5分でわかる富国強兵!意味や理由、学制など3つの改革をわかりやすく解説!

更新:2021.11.30

明治時代を代表する言葉として教科書などでもお馴染みの「富国強兵」。具体的にどのようなものだったのか、実行された背景や3つの主な政策、殖産興業、その後の影響や結果をわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、チェックしてみてください。

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富国強兵とは。意味、実行された理由を簡単に解説

 

国の経済の発展を通じて軍事力の強化を目指す政策を「富国強兵」といいます。基本的には、明治時代の日本で推進された国策を指して用いられることが多いです。

ただ富国強兵がという言葉が最初に用いられたのは中国でのこと。紀元前770年から紀元前221年まで続いた春秋戦国時代、それぞれの国は諸子百家と呼ばれる優秀な人材を登用し、新しい戦術や兵器を導入するなどの軍事改革をおこないました。この政策が「富国強兵」と呼ばれていて、『戦国策』や『呉書』などの書物にも記載されています。

日本では江戸時代の中期に、儒学者の太宰春台が記した『経済録』で、国を維持、発展させていくために富国強兵は欠かせない、と説いています。

幕末になると、欧米列強と不平等条約の締結を余儀なくされて国力の差を痛感し、開国派も攘夷派も富国強兵の必要性を主張するようになりました。

薩摩藩では、藩主である島津斉彬のもと、日本初の近代式工場群である集成館事業に取り組み、富国強兵にもとづいた藩政改革が進みます。

一方の幕府内でも、外交官の岩瀬忠震が海外貿易を振興し、富国強兵を推進する必要性を説きました。

さらに、公家だった岩倉具視は『済時策』を著し、天皇の威光を広く世に知らしめる「皇威宣揚」のために必要な政策として、富国強兵を取りあげています。

その後明治政府が成立すると、国力と軍事力の双方で欧米列強と肩を並べることで、国の独立の維持と不平等条約の改正を目指し、積極的に西洋の文明を取り入れてさまざまな改革をしていくことになるのです。

富国強兵の基礎となった3つの改革をわかりやすく解説!

 

明治政府内で富国強兵を推進し、さまざまな改革を中心になっておこなったのが、「維新三傑」のひとりにも数えられる大久保利通です。

「征韓論」論争で西郷隆盛や板垣退助らと対立し、1873年の「明治六年政変」で彼らを失脚させると、内務省を設置して自ら初代内務卿に就任します。

事実上の首相ともいえる役職に就き、明治政府の実権を掌握した大久保利通がスローガンとして掲げたのが、富国強兵。そのなかの代表的な改革が「学制」「税制」「兵制」の3つです

学制

大久保利通がまず最初に取り組んだのが学制でした。国力をつけるためには、国を構成する国民の学力を向上させる必要があったからです。

学制は日本で最初の近代的学校制度を定めた教育法令で、1872年に発令されました。国民皆学を目標にし、身分や性別に関係なく誰もが学校に通えるよう、全国を学区に分けて、大学校、中学校、小学校を設置することが定められます。

税制

次に大久保が取り組んだのが税制です。これは「地租改正」と呼ばれています。

日本の税制は「大化の改新」以来、農作物の収穫量を課税対象にし、耕作者である百姓から生産物を徴収する「物納」が基本でした。

明治政府は、この1000年以上続いた「物納」を「金納」に変更し、課税対象も収穫量ではなく土地そのものにあらためたのです。不作によって税収が変動する不安定さを解消する目的がありました。

また農家にとっても、収穫量が増えればそれだけ自分の取り分も増えるので、勤労意欲が増し、生産量が増加するという副次的効果も生まれます。

さらに、税制が改正されたことで、土地の私的所有が認められたことは大きな改革になりました。それまで日本には、すべての土地は天皇のものであり、民は天皇または領主から使用を許されているという「公地公民思想」がありました。しかし私的所有と売買が認められたことで、土地は個人の財産となり、日本の資本主義体制確立に向けた重要な1歩となったのです。

兵制

ここまで紹介した学制と税制は、富国強兵の「富国」に関する改革だといえるでしょう。「強兵」にあたる改革が、「兵制」です。

明治新政府軍と旧幕府軍が戦った「戊辰戦争」では、「官軍」や「御親兵」などが活躍しましたが、彼らはいわば薩摩や長州など諸藩の軍の寄せ集めでした。長州藩出身の大村益次郎と山縣有朋、薩摩藩出身の西郷従道などは早い時期から四民平等にもとづく「国民皆兵」の必要性を唱えていましたが、これは従来の「武士」という特権階級の解体を意味することから、士族たちを中心に大きな反発を呼びます。

