綿矢りさのおすすめ小説!才能を感じる7作品

更新:2021.12.18

綿矢りさは、2001年に単行本化された『インストール』で当時20年ぶりの文藝賞を受賞、最年少タイ記録として話題になりました。本記事ではその作品群からおすすめする7つの作品をご紹介します。

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現代文学の天才・綿矢りさ

京都府京都市出身の綿矢りさは、京都市立紫野高等学校在学中に『インストール』で文藝賞を受賞しました。この賞は河出書房新社が主催している「新人の登竜門」と言われる賞で、当時20年ぶりの最年少タイで受賞した彼女は、自己推薦で早稲田大学教育学部国語国文学科に進学して、大学卒業後は専業の小説家として活動しています。また、大学に在学中も小説を書く事に非常に意欲的で、彼女の代名詞ともなる作品の『蹴りたい背中』を発表し、『インストール』発表時以上の衝撃を世間に与えました。

そんな綿矢りさは幼少期から、家族の育児方針による影響もあり、多くの本を好んで読んでいました。幼少期によく読んでいたのは『クマのプーさん』、『モモちゃんとあかねちゃん』、『はてしない物語』などの児童文学で、年を重ねるうちに、その読書範囲は広がっていき、『風とともに去りぬ』や『言い寄る』などの恋愛小説、村上春樹、スティーブン・キングなどを読んでいたそうです。そして小説を本気で書くと決意するきっかけになった、太宰治に関しては、存在する著作全てを読み切ったそうです。

幅広いジャンルを読み、違うジャンル毎にそれぞれ愛読書や好きな作家のいる綿矢りさは、幼少期からの読書好きが高じてその才能を開花させたという事がわかります。

綿矢りさが20代女性を描く。共感度の高い恋愛小説『勝手にふるえてろ』

この作品は、いい年頃でモテない女性主人公が、憧れの彼氏である「イチ」と、憧れてはないけど主人公の事を好きといってくれる「二」と、どちらと付き合っていこうか迷うというものです。織田作之助賞大賞の候補にあがっている作品です。

物語は恋愛にウブで、26歳で恋愛経験がない女性主人公の視点で進んでいきます。「イチ」との関係はほとんど妄想で、そこに「二」という冴えない男と付き合っていくという現実が迫っていて、主人公は「イチ」という理想と、「二」という現実の中で揺れ動きます。

著者
綿矢 りさ
出版日
2012-08-03

草食系男子や、二次元メディアの広がりが拡大してる昨今、男女共に26歳で恋愛経験がないというのは珍しくはなくなってきました。だからこそ、この本の内容に共感を覚える人が多く、もし同様の状況になった事がない人でも自分の好きな人と自分を好きな人、どちらがいいのかという問題には身に覚えがあるはず。様々な層のニーズに合致する、誰が読んでも損のない面白い作品です。

この頃、綿矢りさは主人公と同じくちょうど26歳頃で、この小説が純文学のジャンルにも属するのもあり、文章に生々しくリアルな印象を受けます。

リアルな女性の心理を綿矢りさがすくい取る!『かわいそうだね?』

2013年に単行本化された本作品ですが、まだ単行本化されていない2012年に大江健三郎賞、京都市芸術新人賞を受賞しています。この本は、「かわいそうだね?」と、「亜美ちゃんは美人」の2編が収録されています。

どちらの話も、日本国内での評価は高く、それも文学作品としての完成度というよりは単純に内容の面白さと、共感出来てなおかつスッキリとしたラストへの満足感に振り切った書き方が評価されています。

著者
綿矢 りさ
出版日
2013-12-04

まずそれぞれの内容をご説明します。「かわいそうだね?」の内容は、女性主人公が彼氏に「元カノが失業して金がなくなったから、彼女を居候させてほしい」と言われて、断り切れなかった主人公が彼氏の元カノとヤキモキしながら一緒に住むというもの。

「亜美ちゃんは美人」は、「さかきちゃん」という、頭のキレる女性主人公と、「亜美ちゃん」という、ルックスが抜群で学校のアイドルである女の子、二人の友情物語になります。

どちらの作品も、人間の嫌な性格の部分や、心理がみどころ。「女性から見た男性の嫌な所」、「女性から見た女性の嫌な所」という女性目線で見た男女の嫌な部分が描かれています。特に女性は、共感する所が多くあるでしょう。

「かわいそうだね?」の主人公が彼氏の無理すぎるお願い事を断り切れない心理や、「亜美ちゃんは美人」の女性同士が友達でありながらも格付けしあうドロドロとした割り切れなさ。そんな醜い意識が常にありながらも、それを超えた、堅く結ばれた友情の波があるのも女性なら実感があるはず。

