「中央公論文芸賞」とは?歴代受賞作からおすすめ作品を紹介!

更新:2019.11.7 作成:2019.11.7

第一線で活躍している作家が受賞する「中央公論文芸賞」。有名作家の優れた作品を読みたいと思っている方は必見です。この記事では、歴代の受賞作から特におすすめの作品を紹介していきます。

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「中央公論文芸賞」とは。傾向や選考の仕方などを紹介

 

中央公論新社の創業120周年を記念して、2006年に創設された「中央公論文芸賞」。

対象は、前年の7月から選考年の6月までに各出版社から発表された「第一線で活躍する作家の優れたエンターテインメント作品」とされています。過去の受賞作を見てみると、中堅かそれ以上の作家の作品が中心になっていることがわかり、本好きはもちろんのこと普段あまり読書をしない方でも名前を知っていることがほとんどでしょう。

各回で多少の違いはありますが、選考委員は約4名。浅田次郎、鹿島茂、林真理子、渡辺淳一、村山由香などが務めています。過去には2作品が選ばれた年もありました。

ではここからは、「中央公論文芸賞」歴代受賞作のなかから、特におすすめの作品をご紹介しましょう。

 

「中央公論文芸賞」を受賞した名作!歌舞伎の世界を描いた『国宝』

 

任侠の世界に生まれた主人公の喜久雄。長崎の料亭「花丸」でおこなわれた新年会の場で、敵方の殴り込みにあい父親を亡くしました。その後、敵討ちに失敗して長崎を離れることになります。

行く先は大阪。新年会にも参加していた人気歌舞伎役者、二代目花井半二郎の家で暮らすことになったのです。

兄弟分である徳次をお供に連れ降り立った大阪で、喜久雄は芸の世界へとのめり込むようになっていきます。生来の美しい容姿で人を惹きつけ、女形として成長。しかし信頼と裏切り、スキャンダルなど、さまざまな困難が待ち受けていました。

 

著者
吉田修一
出版日
2018-09-07

 

2019年に「中央公論文芸賞」を受賞した吉田修一の作品です。上下巻構成となっていて、上巻には「青春篇」、下巻には「花道篇」と名がついています。『悪人』や『怒り』では重いテーマを据えて人間の恐ろしい部分を見事に描ききった吉田修一ですが、本作でも厳しく華麗な梨園の世界を持ち前の文章力で魅力的に表現しています。

冒頭は喜久雄の育った極道の世界観が色濃く出ていますが、新年会の余興で喜久雄が女形として現れるシーンを読むと、妖艶な女性の姿が目に浮かぶように立ち現れるはず。歌舞伎について詳しくない人でも、まったく問題ありません。

さまざまな運命に翻弄されながらも、役者として芸を極めていく喜久雄。その先に彼が見るのは、どんな景色なのでしょうか。

 

塾業界を舞台にした大河小説が「中央公論文芸賞」を受賞『みかづき』

 

1961年、小学校の用務員をしていた大島吾郎は、放課後の用務員室で子どもたちに勉強を教えていました。その実力をある保護者に見込まれて、学習塾を開くことになります。しかしこの選択が、親子3代にわたる大島家の運命を大きく変えることになるのです。

ベビーブームや高度経済成長期の波に乗り、うまくいくこともあれば、同業の争いや国の方針転換によって荒波に揉まれることも。大島家は、「教育」とどのように向き合っていくのでしょうか。

 

著者
森 絵都
出版日
2018-11-20

 

2017年に「中央公論文芸賞」を受賞した森絵都の作品。「本屋大賞」でも2位を受賞した名作です。

ある人物や家族を中心に、社会や時代の変化を描く「大河小説」というジャンル。本作では、大島家3世代を中心に据えて、日本の学習塾、ひいては子どもへの教育について描いています。学習塾という存在自体が疎まれていたこと、高度経済成長期やバブル期にはライバルとの激しい競争があったこと、行政に翻弄されることなど、社会背景とともに変化してきた教育の歴史を知ることができるでしょう。

またそのなかで紡がれる家族の絆も魅力的です。時に笑い、時に泣きながら、各自が信念をもって前へ進む姿に勇気をもらえる一冊です。

 

