「翻訳ミステリー大賞」歴代受賞作おすすめ5選!大賞と読者賞など概要も紹介

更新:2019.9.24

世界中で進化を続けているミステリー文学が、日本でも広く認知されることを目的に創設された「翻訳ミステリー大賞」。この記事では、歴代受賞作のなかから厳選した5作品のあらすじと見どころ、「読者賞」などを紹介していきます。

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「翻訳ミステリー大賞」とは。大賞と読者賞って?

 

日々、世界中で生み出されている小説たち。なかでもミステリーというジャンルに絞り、その作品の魅力を日本でも広めるために、2009年に「翻訳ミステリー大賞」が創設されました。

運営は、翻訳ミステリー大賞シンジケート。日本語に翻訳された海外のミステリー小説を対象に、年間のベスト1を選びます。

この賞の特徴は、現役の翻訳者たちが投票をすることで受賞作が決定すること。つまり、海外作品の原著者と日本の読者との橋渡しをおこなう翻訳者自身が、読者に読んでほしいと考えている作品が選ばれているのです。

また「翻訳ミステリー大賞」に対して、「翻訳ミステリー読者賞」も存在します。こちらはプロアマ問わずすべての人が投票できるため、読者の視点が反映された賞だといえるでしょう。

クリスティの世界を彷彿とさせる傑作「翻訳ミステリー大賞」受賞作『カササギ殺人事件』

 

イギリスの田舎にある小さな村で、家政婦のメアリ・ブラキストンの遺体が発見されました。働いていた屋敷の階段下で亡くなっていたのですが、当時の屋敷には鍵がかけられていて密室状態。

事件なのか、事故なのか……小さな村で噂が広まるなか、今度は屋敷の主人であるサー・マグナス・パイが何者かに殺される事件が発生します。

2人の死には何らかの関係があるのでしょうか。余命宣告を受けた名探偵アティカス・ピュントが、人生の締めくくりとしてこの謎に挑みます。その結末は……。

著者
アンソニー・ホロヴィッツ
出版日
2018-09-28

 

2018年に「翻訳ミステリー大賞」を受賞したアンソニー・ホロヴィッツ作、山田蘭翻訳の作品。アンソニー・ホロヴィッツは、コナン・ドイル財団公認の「シャーロック・ホームズ」シリーズを手掛けた人物です。

かつてアガサ・クリスティが生み出し、世界中のミステリーファンから愛されたエルキュール・ポアロの面影を強く感じさせる名探偵アティカス・ピュント。そしてミス・マープルの世界観を思い起こさせるイギリスの田舎村。さらに作品の随所に散りばめられたクリスティのオマージュが、本作の見どころだといえるでしょう。

また原著の『MAGPIE MURDERS』は1冊のペーパーバックとして出版されているのですが、翻訳されて日本で出版される際には、上巻と下巻に分けられました。これによって、アンソニー・ホロヴィッツが作品に張り巡らせた巧妙な仕掛けのひとつをより効果的に楽しめるようになっています。

編集者や翻訳者のこだわりを感じられ、さらに魅力が引き出された「翻訳ミステリー大賞」を名乗るにふさわしい作品だといえるでしょう。クリスティファンはもちろん、すべてのミステリーファンにおすすめです。

全作品が年間ミステリーランキング1位に輝いた「フロスト警部」シリーズの最終巻『フロスト始末』

 

1994年にシリーズ1作目の『クリスマスのフロスト』が翻訳されると、ミステリー界のなかでも異色を放つフロスト警部の名はたちまち知られるようになりました。その後も続編が人気を博した「フロスト警部」シリーズでしたが、作者が2007年に他界したため、本作がシリーズ最終巻になります。

本作でも、人手不足のデントン署管内で、次から次へと事件が巻き起こるというおなじみの展開が続きます。しかし今回はそれらの事件の裏で、マレット署長と、新しく着任したスキナー主任警部が、フロストの左遷を企てていて……。

著者
R・D・ウィングフィールド
出版日
2017-06-30

 

2017年に「翻訳ミステリー大賞」を受賞したR・D・ウィングフィールド作、芹澤恵翻訳の作品です。

「フロスト警部」シリーズは、汚い言葉や卑猥な表現が数多く登場する、他に類を見ない個性的な作風で知られています。翻訳の際には多くの苦労があったことが想像できますが、それでもフロスト警部の魅力を存分に感じられるのは、訳者の芹澤恵の力によるところでしょう。

憎まれ口の絶えないフロスト節は、『フロスト始末』でも健在。しかし本作には、フロストと亡き妻とのエピソードなど、センチメンタルな描写が多いのが印象的です。最終巻であることをしみじみと感じ、もう彼の活躍が見られなくなるのかと胸にこみあげてくるものがあります。

シリーズが始まってから20年以上の月日が経っているため、初期と比べるとインターネットの台頭など時代の変化も感じることができるでしょう。最終巻を読み終えてフロスト・ロスに陥りそうな人は、この機会にシリーズ全6巻を読み返してみてくださいね。

