何度読んでも楽しめる、海外ミステリー小説を読んだことはありますか?今回は、世界の不朽の名作ミステリーおすすめ作品をご紹介します。
「ミステリーといえば本作!」といっても過言ではない作品『Yの悲劇』。本作は、『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーンの最後の事件』の4部作の2作目です。主人公のドルリイ・レーンが手掛ける2つ目の事件が綴られています。
- 著者
- エラリー・クイーン
- 出版日
陰鬱な雰囲気が漂うハッター家。その当主が完璧な遺書を残し、自殺してしまうことから物語は始まります。そして全盲の娘が毒殺されそうになり、ハッター家を支配していた当主の妻は撲殺されてしまうのです。この異様な事件に捜査に乗り出すのが、耳の聞こえない元俳優の探偵、ドルリイ・レーン。凶器に使われたマンドリン、残されていたヴァニラの香りなどの奇妙な手掛かりと不可解な証言から、真相に迫っていきます。最後まで謎を紐解くのは難しく、予想できない展開にハラハラさせられます。
元俳優である主人公の探偵が、この時代では起こりえなかった事件に挑む様子や、現在と違い、情報量の少ない時代に犯人が行う全ての行動。キリスト教国・アメリカという時代背景も考えることで、犯人の絶望が凄く伝わり、より深い恐ろしさを感じさせます。人間の悪意や憎悪、全盲の娘への尋問での緊迫感などすべてが異様なまでに伝わってきます。凶器としてマンドリンが使われた謎の真相にも、思わずゾッとしてしまいます。
ミステリー古典といわれる本作は、現代でも十分にスリルを楽しむことができます。最後の最後まで全く予想できない結末と、華麗な種明かしが爽快感を残してくれる作品です。
『そして誰もいなくなった』の舞台は、イギリスの孤島。この孤島に招待され、出られなくなった10人の男女が次々に死んでいく事件が綴られています。多くの作品に影響を与える本作は、ミステリーの原本と言えるのではないでしょうか?
- 著者
- アガサ・クリスティー
- 出版日
- 2010-11-10
島の主であるU.N.オーエンから送られた招待状。招待されたのは、年齢も職業も、なにも共通点のない10人。しかし島に到着しても、招待状の差出人は姿を現さず、やがてその招待状が偽物であることが判明します。
不安に包まれた晩餐で、それは始まります。突如響き渡る、彼らの過去の罪を語りだす謎の声。その直後に、一人の青年が死んでしまいます。さらに翌日にも、女性が一人。そしてまた一人……と殺害されていくスリルがたまりません。
10人それぞれの部屋に飾られた童謡の色紙。殺人が起きるたびに、インディアン人形も消えていきます。童謡の通りに行われる殺人が、犯人の狂気と不気味さを際立たせ、ハラハラします。頭の中で歌が流れ出し、次の殺人を連想させる恐怖。次は誰だと、登場人物の心理にリンクしてしまい、ドキドキさせられます。犯人がわからぬまま、次々に起こる死に、徐々に精神が崩壊していく姿もリアリティがあり、寒気がします。
誰もいなくなったあとに明かされる真実には、驚愕してしまいました。法では裁くことが困難な彼らの罪、そして犯人の狂気を感じさせる独白に、鳥肌が立つこと間違いなしです。
繊細に描かれた、極限状態の人間の心理描写や、「見立て殺人」の不気味な恐怖が読み手をとらえて放しません。誤解を招く巧妙な文章に、何度読んでも読み応えを感じられることでしょう。
妻殺しの容疑をかけられた男が、共に過ごしたはずの消えた女性の行方を追うサスペンス『幻の女』。古典ミステリーの傑作として名高い作品です。
- 著者
- ["ウイリアム アイリッシュ", "William Irish"]
- 出版日
- 2015-12-18
妻と喧嘩して、街を一人彷徨っていた彼は、オレンジ色の帽子を被った女性と出会います。気晴らしにと彼女を誘い、妻と行くはずだった場所へ向かいます。帰宅してみると、殺されている妻。彼のネクタイで殺害されていたことで、彼は容疑者にされてしまいます。そして、唯一の証言者である女を探すのです。
確かに存在したはずの彼女は、蜃気楼のように消えてしまい、虚偽と扱われてしまうのです。なにが現実なのか困惑し、彼女を探す様子は、臨場感に溢れています。現実と夢幻の入り乱れた世界に、読者は引きこまれていくことでしょう。
男は、犯していない罪で死刑宣告されます。確かなアリバイがあるも、誰も証明してくれないもどかしさに胸が苦しくなりました。友人の協力によって必死に捜査が行われるも、いつもあと一歩で手掛かりが失われてしまうのです。濡れ衣を晴らしたいのに、晴らせない彼の心情に思わずため息が出てしまいます。主人公を助けるために動く友人に、友情の美しさと強さを感じ、胸が熱くなります。
人目を引くオレンジ色の帽子をかぶっていたにも関わらず、誰も見てないという不気味さ。そして、女の情報を持っていそうな人が次々殺害されていく様子に、恐怖を煽られます。焦燥感と緊迫感の中で語られる衝撃のラストには、涙が出てしまいます。強く深い余韻が残り、十二分に楽しめる1冊です。
アメリカの郊外を舞台に、マークの叔父を襲った不可解な事件を追う、推理と怪奇を融合させた『火刑法廷』。
仮面舞踏会の夜、マークの叔父が亡くなります。病死ではなく、ヒ素を飲まされたかもしれないという疑念が浮かびます。使用人の証言から、マークの妻に疑いがかかります。しかし怪奇な証言であることから、再度殺人かどうか調べることになります。
