インフレとデフレは、どちらも経済状況を示している言葉です。この記事では、それぞれの意味や仕組み、発生する原因、経済への影響などをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、チェックしてみてください。
「インフレ」と略して呼ばれる「インフレーション」は、ある一定の期間、物価が上がり続けることを指す経済用語です。たとえばこれまで100円で購入できていた商品が150円になった場合、インフレが進行したといいます。
ではなぜ物価が上昇するのか、代表的なインフレのパターンを紹介しましょう。
まずひとつ目が、供給量に対して需要が増えるインフレです。
資本主義経済においては、商品の価格は需要と供給の力関係によって決まります。需要が多い、つまり購入したい人が多いため、強気の価格設定をすることができ、市場全体で物価が上昇するのです。
そしてふたつ目が、通貨の価値が下がることで発生するインフレです。
物価が上がるということは、同じ商品を購入するのにより多くの通貨が必要になるということでもあります。つまり、通貨の価値が低くなった状態と言い換えることもできるのです。たとえば中央銀行が発行する通貨量を増やすなど、何らかの理由で通貨の価値が下落すると、商品を購入するためにより多くの通貨が必要になり、結果的に物価が上昇します。
一般的にインフレというものは、好景気の時に発生するといわれています。需要や通貨供給量が増えることで、企業の収益が上がり、賃金が上昇して個人の収入も増えることが多いためです。
しかし不況で賃金が減少しているにもかかわらず、何らかの要因でインフレが発生して通貨価値が下がってしまうことがあります。不況下で発生するインフレは、「スタグフレーション」と呼ばれます。
一方の「デフレ」は、正式名称を「デフレーション」といい、物価が下がり続ける状態を指します。デフレが発生する原因は、インフレとは逆の状態だと考えるとよいでしょう。
たとえば需要に対して供給が多いと、供給側は商品の売れ残りを防ぐために、価格を下げて購買意欲を高めなければなりません。また通貨の供給量が減少すれば、通貨自体の価値が高くなり、商品の購入に必要な通貨量が減少、価格の下落につながります。
また一般的に、デフレは不況下で発生しやすいといわれています。物価が下がると企業の収益も減少し、賃金の低下につながり、消費の低下を招き、売り上げを確保するためにさらなる物価の引き下げが生じるという仕組みです。
このように、デフレと企業の減益が連続して起こる状態は「デフレスパイラル」と呼ばれます。デフレが長引くと不況の長期化につながり、経済に深刻な悪影響を及ぼすことになるのです。
一般的に好況時に発生するといわれるインフレ。企業の収益増が賃金増につながり、さらに消費を刺激するという正の循環が発生しやすくなります。
また通貨供給量の増加によって通貨価値が下がると、為替が円安となるため輸出に有利に作用します。これも、インフレが経済に与えるメリットだといえるでしょう。
ただしインフレが経済に好影響を与えるのは、賃金が増加して人々の購買力が増加した場合に限られます。
たとえば企業の業績が改善しても、それが賃金に反映されない場合は物価ばかりが上昇し、人々の生活はかえって苦しくなってしまうでしょう。
また円安は輸出に有利に作用する一方で、輸入には悪影響を及ぼします。インフレによって円安になると、原材料価格が上昇し、商品価格の上昇に拍車がかかる場合があるのです。このケースのインフレは、輸出をしない企業の収益増にはつながらないため、それらの企業の従業員は賃金増の恩恵を受けることができません。
これは賃金の上昇しないインフレ、つまり「スタグフレーション」が発生してしている状態。このように、インフレが常に景気によい影響を与えるとは限らず、デメリットもあるのです。
また、インフレが急速に進んでしまった場合も、経済は深刻な混乱を引き起こします。これは「ハイパーインフレーション」と呼ばれる状態で、第一次世界大戦後のドイツや、2000年代のジンバブエで発生したものが有名です。1923年のドイツではパンの価格が16億倍に高騰、通貨を用いた通常の経済活動を維持することが不可能になりました。
デフレは、経済に好影響を与えることはほとんどないといわれています。先述したように一般的に不況下で起こりやすく、とくに「デフレスパイラル」の状態に陥ると不況からの脱出が困難になるため、デフレの発生は歓迎されないことがほとんどです。
デフレが発生すると商品価格が下がる傾向になり、一見メリットのようにも見えますが、人々の賃金も上昇しないため、商品価格は必ずしも負担の軽減には繋がりません。
ただデフレが生じると通貨供給量が減少し、通貨の価値が上がります。そのため富裕層にとっては、自身が保有する資産価値の上昇に繋がる場合があるようです。これをメリットということもできますが、結果として貧富の格差拡大につながるため、社会全体としては問題視すべき状態だといえるでしょう。
- 著者
- デービッド アトキンソン
- 出版日
- 2019-01-11
少子高齢化が進む日本では、長期的に見て人口減少が避けられません。国内経済の規模が縮小するなかで、私たちはどのように行動するべきなのか、7つの戦略を提示している作品です。
本書では、最低賃金の引き上げを主張しています。賃金増がなければデフレが発生し、経済が低迷してしまうからです。これまでの日本は低コストで人材を確保することで、収益を得ていた側面がありましたが、社会構造の変化にあわせて考え方も変えるべきだといっているのです。
そのほか、生産性の向上や企業規模の拡大など、現在の日本経済の在り方を見直す大胆な提言が目白押し。それぞれデータを踏まえて論旨を展開しているので、わかりやすいでしょう。
- 著者
- チャールズ・ウィーラン
- 出版日
- 2017-12-18
タイトルのとおり、社会のなかでお金が果たしている役割をわかりやすく解説した作品。お金の起源からビットコインまで扱い、特質、役割、金融危機が発生する理由などさまざまな分野に論及しています。
ジンバブエのハイパーインフレや日本のデフレも取り上げられているので、インフレとデフレがそれぞれ経済にどのような影響を与えるのかを理解することができるでしょう。
またアベノミクスにも言及しているので、お金そのものの特性だけでなく、日本経済の動きを知るためにも役立つ作品です。