『ケンガンアシュラ』は、大企業がそれぞれの代表の格闘選手を選出し、代理闘争をする物語。それは「拳願仕合」と呼ばれ、勝ったほうが巨額の利益を得られます。そして前作から2年後を舞台とした続編が、『ケンガンオメガ』です。新たな2人の主人公が拳願仕合に身を投じ、戦いを通して成長していく姿が描かれます。
『ケンガンオメガ』は、前作の設定やキャラなどを引き継ぎつつ、まったく新しい展開で読者を夢中にさせてくれます。前作からのファンはもちろん、初めて読む方でも楽しめる内容です。
拳願仕合(けんがんじあい)……それは、名の知れた大企業同士の代理闘争。それぞれの会社の代表として「闘技者」を送り出し、巨額の利益を奪い合う「日本最大の裏格闘技」の名称です。
主人公は、ルール無用の空手で「道場破り」まがいのことをしていた、成島光我(なるしまこうが)。彼は、あるきっかけで拳願仕合を知ることに……。そして本当の強さを知るために、闘技者派遣会社「山下商事」を訪れるのでした。
一方、もう一人の主人公・臥王龍鬼(がおうりゅうき)は、拳願試合への出場を求めて、拳願会の先代会長・片原滅堂(かたはらめつどう)の前に現れました。そして、龍鬼もまた山下商事の門を叩くことになります。
物語の舞台は、前作の「拳願絶命トーナメント」から2年後。光我と龍鬼、2人の青年が運命的に出会うことで、拳願仕合に新たな波乱が巻き起こり……⁉
前作『ケンガンアシュラ』についておさらいしたい方はこちらの記事をご覧ください。
『ケンガンアシュラ』は格闘漫画好き必見の名作!スマホで無料で読める|ネタバレ注意
今も昔も根強い人気を誇る格闘漫画。『ケンガンアシュラ』もその1つです。『あしたのジョー』や『空手バカ一代』のように1つの競技に絞った作品から、『グラップラー刃牙』のように様々なジャンルの格闘技が登場する作品まで、その種類は豊富です。 そのなかでも『ケンガンアシュラ』は、格闘漫画が好きな人はもちろん、格闘技にあまり詳しくない人にもおすすめできる漫画。異なるジャンルのキャラクターがさまざまな格闘技で闘います。パワーインフレなども起きず、誰が勝つか分からないドキドキハラハラ感が楽しめる格闘漫画です。この記事では、本作の魅力をたっぷり解説していきます!
本作は、原作・サンドロビッチ・ヤバ子、作画・だろめおんの作品です。ここでは、大人気格闘漫画「ケンガン」シリーズを生み出した2人の経歴を紹介します。
サンドロビッチ・ヤバ子は、1984年生まれ、鳥取県出身の漫画原作者です。アマチュア時代に、Web連載していた「求道の拳」が編集者の目に留まり、設定と世界観を共有した『ケンガンアシュラ』で、2012年に商業誌デビューしました。
はったりの利いた人物造形や、格闘技のウンチクが特徴のひとつ。格闘漫画の大御所たる板垣恵介の「グラップラー刃牙」シリーズと、何かと比較されるほどです。
ちなみに、板垣自身も『ケンガンアシュラ』の単行本にコメントを寄せて、絶賛しています。
またサンドロビッチ・ヤバ子は、アクションシーンだけでなく、コメディを描く才能もあります。じつは、2019年にアニメ化されて話題となった、筋トレ&コメディ漫画『ダンベル何キロ持てる?』の原作も担当しているのです。
- 著者
- 出版日
- 2016-12-19
だろめおんは、詳しいプロフィールは非公開の漫画家・イラストレーターです。多摩美術大学の美術学部グラフィックデザイン学科を卒業。その後、『Bバージン』や『絶望に効くクスリ』で有名な山田玲司のアシスタントをしていました。