- 著者
- ジョン・ディクスン・カー
- 出版日
- 2011-08-25
遺体を見に行くと、遺体が納骨所から消えていました。そして編集者のもとに、17世紀フランスに暗躍した毒殺魔夫人が描かれた小説が届きます。毒殺魔の姿が編集者の妻と瓜二つとういうことから、その妻にも疑いがかかることになるのです。
舞台となる場所の情景描写が見事で、風土や建物も含めて重苦しく不気味な雰囲気を醸し出しています。遺体の消失や、壁をすり抜ける毒殺魔夫人に似た女、さらには揺れる椅子に腰かけ手招きをする、亡くなったはずのマークの叔父。これらの怪現象は、読者に恐怖を植え付けます。オカルト的要素も含まれたストーリー展開に、最後まで読む手が止まらなくなるでしょう。
連続殺人者のド・ブランヴィリエ侯爵夫人と、不死者の伝説が絡み合い、巧妙に仕掛けられた理性と幻想が、だまし絵のごとく読み手を錯覚に陥らせます。不死の毒殺魔が徘徊する恐怖の世界は、予想だにできない衝撃の結末が待っています。そしてさらなら秀逸などんでん返しには、驚愕してしまうことでしょう。
読み手の見方によって異なる結論が導かれるおもしろい作品です。
アヴィニョン教皇庁の時代を舞台にし、ベネディクト会修道院で次々に起こる不可解な事件を修道士ウィリアムが全力を注ぎ解明していくストーリーが、上巻と下巻で綴られた作品『薔薇の名前』。
- 著者
- ウンベルト エーコ
- 出版日
男爵である父親の意向で見聞を広めるため、ウィリアムに同行している、語り手の修道士アドソ。彼がこの物語の主人公であり、この作品は彼が書き記したものなのです。アドソと修道士・ウィリアムは、王の使者として、論争するフランシスコ会とアヴィニョン教皇庁の会談を手配するため、各勢力から適度な距離を保つ、ベネディクト会修道院を訪れます。しかし、双方の代表が到着する前に、怪奇な事件が起こり始めるのです。
二人は秘密の隠されている場所を察知し探ろうとしますが、妨害されます。修道院で相次ぐ真相の見えない死に、黙示録の成就であると唱える老修道士。修道士たちは、終末の恐怖におののきます。やがて代表一行が到着しますが、会談は決裂してしまいます。そして事件は、異端者の仕業だと言い出した異端者審問官により、思わぬ方向に展開していくのです。
二人の会話は、暗黒時代の恐怖をじわじわと感じさせ、事件の不気味さを際立たせます。恐怖にさいなまれる修道士たちの心情に、読み手の心は掴まれることでしょう。一連の黒幕と対峙する場面で漂う異様な空気も読者に迫ってきます。
下巻前半の迷宮は、読者を唸らせるのではないでしょうか。タイトル『薔薇の名前』の意味の謎など、知の迷宮と言っても過言ではない作品だと思います。時代背景を理解した上で本作を読むと、臨場感をより味わえるはずです。人の心の両面性や、自由に考え生きていくことの難しさを、深く考えさせられる作品です。
スウェーデンを舞台とした社会派ミステリー『ミレニアム』。『ドラゴン・タトゥーの女』『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』の3部作をスティーグ・ラーソンが執筆し、今世紀最高ミステリーと謳われ、世界中で空前の大ヒットとなりました。他界してしまったスティーグ・ラーソンに変わり、映画化もされた人気シリーズを引き継いだのがダヴィド・ラーゲルクランツ。ミレニアム4となる『蜘蛛の巣を払う女』を書き上げ発表し、各国で絶賛されています。
- 著者
- スティーグ・ラーソン
- 出版日
- 2011-09-08
シリーズの中心人物となるのは、雑誌「ミレニアム」の責任者・ミカエル・ブルムクヴィストと、フリーの女性調査員・リスベット・サランデル。スウェーデンの名家・ヴァンゲル一族の住む土地で起こった、謎の失踪事件を通して2人は出会うことになります。
圧倒的な魅力で物語を面白くしているのは、ヒロインのリスベット。顔のあちこちにピアスをつけ、背中にはドラゴンのタトゥーを入れ、さらに首筋や二の腕などにも目を引くタトゥーが入った、印象深い女性です。身長は150cmほどしかなく、少年と見間違うような短髪と痩せた身体。映像記憶能力に優れ、ハッカーとして天才的な能力を発揮します。
シリーズには、謎解きあり、残虐な猟奇殺人あり、重厚な法廷シーンありと、多彩な要素が盛りだくさんで、読者をまったく飽きさせません。リスベットの悲惨な過去も徐々に明らかになり、ミカエルとリスベットの関係からも目が離せなくなります。
馴染みの少ないスウェーデンの文化や、社会問題についても知ることができる、スリルに満ちた、極上のミステリー作品。その世界観に、ぜひ触れてみていただけたらと思います。
フランスで数々の文学賞に輝く人気作家ミシェル・ビュッシによる長編ミステリー『彼女のいない飛行機』。飛行機の墜落事故で、唯一生き残った女の子を巡り、2つの家族が苦悩する様子を綴った物語で、多くの国で翻訳される話題の作品です。
- 著者
- ミシェル ビュッシ
- 出版日
- 2015-08-20
1980年、トルコ航空イスタンブール発パリ行き、乗員乗客169名を乗せた旅客機が、山岳地帯へ墜落する事故が発生しました。168名が死亡する大事故となりましたが、ただ1人、生後間もないフランス人の女の子だけが、奇跡的に生き残ったのです。飛行機に乗っていた赤ん坊は2人。血液型が同じで特徴も似ていることから、身元を明らかにできません。生き残った「奇跡の子」は、2人のうちいったいどちらなのか……。
