コンピューターやインターネットを使った犯罪を描いたサイバーミステリー小説。国境をいとも簡単に飛び越えることができるため、犯行の規模も壮大なものが多いのが特徴です。ページをめくる手が止まらなくなる、特におすすめの作品を紹介していきましょう。
京都府警サイバー犯罪対策課の万田は、官民複合施設「コンポジタ」の開発責任者である月岡が誘拐された事件の捜査をすることになりました。
犯人は、切り落とされた月岡の指をマスコミに送り付け、「コンポジタ」のシステムを停止するよう要求しています。
万田が捜査を進めていくうちに、かつてPC遠隔操作事件で容疑をかけられた武岱が捜査線に浮上。監視も兼ねて武岱に捜査協力の依頼をしますが、万田の前に現れた彼はまるで別人のような姿になっていて…… 。
- 著者
- 藤井 太洋
- 出版日
- 2015-04-10
2015年に刊行された藤井太洋の作品です。ACCS事件や遠隔操作ウィルス事件など、実際に起こった事件をもとにした内容も盛り込まれていて、現代のIT業界に潜む闇にスポットを当てているサイバーミステリー小説になっています。
作者の藤井太洋は元エンジニアということもあり、作中で描かれる彼らの仕事っぷりもリアルなもの。たび重なる仕様の変更命令や、幾重にも連なる下請け事情などに、思わず共感してしまう人もいるのではないでしょうか。
マイナンバー制度やビッグデータを扱うことにともなうリスクなど、知っておきたい要素が満載。これからの時代を生きる私たちに警鐘を鳴らす一冊です。
主人公は、警視庁万世橋署で署長をしている黒田純一。ある日、万世橋署管内でATMから不正に出金される事件が起こります。プログラム操作によって引き出された金額は数億円にものぼり、さらにいくつかの機関で同様に多額の出金がされていました。
また同時期に、欧米でも金融サイバー攻撃による被害が。黒田は特命を受け、世界規模のサイバーテロにおける日本捜査チームの主任を任されることになります。
果たして、犯人の動機とは……?
- 著者
- 濱 嘉之
- 出版日
- 2014-01-15
2014年に刊行された濱嘉之の作品。濱は元警察官で、公安部にも身を置いていました。本作は、そんな彼だからこそ描ける「警視庁情報官」シリーズの5作目になります。
国家の枠をいとも簡単に飛び越えるのは、サイバー犯罪ならでは。世界規模のテロに繋がる恐ろしさや、情報期間としての機能をもつ宗教団体の存在など、サイバーミステリー特有の壮大さを味わえるでしょう。
シリーズの魅力でもあるハイテンポなストーリー展開は本作でも健在。署長に出世した黒田が組織を動かす姿など、長年のファンも楽しめる内容になっています。
サイバーセキュリティーコンサルタントをしている君島のもとへ、息子の死の真相を調べてほしいと老夫婦が依頼を持ちかけてきました。
老夫婦は、「ミトラス」という自殺支援サイトが息子を殺したと主張。ミトラスは自殺志願者と幇助者をインターネット上で結びつけるサイトで、彼らの息子は多額のお金をミトラスに振り込んだ後、自殺をしていました。
- 著者
- 一田和樹
- 出版日
- 2011-04-22
2011年に刊行された一田和樹の作品です。
サイバーセキュリティの知識がふんだんに盛り込まれているものの、文章は難しくないためスラスラと読み進めることができるでしょう。君島が淡々と真相に迫っていくさまは、ハードボイルドらしくもあります。
犯行の動機やトリックは、エピローグで明かされる構成。語り口を一変させて壮絶な憎しみと心の闇が描かれていて、恐怖すら覚えるかもしれません。最後まで読むとタイトルの意味もわかり、読後はやるせなさが募ります。
コンピュータ・セキュリティの専門家である笹生のもとに、通産省からとある依頼が舞い込みました。日本企業に特許訴訟を起こして巨万の富を築いている、アメリカの発明家エリス・クレイソンについて調べてくれというのです。
数多くの特許を取得しているクレイソンですが、過去の経歴がまるでわからず、死亡した際の権利の譲渡者も決められていません。
また同じ頃、CIAや天才ハッカーのケビンもクレイソンに目をつけていて……。
- 著者
- 服部 真澄
- 出版日
- 1999-07-20
1996年に刊行された服部真澄の作品。「吉川英治文学新人賞」を受賞しています。
本作のテーマは、法改正される以前のアメリカの「サブマリン特許」。特許の出願をしながらも取得を先送りして、発明の内容を非公開のままにし、その技術が一般に普及してから権利を公開して利用料を請求できるというものでした。
制度の不備をついたストーリー展開と、CIA、ハッカー、弁護士、大企業、そして政府が絡みあう複雑で大掛かりな陰謀が魅力的。刊行されたのは、ちょうど日本で一般家庭にもPCが普及してきた時代ですが、いま読んでも色あせない内容です。壮大な国際謀略サイバーミステリーをお楽しみください。
アメリカのミリタリースクールで強靭な肉体を手に入れ、格闘技を学んで高い戦闘能力を身に付け、名門大学へ進学できる頭脳をもつ朝倉恭介。順風満帆な人生を送っていましたが、事故で両親が亡くなってから、失意のどん底にいます。
さらに運悪く暴漢に襲われて、正当防衛ではあるものの人を殺害してしまうのです。明るかったはずの未来が閉ざされた朝倉は、悪の世界で生きていくことを決意。持ち前の頭脳を活かして、コンピューターネットワークを駆使したコカインの密輸システムを作りあげます。
- 著者
- 楡 周平
- 出版日
- 2008-10-25
1996年に刊行された楡周平のデビュー作。「朝倉恭介」シリーズの1作目です。
最初から最後まで悪の道を進む朝倉恭介の、ダークヒーローっぷりが見どころ。頭脳と肉体を使ってコカインの密輸システムを作りあげ、邪魔になる者は容赦なく消していくさまは清々しいです。
インターネットがようやく普及し始めた頃の作品のため、犯行に使われている道具は古いものですが、単年な取材と緻密な構成で、時が経ってから読んでも十分に楽しめるでしょう。アングラ界の妖しい雰囲気を楽しめるサイバーミステリーです。
世界にまたがるサイバー犯罪の実態を世に知らしめたノンフィクション。
PART1では、アメリカのオンラインスポーツ賭博をめぐる問題に、コンピューターセキュリティの専門家であるバーレット・ライアンが挑みます。
PART2では、 バーレットから犯人グループの情報を聞いた、イギリスのサイバー犯罪対策庁捜査官アンディ・クロッカーが、ロシアに乗りこんでハッカーの逮捕を目指し、裁判にいたる様子が描かれます。
- 著者
- ジョセフ・メン
- 出版日
- 2011-10-13
2011年に刊行されたジョセフ・メンの作品です。
ハッキング対策の第一人者であるバーネットと、イギリスのサイバー犯罪捜査官アンディ・クロッカーの動向を追っていくと、ハッカーなどの犯罪組織と国家が密接に関わっていることがわかります。それゆえに摘発をすることが難しく、本作がノンフィクションだと考えるとあらためてセキュリティ対策の必要性を実感するでしょう。
ドラマチックな展開にハラハラしながらも、これからますます高度化していくであろうサイバー犯罪に私たちは対抗することができるのか、思いをめぐらせてしまう作品です。