都会に住む2人の少年がくり広げる謎解き冒険ストーリーを描く本作。2019年には実写映画化も発表され、原作ファンから期待の声が寄せられています。 テンポの良い漫才のような会話の応酬を繰り広げながら、次々と襲い掛かってくる困難をクリアしていく様子は爽快感たっぷり。ヤングアダルトというジャンルで中高生向けのジャンルですが、大人でも楽しめる内容です。 この記事では、多くの子供たちの心を掴んだ『都会のトム&ソーヤ』の魅力についてご紹介します。ネタバレも含みますので、まだ読んでない方はご注意ください。
内藤内人(ないとうないと)と竜王創也(りゅうおう そうや)は、同じ中学校に通うクラスメイト。ある三日月の夜、内人は町で創也を見かけます。こんな時間に何をしているのかと後をつけると、彼は路地裏の一角で忽然と姿を消したのでした。
翌日、そのことを質問してみると、彼は消えた場所に繋がる扉の鍵を渡し、自分を探してみるように言います。
その夜、内人は早速その場所を探しにいきますが、待ち受けていたのは、創也が仕掛けたトラップの数々。しかし得意のサバイバル能力でトラップを突破し、そのまま創也の元にたどり着いてしまうのでした。
さらにそのトラップを「面白かった」と答える内人に、創也は「一緒に究極のゲームを作ってほしい」と提案するのです。
- 著者
- ["はやみね かおる", "にし けいこ"]
- 出版日
- 2003-10-11
本作は、はやみねかおる著の児童向け推理小説で、2003年からシリーズがスタート。2019年現在で16巻まで刊行されています。
「究極のゲーム作り」をテーマにしており、作中では学校や遊園地など、あらゆる場所を舞台にしたゲームが多数登場。凸凹な主人公の2人が究極のゲーム作りに挑む、ドキドキハラハラな謎解き冒険ストーリーに、多くの読者が夢中になりました。
また、その人気を受けて2020年夏には実写映画化することが発表されました。詳細は映画公式サイトをご覧ください。
今回は原作をご紹介しますが、2016年にはコミカライズ化もされています。絵とともに、エピソードがシャッフルされており、読みやすく楽しめる内容なので、そちらから本作をご覧いただくのもおすすめです。
- 著者
- フクシマ ハルカ
- 出版日
- 2016-06-17
作者のはやみねかおるは、児童文学をメインに執筆する男性作家です。
もともとは小学校教師で、本嫌いの子供に本を薦めるうちに、自身でも書き始めたのがきっかけとなり、1989年に『怪盗道化師』でデビュー。その後も「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズや「怪盗クイーン」シリーズなど、子供も大人も楽しめるミステリー作品を手掛けています。
- 著者
- はやみね かおる
- 出版日
- 2015-12-11
笑える要素をふんだんに盛りつつ、本格的なトリックが隠された作品が多く、大人も考えさせられるような名言も多数登場します。また、基本的に作中で殺人事件が起きないため、人が死ぬ描写に抵抗がある人でも安心して読むことができる作品ばかりです。
作品同士の登場人物や世界観を共有していることが多いのも特徴で、作品の随所にパロディが散りばめれているので、読めば読むほどハマってしまうこと請け合いです。
2015年には公式のファンブックが発売され、作者のこれまでのシリーズに登場した主人公たちがコラボするストーリーに、多くのファンが歓喜しました。
ここからは本作の魅力をご紹介していきましょう。まずは主人公の2人をはじめ、登場人物が総じて個性的なこと。
主人公の1人・内藤内人は、創也の相棒にして、物語の担い手役。塾通いをしていて慢性的な寝不足の普通の中学生です。自身でも「平凡な中学生」だと思っています。
しかし、祖母から様々な知恵を教わっており、どんな窮地も切り抜けるサバイバル能力を持っています。
たとえばマッチやライターがないなかで、牛乳パックで松明を作ってしまうといった調子。ピンチのたびにその能力を駆使して切り抜ける姿はとても頼もしく、読者に「内人がいれば大丈夫」という安心感を与えてくれます。内人に憧れ、実際にそのサバイバル術を試したいと思った読者も多いでしょう。