冒頭、18年間調査を続けてきた探偵が、真実にたどり着くも、何者かに殺害されてしまいます。探偵はいったい何に気がついたのか…。真実が気になり、一気に物語の世界へと引き込まれていきます。一方の家は大富豪、もう一方は貧しいクレープ屋という、対照的な2つの家族設定も面白く、巧みなストーリー展開にはまってしまいます。
真実が知りたいという家族の想いが、こちらにまで伝染するかのように、読んでいてもどかしさが募ります。焦らしに焦らされ、ようやく真実が判明した時、深い感動を感じるアガサ・クリスティとともに、家族のあり方を考えさせられました。独特の語り口や、素敵に描写されたパリの風景に、フランスの雰囲気を楽しむこともできる、魅力的なミステリーになっています。読みやすく翻訳されているので、気軽に読み進めることができるでしょう。
人気作家として世界中に知られる、アメリカのジェフリー・ディーヴァーの代表作『ボーン・コレクター』。リンカーン・ライムシリーズの1作目となる作品で、優れた推理小説作品に贈られるネロ・ウルフ賞を受賞し、映画化もされ大ヒットしました。
- 著者
- ジェフリー ディーヴァー
- 出版日
ある日、地面から腕だけを突き出し、生き埋めにされた男の遺体が発見されます。薬指の肉はすべて削がれ、骨には指輪が付けられていました。あまりにも常軌を逸した惨殺遺体。新たな被害者が出ることを恐れた警察は、四肢が麻痺し、動けない身体の犯罪学者、リンカーン・ライムに捜査を依頼します。
首から上と、左手の薬指しか動かせないリンカーンは、僅かな証拠を手がかりに頭脳捜査をおこない、少しずつ真相へと近づいていきます。そして、彼の手足となり捜査をサポートするのが、美人警官のアメリア・サックスです。
当初は何かとリンカーンに反発していたアメリアですが、リンカーンの天才的な推理力に圧倒され、徐々にお互いをわかり合い、絆を深めていく様子が印象的です。捜査官として、どんどん成長していくアメリアはとても魅力的で、抜群の存在感で作品に彩りを加えています。
鑑識の様子など、捜査の1つ1つが細かく丁寧に描写され、たいへん興味深く読むことができます。先の展開がまったく予想できず、次から次へといろいろな事が起きるため、最初から最後までスリル満点。どの場面でもスピード感が衰える事はなく、その世界観に夢中になってのめり込むことができるでしょう。
脚本家としても活躍する、フランスの作家ピエール・ルメートルのデビュー作『悲しみのイレーヌ』。日本でもヒットした、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの第1作目となる本作は、ミステリ賞を多数受賞し、たいへん注目を浴びました。
- 著者
- 出版日
- 2015-10-09
主人公カミーユ・ヴェルーヴェン警部は、身長145cmと極端に小柄な男です。奥さんのイレーヌはとても素敵な女性で、お腹には赤ちゃんがいたのでした。ある日部下からの連絡を受け現場に向かうと、そこには見たこともないような酷たらしさで惨殺された、2人の女性の遺体がありました。現場には野次馬が集まり、マスコミの記者たちが大騒ぎしています。部下たちとともに捜査を始めるカミーユは、徐々に手がかりを掴んでいきますが、さらに新たな殺人事件が起こってしまうのです。
カミーユと捜査をともにする部下たちが、それぞれとても個性的に描かれています。上品で端正な顔のルイや、ケチな中年刑事のアルマンなどがとても魅力的で、目を背けたくなるような、残虐な事件が続く中、彼らのユーモアあるやり取りに、少しホッとさせられたりもします。
その残酷さだけに目がいきがちですが、ストーリー展開はとても面白く、読む手が止まらなくなります。物語のあちこちには伏線がはられ、謎解きのスリルを味わうこともできるでしょう。あまりにも衝撃的な結末には言葉を失い、次の瞬間まんまと作者にしてやられたことを知り、ますます放心状態になってしまうのです。多くのミステリー賞を受賞したのも納得の、読み応え充分な作品になっています。
イギリスの新鋭ニック・ハーカウェイによる話題作『エンジェルメイカー』。ミステリーでありながらSF色を多分に含み、同時にハードボイルドな一面も併せ持つ、ボリューム満点の超大作です。
- 著者
- ["ニック ハーカウェイ", "Nick Harkaway"]
- 出版日
- 2015-06-04
主人公のジョーこと、ジョシュア・ジョゼフ・スポークは機械職人。大物ギャングの息子ですが、自分は時計職人だった祖父のように、静かに地道に生きようと決めていました。ところがある日、友人ビリーが持ち込んだ不思議な機械の修理を請け負ったことで、平和だった日々が一変。ジョーは、世界を滅ぼすかもしれない壮大な陰謀へと巻き込まれていくのでした。
物語には、癖のある魅力的なキャラクターが続々と登場してきます。圧巻なのは、もと敏腕女スパイという過去をもつ老婦人イーディー・バニスター。すでに80という年齢を超えるにもかかわらず、「バニスターが復帰するよ!」と声高らかに復活の狼煙を上げる姿には、とてつもない強さを感じます。
突然追われる身となり、混乱するジョーですが、やがて能力を開花させ、覚醒する様子にはワクワクさせられ、読んでいるこちらも自然と気持ちが昂ぶってきます。度々起こるストーリーの急展開は、まさにジェットコースター。物語がどんどんとんでもない方向へと進んでいく、手に汗握るエンターテインメントミステリーです。この興奮をぜひ味わってみてくださいね。
