のような心をもつはずの連続殺人犯がなぜ聖母のように接することができたのか……シェルターの代表とフリーライターの2人が少しずつ真相に迫っていく様子は圧巻で、ページをめくる手が止まりません。

また、入居者である女性たちが抱えている心の闇も見どころ。誰かに生まれ変わることはできないけれど、「生き直す」ことはできるという言葉が印象深いでしょう。

大人気「加賀恭一郎」シリーズが「吉川英治文学賞」を受賞『祈りの幕が下りる時』

 

ある日都内のアパートの一室で、押谷道子という40代女性の腐乱遺体が発見されました。部屋の住人である越川睦夫という男性は、長い間消息不明の状態です。

捜査一課の松宮は、捜査を進めるうちに以前発生したホームレスの焼死事件と関連があることを発見。さらに、道子が滋賀県から上京した際に、中学時代の同級生である博美という女性のもとを訪れていたこともわかります。

松宮は、日本橋署の刑事で従兄でもある加賀恭一郎が博美と顔なじみだと知り、意見を求めようとしますが、加賀は管轄が違うという理由でなかなか詳細を語ってくれません……。

著者
東野 圭吾
出版日
2016-09-15

 

2014年に「吉川英治文学賞」を受賞した東野圭吾の作品。「加賀恭一郎」シリーズの10作目です。2018年には映画化もされました。

道子の遺品から、日本橋付近の橋の名前が書かれたカレンダーが見つかると、加賀の態度が一変。シリーズ始まって以来の謎だった、失踪した加賀の母親にまつわる秘密と繋がっていきます。前半で散りばめられた伏線が後半で見事に回収されるさまも、読み応え抜群でしょう。

殺人が起こるので重たい物語ではありますが、読み進めていくとどの出来事にも根底に親子の情愛があることがわかります。人生の切なさを感じられる一冊です。

「吉川英治文学賞」を受賞した自叙伝的小説『沈黙のひと』

 

主人公の衿子は、小さな頃から成人した今もずっと、父親を恨んでいました。母親と幼い自分を捨て、別の女性のもとに走ったからです。

ある日、数十年ぶりに父親と再会すると、彼はパーキンソン病を患い、余命いくばくもない状態でした。足繁く見舞いに通うものの、やがて亡くなる父親。遺品のワープロのなかには、衿子や母親に対する感謝と、後妻家族との暮らしの辛さを記した文章が残っていました。

身体が不自由になり、言葉を話すこともできなくなった父親は、唯一動く手を使って、あふれる思いを綴っていたのです。

著者
小池 真理子
出版日
2015-05-08

 

2013年に「吉川英治文学賞」を受賞した小池真理子の作品です。作者の実体験をもとにして執筆された自伝的小説で、衿子の父親と同じように小池の父親もパーキンソン病を患っていました。

親子間の確執、そして年齢を重ねるごとに向き合い方が変わっていく様子や、親の死後に知らなかった一面が明らかになっていく様子は秀逸。また老いや病、死など誰しもが逃れることのできない現実に、どのように向き合っていくのかも考えさせられます。

言葉を話すことができなくなり、「沈黙の人」となった父親が、最期に伝えたかったこととは何なのでしょうか。切ないなかに親子の大きな愛を感じられる物語です。

釣り×ミステリー×時代小説がおもしろい!『大江戸釣客伝』

 

元禄時代、旗本をしている津軽采女(つがるうねめ)は、若くして家督を継ぎ暇を持て余していました。そんな時、家臣の伴太夫から誘われたことをきっかけに、釣りの魅力に取りつかれます。

その後、吉良上野介の娘と結婚をし、徳川綱吉の側用人として働きはじめるのですが、綱吉が「生類憐れみの令」を発布。法令はやがてどんどん厳しくなり、釣りも禁止されてしまいました。

同じ頃、江戸湾では、絵師の多賀朝湖と俳人の宝井其角が釣りを楽しんでいました。しかし彼らの竿にかかったのは、笑みを浮かべる奇妙な死体で……。

著者
夢枕 獏
出版日
2013-05-15

 

2012年に「吉川英治文学賞」を受賞した夢枕獏の作品です。

主人公の津軽采女は、日本最古の釣り指南書である『何羨録』を執筆したといわれている人物。そのほか吉良上野介をはじめ、松尾芭蕉や水戸光圀など実在した歴史上の人物がたくさん登場します。

共通点は、「全員釣りが好き」ということ。実際に当時の武士の間では釣りが流行していたそうです。時代はすすみ、忠臣蔵と呼ばれる「赤穂事件」や「元禄大地震」なども起こりますが、そんななかでも彼らは釣りをしたいと願い、死ぬのであれば釣りにまつわることで死にたいと望むのです。

時代小説ながら読みやすく、好きなことに対する純粋すぎる思いや情熱など、共感できる要素が数多く含まれた作品です。

「吉川英治文学賞」を受賞した重松清の代表作『十字架』

 

中学2年の二学期が始まってすぐ、藤井俊介という少年が自宅で首吊り自殺をしました。父親が発見した時は、すでに手遅れだったそうです。

クラスメイトは、彼が学校でいじめられていることを知りながら、誰も助けようとしませんでした。彼がいなくなると今度は自分がいじめられるのではという恐怖心から、いじめのアイディアを提案する生徒までいたほど。彼がいたことで、クラスの平和は保たれていたのです。

俊介の遺書には主犯格だった2人への恨みに加え、「親友」という文字とともに幼馴染の祐への感謝と、片思い相手だった百合子へのメッセージが綴られていました。祐と百合子は、重い十字架を背負わされることになります。

著者
重松 清
出版日
2012-12-14

 

2010年に「吉川英治文学賞」を受賞した重松清の作品です。

俊介がいじめられているのを傍観することしかできなかった祐、自殺前の俊介の電話に冷たく対応してしまった百合子。2人は中学と高校を卒業し、大人になっても、その十字架をおろすことができません。

誰かのせいにしたい、自分は悪くないと思いたい、どうすればよかったのか、何が正解だったのか……登場人物たちは葛藤を続けます。残された者は、どのように生きていけばよいのでしょうか。

重たくて辛く、読後も心の深い部分にずっと残る物語。十字架をおろすことはできず、背負い続けられるように足腰を鍛えるしかないという百合子の言葉が印象的です。

「吉川英治文学賞」を受賞したおすすめ時代小説『火怨』

 

平安時代の東北地方はまだ朝廷の統治がおよんでおらず、大和国とは異なる蝦夷と呼ばれる人々が住んでいました。

ところが蝦夷で大量の金が獲れることが朝廷の耳に入り、坂上田村麻呂を筆頭とした朝廷軍が進軍してきたのです。蝦夷は、若き青年アテルイを指導者にして迎え撃ちます。

著者
高橋 克彦
出版日
2002-10-16

 

2000年に「吉川英治文学賞」を受賞した高橋克彦の作品です。大和朝廷の蝦夷討伐を、蝦夷側の視点で描いています。

自分たちの土地と仲間を守るために力を尽くして戦うアテルイももちろんですが、本来であれば敵である彼らに敬意の念を抱き、対等の人として接する坂上田村麻呂も魅力的。およそ20年間も戦い続けた両者が築いた目に見えない信頼関係に、胸が熱くなります。

結末は史実通りの悲しいものですが、どこか爽やかな読後感を得られる物語です。

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