涙なしには読めない「中央公論文芸賞」受賞作『長いお別れ』

 

かつて中学校の校長をしていた東昇平。同窓会に行ったはずが家に戻ってきてしまったことをきっかけに医者に行くと、アルツハイマー型認知症と診断されました。

さまざまな場所で予想外の事件を引き起こす昇平を、妻と3人の娘が支えます。彼女たちが自分の人生を歩むのと同時に、昇平の病状も悪化。少しずつ色んなことを忘れていく昇平との、「長いお別れ」をするまでの10年間を描いた作品です。

 

著者
中島 京子
出版日
2018-03-09

 

2015年に「中央公論文芸賞」を受賞した中島京子の作品です。中島の父親も認知症だったようで、その時の経験も踏まえて執筆されていることがうかがえます。

病気を患う家族を見守るというのは、とても辛いもの。まして認知症は、自分の存在を忘れられてしまう言いようもない悲しみがあります。昇平は後半になると身体的な衰えも出てきて、介護をする家族の苦労を痛感するでしょう。

それでも本作は、ユーモアも交えながらあたたかい雰囲気を保っているのが魅力的。どんな苦労があっても、根底に愛おしさがあることがわかるのです。ゆっくりと時間をかけて、お別れまでの日々を過ごす家族の物語を感じてみてください。

 

過去と現在の繋がりを描いたファンタジーな物語『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

 

悪事をはたらいて逃亡中の3人の青年。使っていた車が動かなくなり、古い家屋で一夜を過ごすことにします。

そこは「ナミヤ雑貨店」といい、かつて店主が悩み相談を受け付けていたそう。もう廃業しているはずなのに、一通の手紙が投函されて……。

 

著者
東野 圭吾
出版日

 

2012年に「中央公論文芸賞」を受賞した東野圭吾の連作短編集です。

3人の青年が入り込んだ「ナミヤ雑貨店」は、過去と現在を繋ぐ不思議な場所。投函された手紙も、どうやら過去から送られてきたもののようです。戸惑いながらも返事を書くうちに、不良だった3人の心に少しずつ変化が現れます。

過去、現在と時間をまたぎながら紡がれるそれぞれの物語は、どこかで繋がっていて、しだいに「ナミヤ雑貨店」と携わってきた人々の人間模様を浮かびあがらせます。散りばめられた伏線の回収の仕方は、さすが東野圭吾といえるもの。人と人との繋がりを考えさせられる一冊です。

 

映画化もされた「中央公論文芸賞」受賞作『八日目の蝉』

 

野々宮希和子は、愛人である秋山丈博の家に侵入していました。彼と妻の恵津子との間に生まれた赤ん坊を、一目見たいと思ったのです。しかし赤ん坊に笑いかけられたその瞬間、衝動的に連れ去ってしまいました。

逃げて、逃げて、ずっと遠くまで逃げる。そうしたらこの子の母親になれるかもしれない……希和子は赤ん坊に「薫」という名前を付け、逃亡生活を始めます。

事情を知らない友人、見知らぬ老女の家、エンジェルホームという女性専用ボランティア団体、そして小豆島と居場所を変えながら暮らす彼女は、幸せを掴めるのでしょうか。

 

著者
角田 光代
出版日

 

2007年に「中央公論文芸賞」を受賞した角田光代の作品。テレビドラマ化や映画化もされています。

本書のテーマは「母性」。愛人の子どもを誘拐してしまった希和子が、周りの人に嘘をつきながら逃亡する様子は気持ちのいいものではないかもしれません。しかし、薫と名付けた少女に向ける強い愛情は胸に響くものがあり、何があっても彼女を守ろうとする気持ちは紛れもなく本物の愛のように感じられます。

ただそれだけで終わらないのが、本書の奥深いところ。2章では成人した恵理菜(薫)を中心に描かれるのですが、彼女は希和子と同様に妻子持ちの愛人をつくり、そして愛人の子どもを妊娠してしまうのです。家族とは、親子とは、そして愛とは何なのかを読者に問いかけてくる作品になっています。

 

「中央公論文芸賞」の歴代受賞作は、どれも実力派の作家が執筆した名作ばかり。読書家の方も満足できるでしょう。