コの字型のカウンターが魅力な居酒屋。行きたい時にふらりと訪れて、座りたい席に座る。思ったことを誰に言うでもなく口に出せる……。そんな大人しか味わえない贅沢な時間を過ごせるコの字酒場を9店舗紹介している漫画『今夜はコの字で』。どのお店も実在していて、作品内でも1店舗ごとにしっかり紹介されていることから、お酒好きな人にとってはガイドマップ的な内容となっています。 2020年1月からBSテレ東でドラマ化もされ、今注目の作品となっています。
『今夜はコの字で』は、主人公が先輩に勧められたのをきっかけに、「コの字酒場」にはまっていく様子が描かれているグルメ漫画です。コの字酒場とは、カウンターがコの字型になっている、こじんまりとした居酒屋を指します。
登場する料理の描写、主人公がお酒を飲み、おつまみを食べる至福の姿を見ていると、一度足を運んでみたくなること間違いなしです。実在のお店が登場するので、この作品を見て飲みに行ったという方も多いようです。
まだ行ったことのない人にもコの字酒場の魅力を伝えてくれる本作は、2019年1月からドラマ化。会社の先輩・田中恵子役を演じる中村ゆり、後輩・吉岡としのりを演じる浅香航大がキャストに決まっています。2人がきれいな先輩とちょっと頼りない後輩という配役をどう演じてくれるかに期待が高まります。
今回は作品で主人公たちが訪れたお店を全店舗、エピソードとともにご紹介。作品を読んでから足を運べば「あのシーンのあれだ!」と思い入れもひとしお、2倍おいしくお酒が楽しめるはずです。ぜひ漫画を片手に、実際にお店を訪れてみませんか?
加藤ジャンプは東京都出身の漫画家ですが、育ったのは東京、横浜、インドネシア、東南アジア。一橋大学院卒業後は、新潮社で編集者となりますが、しばらくして独立。
文筆家・イラストレーターという肩書の他にも、同時にコの字酒場探求家、ポテトサラダ探求家、南蛮漬け研究家などの名称でも活躍しており、多趣味な人柄がうかがえます。
- 著者
- 加藤 ジャンプ
- 出版日
- 2012-12-14
そんな加藤ジャンプのコの字酒場 愛が表れている本作。彼は4半世紀に渡って200軒以上のコの字酒場を訪れているそうです。
この作品以外にも『コの字酒場案内』や『コの字酒場はワンダーランド-呑めば極楽 語れば天国』を出版しており、「コの字酒場とは何か」というところから「コの字酒場独自の楽しみ方」を伝授してくれています。
『今夜はコの字で』の中で、コの字酒場の初心者向けとして、恵子先輩がすすめるのが、神楽坂にある「焼鳥 しょうちゃん」。神楽坂の裏道に入っていくと、「しょうちゃん」の名前が入った提灯が下がっているお店があります。
小さな店が軒を連ねていて、入りにくい外観なので、店に入るのに一瞬躊躇した吉岡。その後店に入っても不愛想な店主と常連客のケンカのような軽口に慣れなかったのですが……。
もしこのお店に実際に行った場合は、とりあえずお酒と簡単なおつまみを頼みつつ、「皮」もオーダーしておくのがオススメ。しっかり時間をかけて焼き上げる絶品の皮を待つ間に、他のおつまみでお酒を楽しみましょう。
ちなみに「しょうちゃん」の焼鳥はどれも小さめの一口サイズ。しかし小さい中に旨味が凝縮されていて、一度足を運ぶと魅力にハマってしまうこと間違いなし。吉岡のように、いつの間にかお酒が進んでしまうことでしょう。
吉岡が緊張しながら大将に注文しているシーンを読んでから訪れると、作品そのままの大将と会えるので驚くかもしれません。不愛想ながらも、とにかくおいしい焼鳥を焼き上げてくれるそうですよ。常連さんに知り合いが増えてくると、作品中の世界も体験ができるかもしれません。
お店が気になった方は以下からもお店がご覧いただけます。ただし、この後にもたくさんおすすめのお店があるので、そちらを見てから実際にお店の情報を覗いてみるのがいいかもしれません。
「三四郎」は錦糸町にある居酒屋。大将が週に1回心をこめて磨いている白木のカウンターはすべすべで、これだけでもこのお店のすばらしさがわかります。カウンターは、コの字というよりは船の形。出っ張っているところに座れば、船頭気分が味わえます。
吉岡もこの店でお酒をたしなんだ後、船に揺られたかのような気持ちよさを感じます。それはなんともいえないいい雰囲気だから。「三四郎」のしっかり手入れされたカウンター、おいしい料理、大将の雰囲気、そして手慣れた様子でお客さんの相手をする女将さん……みんな優しい空気をつくりだしています。
