クリスマスが目前に迫った東京で突如爆弾テロが発生し、平和なはずの日本に緊張と混乱が蔓延していく……。そんなクライムサスペンス小説『And so this is Xmas』。 物語は事件に巻き込まれたバイト青年と普通の主婦、事件を捜査する警察官、謎めいたプログラマーなどの複数の視点で描かれていきます。果たして犯人は誰なのか? 何が目的なのか? 息をつかせぬ展開に引き込まれます。 2020年には実写映画化もされる本作の見所やタイトルの意味を、考察しながらご紹介していきましょう。
事件の発端は2016年12月22日のことでした。クリスマスを目前に控え、緩みきっていた日本全体の空気が、たった1つの出来事でまるで戦時下のように凍りついたのです。それは、東京のど真ん中で発生した爆弾テロ。
爆弾予告の取材に来たテレビ局バイトの来栖公太は、犯人に命じられたという主婦ヤマグチアイコとともに、事件の実行犯として渦中の人となっていきます。2人には小型爆弾がしかけられ、爆弾犯の指示どおりに行動しなくてはいけないのです。
無数の犠牲者を出しながら、事件は止まることなくクリスマス当日まで拡大し続けていきます。
本作で特徴的なのはその構成。追う側と追われる側、意味ありげに挿入される第三者、いくつもの登場人物の視点が切り替わって語られることで、爆弾テロ事件が立体的に浮かび上がっていきます。事態はめまぐるしく動き続けるので、小説とは思えないような勢いでどんどん進んでいくのが魅力です。
本作は2020年公開予定の『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』の原作小説でもあります。スピード感溢れる内容は映像化にぴったりです。
『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』実写映画化決定!
本作には多数の登場人物が出てきます。中盤に差しかかる頃には全員把握できるようにはなっていますが、これから読む方が注目しやすいように特に重要な人物をご紹介しておきます。
大学生の来栖公太(くるすこうた)はマスコミを志望するニュース番組のバイトです。事件に巻き込まれた被害者であり、爆弾テロの手先でもあるという本作を象徴するキャラクター。
公太とともに行動するヤマグチアイコは、最初に巻き込まれた被害者かつ事件で唯一、犯人と接触したとされる重要人物。彼女のつけた記録が要所要所で挿入されます。
ベテラン刑事の世田志乃夫(せたしのぶ)と若手警官・泉大輝(いずみだいき)のコンビは、事件を解決に導くべく現場の警察として奔走します。
追う側でも追われる側でもない、第三者の謎めいたキャラクターが須永基樹(すながもとき)。30歳にして個人資産10億を超える敏腕プログラマーで、素人と思えない手際で事件のデータを集めています。その目的は……?
その須永の周辺で、個人的な理由から彼と関わるのがOLの印南綾乃(いんなみあやの)と高梨真奈美の2人。ただの無力な一般人の彼女らも事件に巻き込まれていくことが、物語の筋としても本作のテーマとしても重要な意味を生んでいます。
映画化に当たってキャストが発表済みですが、具体的な配役は2019年11月現在、不明です。あくまでも予想ですが、作中の活躍と主演の扱いから佐藤浩市が世田役、西島秀俊が須永役、石田ゆり子はヤマグチアイコ役となるのではないでしょうか。
その他は来栖公太役を中村倫也、泉大輝役を井之脇海か勝地涼、綾乃もしくは真奈美役が広瀬アリスになるのではと予想されています。
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本作は「ノンストップ・クライムサスペンス」というキャッチコピーどおり、ほぼ全編にわたって爆弾テロの事態がノンストップで進行していきます。
物語にスピード感を持って読める理由は、2つの理由があると考えられます。まずは、2日間という限られた期間の出来事であること。さらに、それがめまぐるしい展開速度でたたみかけるように描写されていること。
- 著者
- 秦 建日子
- 出版日
- 2016-11-23
作中の時系列は巧みに入れ替えられており、その演出がミステリー小説としての面白さを増しています。また、カメラワークがどんどん変わる映像を見ているかのように、場面転換によって息もつけない矢継ぎ早のスピード感を演出しているのです。
最初の爆弾テロからラストのエピローグまで、一瞬たりとも目が離せません。時間を忘れて一気に読み終えてしまうことうけあいです。
本作は立場の異なる複数の人物の視点が、交互に描かれるのも特徴的です。読んでいると次々と入れ替わる視点に最初は振り回され、パニックモノのように混乱してしまうかも知れません。
しかしやがて、それぞれの視点の持ち主に作者が与えた役割と意味が見えてきます。後半に進むにつれて、交錯する各視点から立体的ストーリーが見えてくるのはある種の快感です。
この複数の視点というのも、本作のミステリー仕立てに拍車をかけています。登場人物の中にはあやしい行動をする者が混じっており、誰が犯人なのかを予想する楽しさがあります。
一体誰が犯人で、なんの目的があって事件を起こしたのか。読み進めていくとそれらが判明していくのです。
本作のタイトル『And so this is Xmas』は、公式にジョン・レノンの名曲『Happy Xmas (War Is Over)』の歌詞にインスパイアされていることが明かされています。クリスマスの時期に誰もが一度は聞いたことがあるはずです。
この曲は日本では「戦争は終わった」と訳されていますが、実は泥沼化するベトナム戦争の真っ最中にアメリカで発表されました。「戦争が終わった」ではなく「戦争を終わらせよう」という意図が込められた歌なのです。
本作のラストでは、ある人物に1通のメールが届きます。衝撃的な内容ですが、タイトルの元になった曲に通ずるものがあり、そこでタイトルの意味が理解できるでしょう。
現実とは非情で、戦争とは悲惨なもの。人の意志が戦争を起こすのならば、その戦争を終わらせるのも人の意志。
全編を通して読むと、そういった反戦意識を感じずにはいられません。
本作の映画版『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』については、現在のところキャストの発表と撮影が開始されたことしかわかっていません。実際の映画ではストーリーと登場人物は原作をベースにした違うものになる可能性があるので、その点はご了承ください。
原作小説の素晴らしいところは、現代日本の社会や流行を敏感に反映したリアルな世界観にあります。本作の内容はインターネット全盛期の現代を舞台にした、爆弾予告のテロという劇場型犯罪のシミュレーションと捉えることもできるでしょう。
映画の見所は前半から中盤にかけての山場、連鎖する爆弾テロシーンです。おそらくこのテロシーンの圧倒的な大迫力で観客を引き込み、繊細な人物描写で犯人の素顔に迫っていく構成になるのではないでしょうか。映画のエキストラの募集状況からしても、非常に力を入れていることが窺えます。
ドラマの情報は公式ページ 『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』実写映画化決定!をご覧ください。
いかがでしたか? 映画の公開までもうしばらく時間があります。公開に先駆けて原作で予習しておくと、映画を120%楽しむことができるでしょう。