両作品ともに確実に面白く、男性は女性の心理を学べ、女性はリアルに共感できるものです。

芥川賞受賞作品!社会ブームを巻き起こした知名度No.1小説『蹴りたい背中』

綿矢りさという小説家の名前は知らなくても、題名に聞き覚えはあるのではないでしょうか。当時は多くのメディアに取り上げられ、ドラマ化までした作品です。知名度で言えば、綿矢りさの代表作と言っても過言ではないと思います。しかし、その作品の内容までは詳細に知らないという方もいらっしゃると思うので、輝かしい受賞歴と共にご紹介いたします。

2003年に単行本化された本作は、同年に野間文芸新人賞の候補となり、2004年に当時19歳で芥川龍之介賞受賞し、当時の最年少記録を更新。単行本は芥川賞受賞作としては28年ぶりのミリオンセラー、2006年には早稲田大学小野梓記念賞の芸術賞を受賞という、華麗な経歴を残した作品になりました。この華々しい受賞歴を見てか、綿矢りさは2008年に世界経済フォーラムのYoung Global Leadersの1人にまで選出されています。

著者
綿矢 りさ
出版日
2007-04-05

そんな『蹴りたい背中』の内容は、高校に入ったばかりで、クラスの余り者同士のにな川とハツこと長谷川の関係について思春期特有の恥じらいを散りばめながら描いていく、という物語です。ただの小説として読めばこの作品はライトノベル的ににな川とハツの甘酸っぱい恋愛模様を描いた小説、のように見えますが、芥川賞を取るだけの作品だけあり、実際は違います。

にな川とハツはoliというモデルに対して憧れを抱きます。しかしその憧れを表現する仕方が、二人では大きく違ったものになります。にな川にとってoliという存在が憧れ以上の存在になっていきますが、ハツは思春期特有の冷めた視点で、oliに安直に憧れないように自分を制御します。ここではっきりと、素直に外の世界に憧れる事の出来るにな川と、素直に外の世界に憧れる事が出来ず、内の世界に籠るハツという、二人の違いが出てきます。

そしてハツはにな川の背中を見つめながら「わたしはこんなにもいろいろ考えてて、素直に憧れる事が出来ないのに、にな川はどうしてそんなに素直になれるのだ」と感じます。自分へのいら立ちを「素直(にな川)に対する嫉妬」として、彼の背中を蹴る事で、衝動を発散します。

そんな思春期特有の発酵した思想を蹴るという表現に落とし込んだ、綿矢りさの力作です。

3人の女性を通して京都を感じるおすすめ作品『手のひらの京』

結婚をあせりながらも家族を大事にするおっとりとした性格の長女・綾香と、幼少期から男性にモテてきたため、次々と軽やかに恋愛を繰り返す次女・羽依と、研究に没頭する理系女子で、東京に憧れる三女の凜、この三姉妹が京都を舞台にして描く物語です。

結婚、恋愛、夢をテーマに3人の女性が道を進んでいきます。

著者
綿矢 りさ
出版日
2016-09-30

綿矢りさは京都出身の小説家ですが、京都を舞台にして書いた小説はこれが初めてです。出身地だけあり、登場するキャラクターの京都弁が生き生きとしています。

古風なワードや、京都の有名地が多く登場し、物語全体に京都らしい和の雰囲気が香ります。舞台は平成の京都ですが、所々に見られる情景や心理描写に昭和の作家のような表現が多数みられる為、まるで昭和の京都を舞台にしているような懐かしい雰囲気も感じられます。

ストーリーも難しく入り組んだものではなく、肩ひじ張らずに楽しめます。それぞれの女性のテーマが身近で分かりやすく、作中に溢れる落ち着く京都の雰囲気は、続いていく日常を描いたもののようで、その後が気になる話です。

奇妙なホラーも書ける!綿矢りさの幅広い才能を感じる『憤死』

子供の頃にした事を「今では考えられない事をしていたな」と、ふと思い出すという経験が、皆様にもあるかと思います。綿矢りさはその経験を利用して、フィクションの物語をまるでノンフィクションのように見せた作品を書きました。

