もっとも人気のある歴史上の人物のひとり、織田信長。それゆえに、天下統一まであと一歩というところで勃発した「本能寺の変」についてはさまざまな憶測が飛び交い、物語の題材になることもしばしば。この記事では、「本能寺の変」を描いた小説のなかから、読んでおきたいおすすめの作品を紹介していきます。
多くの作家たちによって書き尽くされてきた織田信長を、「働き蟻の2・6・2の法則」を用いて内面をえぐり出した歴史小説です。
働き蟻、働き蟻に追従する平均的な蟻、怠けものの蟻は、どのような状況でも必ず2対6対2の割合になるとのこと。そしてそれは人間にも、自身の軍にも当てはまることに、信長は気づきます。
- 著者
- 垣根 涼介
- 出版日
- 2018-08-31
2018年に刊行された垣根涼介の作品。『光秀の定理』に続く2作目の歴史小説で、累計発行部数10万部越えのヒットとなりました。
物語には織田信長のさまざまな臣下が登場します。鍛えあげても衰えていく者、働き蟻になれずに落後していく者、信長を裏切る者……。盛衰はさまざまでも、その割合は常に2対6対2。2割の臣下は使い物にならなかったり、裏切ったりするという恐ろしい原理が描かれています。
織田信長からひときわ厚遇を受けていた明智光秀が、なぜ「本能寺の変」で主君を裏切ったのか。日本史上最大の謎とともに、「働き蟻の法則」にもとづいて組織を管理した信長の心の動きにも注目。新たな視点で歴史を考えられる一冊です。
織田信長の一代記『信長公記』をご存知でしょうか。実は現代に伝わる信長に関する史実や人物像は、ほとんど同作が原拠となっているのです。
本作は、そんな『信長公記』の作者であり、信長の側近だった太田牛一を主人公にした本格歴史ミステリ―小説になっています。
- 著者
- 加藤 廣
- 出版日
- 2008-09-03
「日本経済新聞」に連載されて大好評となり、2005年に刊行された加藤廣の小説デビュー作。当時加藤は75歳だったこと、小泉純一郎元総理が愛読していたことなどから、累計発行部数約250万部の大ベストセラーとなりました。
信長からある密命を受け5つの箱を受け取った太田牛一。直後に「本能寺の変」が起こり、主君を失います。彼自身も捉えられ、幽閉されるのですが、豊臣秀吉から解放の条件として、伝記の執筆を言い渡されました。
信長はなぜ警備が薄い本能寺に逗留していたのか、本能寺から消えた信長の亡骸はどこにあるのか、そして「本能寺の変」の黒幕は一体誰なのか……信長から受け取った箱の秘密も絡めながら、牛一が探偵役となって謎を追います。戦国好きはもちろん、ミステリー好きの方にもたまらない一冊でしょう。
一介の油商人から成りあがり美濃国の主となった斎藤道三と、道三の娘である濃姫と政略結婚した織田信長。
強烈な個性をもつ2人の武将を中心に、「本能寺の変」が起きた本当の理由を探っていく歴史小説です。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
- 1971-12-02
週刊誌で連載され、1965年に刊行された司馬遼太郎の作品。大河ドラマの原作にもなりました。戦国時代を描いた小説の定番ともいえるでしょう。
「斎藤道三遍」と「織田信長編」の2部構成になっていて、「織田信長編」では、道三の遺志を引き継ぎ分身となった信長と、道三の甥である明智光秀の火花を散らす確執が中心に描かれています。
「本能寺の変」をただの裏切りや謀反だと思うなかれ。そこには、実は斉藤道三から繋がるいくつもの理由があったのです。「本能寺の変」を起こすまでの明智光秀の心の動きに注目してみてください。
歴史小説ではありますが、組織の在り方や処世術など、現代を生きるヒントも学べる一冊です。
低い身分の出でありながら織田信長の信頼を一身に集め、異例の出世を果たした明智光秀。
本書は、そんな光秀を主人公に据え、「本能寺の変」を起こすに至るまでの苦悩と煩悶の生涯を綴った物語です。
- 著者
- 嶋津 義忠
- 出版日
- 2019-06-04
2019年に刊行された、嶋津義忠の作品。嶋津は1993年に57才で忍者小説『半蔵の槍』でデビューした人物です。
斎藤道三から武将としての英才教育を受けた明智光秀。本作では、あらゆる人々の幸福を願う善人として描かれているのが特徴です。血で血を洗う激動の時代のなか、家族や家臣、そして領民たちに真摯に向きあっていく姿勢に心打たれるでしょう。
真の天下太平を願う明智光秀と、才能があるゆえに周囲の意見に耳を傾けず暴走していく信長。光秀は、己の信念を貫くために「本能寺の変」を起こしました。光秀の生涯と彼が抱えた苦悩とともに、人間の本質を描いた作品です。
織田信長の息子である織田信孝、家臣の滝川一益、側室のお鍋の方、毛利氏の家臣だった安国寺恵瓊……。
本作は、「本能寺の変」に巻き込まれ、自らの命運を賭けて生き抜こうとする織田信長の周辺人物にスポットを当てた作品です。
- 著者
- 岩井 三四二
- 出版日
- 2014-01-16
2014年に刊行された岩井三四二の連作短編集。岩井は、重厚な雰囲気で描かれがちな歴史小説をあえて軽妙なタッチで描くことで、新鮮な物語に仕立てることを得意とする作家です。
それぞれの物語で主人公となるのは、「本能寺の変」のいわば脇役たち。彼らが突然の大乱にとまどい、右往左往する様子がユーモラスに、そして時に残酷すぎるほどドライに描かれています。脇役にスポットを当てることで、「本能寺の変」がいかに驚天動地の大事件だったのかを感じることができるでしょう。
途中に挿入される、「本能寺の変」の黒幕にまつわる作者の考えも興味深いもの。ひとつの出来事を多角的に見る、歴史の面白さを感じさせてくれる作品です。
冲方丁、池波正太郎、植松三十里、山田風太郎、新田次郎、山岡荘八という6人の人気作家たちが、明智光秀の謎に迫ったアンソロジーです。
2020年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公に明智光秀が選ばれたことを記念して、2019年に刊行されました。文芸評論家の細谷正充が編者を務めています。
- 著者
- ["冲方 丁", "池波 正太郎", "山田 風太郎", "新田 次郎", "植松 三十里", "山岡 荘八"]
- 出版日
- 2019-09-07
冲方丁の「純白き鬼札」は、朝倉義景に仕えていた明智光秀が、織田信長に徐々に心酔していくさまや、「本能寺の変」を起こした独自の解釈が見どころ。
また、光秀が忍者で、自分の肉体を再生させる忍法を用いる山田風太郎の「忍者明智十兵衛」など斬新な設定のものも。テイストの異なる光秀像をたっぷりと堪能できるでしょう。
いまだに謎の多い明智光秀という人物。ミステリアスな部分があるからこそ、多くの人を惹きつけるのだとあらためて感じさせてくれる作品です。
現代を生きる私たちが、歴史上の真実を知るのはとても困難なこと。そんななか、「本能寺の変」をはじめ、織田信長や明智光秀のひとつひとつの決断に何を見出すのかは、まさに作家の腕の見せどころだといえるでしょう。気になった作品からぜひ読んでみてください。