アイスランドを舞台に、ある殺人事件の真相を追う、犯罪捜査官の姿を描く北米ミステリー『湿地』。推理作家アーナルデュル・インドリダソンによる、エーレンデュル警部シリーズ3作目となる本作は、北欧の最も優れた推理小説に贈られる文学賞であるガラスの鑑賞を受賞しました。
- 著者
- アーナルデュル・インドリダソン
- 出版日
- 2015-05-29
冷たい雨が降り続く、晩秋のアイスランド・レイキャヴィクで、ある殺人事件が発生します。被害者は1人暮らしの老人。硝子の灰皿で頭部を殴られていました。部屋が物色された形跡はなく、証拠隠滅を図った形跡もない、“典型的なアイスランドの殺人”でしたが、殺害現場には謎のメッセージが書かれた紙が残されていたのです。
捜査をおこなうのは、物語の主人公である犯罪捜査官エーレンデュル。捜査の過程で、被害者の過去が徐々に明らかになっていき、エーレンデュルのたどり着いた真相には、驚きや悲しみ、怒りなど様々な感情が渦を巻いて押し寄せてくるでしょう。作品内では、エーレンデュルの家族問題についても描かれます。薬物中毒に陥ってしまっている娘と、エーレンデュルの不器用な親子愛が胸に沁みることでしょう。
レイキャヴィクの街には、いつでも雨が降っていて、作品全体には暗くしっとりとした雰囲気が漂っています。文章は端的でとても読みやすく、翻訳された本が苦手だという方も、すんなり物語に入り込めるのではしょうか。静かで繊細で物悲しい、独特の世界観を持ったミステリーになっています。
ニューヨークを舞台に、主人公の弁護士がロシアマフィアとの攻防を繰り広げるリーガルサスペンス『弁護士の血』。北アイルランドの作家スティーヴ・キャヴァナーのデビュー作で、スピード感のあるアクションや、スリリングな法廷劇がとても魅力的な1冊です。
- 著者
- スティーヴ・キャヴァナー
- 出版日
- 2015-07-23
「言われたとおりにしろ。さもないと弾丸が脊髄を砕く」という、印象的なセリフで始まる本作。主人公のエディー・フリンは、敏腕弁護士でしたが、あることがきっかけで酒に溺れ、仕事をなくし、家族も離れていきました。そんな失意のどん底にいる中、エディーはロシアマフィアに銃を突きつけられ、拉致されてしまうのです。
ボスであるヴォルチェックの弁護を引き受け、証人を法廷で殺せと脅迫されるエディー。マフィアはエディーの娘エイミーまで誘拐しています。従わなければ、娘が殺されてしまう……。ですが従ったところで、2人ともマフィアに殺されてしまうでしょう。エディーは愛する娘を救い出すため立ち上がります。
なんといっても主人公のキャラクターが魅力的です。弁護士になる前は詐欺師、という異色の経歴を持ち、そのテクニックを駆使したマフィアとの立ち回りや、法廷シーンは圧巻。派手なアクションもこなす肉体派で、その格好良さにどんどん惹きつけられてしまいます。
ストーリーは息もつかせぬ程スピーディーに展開していき、次から次へと起こる問題にハラハラし通し。まるで映画を見ているような感覚になり、この上ないスリルを堪能することができるでしょう。
三大倒叙ミステリー(※1)の1つとして、世界的に有名な古典『クロイドン発12時30分』。イギリスの作家フリーマン・ウィルス・クロフツによって執筆された、フレンチ警部シリーズの中の1冊です。1934年 に刊行された作品であるにもかかわらず、古さを感じることがなく、現代でも充分楽しむことができます。多くの作家に影響を与えたであろうこの作品は、ミステリーが好きな方にはぜひ読んでいただきたい、名作中の名作といえるでしょう。
(※1)倒叙(とうじょ)ミステリーでは、最初に犯人が明かされる。その後、犯人視点で物語が進んでいく。
- 著者
- F.W. クロフツ
- 出版日
殺人事件を起こすことになるのは、経営する会社の資金不足に苦しむ、チャールズ・スウィンバーン。藁にもすがる思いで、資産家の叔父に助けを求めますが、無下に断られてしまいます。お金がないことを理由に、愛する女性からも結婚を断られ、追い詰められたチャールズは、叔父の遺産を手に入れたい一心で、殺害計画を立て……。
作品内では、チャールズが犯行を決意するまでの心情や、実行に至るまでの様子が事細かく丁寧に描かれ、読んでいて、いつの間にか犯人に同情していることに気づきます。どうにかこのまま逃げきれないだろうかと、犯人と一緒になってハラハラしてしまい、フレンチ警部が時折登場するたびに、いつ捜査の手が伸びるのかと感じ、ハッとしてしまいます。
物語も佳境に入り、警察側がこの事件をどう見ていたのかが明かされるとき、じんわりとした哀愁に包まれ、この犯行がいかに傲慢なものだったのかを思い知らされるのです。
王道のストーリー展開ですが、読み応えがあり、最後まで飽きずに面白く読むことができるでしょう。古き良き古典ミステリーを、ぜひ1度味わってみてはいかがでしょうか。
アメリカの作家ウィリアム・ケント・クルーガーの代表作『ありふれた祈り』。ある家族に突然訪れた悲劇と、そこから立ち直っていく姿を、圧倒的な表現力で描いた長編ミステリーです。エドガー賞やアンソニー賞、バリー賞など、有名なミステリー賞を次々に受賞しました。
- 著者
- ウィリアム・ケント・クルーガー
- 出版日
- 2016-11-09
