西村賢太の同名小説はさておき、小銭をかぞえるのは楽しい。頭の中で観念上の小銭を、どうすれば増えるか、ああだこうだ捏ねくり回すのも楽しい。そんなこと考えてる間にバイトすりゃよほどお金になるんだけど。わたしはソロバン6段です。
お金が好きなんですよ。
あのー、お金でもって、いろんなものが買える、というのも魅力的ですが、とにかくかぞえるのが好きです。かぞえられるなら自分のお金じゃなくても全然いいです。とにかく、かぞえたい。かぞえさせろ。
小銭を種類ごとに分け、10枚ずつの塔を作ったり。
お札をぶわっさぶわっさマジシャンみたく、扇状に美しく広げたり。
左手の中指と薬指の間に、タテに挟んだ札束をぐいっと捻り持ち、それを右手の親指と人差し指でもって、すげえ早さでめくってみたり。
昔インド行ったときこれやって
「おおお、キミは銀行員か!?」
と、人がわらわら集まってきました。
かぞえるだけなら、小石でも、色紙でもいいじゃないか。と、お思いか。
でも、なにかが違う。なんですかね。ただの紙、ただの金属と見せかけて、実はすげえ工夫がなされているブツ。
ひとつひとつは小さくとも、それが集まれば世界すら動かせるポテンシャルを秘めたブツ。
これはもうあれだ、ラグビーみたいなもんだ。ちっさいラグビー選手が財布の中にごろごろ転がってると思えば。
ワン・フォア・オール!オール・フォア・ワン!
ラグビーワールドカップ、日本開催おめでとうございます。
お金触ってるだけでこっちもテンション上がるってなもんですよ。ひゃっほう。
何の話でしたか。
ほらあのー、来年のオリンピックに向けて、また近くは10月からの消費増税に対するポイント還元政策で、世はキャッシュレス化をぐいぐい推し進めてきやがるじゃないですか。やれ○○ペイだー、やれ△△決済だー、つってな。
そんで、それ乗っかるとどうやら、小銭が貯まるようではないですか。
小銭は、うれしい。小銭は、すてき。
小銭いいですよー。この、責任のないおまけ感。
大きいお金はね、一生懸命なんかやんないと貰っちゃだめ。極端な話、家の前に1億円落ちてたら、ただただ恐怖でしょ。あぶく銭にもほどがある。濡れ手に粟の、めくるめく狂乱のマネーゲームとか、わたしにゃムリっす。
「一生分の運を使い果たしてしまった!」
とか、
「この先、ツケがどーんと回ってくるんじゃないか?」
とか、不安でしょうがない。
『奪ったオトコは、奪われる』と言うでしょ。あれと同じことです。たぶん。
ていうかそもそも、そんな簡単に奪われてるオトコがダメだ! しっかりしろ!
今年のあたま、確定申告の準備してるときに、ふと思い立って、前年度どれくらい自分が現金払いしたか、カード決済したか、それぞれ算出してみました。ヒマか。
というのも。
これまで漫然と扱ってきたクレジットカードのポイントとか、財布内でかさばりやがる諸々のポイントカードどものポイントたち。これらをどっかに統合したら、もしかしてある程度の額になるんじゃないかと。
それこそ、ひとつひとつは小さくとも~ですよ。小銭=ラグビー論、ここでもまた。ノック・オーン!
そんで、種類の違うポイントたちを統合するとなれば、それは飛行機のマイルなんじゃね?飛行機、そんな乗る機会ないけど。よっ、出た、飛行機乗らずにショッピングだけでマイル貯める、陸マイラー。陸サーファーくらいのうれしはずかし加減。
そんなわけでわたし、マイルで貯金気分を味わおうと思います。
これまで40余年どうしてもできなかった『貯金』。永遠の憧れ『貯金』。この超・低金利時代にこそ、なんちゃってマイル貯金なんつって、このヘラヘラ感どうよ。『貯金』という言葉のもつ堅実さはゼロです。
で、仮にその現金払い分がすべてカード払いであった場合、どれくらいマイル貯まってたかを算出して、これら完全に捕ってもいない狸の皮算用ではありますが、なんせわたしちまちま金勘定するのが、3度の飯より好きなので。
結果、具体的な額はすっかり忘れましたけど、これだけのマイル貯められるところを素通りしてきたのは、まったくもって痛恨の至り。貧乏の風上にも置けぬ。今後は心を入れ替え、誠心誠意、うまいことアレしていけば、家族でハワイ、はムリでも、沖縄くらいは、いけんじゃね?