創也の突飛な行動によく振り回されており、彼が原因でピンチに陥ることもしばしばあるのですが、そんなトラブルもどうにか乗り越えてしまいます。しかしやられてばかりではなく、彼に皮肉を返すこともあり、その内容に思わず笑ってしまいます。
- 著者
- はやみね かおる
- 出版日
- 2016-11-22
もう1人の主人公・竜王創也は、大財閥「竜王グループ」の後継者。本人は「世界最高のクリエイターになって究極のゲームを作る」という夢を持っています。
学校始まって以来の秀才と言われるほどの頭脳を持ちますが、運動は苦手で不器用な一面も。後先考えずに行動する猪突猛進さがあり、よく内人に怒られています。
作中では内人とチーム「南北磁石」を結成。伝説のゲームクリエイター団体・栗井栄太(くりいえいた)と、現実世界をゲームの舞台にしたR・RPG(リアル・ロールプレイングゲーム)で対決します。
創也の夢は本作の大きなテーマであり、自分の夢を真っ直ぐに追う彼の姿は、子供だけでなく大人にも情熱を与えてくれるでしょう。
シリーズでは他にも、創也のボディーガード・二階堂卓也(にかいどうたくや)や、謎の敵「頭脳集団(プランナ)」に属する美少女・浦沢ユナ(うらさわゆな)など、敵味方ともに個性的なキャラクターが登場し、ストーリーを大きく盛り上げます。
14巻では今までに登場したキャラクターが勢ぞろいし、活躍するお話も楽しめます。シリーズの後半では、ゲーム制作に関わる全ての人間を憎む敵も登場。主人公だけでなく、新しい登場人物も魅力的でストーリーにどんどん引き込まれてしまうことでしょう。
本作では、内人と創也のやりとりが、ノリのよい文体と軽快なテンポでコミカルに描写されています。2人のやりとりは、まるで漫才を見ているかのような臨場感があります。
面白いだけでなく、海外ドラマのような洒落たやりとりがあるのも魅力的。読み進めていくうちにどんどん2人の掛け合いを楽しみにしてしまうことでしょう。
一見正反対でぶつかりやすそうな彼ら。しかし互いを相棒として認めており、作中のやりとりにも2人の信頼関係がよく現れています。
彼らのやりとりを含め、読みやすい文体の作品なので、小説を読むのが苦手という方にもおすすめできる魅力があります。
本作の大きな魅力の1つが、いくつもの仕掛けを張り巡らせた、スピード感満載のストーリーです。R・RPGということで、現実世界で何度もピンチに陥り、その度に謎解きやサバイバル術でピンチを脱していく様子が爽快感たっぷりに描かれます。
下水道へ降りたら爆発に巻き込まれかけたり、クイズ番組に出たら何者かに閉じ込められたり……。ピンチの連続と怒涛の展開で進むストーリーは、まるでジェットコースターに乗っているかのよう。
読者の予想をよい意味で裏切ってくれる展開も多く、最後まで楽しませてくれます。
また、単純な内容の起伏だけでなく、面白いトリックも豊富。意外なものが仕掛けに使われていたり、思わぬところに伏線が張ってあったりするので、思わず前のページを読み返してしまうでしょう。
内人や創也と一緒に謎解きをしている感覚で読めるので、ミステリーや脱出ゲームが好きという人にもおすすめです。
軽快に進むストーリーのなかに、ふと考えさせられるようなセリフが散りばめられていることも、本作が子どもから大人まで魅了している秘訣ではないでしょうか。そのなかからいくつかの名言を、エピソードとともに紹介していきます。
「基地はたたかうための場所。
だけど、砦はちがう。砦は、守るための場所だよ」
(『都会のトム&ソーヤ』1巻より引用)
廃ビルを自分のゲーム制作部屋として利用し「砦」と表現する創也。内人に砦を「秘密基地みたいだ」と言われた際に返した台詞です。彼のゲームクリエイターとしての創作への秘めた熱意を感じさせます。
「竜王創也のプライドは、どこにあるんだ?」
(『都会のトム&ソーヤ』2巻より引用)
デパートで鬼から逃走中の場面、「非常時だから」とお金を払わずにロープを持っていこうとした創也に内人が言った台詞です。「竜王創也」としてのプライドを問われた彼は、少し考えた後ロープを売り場に戻します。
災害などの非常時でも、売り物にはきちんとお金を払う必要があると判断したのです。自分がピンチな状態でも、社会的マナーを忘れない内人の良識が伺えるでしょう。
- 著者
- はやみねかおる
- 出版日
- 2004-07-21