語り部となるのは長男のフランク。家族を絶望の淵へと突き落とした「あの夏」の出来事を回想します。1961年、フランクは13歳の少年でした。父は街の人々から信頼される神父で、母はピアノの腕前に優れ、聖歌隊に歌の指導をしています。姉のアリエルは心優しく誰からも愛され、弟のジェイクは吃音症である為、人前では滅多に喋らない大人しい少年でした。ミネソタ州にある小さな街で、平和に暮らしていた一家ですが、ある日、1人の少年の遺体が発見されたことをきっかけに悲劇が襲いかかるのです。
ある事件から、物語には一気に緊張感が走り、その様子がフランクの視点によって語られていきます。様々な人物が登場しますが、13歳の少年から見る大人社会は、なんだか殺伐としていて、事件をきっかけに家族がどんどんばらばらになっていく様子には胸が痛みます。
フランクと弟ジェイクの関係性がとても素敵で、事件後途方にくれるジェイクを気遣うシーンには、つい涙腺が緩んでしまうことでしょう。作中、ジェイクの肩に腕を回し、「そのうち楽になるよ。きっと楽になる」と語るフランクの姿は、ありありと目に浮んでくるようで、2人の成長していく様子が強く心に響きます。
ありふれた日常の尊さ、訪れる救いに、心が震える、悲しくも愛に溢れた感動のミステリーです。
何度も映像化やアレンジをされ、世界中から愛され続けている名作「シャーロック・ホームズ」シリーズの『バスカヴィル家の犬』をご紹介します。
シャーロック・ホームズは鋭い洞察力と頭の回転が早く推理力に長けた名探偵です。ワトソンはホームズの名探偵ぶりに関心をもち、そばで助手として事件解決を手伝いながら、ホームズの事件の解決していく様を書き留めています。シャーロック・ホームズシリーズは、ワトソンの書き留めた話を、私たち読者が読んでいる体で物語が描かれてるという作品です。
この「バスカヴィルの犬」では、ワトソン側から読者への語りだけではなく、ワトソンからホームズへ宛てた手紙、ワトソン自身の日記から引用したという形で物語が描かれるので、ちょっとした文体のちがいを新鮮に読むことができます。
物語は、バスカヴィル家の当主、チャールズ・バスカヴィルが莫大な遺産を遺して亡くなることから始まります。その死は、自然死にも思えましたが、不可解な点がありました。なんと、遺体の側には犬の足跡があったのです。そして不吉なことに、バスカヴィル家には代々伝わる「犬の呪い」があり……。
- 著者
- アーサー・コナン ドイル
- 出版日
子どものいなかったチャールズ・バスカヴィルの遺産と家を、親戚のヘンリー・バスカヴィルが継ぐことになります。しかし、ヘンリーにバスカヴィル家のあるダートムーアには来るなという警告が届きます。ヘンリーの命を守るために、バスカヴィル家の犬と呪いと警告の主をワトソンとホームズが探っていくのです。
犬の呪いの正体と犯人の推理だけではなく、危ない目に合うのではないかとハラハラドキドキするスリルも楽しむことができます。それだけではなく、バスカヴィル家のあるムアの自然描写がとても美しく、自然が目の前にありありと思い浮かべることができることも魅力的です。
日本でもファンの多いアメリカの作家、レイモンド・チャンドラーによって描かれたミステリーの名作。私立探偵フィリップ・マーロウを主人公としたシリーズ作品の中の1冊で、クールな世界観がたまらなく魅力的なハードボイルド小説です。
ある晩マーロウは、テリー・レノックスという男に出会います。ひどく酒に酔っているにもかかわらず、どことなく気品を感じるテリーのことが気にかかり、マーロウは彼を介抱してやりました。テリーは若い女と一緒にいたのですが、その女は彼を置き去りにして帰ってしまったのです。その後も何度か再会した2人は、時折バーで酒を酌み交わす仲となりました。
ところがある日の早朝、ただならぬ様子のテリーがマーロウの自宅を訪ねてきます。震える手で拳銃を握りしめ、メキシコのティファナまで連れて行ってほしいと言うのです。何も聞かずテリーを送ってやったマーロウでしたが、ロサンゼルスに戻ってくると警察が現れ、テリーの妻シルヴィアが他殺体となって発見されたことを聞かされます。マーロウは容疑者の男を逃した罪で連行され、留置場に入れられてしまうのでした。
- 著者
- レイモンド・チャンドラー
- 出版日
心惹かれる名台詞の数々が素敵に作品を彩り、その世界観に思わず酔いしれてしまう作品です。「ギムレットには早すぎる」「さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ」などの台詞はとても有名で、時を経てもなお、その魅力が色褪せることはありません。
主人公のフィリップ・マーロウがとにかく格好良く、自分の信念を曲げない強さや、クールで粋な言動にうっとりさせられることでしょう。 事件の真相を追うミステリーとしてだけではなく、至高の文学作品としても堪能できるこの一冊。読めば読むほど味わい深くなり、洗練された文体の虜となってしまいます。
同じ作品を村上春樹が翻訳した、『ロング・グッドバイ』もたいへん話題になりました。興味のある方は、読み比べてみるのも面白いかもしれませんね。
本書は、イギリスの作家、ジャック・ヒギンズが執筆した世界的に有名な冒険小説です。第二次世界大戦中のイギリスを舞台に、密命を遂行するべく奮闘する、ドイツ軍の姿を描いています。
冒頭、著者のジャック・ヒギンズは、取材のためイギリスのとある田舎町へと訪れました。その地で、「1943年11月6日に戦死」と記された、ドイツ兵たちの墓石を発見。教会の隅に隠されるように佇むその墓石に、興味を駆り立てられたヒギンズは、秘められた真実を知るため調査を開始します。