「翻訳ミステリー大賞」と「読者賞」をW受賞!『声』

 

アイスランドの首都、レイキャヴィク警察のベテラン犯罪捜査官エーレンデュルを主人公とする、「エーレンデュル」シリーズの3作目。

クリスマスムードで賑わう華やかなホテルの地下室で、ホテルの元ドアマンであるグドロイグルが殺されるところからストーリーは始まります。

サンタクロースの扮装をしたまま、めった刺しにされていたその男について捜査を続けていくうちに、エーレンデュルは被害者の悲劇的な過去を知ることに。生い立ちが明らかになるにつれて、彼が抱えていた親子間の確執や苦悩、孤独は鮮明さを増していき、エーレンデュル自身に、こじれた家族関係を思い起こさせるのです。

著者
アーナルデュル・インドリダソン
出版日
2018-01-12

 

2015年に「翻訳ミステリー大賞」を受賞したアーナルデュル・インドリダソン作、柳沢由実子翻訳の作品です。海外文学の翻訳作品は慣れるまでなかなか読みづらいものもありますが、このシリーズは特に読みやすい文章で書かれているので、翻訳作品初心者にもおすすめできます。

本作は暗くて重いテーマが描かれていますが、それでもぐんぐん読み進めていけるのは、アーナルデュル・インドリダソンの巧みな心理描写によるものでしょう。登場人物たちの人生が丁寧に描かれていて、シリーズを通したテーマになっている「家族」について深く考えさせられるのです。

読後は、普段は見過ごしていた悲痛な「声」が聞こえてくるかもしれません。

壮大なSFミステリーと儚いラブストーリーを描いた「翻訳ミステリー大賞」受賞作『11/22/63』

 

世界各国で著作が翻訳出版されている、モダンホラーの巨匠スティーヴン・キングが、ケネディ暗殺を描いた超大作です。タイトルの『11/22/63』は1963年11月22日、ジョン・F・ケネディがダラスでパレードの最中に、暗殺された日を表しています。

高校教師をしている主人公のジェイクは、余命幾ばくもない友人アルから、過去へと通じる穴の存在を明かされます。通り抜けると、1958年9月19日の正午2分前に行くことができるそう。

穴に込められたアルの遺志を受け継いで、ジェイクはケネディ暗殺を阻止するために過去へと旅立ちました。果たして彼は、世界を震撼させた凶弾を止めることができるのでしょうか……。

著者
スティーヴン・キング
出版日
2016-10-07

 

2013年に「翻訳ミステリー大賞」を受賞した作品です。文庫本で上・中・下巻の大長編ですが、スティーヴン・キングの手腕と、何度も彼の作品を手掛けてきた白石朗の翻訳で、ラストまで一気に読み進めることができるでしょう。

過去へ行き、ケネディの暗殺を阻止するために着々と準備を進めるジェイクですが、過去は改変されることに強く抵抗し、さまざまな妨害や試練を投げかけてきます。次から次へと起こる波乱の展開に、ページをめくる手を止めることはできません。

さらに、この壮大な計画の傍らで育まれるささやかな愛が、終盤にかけて物語を大きく揺り動かすことになります。世界最高のストーリーテラーが用意したラストシーンは、読後も深い余韻を残すでしょう。

「翻訳ミステリー大賞」第1回受賞作!麻薬戦争の闇を描く『犬の力』

 

主人公は、元CIAの職員で、DEA(アメリカ麻薬取締局)の捜査官をしているアート・ケラー。メキシコの麻薬撲滅を目指した30年におよぶ戦いを描いています。

アートは、叔父から引き継いだ麻薬カルテルを支配するアダン・バレーラとラウル・バレーラ兄弟と対立。裏切りや謀略で激しさを増していく麻薬戦争の勝者の称号は、誰が手にするのでしょうか。

著者
ドン・ウィンズロウ
出版日
2009-08-25

 

2009年に第1回「翻訳ミステリー大賞」を受賞したドン・ウィンズロウ作、東江一紀翻訳の作品です。

麻薬戦争に巻き込まれた登場人物たちが、ディープに絡み合っていく群像劇は読みごたえ抜群。無限にくり返される血で血を洗う展開に、出口の見えない闇を感じます。

熾烈を極める麻薬戦争が進むにつれて、アートは復讐をすることに異常な執念を燃やすように。自らが掲げる正義のもとに手段を選ばなくなり、「犬の力」を行使するのです。「訳者あとがき」で「犬の力」の意味を知ったとき、作者がタイトルに込めたメッセージを痛感させられるでしょう。

王道の古典ミステリーから異彩を放つ現代ミステリーまで、一概に海外ミステリーといってもその魅力はさまざまです。翻訳作品を読むことで、幅広い世界観に触れることができるでしょう。

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