美術学校に通いながら、俳優もこなす美形の同級生・シヴァは、学校中の女子の憧れ。彼と友達になることに成功したアニスですが、思いがけない「秘密」を知ることになり……?今回は、80年代に多くの読者の心をつかんだ名作の色褪せない魅力と見所を、ネタバレありで紹介します。 本作は、スマホの漫画アプリでも無料で読めるので、気になる方はそちらからもどうぞ!
物語の舞台は、80年代のニューヨーク。美術学校に通う活発な少女・アニス・マーフィは、ある野望を抱いていました。それは、クラスでひときわ目立つ存在である「シヴァ」と友達になることです。
すらりとした長身に整った顔立ち。俳優としても活躍するシヴァは、学校中の人気者です。彼と奇跡的に友達になれたアニスでしたが、彼の「重大な秘密」を知ることになります。
その秘密とは、じつは「シヴァが2人いる」ということ。彼は双子であり、入れ替わりながら学校生活や仕事をこなしていたのです。シヴァと、もう1人のシヴァである「サイファ」はアニスを遠ざけようとしますが、彼女はある賭けを2人に持ちかけます。
賭けの中身と結果、そして彼らの関係の行方とは……?
- 著者
- 成田美名子
- 出版日
- 2013-08-05
80~90年代は、数々の「名作」と呼ばれるタイトルが、少女漫画界に生まれた時代。『CIPHER』も、間違いなくその1つに数えられる作品です。
はじめは、まっすぐなアニスとクールな双子のやりとりにクスッとしたり、ハラハラしたりすることも。また、爽やかな青春物語かと思いきや、薬物依存や家族との確執など、ドキっとするテーマも描かれています。
それぞれの登場人物に過去のエピソードや葛藤があり、それらは少しずつ明らかに。繊細な心理描写や怒涛の展開は、まさに「少女漫画」の枠を超えていると言えるものです。
少年・少女だったときに夢中になった人も、はじめて読む人も、この機会に『CIPHER』の世界に浸ってみてはいかがでしょうか?
作者の成田美名子(なりたみなこ)は、1960年3月5日生まれの59歳です。17歳のときに、『一星(いっせい)へどうぞ』が、白泉社の「花とゆめ」に掲載され、デビューしました。
代表作は、『エイリアン通り(ストリート)』『NATURAL』など。2019年現在は、月刊誌の「MELODY」で、『花よりも花の如く』を15年にわたり連載中です。どの作品においても、繊細なタッチや、いきいきしたキャラクターが光ります。
じつは、作者の従叔父は『ウルトラマン』をデザインした彫刻家・成田亨(なりたとおる)。そして実弟は、ジャズピアニストとして活躍するなど、芸術一家で育っています。そんな背景も、類まれな画力やキャラ作りに活かされているのでしょう。
- 著者
- 成田 美名子
- 出版日
- 1995-12-01
また、アメリカを舞台にした『CIPHER』では、作中の街並みやキャラたちの暮らしぶりのリアルさが目を引きます。あまり情報のなかった時代、なんと作者はロサンゼルスに住んでいたいとこに、生活ゴミを送ってもらって参考にしていたそうです。
そういった細かな視点やこだわりが、きっと物語やキャラに命を与えるのでしょう。40年以上も名作を描き続ける作者の、秘密がうかがえるエピソードです。
成田美奈子の作品を紹介した<成田美名子おすすめ作品4選!能がテーマの『花よりも花の如く』作者>もおすすめです。ぜひご覧ください。
本作で印象的なのは、全体に漂うスタイリッシュな雰囲気。そこに大きな役割を果たすのが、キャラたちが着るファッションです。作中に登場するそれぞれのキャラが、自分の個性に合ったおしゃれをしています。
たとえば、快活で無邪気なアニスは、ゆったりとしたトレーナーをジーンズやサロペットでコーディネート。美形の双子は細身のスタイルなので、デニムシャツやコンパクトなジャケットがよく似合います。
30年前の漫画作品ですが、今も1つひとつの着こなしに古さや違和感がありません。それは、流行がくり返すからという以上に、彼らのファッションがとても自然だからでしょう。