- 著者
- 出版日
- 2016-03-25
そんな「三四郎」で特にオススメなのは、「ハムカツ」。作中の様子からは、サクッと揚がったカツの中に、3枚重ねになったハムが入っているのが見えます。ヤケドしそうになりながらも口に入れて、その後にお酒を流し込むと、ますますおいしさがきわ立ちます。
さらに、吉岡がうなった「どじょう鍋」も気になるメニュー。熱々の甘辛い汁の中に、どじょうと味の染み込んだ豆腐……。常連さんのオススメを次から次に食べながら、どれもおいしいとほおばる吉岡の姿は、マネしたくなることうけあいです。
横浜駅北口にある、狸小路。札幌の狸小路商店街を模してできたとされるものです。オシャレで最先端の街横浜のイメージとは異なり、昭和の雰囲気が漂うレトロな通りの一角に「のんきや」はあります。
すりガラスの引き戸で店を構えるこのお店は「これぞコの字酒場!」と言った趣。店内には20席程度のカウンターがあります。
「のんきや」の焼鳥は1人2本がルール。そして大事なのは、シメのラーメンが最高だということ。ついつい欲張って頼みたくなってしまいますが、事前にお腹と相談しておく必要があるでしょう。
ツウが頼むのは、作品内でも恵子先輩が頼んでいた「シロ」。タレがしっかり絡んでいて、とろとろふわふわの食感がたまらない一品です。焼きたてをすぐ出してもらえるというのも嬉しいポイント。熱々をおいしくいただいて、お酒を一緒に飲むと、これだけで嫌なことを忘れられるんです。
シイタケやハツは、肉厚で火の通り具合も完璧。食べごたえもあるので、どんどん食べ進んでしまいそうになりますが、やはりここは我慢。女将さんが「シメのラーメンをわざわざ他のお店に行って食べるならここで出してしまえばいい」と始めたラーメンは、出汁と醤油とネギのいい香りが漂って、心もお腹も満たされます。
吉岡がいつか恵子先輩のように、かっこよく楽しみたいと思う、目移りしてしまうメニューのお店が「のんきや」です。
東京の自由が丘とえば、オシャレで洗練されたイメージではないでしょうか。でもここにもコの字酒場はあるんです。それが「ほさかや」。吉岡は、隠れ名店を発見したと喜んで恵子先輩に連絡するのですが、彼女は当然のようにチェック済みだった……という、うなぎ専門店です。
店の前にある高張提灯に引き寄せられて入っていくと、店内は年配の常連さんから若い女性までうなぎを楽しんでいます。いつ行っても店内はいっぱいになっていますが、お持ち帰りも可能です。
うなぎ専門店だけあり、ふんわりと柔らかいうなぎは、格別。うな丼でお腹を満たすのもいいですし、からくり、きも、ひれ、かしらなどの一品ずつを頼みながら、お酒のアテにするのも大満足間違いなしです。
落ち着く雰囲気の店内で、『今夜はコの字で』で描かれているように、来ているお客さん、みんなが幸せそうな表情を浮かべています。夕方開店前からちょっと一杯を求めるお客さんが並んでいたり、吉岡から連絡をもらった恵子先輩がいてもたってもいられず駆け付けたりする理由がわかります。
町田駅そばの商店街の一角にある、小さい路地を入ったところにあるのが「酒蔵 初孫」。迫力のある店構えをした、古くからあるお店です。少し変形型のコの字のカウンターは、木目の浮き出たもの。天井や壁は あめ色で、正統派の昭和居酒屋です。
カウンターの内側にはおいしそうな野菜が並び、メニューも豊富。「初孫」という山形のすっきりした味わいのお酒が店の名前にもなっていることからもうかがえるように、お酒にこだわりがあるようで豊富にそろえられています。
恵子先輩の実家近くとして登場する、このお店。顔なじみのコの字酒場に連れていくということは、恵子先輩も吉岡のことを認め始めたのか、それともそれ以上の好意があるのか……。物語的に気になるところです。
ちなみに作中ではケンカしているカップルも思わず本音をもらして仲直りしてしまうほどの名物「塩もつ煮込み」が登場。ビールとの組み合わせは安定の一言。脂はのりつつも後味はさっぱりで、間違いのない美味しさです。
店主の雰囲気も柔らかく、吉岡も思わずある本音をもらしてしまいそうになるほど。気取らず、のんびり自分の時間を楽しめるお店です。
江戸川区一之江にある「大衆酒場カネス」は、駅から遠くなかなか見つけることができない名店です。吉岡も偶然タクシーで通りかかったから発見。なんと恵子先輩でさえ、まだ行ったことがありませんでした。
