2020年1月にテレビアニメ化し、人気を博した『ランウェイで笑って』。声優は、ファッションデザイナーを目指す主人公・都村育人役を花江夏樹、パリコレモデルを目指すヒロイン・藤戸千雪役を花守ゆみりが演じました。今回は、ファッション要素が組み合わさった異色の少年漫画『ランウェイで笑って』の魅力を、ネタバレしながら紹介します。
本作のヒロイン・藤戸千雪(ふじとちゆき)の夢は、パリコレモデルになること。
モデル事務所「ミルネージュ」のファッションモデルとして、パリ・コレクションへの出演を目指しています。しかし、「身長が低い」という理由で、事務所のオーディションを突破できずに悩んでいました。
そんなある日、主人公・都村育人(つむらいくと)との何気ない会話から、物語は動き始めることに……。
千雪は、高校のクラスメイトである彼が、ファッションデザイナー志望であることを知ります。彼に「自分が着たときに、魅力的に見える服がほしい」と依頼し、服を作ってもらいます。そして千雪は、その服を着てオーディションに挑んだところ、見事合格するのです。
一方で育人は、千雪の父であるミルネージュの社長から「才能がある」と評価されます。そして、ファッションブランド「HAZIME YANAGIDA」を主宰するデザイナー、柳田一(やなぎだはじめ)のもとで働くことになるのでした。
しかし、育人には「家が貧しいため、服飾の専門学校に進むことができない」という苦悩が……。支え合いながら、お互いの夢を追いかけていく2人。果たして、育人と千雪は「それぞれのコンプレックス」を乗り越えられるのでしょうか?
作者・猪ノ谷言葉(いのやことば)は、『ランウェイで笑って』が連載デビュー作。女の子の描写を褒められることが多く、もともと服が好きということもあり、連載を始めるなら女の子をメインで描こうと考えていたそうです。
本作の魅力は、「ファッション業界の知識がない人」でも、楽しめるように工夫されていること。
一度は聞いたことがある「東京コレクション」を登場させたり、視覚的に雰囲気を伝えたり……。有名なコレクションの裏側や、パッと見でもわかる面白さに引き込まれるでしょう。
また、本格的な下調べをもとに構成されているので、ストーリーに納得感があります。ファッション・服飾系の専門学校や生地屋の見学に行ったり、モデルやデザイナーに取材したりするなど、丁寧に下調べをしているそうです。
そんな下調べがほどよく、適切なポイントで説明されています。とくに服の制作工程や、デザイナー・モデルの「各担当の役割」についての解説は、リアリティーがあるので必見です。
本作の主人公は育人ですが、ヒロインの千雪も主役級です。育人は「ファッションデザイナー」、千雪は「ファッションモデル」になるという夢を追いかけています。
本作を通して感じるものは、デザイナーにはデザイナーの、モデルにはモデルの悩みがあるということ。2人の人生を追っていくことで、ファッション業界に馴染みがない方でも、それぞれの悩みと葛藤に共感できるでしょう。
- 著者
- 猪ノ谷言葉
- 出版日
- 2017-09-15
育人は母子家庭で、3人の妹(ほのか・葵・いち花)がいます。金銭的にピンチに立たされることも多く、専門学校や大学へ進学することが難しい状況です。
「高卒でもファッションデザイナーになれると思いますか…?」
(『ランウェイで笑って』1巻より引用)
彼がこのように千雪に聞くシーンからは、その苦労がうかがえます。
千雪は、ルックスやスタイルは抜群。しかし、身長は158㎝です。ファッションモデルとしてはかなり低いため、事務所のオーディションもなかなか合格できません。
「あなたにできるの?その恵まれない身長で」
(『ランウェイで笑って』1巻より引用)
いろいろな場面で、身長が原因で貶(けな)されるシーンもあり、夢を何度も断たれそうになります。
このように、誰しもが直面したことがあるであろう、葛藤・コンプレックス・挫折・逆風……。そんなものが「これでもか!」と描かれ、それに立ち向かう展開が魅力です。
育人と千雪は、それぞれに苦い想いを抱えています。しかし、だからこそ「彼らの諦めない姿」から勇気をもらえます。
家事をこなし、生活費のために働き、妹の世話をしながら夢を追いかける育人。デザイナーとしてはまだまだ「ひよっこ」なので、一番の頑張りどころです。でも、家族が重荷になってしまうことも……。
しかし、逆に家族から力をもらうこともあり、全部捨てずに頑張っていくのです。
一方、千雪は業界のなかで「1番小さい」といっても過言ではありません。しかし、そんな自分を客観視しつつも、決して諦めずに、むしろチャンスを奪いにいきます。そこで「爪痕を残す」と決めて、這い上がろうと努力するのです。
それぞれに「葛藤」や「コンプレックス」を抱えながら、デザイナーとモデルとして協力し合い、成長していく2人。お互いの力量や魅力を存分に活かす展開では、胸が熱くさせられるでしょう。
2人は自身が抱える障害を乗り越えて、夢を叶えることができるのでしょうか?
