刑事と検事、それぞれの道を進んでいた生き別れの兄弟が、事件をきっかけに再会し、彼らの父親の「真相」に迫っていく『不協和音 京都、刑事と検事の事件手帳』。熱血漢な兄とクールな弟がぶつかり合いながら進んでいくテンポのよい展開に引き込まれる作品です。 「冤罪」を軸に描かれる社会派ミステリの本作は、ドラマ化もされ、ますます注目が集まっています。この記事ではその結末までの見所をご紹介します!
本作の主人公は兄弟の、裕介と真佐人。彼らの父親は評判のよい刑事でしたが、自白を強要したことにより冤罪事件を引き起こしてしまいます。
小学生だった兄弟はイジメの対象となり、父親が死亡したあとは、別々の家庭で生きていくことに。兄の裕介は母方の祖母に引き取られて川上性となり、弟は高等検察庁の元検事官の養子となって唐沢性となりました。
裕介は、高校を卒業後警察官になり、交番勤務を経て刑事課に所属。対する真佐人は東京大学を卒業後、検事になりました。熱血なノンキャリア刑事と冷静沈着なエリート検事という、真逆の道を歩んだ2人でしたが、とある事件をきっかけに再会します。
- 著者
- 大門 剛明
- 出版日
- 2016-03-09
それは、裕介が妻を殺したとされる病院経営者、城崎知也の取り調べを担当することになったのがきっかけ。拘留期限が迫ってきたころ、一緒に取り調べを担当していた小寺が自白をとります。
しかし、すぐに城崎は自白から一転。黙秘を貫き、捜査も実を結ばず不起訴になってしまったのでした。
その後、裕介はこの事件の担当検事の後任が、真佐人になったことを知ります。そこで21年ぶりに再会した彼に、なぜ城崎を不起訴にしたのかと問いかけると、真佐人は取り調べに問題があると指摘。暗に自白を強要したと判断している様子に、愕然とするのでした……。
「不協和音」とは、同時に響く2つ以上の音が快く耳に響かない、粗雑感を与えるような音を指す言葉。久しぶりに再会した兄弟の様子は、その言葉にふさわしい状況ですが、本作においては彼らだけを意味しているわけではありません。事件の中に潜む、わずかな違和感をもこのタイトルは暗示しているのです。
熱血な兄とクールな弟のやりとりにハラハラする本作は、2020年テレビ朝日にてスペシャルドラマが放送されることが決定しました。出演は川上裕介役を田中圭、唐沢真佐人役を中村倫也が演じます。
ドラマについて詳細に知りたい方は、公式サイトからもご覧くださいね。
<ドラマスペシャル『不協和音 炎の刑事 VS 氷の検事(仮)』|テレビ朝日>
中村倫也のその他の実写化作品が知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
<中村倫也が実写化で出演したおすすめ映画10選、テレビドラマ20選の魅力を語る!>
大門剛明(だいもんたけあき)は1974年9月25日生まれ、三重県伊勢市の出身です。
2009年『雪冤』で横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞を受賞し、作家デビューを果たしました。その後も『罪火』や『レアケース』など、映像化もされた注目作を次々と発表しています。
- 著者
- 大門 剛明
- 出版日
- 2011-04-23
大門剛明作品の多くはミステリですが、殺人事件を解決するといった謎解きの要素だけでなく、社会問題に真っ向から挑んでいるような姿勢も見所です。
学生時代は司法試験に挑戦しており、法律の知識は豊富。その道を志したものならではの詳細な情報や、その仕事をする人々の臨場感あふれる様子に引き込まれます。その展開のなかで、法冤罪をはじめとする犯罪を取り巻く社会的な問題を浮き彫りにし、読者に語りかけてくるのです。
また、10年ほど京都で過ごした経験からか、京都を舞台にした作品も数多く手がけています。
本作の主人公は、川上裕介と唐沢真佐人。21年前に別れ、刑事と検事として再会した兄弟です。
どちらも真実を追求する立場で、それぞれの職業については後述しますが、彼らの性格は正反対。裕介はつらい体験があったものの、父親への思慕を持つ熱血タイプ。捜査でも取り調べでも、つい力が入りすぎてしまうところがあります。
