未来のことを知りたいと思う方も多いでしょう。自分のみれる未来が、大切な人の最期の時だったとしたら、どうすればよいのでしょうか。『4分間のマリーゴールド』は、人の最期を見ることができる青年を主人公とした、純愛ラブストーリーです。ドラマ化も決定した一途な愛で泣ける本作の魅力を紹介します。ネタバレも含まれますので、苦手な方はご注意ください。
本作は、作者キリエが描く「最愛の人の死期を知ってしまう」という、別れがあらかじめ決められた切ない恋模様。
小学館の「ビッグコミックスピリッツ」に連載されました。主人公は救急救命士の花巻みこと。他人の手に触れると、その人の死の運命が見える特殊な能力を持っています。
そんな彼は、父親と再婚した義母と、3人の義理の兄弟と暮らしていました。
義姉で画家の沙羅にひそかに想いを寄せるみことは、ある日沙羅の手を握ったことで彼女が1年後、27歳の誕生日に死亡することを知ってしまいます。
- 著者
- キリエ
- 出版日
- 2017-08-10
タイトルにある「4分間」は、救急救命の現場で「生死を分かつリミット」と言われている時間。
救命は時間との勝負。1分ごとに生存率は低下していきます。2分以内なら90%、3分になると75%、4分で50%……数字的には大きいように感じられるかもしれませんが、半分は死亡するかもしれないと考えると、けっして生存率が高いとはいえません。
沙羅が好きな花でもあるマリーゴールドの花言葉は、「絶望」「悲しみ」と、少々後ろ向き。生死を分かつ4分間と、マリーゴールドが合わさったタイトルの意味とは、果たして何なのでしょうか。
2019年10月から、ドラマ化が発表されました。キャストは福士蒼汰と菜々緒の出演が決定しており、公式サイトにはコメントや作品の見所が紹介されています。
※生存率はカーラーの救命曲線を参考にしています※マリーゴールドの花言葉には、諸説あります
福士蒼汰のその他の出演作が知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
<福士蒼汰の出演映画、テレビドラマを解説!イケメンだけじゃない実写化キャラに注目>
本作は、ヒロインの沙羅が死ぬ1年後に向かって話が進みます。沙羅とみことは義理の姉弟。近しい存在ではあるものの、あくまで家族という関係。出会った頃から特別な想いを抱いていたみことですが、沙羅が死ぬことを知ってから、より一層彼女への想いが強くなります。
みことは穏やかな性格で、自分の欲しいものを主張することもありません。そして、救急救命士として働き始めてから気付いた、死期が見える能力は彼に絶望を与えていました。彼が見てきた死の運命を覆した人は、一人もいないのです。
自分には誰の命も救えないと思い悩む中で知ってしまった、沙羅の運命。最初はただ自分が愛し、生きている姿を目に焼き付けようとする消極的なところを見せますが、彼女を守ると強く決心するまでに、穏やかだけれども確かに彼は変化していきます。
本作では、みことと沙羅が実は両想いだったことが序盤から判明します。しかし彼らの関係は義理の姉弟のまま。血は繋がっていないものの、家族として長い時間を過ごしてきました。2人が恋人同士になっていく過程はもちろんですが、ほかの兄弟との関係にも注目です。
みことは父の再婚後、沙羅の他に、警備員の廉、高校生の藍とともに暮らしてきました。兄の廉は、2人の交際に反対をします。
死が待ち受ける恋人たちの物語でもあり、義理の姉弟の禁断の恋物語でもあります。家族として信頼しあっているからこそ展開される人間ドラマも魅力的な作品です。
切ない恋物語を引き立てるのは、本作の描写です。淡々としていながらも美しく、まるで映画のような印象を受けます。
本作は、特に1コマの表現力が高く、どのシーンも印象的になるように描かれています。特にみことが沙羅を見つめているシーンは、生きている彼女を、目に焼き付けようとする彼の強い意志と同時に、恋心や待ち受けている運命への不安も感じられるほど。口にできない沙羅への想いが伝わってきます。
