「泉鏡花文学賞」歴代受賞作のおすすめ本5選!ロマンが香る文学の世界

更新:2021.11.19

年に1度、金沢市の主催で開催される「泉鏡花文学賞」。泉鏡花のロマンあふれる小説の雰囲気を受け継いだ作品が受賞をし、読書家の間で注目されています。この記事では、幻想的な世界と美しい情景描写が魅力的なおすすめの受賞作をご紹介。匂い立つロマンティシズムに身を沈めてみてはいかがでしょうか。

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「泉鏡花文学賞」とは。特徴や傾向など

 

金沢市の主催で年に1度開催される「泉鏡花文学賞」。金沢は、明治の終わりから昭和の始めにかけて活躍した文豪、泉鏡花の生まれ育った町で、彼の生誕100周年を記念して制定されました。

泉鏡花は、幻想文学や怪奇小説の書き手として非常に有名な作家です。独特の幻想的な世界観とロマンティシズムが特徴で、「泉鏡花文学賞」も、そのようなロマンあふれる文学性に通ずる作品に与えられる賞になっています。
 

過去の受賞作を見ると、新人からベテランまで幅広い作家が受賞していることがわかります。著名な作家も多数選ばれていますが、他の文学賞受賞作とは一味違った選考が見られる賞だといえるでしょう。

 

ただ圧倒するのみ!これぞ「泉鏡花文学賞」といえる究極の幻想小説

 

「シブレ山の石切り場で事故があって、火は燃え難くなった。」(『飛ぶ孔雀』より引用)

庭園で開かれる茶会で、女性たちは火を運ぶ仕事をしています。火の燃えにくくなった世界で、茶釜の火を絶やさないために火を運んでいるのです。しかし、それを飛ぶ孔雀が邪魔をするかのように襲います。

何もかもが燃えにくい地で、人々はそれぞれの暮らしをしているのですが……。

 

著者
山尾 悠子
出版日
2018-05-11

 

2018年に「泉鏡花文学賞」を受賞した山尾悠子の作品です。この小説には、明確なストーリーがあるわけではありません。しかし、読めば読むほど、この不燃性をもった世界という不思議な舞台でくり広げられる物語に引き込まれていくのです。

シブレ山の事故と、火の不燃性について、作中では詳しく語られていません。それどころか、シブレ山の事故についても謎が多いまま物語は進みます。

いったいこの小説がどのような話なのか。何を訴えるものなのか。読者は考えるためのヒントをほとんど与えられないまま、物語を読むことしかできないのです。この幻想的で不思議な小説はどうやっても語ることはできません。山尾悠子の天才的な描写力で描かれる美しい世界を、ぜひお手にとってご覧ください。

 

人類の滅亡を描いた「泉鏡花文学賞」

 

かつて多くの国を作り繁栄を極めた人類は、絶滅しようとしていました。今はずいぶんと少ない人間たちでグループを作り、「母」のもと、小さなコミュニティで暮らしています。それぞれのグループは分断され、交流もありません。

なぜそのような形をとったのでしょうか。

 

著者
川上 弘美
出版日
2016-04-22

 

2016年に「泉鏡花文学賞」を受賞した川上弘美の作品です。

人類の滅亡というテーマはこれまでも数多くの作品で、戦争や災害というテーマとともに描かれてきましたが、本作における滅亡は、非常にゆるやかに、穏やかに描かれているのです。

人間たちの共同体とは別に、「母」のもとで暮らす子どもたちの姿もあります。謎に包まれた「母」の正体や子どもたちの運命、そして絶滅の危機に瀕した人間たちの選択がだんだんと明らかになっていくストーリーに、ページをめくる手が止まらなくなってしまうでしょう。

さらに、最後の短編2本では、ハッとさせられる事実が待ち受けています。それまでの物語を繋ぎ、ラストへと向かっていく展開にドキドキさせられるはずです。

 

生と死を見つめなおす自伝的小説が「泉鏡花文学賞」を受賞

 