- 著者
- ["ジャック ヒギンズ", "Higgins,Jack", "光, 菊池"]
- 出版日
時は1943年。ドイツの戦況は日増しに不利になり、敗戦の2文字が散らつき始めています。この状況を打開しようとヒトラーが口走ってしまった作戦が、イギリスの首相、ウィンストン・チャーチルの誘拐。この前代未聞の作戦を実行に移すことを強要されたラードル中佐は、現地工作員としてリーアム・デヴリンを指名します。
そして作戦に欠かせない、落下傘部隊を指揮することになったのが、数々の戦いで卓越した手腕を見せてきた、クルト・シュタイナ中佐です。 史実を巧みに織り交ぜながら展開されるストーリーは、ノンフィクションかと錯覚してしまうほどのリアリティーがあり、作戦の実行に向けて動きだす登場人物たちの様子から、目が離せなくなってしまいます。
戦争をテーマにした作品においてナチス・ドイツと言えば悪役となることの多い存在ですが、本作では男気のある、なんとも格好いい人物たちが登場するのです。 人として、指揮官として誇りを持ち、己に課せられた指名に命をかけるシュタイナと、そんなシュタイナに絶大な信頼を寄せる部下たちの姿には痺れるばかり。
ナチズムを否定しながらも、作戦に関わることになるIRAの闘士デヴリンや、家族のため仕方なく誘拐計画を立てるラードルなど、ナチスの支配下で運命を翻弄される男たちの生き様に、熱いものがこみ上げてきます。作戦の行方はどうなってしまうのか?その展開に手に汗握る、アクションも魅力的な作品です。
冒険小説として高い人気を誇る本書は、イギリスの作家、ギャビン・ライアルの人気作品です。登場するハードボイルドな男たちの魅力に、思わず惚れ込んでしまう一冊となっています。
ビジネス・エージェントをしている主人公のルイス・ケインは、第二次世界大戦中、レジスタンスとして活動していた元工作員。ある日、パリのカフェで雨宿りをしていたところ、かつての仲間、アンリ・メランから仕事依頼の電話が入ります。実業家のマガンハルトという男を、定刻までにリヒテンシュタインへ車で送り届けて欲しいというのです。
マガンハルトは何者かに命を狙われているだけでなく、婦女暴行の濡れ衣を着せられフランスの警察からも追われる身です。依頼を引き受けたルイスは、護衛役としてアメリカ人のガンマン、ハーヴェイ・ロヴェルを雇うことにしました。斯くして、ルイス、ハーヴェイ、マガンハルト、秘書のミス・ジャーマンを乗せて車は出発することになったのですが……。
- 著者
- ["ギャビン・ライアル", "鈴木 恵"]
- 出版日
物語は、主人公の一人称で綴られていきます。男を目的地まで送るというシンプルな任務ですが、それぞれに事情を抱えている登場人物たちの旅は、到底一筋縄ではいきません。様々な謎や問題が浮上し、その度に局面が変化していくスリリングな展開はスピード感抜群。どこから襲って来るかもわからない敵の存在も相まって、ハラハラドキドキのサスペンスへとなっていくのです。
登場人物たちのキャラクターがとにかく魅力的で、粋なセリフの数々も見どころです。ハードボイルドとしての要素や、繰り広げられるカーチェイスや銃撃戦などのスリルも堪能できるため、何度読んでも飽きることなく楽しむことができるでしょう。ケインの仕事に対する姿勢に脱帽し、苦悩する相棒ハーヴェイの姿に引き寄せられる、読み応えたっぷりの傑作ミステリーです。
古き良き古典ミステリーとして日本でも知名度の高い、S・S・ヴァン・ダインの長編推理小説。1929年に発表された作品ですが、今読んでもたいへん面白く読むことのできる作品です。
これまで数々の難事件を解決してきた、博学多趣味の素人探偵ファイロ・ヴァンスの元に、地方検事を勤める友人ジョン・F・X・マーカムから相談の電話がかかってきました。物理学者ディラード教授の邸宅にある弓の練習場で、弓術選手のジョーゼフ・コクレーン・ロビンが、弓矢で胸を刺され殺されているのが発見されたのです。
殺される直前まで一緒にいたと思われる、レイモンド・スパーリングという男も弓術の選手で、ロビンとは邸宅に住むディラード教授の姪、ベルを取り合う恋敵でした。そのスパーリングが姿を消してしまいます。まるで「マザーグース」の童謡を思い起こさせるこの事件。邸宅の郵便受けからは、「僧正」と名乗る者からの、童謡との関連を示唆するような手紙が見つかりました。そして、第2の殺人事件が発生し……。
- 著者
- S・S・ヴァン・ダイン
- 出版日
- 2010-04-05
童謡などになぞらえた「見立て殺人」は、他にも数多くの作品で扱われてきましたが、本作はそれらの先駆けとも言われています。自らを「僧正」と名乗り、世間をあざ笑うかのように展開されていく連続殺人。その不気味な猟奇性はまさにサイコ・サスペンスのようで、先が気になり一度読み出したら止まらなくなってしまいます。
得意の心理分析を武器に、事件に立ち向かう探偵ファイロ・ヴァンスもとても魅力的です。様々な知識を駆使したスマートな推理に心底魅了され、今読んでもなんら古さを感じることがありません。犯人は一体誰なのでしょうか?動機は何なのでしょうか?終盤の二転三転する展開に翻弄され、ミステリーを読む醍醐味を満喫できることでしょう。
