文芸

本当に面白い直木賞受賞作品おすすめ5選!【2000年代編】

更新:2020.11.30 作成:2017.1.19

直木賞受賞作というから買ってみたけれど、あんまり面白くなかった。そんな経験はありませんでしょうか? 今回ご紹介するのに、芥川賞と並ぶ超有名文学賞である直木賞受賞作の中でも厳選した面白い作品です。

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そもそも直木賞って?

直木賞は、芥川賞ともに1935年に創設され、年に2回、上半期と下半期に分けて発表されている、今なお文学界に大きな影響力を持った文学賞です。文芸春秋社内に事務所を構える、日本文学振興会により運営されています。

芥川賞が新人、純文学作品に授与されるのに対し、直木賞は新人から中堅までの作家による大衆小説作品に与えられる賞とされていて、昨今では中堅作家に重きを置いているようです。

大衆小説は、純文学の持つ芸術性よりも、娯楽性に特化した作品、俗にエンタメと呼ばれるような作品になります。近年ではその分類も多様化されていて、SF、推理、時代など、さまざまなジャンルの作品が候補に挙げられています。

もう一つ分かりやすい違いをあげるとするならば、長さでしょうか。両賞とも公募はしておらず、芥川賞は中編、短編を対象とし、雑誌掲載されたものから選出していますが、直木賞は長編作品もしくは短編集を対象とし、書籍として出版されたものから選出しています。ちなみに両賞とも受賞はひとり1回までです。

正式名称は直木三十五賞といい、昭和を代表する大衆小説作家の名を冠しているのです。それでは、直木賞のことを知ったところで、さっそくおすすめの受賞作をご紹介していきます。

アイデンティティを考える『GO』【2000年上半期】

金城一紀の作品で、主人公の在日韓国人としての悩みが恋愛にシンクロして描かれた青春恋愛小説です。

作者自身の自伝的作品でもあり、「在日」である自分と、日本で生まれ育ち「日本人」でもある自分が色濃く描かれています。題材はとても重たいです。けれども、爽快感すら感じてしまう青春小説らしさ、恋愛小説らしさが本作の魅力です。

在日朝鮮人の主人公は、中学まで民族学校に通い、日本にいながらにして、日本人が受けない教育を受けて育ちます。高校は日本の学校に行くのですが、その時オヤジの提案で在日韓国人になります。そして学校では杉原と名乗ることになるのです。

環境がそうさせるのか、周りの偏見のせいなのか、喧嘩に明け暮れる日々が続きます。そんな中、ヤクザの息子の加藤という友人ができ、彼の誕生日パーティの会場で桜井という少女と出逢います。

桜井と親しくなっていくものの、杉原は自分が在日だとなかなか言い出せず……。

著者
金城 一紀
出版日

偏見や制度、そういったものに雁字搦めにされながら生きる若者の、生々しいとも言える葛藤、アイデンティティについて深く考えさせられる物語です。

オヤジと杉原のやりとりの中に心に残る台詞があります。

「スペイン語だよ。俺はスペイン人になろうと思った
でも、ダメだった。言葉の問題じゃないんだよな
そんなことないよ。言語はその人間のアイデンティティそのもので―――
確かに理屈はそうかもしれないけど、人間は理屈じゃ片付かない部分で生きているんだ。まぁ、おまえにもいつか分かるよ」
(『GO』 より引用)

本作には心に残る名台詞が数多く散りばめられていて、それはやはり、作者の力強いメッセージなんだなと感じます。

映画化もされていますし、作品自体も読みやすいので、両方おすすめさせていただきます。

対照的な幸せのかたち『肩ごしの恋人』【2001年下半期】

るり子と萌。2人は親友で幼馴染の27歳です。この2人がどれくらい違うのか、抜き出してみたいと思います。

萌談
「こんな見かけ倒しの女はいない。優しくて、可愛くて、女らしい、という皮を一枚めくれば、気紛れで、自惚れ屋で、浅はかでしかない。だいたいるり子は誰よりも自分が大好きな女だ。自分が大好きな女ほど、始末に悪いものはない。」
(『肩ごしの恋人』 より引用)

るり子談
「萌は嘘をつかない。私に面と向かってアホと言うのは彼女だけだ。「その服はあんたに全然似合わない」「新聞はテレビ欄だけじゃなくて、たまには一面から読め」「胸をわざとらしく突き出すな、下品この上ない」「ピーマンを残すな、子供じゃあるまいし」萌はどうしようもなく口が悪く、強情で、屈折していて、理屈やだ。こんな可愛げがなく、傲慢で、そして優しい女は見たことがない。」
(『肩ごしの恋人』 より引用)

お互いに言いたい放題といった感じです。こんな2人の間に立ったとしたら、眩暈を起こしてしまいそうです。

本作は2人の視点で女としての幸せを模索していく物語です。対照的だからこそ、違う意見があり、発見に繋がるのです。言いたいことが言い合える関係は、本当に素敵な友情に思えます。

著者
唯川 恵
出版日
2004-10-20

物語は妙な出会いをすることで面白さが増していきます。

秋山崇という男。学生。一年。なるほど十八歳か。とさほど意識もせずに、萌と崇は2人で居酒屋に行きビールを飲み始める。店を出てから家に帰りたくないという崇を置いて帰ると、近くの公園で野宿しようとする姿が見えた。仕方なく招き入れ、ふとした拍子で崇の財布の中を見てしまいます。

「財布の片面は定期入れになっていて、それに目を落とした。
えっ
やばい
崇はまだ十五歳、高校一年生なのだった。」
(『肩ごしの恋人』 より引用)