父親に殴られ、蹴られ、苦しい日々を送っていた少年は、17歳のときに家を出て「ゲージツ」をやるようになりました。しかし、いくら絵を描いてもうまくいかず、借金をし、家族を作っても長くはもちません。苦しくてもどうにか生きていくしかない状況です。

そんな貧乏生活をしていたある日、母親から電話がかかってきます。父親が植物状態になったという知らせでした。

 

著者
篠原 勝之
出版日
2015-07-08

 

2015年に「泉鏡花文学賞」を受賞した篠原勝之の自伝的小説です。彼は自らを「ゲージツ家」と名乗り、鉄のスクラップによるオブジェなどの美術作品を制作しています。

お金のない生活をするなかで、父親の死や愛猫との暮らしをとおし、生と死を見つめなおす物語。大胆で粗野な行動の目立つ主人公ですが、物語から伝わってくる彼の不器用なやさしさは、胸に迫るものがあります。

どの短編も、生きることと死ぬことという表裏一体のテーマを濃縮したような作品になっています。

 

釣りを通して江戸の人々を描いた「泉鏡花文学賞」受賞作

 

物語の舞台は元禄時代。旗本の津軽采女は、伴太夫に誘われて初めて釣りをしました。その時に釣りの面白さに魅せられて、以来さまざまな釣り人たちと出会いながら没頭していきます。

そのころ江戸では、「生類憐みの令」が発布されていました。犬や猫のみならず、馬、魚、貝までも対象にしたお触れが出され、切腹を命じられる人もいる始末です。そんななか采女は、問題のお触れを出した綱吉に仕えることになってしまいました。

一方、時を同じくして、釣りを趣味とする絵師の朝湖と俳人の其角は、江戸で水死体を発見してしまい……。

 

著者
夢枕 獏
出版日
2013-05-15

 

2011年に「泉鏡花文学賞」を受賞した夢枕獏の作品です。本作は実在した津軽采女を主人公に、吉良上野介や徳川綱吉などの歴史上の人物を多数登場させた時代小説になっています。夢枕獏らしい独特のリズム感が魅力でしょう。

また、後に釣りの指南書を書くことになる采女を主人公にしているだけあって、釣り三昧の人々の姿を興味深く読むことができます。作者もまた釣りを趣味としているので、これまで釣りに縁がなかった人にもわかりやすい仕上がりです。

釣りという大きなテーマがありながらも、史実通り生類憐みの令によって苦しめられていく江戸の町や、吉良側の人間から見た赤穂事件なども描かれるので、歴史好きにもおすすめの一冊だといえるでしょう。

 

幻想的な怪奇を楽しめる「泉鏡花文学賞」受賞作

 

岩という名の女の仲人をしてくれと頼まれた又市。この岩というのは、昔はとても美しい女性だったのですが、病気によって顔が崩れ、人目をはばかる容姿になっていました。しかし当の本人は、容姿のことなど気にせず、今まで通り毅然としています。

又市は、岩の旦那にしようと伊右衛門という男性を紹介。伊右衛門は岩の家に婿に入ることになるのですが……。

 

著者
京極 夏彦
出版日

 

1997年に「泉鏡花文学賞」を受賞した京極夏彦の作品です。

有名な「四谷怪談」をモチーフに創作されたもの。「四谷怪談」では、岩は夫である伊右衛門に殺され、幽霊となって復讐をとげるというストーリーが一般的ですが、本作では純愛ミステリーともいえる切ない内容になっています。岩と伊右衛門の愛と、愛するがゆえの狂気を感じることができるでしょう。

人間の怖さを描いた怪談としても読めますし、伏線を回収していくミステリーとしても読めるのが魅力的。結末を知った後は、驚きのあまりもう1度読み返したくなるはずです。

京極夏彦の、人々を物語の世界にいざなう文章力と、読者に恐怖を抱かせるストーリーは、まさに泉鏡花の怪奇小説に通ずるものがあるといえるでしょう。

 

気になる本を見つけることはできたでしょうか。「泉鏡花文学賞」の受賞作はどれも個性的な作品ばかり。たまにはロマンと幻想の世界にどっぷりとつかってみるのもいいかもしれません。

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