かわいいギャルと、喋ることはできない恐竜の、シュールな「ルームシェア生活」を描いた本作。表情が豊かな恐竜とドンキで買い物したり、友だちの山田も呼んで一緒に遊んだり……。平和な日常風景は、笑いと優しさに溢れていて、思わず笑顔になってしまうことでしょう。 今回は、アニメ&実写化も決定している本作の魅力をご紹介していきます。ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
酒に酔った勢いで、自分の家に恐竜を連れ込んでしまったギャルの楓(かえで)。そのまま恐竜は楓の家に住み込み、「ギャルと恐竜」という奇妙な組み合わせのルームシェアがスタートします。
ラーメンを食べたり、テレビを見たりと、まるで人間と同じような生活を、当たり前のように過ごしていく恐竜。そして、そんな恐竜の存在を当たり前のように受け入れている、楓や周りの人々。
- 著者
- トミムラ コタ
- 出版日
- 2019-04-05
自由奔放な一人と一匹の平和な日常は、シュールな面白さと微笑ましい優しさに満ちています。読者は、楽しさと温かさを感じることができるでしょう。
本作は、アニメと実写の映像化が決定しており、2020年4月より放送予定となっています。どのようにストーリーが進むのか先読みできないため、今後の展開からも目が離せない作品です。
森もり子という名前から女性をイメージしますが、じつは作者は男性です。LINEスタンプの『もっと私にかまってよ!』で注目され、日常コミックエッセイの『返事をくれない彼氏を追い込んでます。』で、漫画家デビューを果たしました。
2019年11月現在は、本作『ギャルと恐竜』のほか、『大人のズル休み』も連載中。
- 著者
- 森 もり子
- 出版日
- 2014-11-07
作品には「こういう人いるよね~」「そういうことあるある!」と、読者が思わず頷いてしまう人物が溢れており、作者の人間に対する観察眼の鋭さがうかがえます。
とくに『大人のズル休み』では、人間のダメな部分を否定せず、愛すべき姿として描いています。共感とともに、どこかホッとするような安心感を抱きながら読むことができるでしょう。
主人公・楓は、コンビニでアルバイトをしている一人暮らしのギャル。ある日、酔った勢いで部屋に入れてしまった恐竜と、そのままルームシェアを始めます。
酔っていたとはいえ、どうやって恐竜と出会ったのか、どうして家に入れてしまったのか、すべては謎……。しかし、ギャルは悩みません。ひょんなことから始まった恐竜との共同生活を楽しんでいます。
そんな彼女の相棒ともいえるのが、もう一人の主人公・恐竜。長い首としっぽ、寸胴な身体、二本足で歩きます。なぜか「ラーメン好き」という設定もシュール。
少し間抜けな顔をしていますが、喜怒哀楽の豊かな表情がチャーミングです。楓を通じて恐竜の交友関係も広がり、楓のバイト中に、勝手に家で飲み会をするほど仲良くなっていきます。
山田は、楓の友だちのギャル。恐竜の存在にもすぐに「インスタ載せていい?」と順応してしまいます。
楓の元カレ・翔太は、別れた後もときどき楓に会いに来ており、恐竜ともすぐに仲良くなって彼女との仲について相談することも。
楓が働くコンビニの先輩は、はじめは派手なギャルの楓を「こわい」と感じていましたが、恐竜の話題をきっかけに仲良くなっていきます。
どの人物も個性的でありながら我が強い訳ではなく、すんなりと恐竜の存在を受け入れるユニークなキャラです。
ディフォルメされて描かれている恐竜は、とぼけた容姿をしながらも表情が豊かで、人間たちとも難なくコミュニケーションをとっていきます。
常識的に考えると、現代の人間社会に恐竜が生きていたら大騒ぎになるところです。しかし、作中では楓はもちろん、周りの人たちも当然のように、その存在を受け入れています。
誰もがはじめは「うわ、恐竜だ!」と驚きはします。
しかし、「なぜ恐竜が現代に生きているのか?」「どうしてギャルとルームシェアしているのか?」「なぜラーメンを食べるのか?」などなど、およそ疑問に思われそうなところには、誰ひとりとしてツッコみません。
そのような世界観だからこそ、人間と同じように振る舞い、生活している恐竜の姿がシュールで、面白く感じられるのでしょう。
また、恐竜は人間社会の常識にはあまり詳しくないようで、それゆえに起こる「天然ボケな行動」も可愛らしく、面白いです。
手伝いをして、お駄賃にもらった千円札を見てはしゃぐところや、はじめての買い物で、お金を払ったのに品物を受け取り忘れて帰るところなどは、小さな子どもを見ているような微笑ましさがあります。
本作はキャラの自分本位さと優しさのバランスがうまく織り交ぜられているところも魅力です。
ギャルの楓はいつでもマイペース。部屋に恐竜がいても悩まずにバイトに行ったり、突然バイト先の先輩の家に行くことを決めたりと、自由に生きています。けれど、恐竜の表情を読み取って気遣うこともでき、決して自分勝手なわけではありません。
楓の友だち・山田は、初詣では「お参りの仕方を間違うと、神様に石にされてしまう」と、からかうこともありましたが、大凶のおみくじを引いた恐竜に、「それ一番いいやつだよ!」という嘘で喜ばせる優しさを持っています。
恐竜は、楓の家で過ごしたり、1匹で出掛けたりと気ままに暮らしていますが、楓が風邪で寝込んでしまったときは、どうにかして元気づけようと行動するところが健気です。
それぞれのキャラクターが自由奔放に生きていますが、自由さのなかにも、お互いを思いやる気持ちが垣間見え、読んでいて心地よい空気が漂っています。
恐竜のシュールな面白さだけでなく、登場人物たちが持っている優しさが、読者の心を温かくしてくれるところも作品の魅力です。
2巻でも楓と恐竜の平和な日常が続いており、恐竜の誕生日を勝手に決めて誕生日パーティーをしたり、動物園や博物館に出かけたりします。
また、恐竜が自分の誕生日を知らないことから、楓と山田は「今、誕生日を決めよう」「じゃあ今日で!」といってパーティーの準備を始めます。
- 著者
- トミムラ コタ
- 出版日
- 2019-09-06
2人が買い出しに出掛けた後、1匹で部屋に残った恐竜が、今までにないくらい嬉しそうにソワソワしている様子は、とても可愛らしいです。
そして、翔太やバイト先の先輩も駆けつけ、恐竜の誕生日パーティーが賑やかに開催されます。みんなが持ち寄った「恐竜へのプレゼント」のラインナップには、思わず笑ってしまうでしょう。どんなプレゼントなのかは、ぜひ読んで確かめてみてください。
また、動物園に行ったエピソードでは、ほかの動物を見て驚いたり笑ったりと、百面相のように変わっていく表情から目が離せません。また、博物館で「恐竜が恐竜の化石を眺めている」様子も、シュールな面白さがあります。
また、2巻のハチ公の剥製のエピソードでは、楓と恐竜の絆も感じられます。剥製にテンションを上げる楓に対し、ハチ公を知らない恐竜は、いまいちピンときていません。
そんな様子を見た彼女がかける言葉は、優しさが感じられるとともに、その後の彼らについても想像が膨らむものです。こちらも、ぜひ実際に読んで2人の関係性を楽しんでみてください。
ギャルと恐竜のユルくて楽しい日常コメディ。きっとあなたを癒してくれることでしょう。