数々の名作を生み出したイギリスの作家、アリステア・マクリーンの処女作である本書は、第二次世界大戦中、ソ連への援助物資を運ぶ艦体を護衛する「ユリシーズ号」の死闘を描いた超大作です。
極寒の海を渡り、長く過酷な任務を終え、なんとか帰還することができた英国巡洋艦ユリシーズ号。慢性的な睡眠不足や栄養失調、ドイツ軍のたび重なる攻撃や悪天候により、クルーたちは一様に満身創痍でした。ところがそんな彼らに、休む間もなく次の護送命令が下されます。
一部のクルーたちが反乱を起こし、肺病に侵されている艦長のヴァレリーも出航を反対しますが、聞き入れられることはありませんでした。ユリシーズ号は、再び北の海へと任務に出て行くことになったのです。出航して間もなく、天候は悪化し、大自然が容赦無く艦隊を襲います。加えてドイツ軍のUボートが幾度となく出現。ユリシーズ号は激しい攻撃を受け、輸送船は次々と沈められていくことになるのです。
- 著者
- ["アリステア・マクリーン", "博基, 村上"]
- 出版日
極限状態に置かれながらもひたすら戦い続ける、乗組員たちの不屈の精神に深い感動を覚える作品です。戦争での出来事を物語った本作ですが、登場する男たちは愛国心などで戦っているわけではありません。厳しい大自然。次々に現れるUボート。空からは爆撃機。逃げ場のない大海原で、前に進むしか道はないのです。
主要人物だけでなく出番の少ない脇役に至るまで、登場人物は皆個性豊かで印象深く、そんな彼らが散っていく姿には、涙なしには読めないほどの臨場感があります。ボロボロになりながらもときにはジョークを飛ばし、男気たっぷりな姿を見せるシーンの連続に、心を奪われることでしょう。
海の男に憧れたことのある方にもとてもおすすめです。素晴らしい海洋冒険小説ですから、ぜひ一度読んでみてください。
イタチごっこ、とはニュースや評論などで犯罪と防犯の関係を表すのによく使われています。この作品においては、正に謎と推理、そして探偵と探偵のイタチごっこという表現がしっくりくるのです。
若き探偵ルールタビーユは新たな謎や証言が出る度に見事な推理を披露してくれます。しかし、厄介なのは同じ名探偵のラルサンです。彼は警察からも絶対の信頼を寄せられていますが、自分の推理を過信がちな面があります。ルールタビーユはラルサンの推理を覆す事が出来るのか!?読めば読む程に熱くなる、ガストン・ルルーの名作です。
- 著者
- ["ガストン・ルルー", "高野 優", "高野 優", "竹若 理衣"]
- 出版日
近々結婚の予定も決まっていた令嬢が夜中に何者かに襲われた!!すぐ隣の実験室で悲鳴を聞いた父親含む4人がかりでドアをぶち破った時、中にいたのは床に倒れた令嬢のみで、犯人の姿は煙か幽霊のように消えてしまっていたのです。そして容疑者として挙げられたのは何と被害者の婚約者でした。ルールタビーユは彼は犯人では無いと確信を持っていますが、彼は犯人扱いされてもなお、隠し通している秘密があり、より一層不利な状況になります。
ルールタビーユにまるで助手のようにつきそう弁護士サンクレールの視点によって描かれているこの作品は、読者の疑問がそのまま反映されていますので海外ミステリの中でもとても読みやすい一冊です。
世の中のどんなモノにも、必ず元祖というものがあります。全ては誰かが始めた事により広まっていくのです。コナン・ドイルもアガサ・クリスティもこの作品から始まったのだと思うと、感慨深いものがありますね。
そうです、この「モルグ街の殺人」に出て来るC・オーギュスト・デュパンこそが史上初の名探偵であり、エドガー・アラン・ポーこそがミステリ小説の元祖なのです。今では当たり前のようになったミステリ小説ですが、初めてそれを考えたというポーの想像力はとても豊かで奥深いと言えます。
- 著者
- ["エドガー・アラン ポー", "Poe,Edgar Allan", "孝之, 巽"]
- 出版日
ミステリ小説の元祖というだけあって、頭脳明晰な探偵と、それを見守る助手という組み合わせも、この作品が初めてなのです。そんな2人が興味を持った事件は深夜のモルグ街で起こります。アパートの4階に住んでいた母娘が何者かによって殺害。しかし、ドアや窓には内側から鍵がかかっており、唯一開いていたのは高い位置にある天窓のみです。
あまりの不可解さに、警察も匙を投げかけたこの事件にデュパンの名推理が光ります!!そして衝撃の真実をあなたの目で確かめてみて下さい。
トマス・ハリス原作のサイコサスペンス小説です。本作は、もしかすると小説よりも映画としての知名度の方が高いかもしれません。
1990年に公開された映画は、他に類を見ないショッキングな内容と、アンソニー・ホプキンスの演じるレクター博士の圧倒的なハマり役ぶりで、現在でも高い評価を受けています。
- 著者
- トマス ハリス
- 出版日
FBIの訓練生クラリス・スターリングは、難航している殺人事件について収監中のレクターという人物から助言を受けるよう命令されます。レクターは、元精神科医であると同時に猟奇殺人犯でした。
彼は何と9人も自分の患者を殺害し、食べていたのです。レクターは情報を提供する代わりに、クラリスの過去を話すように要求。クラリスは幼少時代のあるトラウマを呼び起こされながら、事件を探っていくことになります。
クラリスが追う連続殺人犯「バッファロー・ビル」は若い女性の皮膚を剥いで川に流すという、残忍極まりない人物。クラリスはレクター博士と対話していくうちに、犯人の心理と徐々にシンクロするように。