「Aphro I dite」の社員に昇格し、柳田たちとチームとして働くことになった育人。早速、ミラノ・コレクションに向けて動き始めます。結束のための秘策として、まずはNYでのカプセルコレクションに出ることに。
会場では、彼が1番苦戦した服がよい反響を受けます。能力や素質を認められるだけでなく、なんとnovise(ノービス)というブランドの、デザイナーに抜擢(ばってき)されるのでした。
千雪は、東京ガールズコレクションのオファーが届きます。一方で、アメリカのモデル事務所「BEYOND」と、業務提携することになったミルネージュ。これは事実上、元のモデル事務所が消えてしまうことを意味しているのです。
周囲は、親の後ろ盾がなくなった千雪を心配しますが、育人は「彼女はパリコレに出るべきモデル」だと強く信じています。
育人は彼女とともに、そして何より自分のために、自身もパリコレを目指すべきだと考えます。そのためには「独立しなくてはいけない」と思い、辞表を書いて……⁉
- 著者
- 猪ノ谷 言葉
- 出版日
- 2019-09-17
しかし、独立して「まったくの無名デザイナー」となるのは、無謀ともいえます。
また、それよりもノービスのデザイナーとして、「合同展示会でトップを取ることで、名を売るほうが戦略的」だとアドバイスされました。そこで、今まで漠然としていた夢への道が具体的になっていくのです。
そしてその道は、千雪の夢ともリンクしていて……。育人を信頼しながらも、頼りきるのではなく、自分の力で状況を打破していこうとする、彼女の姿にも背中を押されます。
少しずつ経験を積んでいく、育人と千雪。見所は、事務所の吸収を経て、どのように乗り越えていくのか。12巻では、2人のこれまでの積み重ねが、ピンチに立った時だからこそ報われます。
しかし、まだまだ問題は山積みです。パリではどれぐらいの期間が必要なのか?独立すると今までと違う点は何なのか?また、新たなハードルに緊張感がありつつも、ワクワクする展開が続きます!
13巻では、育人の新たな挑戦が描かれます。柳田のもとで働いている育人は、同僚の美依の代わりに、若年層向けのブランド「ノービス」のチーフデザイナーに指名されるのです。
そして合同展示会に参加し、売り上げ1位を狙います。しかし、自分の意見を言わない美依とコミュニケーションをとることが難しく、なかなかコンセプトが決まりません。
一方、千雪は「ある意外な人物」と接点を持ったことで、光を見出して……⁉
- 著者
- 猪ノ谷 言葉
- 出版日
- 2019-11-15
育人の活躍がメインで描かれる13巻。ノービスの合同展示会や、そこから生まれたアイテムをTGC(東京ガールズコレクション)に投入してみる試みなど、先が読めない展開が続きます。
美しく、意外性がある……。そんな育人のデザインしたアイテムが怒涛の展開を彩り、展示会の結果も見所のひとつです。登場人物たちの感情の描写が細やかで、ここまでの努力を見ていた読者なら、なおのことのめり込んでしまうでしょう。
また13巻では、技術面での才能だけでなく、育人のチームのリーダーとしての「人間性」が問われます。本音を見せない美依と、どのようにコミュニケーションをとるのか?
また彼女を応援しているパタンナーの花丘とも、どう折り合いをつけていくか?この状況を打破する「意外な方法」にも注目です!
ぜひ実際に手に取って、イラストの美しさと物語を楽しんでください。