「食わないものを殺すな」
(『都会のトム&ソーヤ』1巻より引用)
内人と創也は下水道でネズミに襲われます。内人が即席の爆弾でネズミの群れを爆破し、なんとか逃げ切りますが、彼は後味が悪いと感じます。祖母に、自分が食べない命は殺さないよう教えられてきた言葉を思い出していたのです。
しかし創也に「殺さなければ自分たちが食べられていた」と言われたことで、内人はすぐに気持ちを切り替え、まずは下水道からの脱出を目指します。
人は他の生き物から生命をもらって生きていることを、あらためて考えさせられる台詞。緊急時でも生き物の命を奪うことをためらう内人の優しさを感じます。
「どれだけ地図を見ても、山のこわさは書いてない」
(『都会のトム&ソーヤ』3巻より引用)
クラスメイトの女子・堀越美晴(ほりこしみはる)とデートすることになった内人。創也に「デート場所の下見をした方がいい」と提案され、祖母の言葉を思い出します。
地図を見るのは大切ですが、実際にその地を訪れてみないと分からないことが多いのも事実です。データに頼りきらず、自分の目で確かめることが大切であることを教えてくれる台詞です。
『都会のトム&ソーヤ』には、スピンオフ作として2つのゲームブックがあります。そちらも本作が好きであればおすすめしたい内容となっています。
読者は内人と創也のクラスにやってきた転校生の設定でゲームに参加。選択肢の中から正解を選んでストーリーを進めていきます。
- 著者
- ["はやみね かおる", "にし けいこ"]
- 出版日
- 2012-08-31
『都会のトム&ソーヤ ゲーム・ブック 修学旅行においで』は、京都・奈良の修学旅行が舞台。栗井栄太へのお土産を4つ購入し、無事に帰ることを目指します。
『都会のトム&ソーヤ ゲーム・ブック 「館」からの脱出』では、内人や創也とともに栗井栄太の「ゲームの館」に閉じ込められる事態からスタート。プレイヤーは2人と協力して館からの脱出を目指します。
選択肢を間違えるとゲームオーバーになってスタート地点に戻されてしまうため、何度もページを行ったり来たりすることになります。選択によって複数の分岐ルートが見られるのも、本作のゲームブックをやり尽くしたくなる秘訣です。
『都会のトム&ソーヤ』のファンはもちろん、アドベンチャーゲームが好きな人にもおすすめの1冊です。
ここでは、最新巻の見所をご紹介しましょう。
内人と創也は、竜王デパートで開催される「世界の奇書展」に行きます。会場では、ナチスの財宝の謎が書かれた「ダン・ユーチキの航海日誌」も展示されていて、ドイツと竜王グループが協力して厳重警備していました。
ところが、Q国の奇書「ヤコビドテペネス」が盗難されかける騒ぎが発生。犯人をその場で確保できたものの、突然「ヤコビドテペネス」が燃えてしまいます。Q国の外務大臣は外交問題だと怒りますが、創也にはすでに真犯人が分かっていました。
奇書展での事件後、創也と喧嘩した内人は、1人でゲームを作ることになり、R・RPG「スパイシティ」を完成させます。そしてゲームマスターとして「スパイシティ」に友人や栗井栄太らを招待しますが、途中で何者かにゲームを乗っ取られてしまいます。
- 著者
- ["はやみね かおる", "にし けいこ"]
- 出版日
- 2019-02-21
本作の見どころは、「スパイシティ」でくり広げられる、プレイヤーたちの攻防戦です。プレイヤーはそれぞれ異なる暗殺術を持っており、相手に自分の能力を知られないよう立ち回りながら勝ち残りを目指します。
勝負は意外な形で決着することもあり、いったい誰が勝ち残るか予測できないところもまた魅力です。ゲーム後半では「スパイシティ」を乗っ取った犯人によって、ゲームが思いもよらぬ方向へと動き出すことに。先の読めない怒涛の展開に、思わず手に汗握ることでしょう。
果たして、内人は「スパイシティ」を最後まで進行できるのでしょうか。そして、「スパイシティ」を制する正体は一体誰なのでしょうか。
シリーズのメインキャラクターが大集結する、見どころ満載の16巻。その驚きと衝撃のラストは、ぜひ本作を読んで確かめてみてください。
都会で2人の少年がくり広げる謎解き冒険ストーリー。見どころ満載のハラハラドキドキなストーリーに、子供だけでなく大人も一緒に楽しめる児童文学です。