2人の高度な会話によるやりとりは秀逸で、心理戦ともいうべき緊張感がかえって心地よく感じるほどです。レクターの天才的でありながら狂気的なキャラクターは読めば読むほど強い魅力があり、そこにハマると作品がより楽しめるのではないでしょうか。
一見関係のない出来事に見えても、合わさるとひとつの大きな真実になるという構成の巧みさと、リズムの良い文章で畳みかけてくる作品です。終盤になるにつれて、クラリスがトラウマを乗り越え人間として成長する姿も爽快に感じられます。
また、本作には『ハンニバル』という続編もあり、その後のレクターが描かれているので、気になる方は是非続編も読んでみてはいかがでしょうか。
19世紀のイギリス。貧民街の錠前屋で育ち、スリを生業として育った少女・スーザン(スウ)。ある日、彼女はハンサムで口が上手く「紳士」と呼ばれる詐欺師仲間のリチャードから、ある計画を持ち掛けられます。それはブライア城に入り込んで令嬢のモードを騙し、その財産を奪うというものでした。
- 著者
- ["サラ・ウォーターズ", "中村 有希"]
- 出版日
『荊の城』は上下巻となっており、内容は3部で構成されています。1部と3部はスウ視点、2部はモード視点で描かれ、両方が交錯することでやがて事件の真相が見えてくることになるのです。
一筋縄ではいかないクセのあるキャラクターたちは、誰が敵で誰が味方なのか分からなくなります。罠にはめられたスウの脱出、明らかになる彼女の出生の秘密など、スリリングな展開が次から次へと襲ってきてページを捲るのを止められません。
リチャードに協力すべく、モードの侍女として自分もブライア城に潜入したスウですが、そこで生活をするうちにモードと惹かれ合うようになっていきます。この2人の同性愛関係も本作の魅力の一つです。
その壮大にして緻密なストーリー構成が支持され、2005年には「このミステリーがすごい!」海外編ベスト10の第1位に輝きました。また、2016年には韓国で映画化もされ、日本でも2017年に『お嬢さん』というタイトルで公開されました。映画も傑作なのでぜひ観てみてください。
映画『ダヴィンチ・コード』で一躍有名になったダン・ブラウンが描くサスペンス小説。本作の舞台はヴァチカン市国。ローマカトリック教会と秘密結社・イルミナティの対立が主なテーマとなっています。
- 著者
- ダン・ブラウン
- 出版日
- 2006-06-08
ハーバード大学の宗教象徴学者ロバート・ラングドンは、ある日スイスのCERN(欧州原子核研究機構)の所長であるマクシミリアン・コーラーから、アンビグラム(異なる方向からも読める特殊なデザイン)の紋章について尋ねられます。
その紋章は、科学者のレオナルド・ヴェトラが何者かに殺害された際、胸に焼き印として残されていたものでした。
調査の末、紋章が伝説的な秘密結社「イルミナティ」のものであることを突き止めたラングドンは、さらなる手がかりを得るため、殺されたレオナルド・ヴェトラの娘ヴィットリア・ヴェトラともにローマへと足を踏み入れることに。
ローマでは次期教皇を決めるための儀式であるコンクラーベが開催されている最中でしたが、新教皇候補者の4人は何故か全員行方不明になっていました。そして、イルミナティを名乗る者から謎の電話がかかってくるのです。
その人物は、教皇候補者たちを拉致していると告げ、キリスト教に復讐するため、これから1時間に1人ずつ彼らを殺害すると言います。さらに、レオナルド・ヴェトラが生成に成功した反物質が盗まれていることも判明し、ラングドンは全てを阻止するために追跡を開始するのですが……。
史実と絡めたリアルなストーリー性とその意外性に引き込まれる本作。盛り込まれている知識量も豊富で、イルミナティの歴史的背景も知ることができたり、建築や美術の描写も多く登場します。
何といっても面白いのはその舞台設定です。イルミナティによるヴァチカンへの宣戦布告の縮図は、今までになかったサスペンスの形を見せてくれるでしょう。
2015年にポーラ・ホーキンスによって出版されたサイコスリラー小説。日本やアメリカの他、ドイツ・オランダ・フランス等でも刊行され、全世界で1500万部を売り上げたベストセラーです。
映画は『ヘルプ 心がつなぐストーリー』のテイト・テイラーが監督を務め、2016年に公開されました。
- 著者
- ["ポーラ・ホーキンズ", "池田 真紀子"]
- 出版日
アル中で酒浸りの生活を送るレイチェルは、電車の窓からある夫婦の生活を盗み見ることを日課としていました。その夫婦とは、レイチェルの別れた元夫のトムと、アンナ。さらに、その近所に住んでいるスコットとメガン夫婦を自分の理想の夫婦に仕立て上げ、こちらの観察も始めます。
毎日覗き見を繰り返していたレイチェルですが、ある日メガンが見知らぬ男性とキスしている現場を目撃。その後、メガンが失踪してしまったことを知り……。
物語は3人の女性の視点から描かれます。トムと別れ情緒不安定なレイチェル、トムの現在の妻であるアンナ、そしてレイチェルが観察している夫婦の妻メガン。
3人の女性が語る記憶がそれぞれに収束し、ひとつとなった時、事件は真相へと繋がっていくことに。事件の中で、3人の女性の心の闇はどう変化するのか。人の秘密を知りたいという欲求を持った時、それは思いもよらない不幸を招くのかも知れません。
DV・不倫・アルコール依存など人間の負の面を掘り下げている部分も、ストーリーに重厚さを加えています。