雪の山荘や館が舞台のミステリー小説おすすめ6選!クローズド・サークルの醍醐味!

更新:2021.11.20

人里離れた山荘や館は、ミステリー小説の舞台の王道のひとつではないでしょうか。今回はそのなかでも、雪によって外部と遮断された状態で事件が起こる作品を紹介します。犯人は自分たちの中にいる、という不安と疑惑が魅力のクローズド・サークルを堪能しましょう。

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雪山で全員の遺体が見つかるミステリー小説『ジェリーフィッシュは凍らない』

 

特殊技術を使用した、画期的な最新小型飛行船の「ジェリーフィッシュ」。3日間の最終飛行訓練に出発しました。搭乗したのは、発明者の教授と5人の研究者です。

しかし飛行船内、つまり空飛ぶ密室の中で、メンバーひとりが殺される事件が起こります。さらに、自動航行システムが暴走して雪山に墜落……。

雪山でジェリーフィッシュの捜査を始めた警察は、6人の遺体を発見しました。乗組員全員が死亡したいま、犯人はどこからやって来て、どのように雪山から脱出したのでしょうか。

著者
市川 憂人
出版日
2019-06-28

 

2016年に刊行された市川憂人のデビュー作です。「鮎川哲也賞」を受賞しました。

事件が進行していくパートと、事件後に警察が捜査をするパートが交互に展開される構成。捜査を担当する女性刑事と青年部下の、コミカルなやり取りも飽きさせない魅力のひとつです。

物語の舞台は1983年。翻訳文章のような独特の文体からも、冷戦を彷彿とさせる軍事的緊張感が漂ってきます。ジェリーフィッシュの開発も、軍からの依頼を受けたものでした。

DNA捜査や携帯電話などの技術が発展していない時代だからこそ、多くの謎や違和感があり、読者を混乱させます。しかしその矛盾点は、最後まで読めばすべて納得できるもの。アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』の現代版と評される文章トリックに、挑戦してみてはいかがでしょうか。

雪で覆われた館で起こる悲劇『奇面館の殺人』

 

1泊するだけで報酬200万円という、奇妙な誘いを受けた6人の招待者たち。貴重な仮面が所蔵されているという「奇面館」を訪れました。館の主人である影山逸史は仮面をつけていて、他人の表情を見るのが怖いからと、招待客にも秘書やメイドにも仮面をつけさせます。

季節外れの大雪で、閉ざされてしまった山奥の館。1泊した翌朝、影山とおぼしき人物の、首と両手の指がなくなった遺体が発見されました。雪の中から見つかった首には、仮面がつけられたままです。さらに招待客の仮面には寝ている間に鍵がつけられていて、外すことができません。

殺されたのは本当に影山なのか、誰かと入れ替わっている可能性も考えられ、6人は互いに疑いを抱きます。

著者
綾辻 行人
出版日
2012-01-06

 

2012年に刊行された、本格ミステリー作家、綾辻行人の作品。代表作である「館」シリーズの9作目です。

推理作家の鹿谷門実は、作家仲間の代理で、彼に成りすまして奇面館を訪れていました。殺された人も残った人も全員仮面をつけているうえ、お互いの正体もわからないまま。そんななかで、探りあいをしながら矛盾点をすり合わせ、犯人を追い詰めていきます。

会話を中心にストーリーが進んでいくので、ミステリー初心者の人でも読みやすいでしょう。期待を裏切らない予想外の結末も「館」シリーズならでは。すっきりした読後感を得られるはずです。

雪山で勝負する個性派探偵を描いたおすすめミステリー小説『そして名探偵は生まれた』

 

名探偵といえども、華々しい事件を解決して脚光を浴びることなどほとんどありません。主人公の影浦逸水も日々の生活にうんざりし、いつも愚痴をこぼしていました。

ある日、影浦と助手の武邑大空は、事件解決のお礼として新興企業の保養所である伊豆の山荘に招待されました。しかし山荘のオーナーである社長が殺される事件が起こります。

現場となった部屋は密室で、外には季節外れの雪が積もった状態。出入りをした形跡はありません。不可能犯罪を前に、名探偵と助手が出した答えとは……。

著者
歌野 晶午
出版日
2009-02-06

 

2005年に刊行された歌野晶午の作品です。

抜群の推理力をもった名探偵でありながら、日々の生活にも事欠く主人公の影浦は、強烈な個性を放っています。トリックや謎かけ自体は奇抜なものではありませんが、コミカルな会話と人間模様を楽しむことができるでしょう。

ラストの数ページで明らかになる、タイトルに込められた意味に衝撃を受けるはず。ブラックユーモアを含みつつ、名探偵が生まれる経緯を知ることができます。

文庫版には表題作のほかに「生存者、一名」「館という名の楽園で」「夏の雪、冬のサンバ」の3作品も収録。あわせてお楽しみください。

真夏に雪が降る掟破りのミステリー小説『夏と冬の奏鳴曲』

 