著者
綿矢 りさ
出版日
2015-03-06

非常にリアルで不気味なテイストになったこの作品は、「おとな」「トイレの懺悔室」「憤死」「人生ゲーム」の4作品が収録されている短編集です。

単行本自体が170ページという薄さだけあり、一作一作が短めで読みやすいです。ここまでご紹介させていただいた、綿矢りさの小説はどれも恋愛が絡むものでしたが、この作品に関しましては、終始不気味でホラーな雰囲気が流れています。綿矢の恋愛関係の小説に見られる、人間心理のドロドロとした部分の描写力が、ホラーという表現で作品に投影されています。

この短編集の全体的なテーマは「子供時代の奇妙な思い出」です。奇妙なものではありますが、人間心理の描写力も相まって、フィクションではありますが、こんな経験をした人がどこかにいるのではないかと錯覚するほど、どこかリアルです。

女性の心理を描くことの多い綿矢りさが奇妙でホラーテイストの小説を書く事も出来るという、彼女の幅の広さを感じさせられる1冊です。

文壇のアイドル綿矢りさが描くアイドル物語『夢を与える』

チャイルドアイドルとして幼少期から芸能界に身を置いている夕子の、日常やブレイク、スキャンダルなど芸能生活を綴った物語です。

この話は、夕子が産まれる前の夕子の父と母の物語から始まります。夕子が産まれる前、夕子の父冬馬と母幹子には破局の危機が。しかしその事実を受け入れられない幹子は、強引に冬馬との子を身ごもります。それが夕子でした。とても可愛い容姿だった夕子はチャイルドアイドルとしてデビューします。

あるチーズ製品のCMに抜擢された夕子は、彼女の成長とともにCMを制作するという半永久的な契約を結びました。これにより夕子は国民的アイドルになります。そしてあることをきっかけに一躍ブレイク。夕子は世間からは“ピュア”なイメージを持たれることになります。そんな夕子に訪れる芸能界から転落の兆しが……。

著者
綿矢 りさ
出版日
2012-10-05

夕子の芸能生活をベースとして、日常の出来事が淡々と描かれています。第三者の目線で描かれているため、登場人物はその時こう感じた、などという感情表現があまりないのが特徴です。その分、登場人物の台詞などからそれぞれの感情を読み取ることができ、それが妙にリアルに感じるのです。幼い頃から芸能界に生きる夕子の絶望感や孤独感がチクチクと刺さるように私たちに届きます。読んでいると、テレビで見る芸能人はこう感じているのかな、などと少し可哀想に感じるかもしれません。

おすすめは、物語後半。夕子が芸能界から転落し始めると、とても危うい雰囲気が立ちこめてきます。冒頭にでてきた父と母の物語はここでいかされるのか、など話のつながりも見えてくるのがとても面白いです。そしてどんどんドツボにはまっていく夕子が痛々しく、しかし容赦なく転がり落ちます。果たして、夕子はハッピーエンドを迎えることが出来るのでしょうか。

綿矢りさが描く嫉妬『ひらいて』

主人公の愛は高校1年の時、ふとした事がきっかけで同じクラスの「西村たとえ」という変わった名前の男子生徒に恋をします。3年生になって再びたとえと同じクラスになった愛は、教室の後ろの席から彼をひたすら見つめるようになるのです。

愛は成績も良く容姿も整った一見非の打ち所のないような少女ですが、内面は冷酷な性格で、今まで自分に言い寄ってきた男の子を見下し容赦なく退けてきました。しかし自分から誰かに恋をした経験はなかったため、たとえの気を引く方法が分からず悩んでしまいます。

ある日、愛はたとえが人目を忍んでこっそり手紙を読むのを目撃し、たとえがその手紙を教室の机の中に入れっ放しにするのを確認します。夜中に学校に忍び込みその手紙を盗み読んだ愛は、手紙の差出人が他のクラスにいる美雪という少女であることを知り、愕然とすると同時に激しい嫉妬を感じるのでした。

著者
綿矢 りさ
出版日
2015-01-28

本作は少女の初恋を描いた青春小説のように始まるのですが、驚くほど意外な方向へと進んで行きます。愛の心理描写には最初から何か危険なものが込められており、嫉妬に狂う愛は徐々に常軌を逸した行動を取るようになるのです。

たとえの後ろの席で折り鶴を折ることに集中する愛の姿は自傷行為を連想させ、折られた鶴は愛の心の滓(おり)のように机の中に溜まっていきます。

『ひらいて』というひらがな4文字のタイトルのやさしい響きからは全く想像できない強烈な展開に、良い意味で裏切られたと思う作品です。

19歳で衝撃の結果を残した綿矢りさ。そのポテンシャルは何年立っても衰える事なく、小説に対して挑戦的で、意欲的な気持ちを自身の本に存分に発揮しています。

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