「大衆酒場」と「中華そば」の2つののれんを掲げているこのお店は、広くてレトロな雰囲気の店内に、大きめのコの字カウンターがあります。名物料理は、煮込みとラーメン。
特に煮込みは、丁寧に下処理した馬もつと牛フワを使っているもので、ぜひ食べていただきたいもの。ふわふわと柔らかい食感の中にしっかりとした歯ごたえがあり、味が染み込んでいて絶品です。
煮込みとお酒を楽しんでいると、大女将が出てきていろんな話をしてくれることも。1世紀近く生きているだけあって、戦争中の話などは考えさせられるものがあります。だからといって、暗い雰囲気になるわけではなく、お客さんを包み込んでくれるのです。
こうやっておいしい料理を食べられることを幸せに感じることができる名店「大衆酒場カネス」。残念ながら多くの常連客に惜しまれながら大女将は亡くなってしまったそうですが、作品の中でならいつでも彼女の優しさに触れることができます。
名店にもぜひ足を運んでみてくださいね。
吉岡と恵子先輩が、それぞれの部下、妹と偶然一緒になってしまい、なんとなく気まずい思いをしてしまうのが「まるます家」。赤羽にあり、朝から大行列ができるコの字酒場です。鯉とうなぎの専門店で、3名以上の場合は2階の座席に通されます。
鯉を食べられるお店は少なく、ここで初めて食べたという人も多いよう。苦手という人もいますが、そんな人は一度「まるます家」の「鯉のあらい」を試してみるべきでしょう。
どんなものか知らなかった吉岡も、一口食べて何も考えず「うめー」と言ってしまうほど。特注しているというモヒートを頼むようになれれば、ツウの1人になれるかもしれません。
向かいの席のお客さんとふと目が合うと、自然に乾杯の仕草を取り合うような、和やかな雰囲気に包まれた「まるます家」。吉岡と恵子先輩の関係が、よりよいものになっていく様子も見どころです。
千葉県松戸市にあるコの字酒場は「酒処 ひよし」。一辺が座敷とつながっている少し変わったコの字のある店内です。創業者の孫である3代目の店主は愛想がよく、ちょっとした言葉のやり取りも気持ちいい雰囲気。
「酒処 ひよし」には、他のお店とは一線を画したつまみがあり、「セロリマヨネーズ」や「肉みそオムレツ」など、3代目ならではのメニューも並んでいます。
しかしオススメ料理となると、やっぱり外せないのが煮込み料理。「豚のもつ煮込み」は価格も安く、昔からの人気メニューです。
ちなみにお燗(おかん)を頼むと出てくるのは「やかん」。そんな屋台から始まった店ならではの名残を残しながらも、新しい料理にも挑戦する店主の心意気が、お店の活気につながっているのではないでしょうか。
吉岡も恵子先輩も、コの字酒場に行く時はお互いを誘う流れになってきています。今回は奥の座敷で常連カップルの結婚祝いがおこなわれていたこともあり、互いになんとなく意識し始めます……。
吉岡が初めてコの字酒場に足を踏み入れてから9店目となり、あらためてそのよさを感じるのが、秋葉原にある「赤津加」。街灯がきらめくきらびやかな街並みの路地にあって、ここだけ異空間に入ってしまったかのようなレトロで懐かしい外観。恵子先輩が外国人のお客さんに紹介しようと思えるのも納得の店構えです。
- 著者
- 出版日
- 2016-03-25
渋いのれんをくぐって店内に入ると、壁には昔駅近くにあった神田青果市場に入っていた時の名残であるお店の屋号が飾ってあります。あめ色のカウンターとテーブルとの相性もあって、まさに和の空間が広がっています。
刺し身、から揚げ、てんぷらなど、王道の料理をいただきつつ、「赤津加」に来たからには「豚の角煮」と「鳥のもつ煮」がオススメ。特に「鳥のもつ煮」は、調理に時間をかけ、じっくり煮込まれていて、とにかくおいしい!白味噌仕立てになっていて、さっぱりしているので、どんなお酒にも合う料理です。
また、「だし巻き卵」はふんわりとした甘みがあり、お酒が進む味付け。注文があってから丁寧に作ってくれるので、熱々のふわふわを楽しめます。
おいしい料理にどんどんお酒が進んで、吉岡は恵子先輩に、普通なら照れて言えない「ありがとうございます」という言葉も自然と口から出てきて……。
いつの間にか初めて行ったお店でも、イチオシメニューがわかるようになってきた吉岡。彼が楽しみながらコの字酒場のツウになっていく様子を見ていると、自分も実際にお店に足を運びたくなるはず。ぜひ『今夜はコの字で』でその様子を確認してみてくださいね。