いや、1人2人分でも賄えれば、それを口実に旅行を提案できんじゃね?
ていうか、とにかく沖縄に行きたいのアタシ!!(できればハワイも)
という己の欲望に忠実に従い、できる限り現金を使わずに、最もポイントつく支払い方法を都度探す、ノーマネーゲームをせこせこ始めました。
たとえば、夫が急に「今日、かっぱ寿司でも行くか~」と言うとしますよ。そんでまあキリよく1万円使うとしますよ。そんなかかんないけど。
これ、現金で支払ったら、そのまま1万円出て行くだけですが、クレカで払えばその分わずかながらもポイントつきますね。仮にポイント還元率1.2%のクレカなら、120円。
ではクレカから某nanacoに1万円チャージして、お店で某nanacoで支払うとどうか。
クレカチャージ分に対してポイント還元1.2%で120円、さらにかっぱ寿司はnanaco支払い200円につき1ポイント付与、つまり50円ついて、計170円。
もちろん某dカードのご提示も忘れずに。dポイント1%付与で、100円加算チャリ~ン、計270円の小銭、ゲットだぜ!
たかが、270円。
でも、1年365日、毎日かっぱ寿司で1万円使ったならば、な、なんと、98,550円もの差が出るじゃあないですか!これは大変なことですよ!
そもそも365万円、寿司食べちゃってる時点であれですが。
ちなみに、これは某PayPayが出てくる以前のシミュレーションで、2019年9月現在、3%キャッシュバックなんてやらかしてくれてる状況下では、当然PayPay一択。
ヤフーカードでクレカチャージしてたらさらに1%、これにdポイントの1%を合わせて計500円とか、それもうなんなのやってらんねえ、ちょいと兄さん、特選寿司追加~~!
みたいなね、そういう遊びです。小銭あそび。
あくまでこれは計算上で、実際にはポイント付与の上限があったりしますが。PayPayも10月からは還元率1.5%に下がっちゃうしな。残念。
その他、やれSuicaだWAONだ、TカードだPontaだと、お店ごとに逐一いい手を考えてるうち、数時間ゆうに過ぎます。わたし、もう、ヒマつぶすのにケータイゲームとかいらない。チラシの裏とペンと電卓があればいい。
- 著者
- 出版日
- 2019-03-05
もう、本のタイトルまんま、クレジットカードとかスマホ決済とか、電子マネーとか、ポイントについて、何をどう使えば便利か、どれを組み合わせるとよりお得か、といったことを様々比較して教えてくれる、親切なムック本です。
ざっとこんな感じ。
・激動!マネートレンドニュースヘッドライン
・今日から始めるキャッシュレス生活
・「重ね取り」で2倍3倍ポイントゲット
・6大メジャー電子マネー徹底解剖
・[カテゴリ別]最強カードファイル
などなど。ポイントの重ね取り。なんていい響きであることよ。
これは今年3月発行の本ですが、他にも同様の冊子がずらずら書店に並んでいます。刻々と情報が更新されていく事柄なので、都度新しい本にてチェックしたいものです。
お金を大事にするなら、こちらも重要事項。
- 著者
- ["大河内 薫", "若林 杏樹"]
- 出版日
- 2018-11-08
これもタイトルですっかり内容わかるので、もう、わたしがあれしなくてもいいですか。
『日本一フリーランスに優しい税理士』大河内薫さんが、主にフリーランスのひとの、社会保険や確定申告などについて、やさしく解説してくれます。
税金の話ですが、マンガになっているので、とっつきやすい。わかりやすい。ありがたや。
読者対象がとてもはっきりしている。だから、そもそもまったく関係のないかたにはまったくアレですが、フリーランスならずとも、副業をしているかたにもお役に立ちます。
あと、ふるさと納税、とか、個人型確定拠出年金(iDeCoイデコ)とか。それが一体どういうものなのか、説明がとても上手。なるほど、小規模企業共済は利回りがいいのね~、ほへ~。
わたし自身は、演出家の知人がこの本のことつぶやいてるの見て、速攻購入しました。教えてくれたやもっちゃん、ありがとうよ!