「死」をテーマにした作品ですが、登場人物は必要以上にその死を嘆くことはありません。
みことは仕事場で死と向き合い、沙羅の運命とも向き合います。時間は止まることなく、淡々と過ぎていき、その延長線上には死があります。最期は悲しいものだけれども、誰の元にも必ず訪れるものだと実感させられます。
1巻では、みことと沙羅が付き合うまでが描かれています。
物語の始まりは、夏のある日のこと。飼い犬と戯れているみことの視線の先には、カンバスに向かう沙羅の姿。彼は、翌日に誕生日を迎える彼女のため、ケーキと毎年恒例になったマリーゴールドの花束を用意します。
兄弟で庭に出て花火に興じる姿や、縁側で無防備に寝転ぶ姿など、そんな沙羅の姿を見るも、みことの気持ちは晴れません。来年の27歳の誕生日。その日に、沙羅が死ぬ運命を、彼は知っていました。彼女を愛し、見守っていこうと考えていたみことでしたが、2人の距離は急速に近づいていきます。
- 著者
- キリエ
- 出版日
- 2017-08-10
みことは自身の恋愛に消極的であるため、付き合うまでの道のりが長そう……と思いきや、2人の恋は加速度的に進んでいきます。
みことが救急救命士を目指すきっかけや、みことと沙羅を繋ぐエピソードが見所の第1巻。みことの視点から見る沙羅の可愛らしさを堪能することもできます。
家族に内緒で沙羅との交際を続けていたみこと。しかし、仲睦まじい二人の様子を兄の廉に目撃されてしまいます。廉は2人の交際に反対し、家族を辞めると宣言するのでした。
関係がぎくしゃくする中、遊びに来ていた兄の旧友、広ちゃんの言葉をきっかけに、みことは廉にすべてを告白しようと決意を固めるのでした。
- 著者
- キリエ
- 出版日
- 2017-12-12
沙羅とみことの関係だけではなく、花巻家の家族の絆が見所の第2巻。
廉は不器用ながらも、家族のことを大切に想っているのです。沙羅だけでなく、みことも家族として大切にしていることが伝わってきます。長い時間、血は繋がっていなくとも、心から家族だと思い一緒に過ごしてきたことがうかがえます。
さらに2巻では、みことの変化も見所の一つです。温和な性格から繊細な印象を受けていましたが、沙羅と交際を始めてから、迷いはあるものの着実に力強さが感じられるようになります。
大切な人と1分1秒を大切に過ごしていきたいという想いが、みことによい変化をもたらしたのだと、心が温かくなるでしょう。
自分が27歳の誕生日に死ぬことを知ってしまった沙羅。みことは、大切な人と一緒の時間を過ごしたいとプロポーズをします。沙羅の要望により、すぐに籍は入れない2人。一緒に過ごす時間が増える中、沙羅は1年かかるという大作を、寝る間を惜しんで描き続けるのでした。
死期を見た人は必ず死ぬ。
どうやっても覆らない運命を前に、あきらめに近い境地でいたみことですが、自殺を図ろうとした青年を説得したことから、運命は変えられるのかもしれないと思い直すようになります。母に結婚の許しを得て、幸せな時間が過ぎるなか、運命の日はやってくるのでした。
- 著者
- キリエ
- 出版日
- 2018-04-12
みことにとって、沙羅の死は絶対に変えられない運命でした。しかし日々の仕事の中で、死の運命は変えられる可能性のあるものだと、考えに変化が現れます。この変化こそが、本作最大の見所。諦めない心は、奇跡だって起こせるのです。
みことは1分1秒をも愛そうと決意し、沙羅を愛し続けます。時間を惜しんで愛する意味にも取れますが、それだけではありません。生死を分かつリミットという意味を持つタイトルと結末を知ると「1分1秒」という重みがより一層伝わり、涙が止まらなくなるでしょう。
恋だけでなく家族愛の物語をドラマティックに描いた本作。みことと沙羅の恋はもちろん、家族との関係にも心が温かくなります。映像では一層ドラマティックになりそうですが、どのように描かれていくのか、ハンカチを用意して待ちましょう。