教養小説おすすめ5選!読んでおきたいドイツ作家の代表作や名作

更新:2019.9.17

若者の魂の成長を描く教養小説は、エンタテイメント的なおもしろさには若干欠けるものの、読む価値の高い名作が揃っています。今回は、教養小説の源流であるドイツ文学から5つの代表作をお届けします。

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教養小説とは

 

主人公が、置かれた環境のなかでさまざまな経験を重ねながら、人間的に成長していく様子を描いた「教養小説」。

19世紀にドイツの哲学者ヴィルヘルム・ディルタイが定義づけ、それ以来ドイツ文学の伝統的ジャンルとなりました。「ビルドゥングス・ロマン」の訳語ですが、堅苦しい印象があることから「成長小説」「自己形成小説」とも呼ばれています。

日本における代表作は、夏目漱石の『三四郎』。作中に登場する「ストレイシープ(迷える羊)」は、教養小説共有のテーマだといえるでしょう。そのほか下村湖人の『次郎物語』、山本有三の『路傍の石』、森鴎外の『青年』などが挙げられます。

教養小説の本質は、深い精神遍歴性です。しかし時代とともに裾野は広がっていき、山本周五郎や吉川英治の剣豪時代小説、女性を主人公にした船山馨の『石狩平野』、さらにはゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』をもじった松浦理英子の『親指Pの修業時代』、ライトノベルにいたるまで、教養小説の類型として主人公の成長物語が波及していきました。

 

教養小説の元祖!必読の『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』

 

18世紀、封建制時代のドイツ。商人の息子ヴィルヘルムは、失恋をきっかけに詩と演劇への情熱を封印し、商売に専念しようとしていました。

しかし商用で出かけた旅の途中で、とある劇団と出会います。劇団一座と旅をすることになり、さまざまな人生経験を重ねて、人間の運命の不思議を実感していくのです。

 

著者
J.W. ゲーテ
出版日
2000-01-14

 

1796年に刊行された、ドイツの詩人ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの作品です。教養小説というジャンルを確立した大作であり、ヘルマン・ヘッセやトーマス・マンなどの若き作家たちに大きな影響を与えました。

若さゆえの純真さと情熱をもつヴィルヘルムは、自分を高みへと導いてくれる良き人々との出会いに恵まれて成長していきます。世間知らずで夢見がちな青年が、挫折を知り、現実を知り、それでも立ち上がって歩みを進める姿は、まさに教養小説の王道をいくストーリーだといえるでしょう。

さまざまな出会いのなかで、特に小悪魔的なフィリーネと、不幸な生い立ちの美少女ミニヨン、竪琴弾きの老人が魅力的に描かれています。ヴィルヘルムにどのような影響を与えていくのか、注目しながら読んでみてください。

また作中に出て来る詩「涙と共にパンを食べた事の無い者は」「君よ知るや南の国」などには、多くの作曲家が曲をつけています。教養小説を語るうえで外せない本作を読みながら、音楽を楽しむのも一興です。

 

教養小説界の大作『魔の山』

 

時は第一次世界大戦前。23歳の青年ハンス・カストルプは、故郷のハンブルクを離れ、いとこを見舞うためにスイス山脈にあるダボスのサナトリウムを訪ねます。

しかし、到着時からずっと熱っぽさを感じ続けていたハンス。結核を患っていると診断され、長期滞在を余儀なくされました。

 

著者
トーマス・マン
出版日
1969-02-25

 

1924年に刊行されたトーマス・マンの教養小説。彼自身は1912年に、結核を患った妻カタリーナを見舞うためダボスを訪ねていて、その時の経験から本作の着想を得たそうです。

山の上にあるサナトリウムでの生活は、下界とは異なる独特の環境でした。時間感覚は狂っていき、ハンスの感じる1日は下界の3週間に相当することを知って、恐怖に陥ります。

理性と道徳を尊ぶイタリア人教育者のセテムブリーニ、テロと独裁によって神の国が実現すると信じるオーストリア人のナフタ、美しいロシア人ショーシャらと知り合い、ハンスは傍観者の立ち位置を取りながら自己を形成していきます。

日常からかけ離れた魔の山で暮らすハンスの成長を通して、哲学や宗教、愛の真相を追求するドイツ教養小説の大作だといえるでしょう。

 