弟の真佐人は、氷の検事と呼ばれるほど冷静沈着でクール。再会の時も客観的に捜査の問題点を指摘していたように、感情で動くタイプではありません。父親についてはあまりよい感情を持っていないらしく、否定的な態度をとっています。
本作は連作短編になっており、彼らを軸に、様々な捜査関係者、事件関係者が登場します。なかでも強烈な個性を持っているのが、宇都宮実桜。
関西弁の勝気な女性で、城崎知也の担当弁護士です。取り調べ方法について裕介を追い詰める際、兄弟の父、大八木宏邦を揶揄する言葉を使用するなど、正義感が強い様子。容赦のない糾弾に、読者もたじたじになってしまうほどの勢いがあります。
特に兄弟2人の正反対ぶりがドラマではどう表現されるのかが見所になってくるでしょう。
本作で裕介と真佐人が就いている、刑事と検事という職業。漠然としたイメージはあるものの、実際はどんな違いがあるのか、曖昧な方も多いのではないでしょうか。
市民の身近に存在する警察官。なかでも刑事とは、私服で犯罪捜査をする警察官を称する言葉となっています。
警察学校で学び、交番勤務を経て、ある一定の実績を収めた警察官が刑事課に転属になり、晴れて刑事と呼ばれるようになるのだとか。犯人捜査と逮捕が主な業務で、裕介も作中で事件捜査や取り調べを行っています。
対する検事は、検察官のこと。法律に違反した事件や犯人を調べ、裁判にかけるか否かを決定する重要な役割を担っています。
刑事が捜査した事件を検事があらためて精査し、起訴するか否かを決定するのです。事件に裏がないか、捜査に不備がないか。検事がさらにチェックをして裁判に進むかどうかが決まるのです。
どちらが欠けても犯罪者が裁かれない以上、刑事と検事は協力関係にあるといえるでしょう。刑事側に不備があっても、検事側に不備があっても、公正な裁判が行われるとは言えません。
特に最終確認ともいえる検事側は、さらに冷静であることを求められます。立場から考えると、裕介に対しての真佐人の言動もうなずけるというもの。自身の職務をまっとうしようという姿が見受けられます。
再会はあまりよい形ではありませんでしたが、様々な事件の捜査で顔を合わせるようになった兄弟。感情が先走る傾向にある裕介を、冷ややかにたしなめることの多い真佐人ですが、実はその行動の裏に、兄弟愛が見え隠れしているのがついついニヤリとしてしまうポイントです。
たとえば事件の捜査中、焦りからか裕介が自白を強要してしまいそうになる時、真佐人がさりげなくアドバイスする姿が随所で見られます。
そもそも職業上、検察官が自白の任意性を立証する立場ではありますが、表立って動けるわけではありません。それを踏まえたうえでさりげなくフォローする姿は、兄弟愛が感じられ、何だか嬉しくなってしまうもの。そのアドバイスが事件解決の大きなきっかけになることもあり、なんだかんだいいコンビだと思わされる関係性です。
- 著者
- 大門 剛明
- 出版日
- 2016-03-09
本作には5つの事件の捜査と真相が語られていますが、もうひとつ大きな謎が語られています。兄弟が別れるきっかけになった、大八木宏邦が起こした自白強要したとされる事件です。
冒頭の事件に登場した城崎も、真佐人が自白強要の可能性を指摘し、不起訴となりました。この事件、実は城崎が犯人ではありませんでした。捜査とは違った形で事件の真相が明らかになっていきます。
その事件を含め、2人を縛り付ける「自白の強要」という出来事。
物語が進むうち、西島茂という冤罪になった男が登場します。彼は父親が起こした自白強要事件の関係者でもあり、真実を知っている可能性のある人物です。裕介は彼を監視し、事件の真相を探っていましたが、真佐人もまた西島を追っていたのです……。
各事件の真相はもちろん、本筋である過去の事件の真相から目が離せない本作ですが、その真相は本作ではまだ明かされません。兄弟のやりとりに主眼が置かれている内容です。
その結末はそのキャラクターの違いがほほえましいもの。彼らのやりとりに引き込まれ、そのままテンポよく読み終わることができるでしょう。
続編は公式に発表されていませんが、気になる終わり方なので、ドラマ化を機に何かしらの動きがあるかもしれませんね。
兄弟コンビの捜査をもっと見ていたくなる本作。スペシャルドラマでの兄弟のやりとりにも注目したいところ。刑事と検事、最悪な再会から始まる兄弟の活躍に注目です。