大河内さん自身が日芸(日本大学芸術学部)出身で、クリエイターや芸術・芸能系のクライアントに特化してる、と聞きゃあ、そりゃ読んでみたくなるってものさ。だって、なんか、わかってくれてそうじゃないですか、こっちの事情を。
だって、毎年、確定申告の書類作ってるとき、
「え、ええんやんな……これで、ええんやんな……?」
と、常におっかなびっくり、もう半笑いで作業してるんだもの。
果たして己のやり方であってるのかわからないまま、何となくほわほわ~っときちゃったので、ぜひ答え合わせして、確信を得たい。
かといって不明点を税務署員さんに尋ねるのはなんかこわい。藪を叩いて蛇出したくない。
結果、毎年2月こっそり税務署に近づき、こっそり収受箱に申告書を投げ入れ、後ろも見ないで遁走する羽目に。いっつも、そう!
この本で、どうか次の確定申告は心安らかにできますように。なーむー。
あと、こちら小銭あそびからは離れますが、タイトルがそのまんまなので、あえて今回ご紹介。
- 著者
- 西村 賢太
- 出版日
- 2011-03-10
西村賢太の第4創作集。「焼却炉行き赤ん坊」「小銭をかぞえる」2編を収録。
同棲相手の女と、その溺愛する犬のぬいぐるみ「たのすけ」との、おかしくもグロテスクなママゴトめいた生活とその顛末記(焼却炉行き赤ん坊)。
金策に奔走してさんざんやらかした挙げ句、300万借りている女の親からさらに50万を借りさせ、女に優しくするはずがなぜか大喧嘩に(小銭をかぞえる)。
虚栄心。猜疑心。貧困。傲慢。僻み。暴言。暴力。
薄汚いもの、気持ち悪いもの、不快なものがぎっしり詰まってるのに、陰惨じゃないのはなんでだ。
昭和初期のようなやたら小難しい漢字を多用する筆致と、会話文での江戸っ子口調、そこに現代のカタカナをぶっこんで、なんかしらんがいちいちおかしいのです。
どちらのお話も最後は逆ギレ、恫喝、大爆発。女号泣、男憤怒。
いじましくも小さな平穏が、今回もやっぱりぶち壊されました。
きっかけはいつも古書、なんなのこのパターン? コントなの? でもそのカタルシスがもう、くせになっちゃって。そしてバックに流れる、稲垣潤一。
語り手である『私』の安定のダメ男っぷりがですね。いやダメ男なんて表現じゃ生温いです、ほんと、クソすぎて笑う。
念のため、これ作家ご本人のことじゃなくて、あくまで、作中の『私』ね。私小説とはいえ、書かれてることがまんま本人の描写とは限らない。作品なのでな。もしかして実際会ってみたら、全然作風とは異なるナイス・ガイだったりして。
ただ、作中の『私』は間違いなく、クソ。清々しいくらいの、クソ。揺るぎない、クソ。
お金を工面してくれた『女』を労おうと、池袋で待ち合わせるのですが、そこに現れた『女』の描写をご覧いただきたい。
黄土色みたいな垢抜けないトックリセーターを着込んだ私の女は、たださえ小柄なちんちくりんのくせに、この日は足首まで隠れるような長いスカートを穿き、それが妙にノロマ気な印象になってしまっているのである。
(中略)
さらには肩から、ヘンな白いポシェットを袈裟掛けにしているさまなぞは、その三十近い実年齢を何かド忘れしてると言いたくなる程の、救いようのない野暮ったさであった。まるで、むく鳥である。
むく鳥!!
ここで調べて初めて知りましたが、都会へ出てきた人を嘲って言う言葉でもあるんですね。むく鳥。かわいい。
そんでここまで脳内でこき下ろした直後の会話が、
「やあ、どうしたの。今日はまた一段と可愛らしくまとめたね。すごくいいよ。まるで二十歳そこそこじゃないか」
「カチューシャしてるから……これ付けると、誰でも不思議と若く見えちゃうんだよね」
もうね、全編通して『女』と『私』の会話は、まるで落語のようです。話してる内容は、ほんと酷いんだけど。
酷いと言えば『女』への罵詈雑言の、バリエーションの豊かさよ。
「所詮水呑みのおまえら」
「おまえは、石女(うまずめ)だろう?」
「糞女郎めが」
「スベタめが。慊(あきたりな)いスベタめが」
「この馬鹿女めが」
「この、土百姓めが!」
めが。めが。めががゲシュタルト崩壊。
おもしろい。いったいいつの人。非道。悲惨。でもおもしろい。
好き嫌い分かれるかも知れませんが、この歪んだ世界観、くせになっちゃうの。にやにやしちゃうの。ぜひご体験ください。己の中の、何かが歪みますよ。
ではまた来月。
やまゆうのなまぬる子育て
劇団・青年団所属の俳優山本裕子さんがお気に入りの本をご紹介。