かつて孤島で共同生活をしていた6人の男女が、20年ぶりに再会することになりました。彼らが崇拝していた美人女優、真宮和音の命日を偲ぶためです。

新聞記者の烏有も、取材のために孤島へ向かいます。すると2人は、和音にそっくりな女性を見かけるという不思議な体験をします。さらに真夏なのに雪が降るという異常気象に見舞われて……。

海に身を投げたという和音の死体は、まだ見つかっていないとのこと。烏有は、孤島に隠された秘密を暴こうと動き始めます。

著者
麻耶 雄嵩
出版日

 

1993年に刊行された麻耶雄嵩の作品です。

なかなか決定的な事件が起こらないように見える物語の序盤にも、たくさんの伏線が隠されています。真夏に降る大雪や大地震など、現実離れした現象が起きる孤島の不気味さは、ミステリー作品のなかでも異彩を放っているといえるでしょう。

読めば読むほど謎は深まり、終盤では怒涛の展開に。予測することは不可能といわれるほど、想像を絶する衝撃的な結末を迎えます。

文庫で700ページを超える長編ですが、読み終えてからも余韻に浸れること間違いなし。前衛的ともいえる作品で、ミステリーなのに何度も読み返したくなるでしょう。

雪の山荘にいるふりをする⁉異色のおすすめミステリー小説『ある閉ざされた雪の山荘で』

 

劇団のオーディションに合格した久我和幸は、乗鞍高原の山荘でおこなわれる泊まりがけの舞台稽古に参加することになりました。彼を入れて、男女7人の劇団員が集まります。

姿を現さない演出家が手紙で指示した稽古内容は、「雪で閉ざされた山荘で事件が起きていると見立てた推理劇」でした。不審に思いながらも、ルールに違反するとオーディションの合格を取り消されてしまうため、従うほかありません。

ひとり、またひとりと姿を消すメンバーを、死んだと見立てて演技を続ける劇団員たち。これは本当に芝居なのかと、しだいに疑い始めます。

著者
東野 圭吾
出版日
1996-01-11

 

1992年に刊行された東野圭吾の作品です。古い作品だからと侮ってはいけません。この作品こそ、東野圭吾の最高傑作であると推す声もあるのです。

不思議な舞台稽古のために山荘に集められたのは、全員が俳優志望の若者たち。演技に磨きをかけること、また役を獲得するための努力を怠りません。そんななかで起きる「殺人事件」。メンバーたちはキャリアのために、連続殺人が起きていると仮定して芝居を続けます。しかししだいに、芝居を装って本当に殺人が起きているのではないかと疑い始めるのです。

どこまでが演技で、どこからが現実なのか。謎が解き明かされた先には、クローズド・サークルの典型のように見えてそうではない、意外な結末が用意されています。

東野圭吾が推理小説の限界に挑んだという、練りに練られた構成で進む物語。騙されずに読むことができるでしょうか。

雪深い館を舞台に、いとこ同士に起きる異変を描いたミステリー小説『崖の館』

 

2年前の千波の死は本当に事故だったのか、それとも……。

7人のいとこたちは、おばが崖の上に建てた館で夏休みと冬休みを過ごすことが恒例になっています。両親を亡くしておばに育てられていた千波が崖から転落して命を落としたあとも、その集まりは続いていました。そんななか、千波が大切にしていた絵画が消失し、ついには犠牲者まで出てしまいます。

1番近い町に助けを求めることすらままならない大雪に、切られた電話線。おばといとこたちのみが取り残された館で、次々と起きる異変の正体とは……。

著者
佐々木 丸美
出版日
2006-12-21

 

1977年に刊行された佐々木丸美の作品。「館」シリーズの1作目です。

高校2年生の涼子は、冬休みを過ごすために崖の上に立つおば所有の館に来ていました。そこに集まったのは、社会人や大学生、浪人生などさまざまな背景がある6人のいとこたちです。彼らはみな、2年前の千波の死に疑問を抱いていました。

いとこ全員で掃除や料理を分担してこなすなど、家庭的で微笑ましいシーンの所どころに散りばめられた登場人物たちの哲学的な発言は、心に訴えるものがあります。

鋭い観察力があり、鮮やかに事件を解決する名探偵は登場しません。しかし、事件を起こすのは必ず人間であること、そしてその裏には、事件を起こすに至った心の揺れ動きがあるという犯罪心理が、丹念に描写されている作品です。

犯人は自分たちの中にいるというクローズド・サークルのおすすめ小説を紹介しました。雪の山荘や館が舞台になっているミステリーは、冬に暖かい部屋で読むのもよいですが、夏に読んで冬気分を味わうのもよいでしょう。

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