日本の高校生には、少し背伸びに感じるロングコートを着ていても、足元はコンバースのスニーカーだったり、1つのアイテムが複数のシーンで「着まわし」されていたり。そのバランスや日常感がとても現実的で、今っぽく感じられるのです。
連載当時は、SNSもなければ、海外旅行も珍しかった時代。まるで雑誌をめくるかのように、本作を楽しんでいた読者も多かったのではないでしょうか。当時の時代背景に思いを馳せながら、ぜひファッションにも注目してみてください。
作品の中心となるのは、「シヴァ」という1人の青年を演じる双子・シヴァとサイファです。しかし彼らを取り巻く友人たちも、大きな存在感があります。
親元を離れ、たった2人で小さなアパートに暮らす双子。お互いだけを頼りに、閉鎖的に生きる彼らの姿は、学校での華やかな人気ぶりとは対照的です。そして、秘密を知ったアニスが、2人の間に果敢に飛び込んでいくことで、物語が始まります。
裏表なく、ただ彼らと心を通わせたいと願うアニス。彼女のひたむきさは、しだいに2人の心を溶かしていき、シヴァとサイファそれぞれが抱える「葛藤」を自覚するきっかけになります。
後半では、「ある事件」により双子は仲違いしてしまうのですが、そこで彼らに寄り添うのも友人たち。サイファの新たなルームメートとなるハルや、シヴァに強い憧れを抱くアレクサンドラ・レヴァイン。彼らとの関わりによって、2人はさらに成長していきます。
じつは彼ら友人たちにも、さまざまな過去やコンプレックスが……。人の痛みがわかるからこそ、双子の力になりたいと願い、奮闘する彼らに、つい感情移入してしまいます。
気づいたら、すべてのキャラが愛おしい存在になってしまうでしょう。本作の完結後、レヴァインを主人公としたスピンオフ作品『ALEXANDRITE』が刊行されており、キャラたちの人気がうかがえます。
入れ替わっても気づかれないほど、見た目は瓜二つのシヴァとサイファ。しかし、その性格はというと、大きく異なっています。
兄にあたるシヴァは、冷静な優等生。かたやサイファは、感情豊かで熱い性格です。2人の世界にアニスという第三者が入ることによって、その違いが浮き彫りになっていきます。
努力することで周囲の評価を得てきたシヴァは、素直で愛される弟・サイファに対して複雑な思いが……。「愛されるのはサイファ」「サイファのほうが友達が多い」、あまり感情を表に出さないシヴァの心の声に、胸が痛むでしょう。
そんな葛藤のなかで起こった「ある事件」。2人は、はじめて離れて、それぞれが自分を見つめるように。そこでサイファもまた、シヴァに対して強いコンプレックスがあることが描かれます。
誰もがうらやむ美しさや能力を持ちながら、お互いに比べあって苦しむ2人。兄弟間の比較や嫉妬は、多くの人に覚えがあるものですが、「双子」という特殊な関係だからこそ、より強固なのかもしれません。
双子がゆえの苦悩にぶつかる彼らの運命は……?その先にあるものに、2人はたどり着くことができるのでしょうか。
決定的な出来事によって離れる双子でしたが、それが彼らにとって重要な転機となっていきます。
新たな環境、そして友人たち。戸惑いながらもそれぞれの世界を築くうちに、セルフイメージとは違う「本当の自分」を2人は再発見していきます。
- 著者
- 成田美名子
- 出版日
- 2013-11-05
自分のことがわかって、はじめて他者のこともわかる……そんな経験はないでしょうか?じつは2人暮らしの原因でもあった母との確執、そしてコンプレックスも、相手の立場や思いを理解することでほどけていくのでした。
もう二度と会わないことも覚悟していた2人。しかし、それぞれの問題を乗り越えたとき、胸の奥にあったものとは……?彼らは自分の気持ちを確かめるため、1年越しの再会を果たすことになります。
結末のシーンは、まさに胸熱。この感動は、ぜひ実際に本作を読んで味わってください。
ただの少女漫画と侮るなかれ。複雑なドラマの果てに、胸を打つエンディングが待っています!