挫折や悲劇性に重きを置いた教養小説『車輪の下』

 

小さな田舎町で生まれ育ったハンス少年は、神童と呼ばれる村1番の秀才です。親や教師の期待に応えて全国のエリートが集まる神学校へ入学しようと、猛勉強に励んでいました。

無事に好成績で合格したハンスは、神学校に入学し、寮生活を始めます。しかしそこで待っていたのは、繊細な少年の心を打ち砕くのに十分な、規則ずくめの厳しい生活でした。

 

著者
ヘルマン ヘッセ
出版日

 

1905年に刊行されたヘルマン・ヘッセの自伝的長編小説です。ヘッセは14歳のときに難関といわれるマウルブロン神学校に入学するも、半年で脱走しています。その後、自殺未遂をするなど挫折をくり返したそうです。

作中のハンスもまた学校の規則に耐えきれず、神経症を患って退学してしまいます。地元に戻って機械工として働いたことで、初めて労働の清々しさと職人の誇りを知り、成長への足がかりを掴むのですが、その直後に取り返しのつかない悲劇が待っていました。

本作では、主人公の成長よりも、周囲の期待に押しつぶされて自分に限界を感じ、もろくも挫折する悲劇性に比重が置かれています。地元の名士にも労働者にもなれず、周囲の期待という車輪の下敷きになったハンス。その苦悩する姿と人生を読むのも、教養小説の醍醐味だといえるでしょう。

 

美しい情景描写と高い精神性を愉しむおすすめ作品『晩夏』

 

語り手でもある主人公は、オーストリアの上流階級のなかでもお手本になるような、恵まれた家庭に生まれ育った真面目な青年「私」。

趣味の登山をしている時に急な雨に降られ、雨宿りをするため立ち寄った「薔薇の家」で、素晴らしい家族と出会います。

 

著者
アーダルベルト・シュティフター
出版日
2004-03-12

 

1857年に刊行された、ドイツ系オーストリア人アーダルベルト・シュティフターの小説。もともと画家志望だった作者は、美しい風景描写を得意としていて、哲学者のニーチェが神秘的で静謐な作風を絶賛したといわれています。

アルプス山麓に建つ薔薇の家に出入りするようになった青年は、そこに理想の生活を見いだします。卑俗な人物はただのひとりも登場せず、薔薇の家の主人らは青年を自然に精神の高見へと導いてくれるのです。

ゆっくりと静かに流れる時間のなかで、青年は世界の美しさを知り、魂を磨いていきます。大きな事件は起こりませんが、丹精込めて描かれた青年の成長物語は、教養小説の真骨頂。高尚な作品世界を味わうために、ゆっくりと時間をかけて読み進めることをおすすめします。

 

甘美で詩的な雰囲気を味わえるおすすめの教養小説『青い花』

 

ある日19歳の詩人ハインリヒは、暗い森で咲き誇る、淡い青色をした美しい花の夢を見ます。

花弁の中に垣間見た可憐な少女の顔を忘れられなくなった青年は、青い花に焦がれるあまり、旅に出ました。

 

著者
ノヴァーリス
出版日
1989-08-16

 

1802年に刊行された、ドイツロマン派の詩人ノヴァーリスの小説です。2部構成の予定でしたが、本人の病死により未完のままとなっています。

ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の影響を受けたそうで、主人公が旅をしながらさまざまなことを学んでいくストーリー展開は同じです。しかし詩人らしく、物語全体が詩的、童話的になっていて、読む者たちの精神を感性豊かな世界へと誘ってくれるのが特徴でしょう。

故郷を離れ、商人たちとともに旅に出たハインリヒ。道中では永遠の恋人との出会い、死別と克服を経て成長していきます。旅に出ることで、ハインリヒが詩人として目覚めていくという教養小説の王道です。

最後に掲載されている「遺稿」には、作者が生前に構想を練っていた物語の展開と結末がメモの形で載っています。物語の全体像を垣間見ながら、思いを馳せるのもよいでしょう。

 

教養小説といえばやはりドイツ文学。日本とは比べようのないほど数多くの作品が生み出されています。名作がもつ深い精神性や魅力を、ぜひ堪能してください。

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