2011年から、Webコミック配信サイト「ニコニコ静画」で、『けちゃっぷ忍者』を連載してデビュー。その後、2012年から『ケンガンアシュラ』を6年間連載し、2019年12月現在に至ります。
代表作こそ少ないですが、美大出身であることと長年のアシスタント経験も相まって、非常に高い画力の持ち主です。
『けちゃっぷ忍者』はアメコミ風のタッチでしたが、『ケンガンアシュラ』以後は、少年漫画らしい画風にスイッチするなど、確かな技術を感じさせます。筋肉の描き方やアクションシーンにも定評があり、ド迫力の画面構成が魅力的です。
本作のストーリーは、血生臭い「裏の格闘技」がメインです。しかし、レギュラーキャラクターが個性的で、ユニークな様子が描かれることもあり、さほど陰鬱さを感じないでしょう。
主人公は、成島光我(なるしまこうが)。伝統空手をメインに、さまざまな格闘術を駆使します。
光我は、基本的に直情型の乱暴者ですが、体育会系のノリがあるせいか、律儀で生真面目な一面も。また、表の世界ではプロでも通用するほどの実力者ながら、拳願仕合の関係者からは、総じて「弱い」と評価されています。
しかし、秘めた格闘センスと観察眼は、抜群のひと言。これからの成長に期待できる人物です。
- 著者
- ["サンドロビッチ・ヤバ子", "だろめおん"]
- 出版日
もう一人の主人公・臥王龍鬼(がおうりゅうき)は、なぜか前作『ケンガンアシュラ』の主人公・十鬼蛇王馬(ときたおうま)と瓜二つ。見た目の違いは、体格が王馬と比べて少し小柄なこと。
一方、性格はまったく異なります。王馬が「傍若無人」なら、龍鬼は「天然ボケ」で、どこか幼さを感じるでしょう。使う格闘術は、臥王流。光我と違って最初から拳願仕合に通用しており、とてつもない強さがうかがえます。
そして、彼らのような新キャラの活躍はもちろん、前作の名物キャラも活躍します。彼らが2年分の変化を引っ提げて、再登場するのも本作の魅力です。
たとえば、前作で解説役&ヒロイン(?)だった山下一夫(やましたかずお)。彼は知る人ぞ知る「カリスマ」になっており、どこか堂々とした風格が出ています。
ほかにも、前作で熱い戦いをくり広げた「ライバルキャラ」が多数カムバックします。体格も技術も成長した柔術の今井(いまい)コスモ、相変わらず迫力があるプロレスラー・関林(せきばやし)ジュンなど、錚々(そうそう)たるメンツです。
前作からのファンなら、旧キャラの登場だけでもテンションが上がりますし、新規ファンには、目新しい存在感のあるキャラとして映るので、いずれにしても楽しめるでしょう。
「ケンガン」シリーズと切っても切れないのが、ド迫力アクションによる「格闘描写」。前作で好評だったアクションシーンは、『ケンガンオメガ』でも健在です。
龍鬼の臥王流は、前作の主人公・王馬の二虎流と似て非なる「古流柔術」。それゆえの懐かしさと同時に、新鮮な魅力があります。
また、肉体を硬化させる「不壊(ふえ)」と似た技術「纏鎧(てんがい)」だけでなく、「地伏龍(チフクリュウ)」という、死角を突いた技も披露します。
王馬のアクションは、どちらかといえば、大味で派手な印象……。そのため、同じ顔で対称的な動きをする龍鬼が、前作を知る読者としては興味深い内容となっているでしょう。
一方、対戦相手も強者ぞろいで、一撃必殺の技をくり出してくるのも魅力のひとつ。「目視不可の拳撃かと思いきや、速さとリーチを活かした鋭い前蹴りだった……」という、意外な展開などで驚かせてくれたりもします。
サンドロビッチ・ヤバ子のはったりが、これでもか!と効いた格闘描写は必見です。