この崇の存在がいい意味で、るり子と萌の生活をかき回します。その他にも、ゲイバーのマスターや萌の浮気相手の柿崎など、愉快なキャラクターが出てきます。どの登場人物も魅力的なので、読んでいてまったく飽きることがありません。

恋愛、結婚、友情、仕事、生活、妊娠。いろんなかたちの幸せの可能性と、日常の機微が描かれ、27歳の2人女の視点だから見える「幸せってなんだろう」が詰まった本作。リアルな描写も痛快な会話も、胸にストンと入ってきます。男女関係なく楽しめる1冊です。

6種6様の大切なもの『風に舞いあがるビニールシート』【2006年上半期】

短編集ですが、それぞれが1冊の本になってもいいと思うほど、素敵な輝きを放った6作品を読むことができます。

それぞれの生き方を描き、それぞれの大切なものを丁寧に描く、優しさに溢れた物語は心を底から温めてくれます。どの話もおすすめですが、表題作のご紹介をさせていただきます。

著者
森 絵都
出版日
2009-04-10

国連難民高等弁務官事務所に勤めるエド、その妻の里佳。2人の結婚生活は幸せいっぱいと単純には言えません。家族として夫婦としての温もりを求める里佳と難民救済の使命に生きるエド。どうしようもなくすれ違いは生まれ、2人の間には、難民問題を抱えた国々の影が色濃く存在しています。

「結婚さえすればエドと幸福に暮らしていけるなんて、なぜ思ったのだろう?」
(『風に舞い上がるビニールシート』 より引用)

物事はそれほど単純ではなかったのです。

エドが大切だから現場に行ってほしくない。そんな気持ちが里佳を苦しめます。

切ない物語の中に浮かび上がってくるのは、圧倒的な平和や幸せへの憧れです。それは言葉としては普遍的かもしれませんが、その実、人によってその形は違うのかもしれません。

その差違が、おそらくはそれぞれにとっての大切なものなのだろう、と読み終わって考えました。

皆さんの大切なものは何でしょうか。きっと、本作を読み終えたころには、この1冊が、「大切なもの」 の一つになることでしょう。

吉原痛快ミステリー『吉原手引草』【2007年上半期】

本作は時代ミステリーの傑作と言われております。

舞台は吉原遊郭です。吉原遊郭とは、江戸幕府が公認した、昭和の時代までおよそ340年に渡って営業が続いた遊郭です。

その中のひとつ舞鶴屋に伝説的な遊女がいました。花魁の葛城といい、どうやら周囲の男どもを余すことなく骨抜きにしていたようです。

身請けが決まり幸せの最中にいたと思われていた葛城が、ある日突然失踪し、行方知れずになってしまい……。

著者
松井 今朝子
出版日

章ごとに1人ずつ語り16人、つまり16の章に分かれて真相を追っていくのです。

舞鶴屋で働く人たちや、お客さんなど、葛城と関わりのあった人たちが語っているのですが、その中には嘘が見え隠れするので、大変です。真相は一体どうなのよ、と聞き手と一緒になって彼らの話に集中してしまいます。

はじめの方で遊郭という異質な空間のことを詳しく語ってくれているので、知識が無い人もするっと物語の中に入っていけるでしょう。時代小説初心者にも優しいのです。遊郭そのものの説明も織り交ぜつつ、物語はゆっくりと展開していき、どんどん真相に近づいていきます。

葛城はなぜ失踪したのか。葛城が関係しているという 「あの騒ぎ」 とは何か。何が嘘で何が本当なのか。まるで落語のようなコミカルさを含んでいて、オチに向かっていく物語にハマってしまうことでしょう。

最後にはどんでん返しも待っていて、全て読み終わると、ああなるほど、と話のつくりの上手さに唸ってしまいます。

時代小説初心者に優しい、その上面白い。傑作痛快時代ミステリー。おすすめです。

普遍的な禁忌を力強く描く『私の男』【2007年下半期】

近親相姦を題材にした意欲作です。扱っている題材は重く、犯してはならないとされているものであるにも関わらず、描かれている愛のかたちに、純愛以外の言葉を当てはめることができません。

純愛だと思えるけれど、描かれているのは異常とも言える近親相姦であることも、また事実です。不純である恋愛が純粋な恋愛に思えてしまう、その矛盾が、読者を引き込む大きな要素として存在しているかのようです。

物語は2008年から始まり、2005年、2000年と、時を遡るように展開していきます。

メインの2人、花と淳悟はもともと親子ではありません。花は親戚の子どもで、大津波で家族をなくしてしまいます。そんな花を淳悟が養子に迎えるのです。

著者
桜庭 一樹
出版日
2010-04-09

花の結婚式から物語は始まります。この章を読み進めるうちに疑問が次々に生まれていくのです。

一緒に逃げたんだよな、という淳悟の言葉。ただの親子にあるまじき親密さ、2人の出会い。全ての謎が、物語をなぞるにつれて明らかになっていきます。

2人のどこまでも純粋に愛を求める姿を、無視出来なくなっていく感覚は、この作品の特異性と言えるかもしれません。

2人の葛藤、過去の記憶、貪欲に求める愛情、それらを、これでもかと表現した、文章の持つ力強さ。実際に読んで感じてほしいです。ひしひしと。

愛のかたちに正解も不正解も無いと思います。けれど、近親相姦は間違っている。そう思っている、知っているのに胸を締め付けるこの苦しさは、一体何なのか。皆さんにも感じていただきたいと思う次第です。