恋愛、ミステリー、ホラーなど小説にはさまざまなジャンルがありますが、今回はテロを題材にした作品を紹介していきます。テロを起こす側、食い止める側、両者の思惑が交錯するストーリー展開が魅力です。ぜひお楽しみください。
1964年の夏。オリンピックの開催を控えた東京は、素晴らしい発展を迎えていました。戦後という悲しい出来事を乗り越えるためのイベントとして、国民の誰もが期待のまなざしを向けていたのです。
しかしそんななか、警察の関係者を狙った爆破事件が連続で発生。同時に「オリンピック開催を妨害する」という脅迫状が届けられました。警察は、国民には一切伝えずに、秘密裏に犯人を追います。
一方で、1ヶ月前に兄が亡くなったことをきっかけに、土木工事に従事することになった東大院生の島崎国男。都市部と地方の経済格差を目の当たりにし、東京だけが富を得るのは許せないという思いを強くしていくのでした。
- 著者
- 奥田 英朗
- 出版日
- 2014-11-14
2008年に刊行された奥田英朗の作品。「吉川英治文学賞」を受賞し、2013年にはテレビドラマ化もされました。
本書の見どころは、主人公の島崎がだんだんとテロリストになっていく様子でしょう。テロリストというと「悪いことをする人」「過激な考えを持もつ人」などのイメージがあるかもしれませんが、彼はそのような人とは一線を画す、読者が感情移入できる人物なのです。
過酷な環境のなかで、地方の労働者が覚せい剤を使用しているのを知った島崎。彼らに寄り添いたいと思い、また彼らのために繁栄を築く東京を相手に戦わなければならないと考えるようになります。
島崎の心情と、1964年当時の人々がオリンピックに熱狂するさまを丁寧に描き出し、最後まで飽きることなく読み進められる一冊です。
2011年の日本は、経済面でも外交面でもうまくいかず、国際社会で孤立していました。アメリカの動きに対して嫌米ムードも漂っています。
一方の北朝鮮は、アメリカと友好的な関係を築いています。しかし内部にはそれをよく思わない者もいるよう。そんな彼らが考えたのが、日本を侵略して反米派を送り込む作戦「半島を出よ」です。作戦は実行され、反米派の北朝鮮グループは福岡に侵入し、制圧しました。
日本政府は、突然現れた北朝鮮グループにどうすることもできません。そんななか、福岡の若者が立ち上がります。
- 著者
- 村上 龍
- 出版日
2005年に刊行された村上龍の作品です。
作中で、日本政府は北朝鮮グループをテロリストして扱うのですが、国連や諸外国に助けを求めても「侵略ではない」として援助を受けることができません。政府内で会議を開いても、何の対策も講じることができない始末です。
そこで立ち上がったのが、過去に犯罪に手を染めた少年たち。それぞれがもつ知識や能力を活かして、北朝鮮グループの本部を壊滅させていきます。一見、突拍子もないストーリーに思えますが、「ありえない」を思い起こさせない作者の筆力に驚かされるでしょう。
また本書の特徴として、会話文と地の文に境目がなく、一続きになっていることが挙げられます。テンポのよい文章がページ一面に並んでいるさまは圧巻。他の作品では味わえないエネルギーを感じることができるでしょう。
新システムを搭載した海上自衛隊の「いそかぜ」は、「うらかぜ」とともに太平洋の訓練海域に出ることになりました。
母親が自殺をしたことによって酒と女に溺れる父親を殺害した如月行、新システムが搭載される「いそかぜ」の艦長に任命されたものの、最愛の息子を失った宮津弘隆、高校を卒業して自衛隊に入り「いそかぜ」への乗務を命じられた仙石恒史らが乗っています。
しかし、特殊兵器の盗難やオセアニア航空の墜落事故など、さまざまな事件が発生。仙石は、幹部の如月の不自然な雰囲気を感じとりました。そして宮津から、如月が船内に潜伏している北朝鮮工作員の仲間だと教えられ……。
- 著者
- 福井 晴敏
- 出版日
- 2002-07-16
1999年に刊行された福井晴敏の作品。2005年には映画化もされました。
新しいシステムを搭載したイージス艦「いそかぜ」を舞台に、さまざまな人物の策略や思惑が交錯し、やがて日本を揺るがす事態に発展していきます。