前作は、王馬の無双っぷりが見所でしたが、本作ではがらりと印象が変わります。なぜなら、本作の主人公・光我は、総じて「弱い」と評されているからです。
王馬と、そして彼に瓜二つの龍鬼は、登場時点で一流の闘技者です。もちろん戦いのなかで強くなりますが、技術的には完成されています。
一方で光我は、未熟さが強調されるのです。王馬や龍鬼と比べると実力で見劣りするものの、この未熟さこそが、彼の持ち味。まだ弱いながらも、持ち前の反骨心をバネにして「2人とは違った形で成長するキャラ」として描かれます。
また光我も龍鬼も、トレーニングや日常生活を通して、「精神的に変化する」部分も前作との違いといえるでしょう。心理描写がより丁寧に描かれていて、さらにストーリーに引き込まれます。
果たして、光我と龍鬼はどのように変わっていくのでしょうか。
本作は、基本的には爽快に楽しめる格闘漫画です。しかし、物語の展開や設定には、時折「不穏なもの」が見え隠れします。
まず気になるのは、瓜二つの姿として描かれる「王馬と龍鬼」の関係です。王馬は、前作では詳しく明かされなかった「中」と呼ばれる地域の出身で、龍鬼も同様。
じつは、王馬の二虎流は「臥王流から派生した武術」とされているのです。さらに、龍鬼の血縁者と思われる臥王鵡角(がおうむかく)は、「王馬の師匠の師匠」に相当するという、複雑な関係にあります。
また龍鬼と、前作ラストで示唆された「二虎流の継承者」との関係も気になるところ。
龍鬼が拳願仕合に参加した理由とは?そして、異常なまでに敵視する「蟲」(前作でクーデターを起こした速水勝正の私兵集団)との因縁とは……?
光我は、山下一夫の采配で「闘技者見習い」になります。ところが、後からやってきた龍鬼に一足飛びで抜かされてしまいます。そして彼は、拳願仕合の実戦で闘技者試験をすることに……。
不満を覚えた光我は、単身で龍鬼の対戦相手・打吹黒狼(うつぶきこくろう)のもとに乗り込みます。先に黒狼を打ち破って、実力を示すつもりが……⁉
- 著者
- ["サンドロビッチ・ヤバ子", "だろめおん"]
- 出版日
1巻では、序盤からめまぐるしいアクションシーンが展開されます。見所は、やはり「光我vs黒狼」と「龍鬼vs黒狼」。黒狼はかなりの実力者で、防御空手をベースにした高速のコンビネーション攻撃は、圧倒的です。
実力的に上回る光我との戦い、実力の読めない龍鬼との戦いと、黒狼戦だけで2つの対戦を楽しむことができます。
黒狼の一撃必殺技「スティンガー」に対して、光我と龍鬼がどのように反応するのか。その違いで2人の実力差が掴めるので、その様子にも注目してください。
自身の実力不足を思い知らされた光我は、山下一夫の手配で、関林ジュンの所属する「超日本プロレス」で修行することになりました。
超日本プロレスの修行は、基礎的な訓練でしたが、桁違いに過酷なもの。それでも光我は、彼なりに真摯に励みます。
- 著者
- ["サンドロビッチ・ヤバ子", "だろめおん"]
- 出版日
2巻では、各関係者の口から「弱い」と評される光我が、決して弱くないことが語られます。じつは、身体能力も才能もありながら、あるものが欠けているため、実力を発揮し切れていなかったのです。
また光我のトレーニング風景が見所のひとつ。原作者の別作品『ダンベル何キロ持てる?』にも通じる、スポ根的な面白さがあります。
拳願仕合こそありませんが、模擬戦は開催されるので、迫力満点のアクションシーンをお楽しみください。
『ケンガンオメガ』は、前作の設定やキャラなどを引き継ぎつつ、まったく新しい展開で読者を夢中にさせてくれます。前作からのファンはもちろん、初めて読む方でも楽しめる内容です。