広く国民から募る「徴兵制」か、旧武士を中心とする「志願兵制」かをめぐる論争が続いた結果、山縣有朋の意見がとおり、明治政府の方針は「徴兵令」で定まりました。

また「徴兵令」の施行に先立って、準備段階として1871年に「戸籍法」が制定。翌1872年に「壬申戸籍」が作られて、人口の調査がおこなわれました。

富国強兵の殖産興業とは

 

上述した3つの改革と並んで積極的に推進されたのが、「殖産興業」です。これは西洋諸国に経済的に対抗するために、機械製工業の導入、鉄道網の整備、資本主義の育成などを通じて日本経済を近代化させることを目指した政策のこと。

そのきっかけは、薩摩藩の藩主である島津斉彬がおこなった藩政改革です。特に、製鉄、造船、紡績などの分野に力を注ぎ、幅広い事業がおこなわれました。1867年には、日本初の紡績工場である鹿児島紡績所が建設されています。

明治時代になると、イギリス人の鉄道技術者であるエドモンド・モレルの提案を受け、社会基盤整備と殖産興業を推進する官庁である「工部省」が設置されました。工部省主導のもと、鉄道や汽船など交通網の整備が進み、電信や郵便制度が創設され、鉱山や富岡製糸場といった官営工場が開設されます。

また、留学生の派遣や欧米諸国の技術者を雇用するなどして、西洋の産業技術の移植が盛んにおこなわれました。公的機関だけでなく、私的に雇われた人も含めると、外国人の数は2700人に達したそうです。なかには政府首脳陣よりも高い給料を貰っていた人もいました。

彼らは、工部省が設置した技術者養成機関である工部大学校の卒業生や、留学から帰国した者が増えるにつれて徐々に解雇され、その後西洋の技術は日本人自身の手で普及、発展していくことになります。1901年には、日本の産業革命の象徴ともいわれる八幡製鉄所が開設されました。

富国強兵の影響と結果。明治日本はどうなった?

 

富国強兵が推進されたことで、日本人の生活習慣は大きく変化しました。またそれだけでなく、欧米に引けを取らない技術を手に入れ、経済力と整備された軍備をもつ近代国家へ成長させることに成功したのです。

その大きな成果といえるのが、「日清戦争、日露戦争の勝利と独立国家の維持」、そして「不平等条約の改正」でしょう。

アジアの小国だと考えられていた日本が、アジアの大国である清や、欧米列強のなかでも最強の陸軍国と考えられていたロシアを相次いで打ち破ったことは、諸外国を大いに驚かせ、日本の国際的地位を上昇させます。1911年には関税自主権の完全回復を成し遂げ、開国以来の悲願を達成することができました。

近代化を成し遂げた日本は、第一次世界大戦後に結成された「国際連盟」の常任理事国となり、事務局次長に新渡戸稲造が選出されるなど、国際社会の中核を担う国のひとつとなっていくのです。

明治維新が成し遂げられた構造を探る

著者
["坂野 潤治", "大野 健一"]
出版日
2010-01-19

 

政治史を専門とする坂野潤治と、経済史を専門とする大野健一がタッグを組み、なぜ明治維新が成し遂げられたのかを解説した作品。西郷隆盛や大久保利通、木戸孝允、板垣退助などの指導者たちを分析しています。

考察する際のキーワードとして掲げているのは「柔構造」という言葉。本来は建築物に働く地震の力を柔軟な構造を用いて吸収することを指す言葉ですが、本書では「複数目標を同時に達成する能力、 内外ショックへの適応力、政権の持続性」などを指すと定義されています。

「明治維新」について考える時、江戸時代とは切り離して考えてしまいがちですが、明治維新を成し遂げた指導者たちは皆江戸時代を生きていた人々であり、そこには必ず連続性があるはずです。幕末から唱えられていた「富国強兵」についても、どのように発展し形を変えていったのか、わかりやすく説明してくれています。

他の開発途上国と比較するなど、斬新な切り口も楽しめるでしょう。幕末、明治という複雑な時代の理解を進める助けになる一冊です。

富国強兵と産業革命を経済の視点で考える一冊

著者
石井 寛治
出版日
2012-12-11

 

本書は、日本の産業革命を整理して「殖産興業」がいかに「富国強兵」に繋がっていったのかを検証する作品です。

特に明治時代の経済を支えた製糸業や紡績業について、具体的な数字やエピソードを交えて解説。読んでみると、欧米列強からの外圧や不平等条約などの苦しい状況下で、どのように経済を発展させて国を守れるだけの軍事力を整備していったのか、その努力の過程がわかります。

その一方で、「富国」の影に広がる貧富の差や、「強兵」によって戦場に送られる人々の苦しみも記されているのが特徴です。

作者の石井寛治は経済学者なだけあり、当時の日本の経済状況がいかに危ういものであったのかも解説。日本が近代国家を構築できたことは、決して当たり前ではなかったことが理解できるでしょう。

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