日本を守るためのイージス艦が、日本を狙うテロ組織に利用されるさまは、緊迫感抜群。一体誰が敵で、誰が味方なのか、誰が嘘をついていて、誰が本当のことを言っているのかがまったくわからないままストーリーが進んでいきます。読者は何度も驚きに襲われるはずです。
自衛隊に関する用語がたくさん出てきますが、作中で詳細に説明がされているので、状況を想像しながら読み進めることができるでしょう。壮大な世界観とダイナミックなシーンをお楽しみください。
アルコール中毒のくたびれたバーテンダー、島村は、新宿にある公園でウイスキーを飲んでいました。
いつもと変わらない1日の過ごし方をしていたはずが、突如爆発が起こります。慌てて現場から逃げる島村ですが、その時に持っていたウイスキーの瓶を置いてきてしまい、そこから出た指紋を理由にテロの容疑者として追われることになってしまうのです。
爆発事件の被害者には、島村がかつて同棲していた女性や、学生運動時の旧友もいました。島村は、警察に追われながら、自らで犯人を突き止めようとしますが……。
- 著者
- 藤原 伊織
- 出版日
- 2014-11-07
1995年に刊行された藤原伊織のハードボイルド作品。「江戸川乱歩賞」と「直木賞」を受賞しています。藤原はギャンブルでできた借金を返済するために本作を執筆し、賞金の1000万円を目当てに「江戸川乱歩賞」に応募したそうです。
主人公の島村をはじめ、元医者のホームレスや元警察官のヤクザなど、登場人物たちのキャラクターが魅力的。アル中のバーテンダーというと頼りないイメージがありますが、島村自身もかなり頭の切れる人物で惹かれてしまうはずです。
隙なく寝られた展開と、張り巡らされた伏線、後半にかけて怒涛の勢いで明らかになる事件の真相をぜひ堪能してください。
自衛隊への納入を控えた軍用のヘリコプター「ビッグB」が、「天空の蜂」を名乗るテロリストに奪われてしまいました。ビッグBは大量の爆薬を積んだまま、稼働中の原子力発電所「新陽」に向かいます。
テロリストから政府に届いた脅迫文によると、全国の原子力発電所のタービンを破壊するか、ビッグBを「新陽」に墜落させるかの2択とのこと。燃料は8時間分しかありません。しかもテロリストにとっても想定外のことに、ヘリコプターの内部には見学をしていた子どもが取り残されていて……。
タイムリミットが迫るなか、政府はどのような決断を下すのでしょうか。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
- 1998-11-13
1995年に刊行された東野圭吾の作品です。原発に関する記述はかなり詳細で、問題提起の役割を果たしているともいえ、2015年に映画化もされました。
ヘリコプターがずっと原発の上空にいて、時間の制限もあるという緊張状態のなかでストーリーが続いていきます。原発自体に関する是非と、テロの首謀者を探すミステリー要素の2つを読者に投げかけていて、読みごたえは抜群。
原発に関する専門的な記述もあり難しいと感じる方もいるかもしれませんが、日本で暮らす以上は知っておかなければいけない知識なのでしょう。
ダムで働く富樫輝男は、かつての猛吹雪の日に、自分のミスで事故に巻き込まれ、同僚であり親友でもあった吉岡和志を亡くしています。
翌年の2月。テロリスト「赤い月」によってダムが占拠され、職員が人質にとられる事件が発生。そこには亡くなった吉岡と婚約していた平川千晶も含まれています。
テロリストの要求は、50億円。用意できなければ人質を殺害し、ダムを破壊させ、20万世帯を水没させるというのです。タイムリミットは24時間。富樫は、同僚と友人の婚約者を救うために、テロリストに挑みます。
- 著者
- 真保 裕一
- 出版日
- 1998-08-28
1995年に刊行された真保裕一の作品です。テロリスト集団に、ダム職員の富樫がひとりで立ち向かう物語になっています。
本作の魅力は、雪山が舞台になっているところでしょう。「ホワイトアウト」とは、雪と風によって視界が白一色になり、方角がわからなくなるどころか、どこに地面があるのかもわからなくなる状態のこと。大自然のなかで人間は圧倒的に無力だということを痛感させられます。
しかし富樫は、友人を死なせてしまったという罪悪感ゆえに必至に立ち向かっていくのです。ダムの職員としての知識と情熱で、テロリストに勝てるのでしょうか。