『虫籠のカガステル』は原作を読むべき。フランスでも認められた隠れた名作!

更新:2021.11.21

人間が巨大化した虫になってしまう……!? 『虫籠のカガステル』は人が虫になりその虫が人を食うという、恐ろしい奇病が蔓延する世界の物語。愛する人が人でなくなったら? 命の定義とどう向き合っていくのか、繊細な人間ドラマが見どころの名作です。Webで公開され人気が爆発した本作は海外でも注目を集め、2020年にはアニメ化されることが決定しています。 この記事では、世界に認められた本作の魅力を紹介していきます。

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『虫籠のカガステル』が面白い!フランスでも認められた隠れた名作!

『虫籠のカガステル』が面白い!フランスでも認められた隠れた名作!
出典:『虫籠のカガステル』1巻

 

本作の舞台は、人が虫になるという奇病が流行している2125年の地球。荒廃した大地は読者が暮らす場所の未来の姿かもしれず、他人事ではありません。
 

過酷な環境で助け合いながら成長していく少年少女、彼らを見守る大人たち……。甘くはないけれどどこか温かい人間関係が胸にしみるの作品なのです。

もともと2005年に作者のwebサイト内にて橋本チキン名義で連載を開始、2010年にweb連載をまとめた同人誌を発行しました。2013年4月26日に完結。現在webサイト上での公開は終了しています。

連載当時から漫画好きの注目を集めている作品でしたが、特に海外からの視線が熱く、フランスでコミックスが発売。

2015年にはフランス主催の漫画賞「Prix Mangawa」で、少年漫画部門賞を受賞しました。学校や図書館に置かれ、推薦図書として多くのフランス人読者に愛されている作品です。

これ以降、そんな本作の魅力をさらにご紹介していきます!

ちなみにアニメ化も決定している本作。映像化作品の見所は公式ページなどからご覧くださいね。

虫籠のカガステル|Netflix(ネットフリックス)公式サイト

 

まずはあらすじを紹介

まずはあらすじを紹介
出典:『虫籠のカガステル』1巻

21世紀末に起こった大戦と、ときを同じくして、世界には謎の奇病が発生していました。人間が巨大な虫になってしまうという病「カガステル」。

1000人に1人の確率で発病し、20分ほどで人格が失われ巨大な虫となってしまう恐ろしい病気です。カガステルは人間を食べ、発病し虫となった者同士で繁殖して数を増やしていきました。

2125年、カガステルの巣窟となっている砂漠地帯が広がるアジア大陸には、人間の住める場所はもうごくわずか。交易都市E-05に住みカガステルの駆除を生業としている駆除屋のキドウは、商人の護衛で訪れた砂漠で瀕死の状態の父子を発見します。

息絶えそうだった父親から娘、イリを預かったキドウは一緒に生活をすることに。父親を失ったショックから、初めは不安定なイリでしたが、徐々に街に馴染んでいきます。

しかし、やがてイリやキドウは、カガステルに関わる世界の謎、そして陰謀に巻き込まれていくのでした……。

作品の魅力:近未来を思わせる世界観!そこで描かれる、大きな謎

 

本作は近未来が舞台のSF作品です。荒廃した大地に、身を寄せ合って暮らす人々。どこか別の世界の話ではなく、この地球がたどったかもしれない未来の話として物語が展開されていきます。

アジア圏はほぼ人が住む場所がなくなり、砂漠の中に虫がひしめき合う、荒涼とした大地が広がります。それはまるで、現実の世界が砂漠化したイメージです。私たちの未来が鮮明に描かれている気すらします。

その中にあって、やはり虫はかなり異質な存在。蛾のような蠅のような、奇妙な形をしています。頭部は人間の頭蓋骨に近い形をしており、カガステルが元々人間だったことを象徴しています。

作中に駆除屋は人殺しだという描写が幾度も登場します。これは人が発病し完全に虫になるまでの20分の間は、人間としての意識があるからなのだとか。

虫の身体に最後まで人間の頭部が残るという姿は、人が虫になるという奇病に飲み込まれていく、シュールでグロテスクな姿です。

カガステルの正式な病名は「突発性染色体変異症候群カガステル」。作中の言葉で「形を壊すもの」という意味があります。

人の形を壊して誕生し、やがて人の住む世界の形すら破壊してしまった謎の奇病。なぜ人々はカガステルを発病してしまったのか……。荒廃した世界で描かれる、不条理な謎にどんどん引き込まれます。

 

著者
橋本花鳥
出版日
2016-01-13

作品の魅力:セリフがかっこいい!沁みる名言多数!

 

本作は生活環境が過酷なこともあり、他者に甘い登場人物はほとんどいません。皆が生きるのに必死だからこそ、言葉が真っすぐ響くのでしょう。生きる力強さに溢れた沁みる名言をいくつかご紹介いたします。

「自分から立つ気のないヤツは助けようがない
生きる気がないならここで死ね」

(『虫籠のカガステル』1巻より引用)

物語の冒頭、息を引き取った父親からイリを預かったキドウでしたが、気を失っていたイリが目を覚まします。父親を置いていけないと言う彼女の頬を叩き、キドウが言ったセリフです。

普通は悲しんでいる人、落ち込んでいる人には当たり障りなく、優しく接するものと考えがちではないでしょうか。しかしここは、生きることすらままならない過酷な環境です。そのことを伝え、自分で選択するように彼女に言い渡す姿は、この世界ならではの優しさともいえるでしょう。

人の心を強引に動かすのは難しいこと。それは生死のかかった状況でも変わりません。結局は自分が決めて動くしかないのだと伝えてくる、キドウの言葉は胸に突き刺さります。

つづいての名言はこちら。
 

「けど私は待ってるって言ったから
死んでもここを退かないのよ」

(『虫籠のカガステル』6巻より引用)

物語が進むにつれ、カガステルが誕生した秘密やイリの抱えていた事情などが明かされ、人間同士の争いが激しくなっていきます。

キドウは、比較的平和だったE-05区からE-07区に侵入を試み、姿を消します。セリフは、キドウやイリが身を寄せていた宿舎ガーデンマリオの店主、マリオのセリフから。

立ち向かっていく者は、もちろん大変です。キドウも命の危機を感じるほどの場面が数多く登場します。けれど待っている者の方が楽かといえばそうではありません。

今日か、明日か明後日か。いつかもわからない時を待つのは忍耐力がいりますし、状況も変わるかもしれません。死んでも退かないという強い言葉から、待つ者の矜持が感じられます。

 

著者
橋本花鳥
出版日
2016-05-13

最後にご紹介するのは、こちらです。
 

「怯えながら一緒に生きてみたいんだ」

(『虫籠のカガステル』7巻より引用)

かつてのキドウは、かつて人であったカガステルを駆除する駆除屋として、人と距離を置くように努め心を閉ざしてきました。しかし、イリや多くの人と関わるようになり、本当は後悔していたという自身の気持ちに素直になります。

今まで人と生きることをためらっていたキドウの本音が、このセリフに込められています。物語を通じて心の成長が感じられる、本作のストーリーを表しているような名言の一つです。

 

作品の魅力:登場人物たちの過去、思いが明かされ、大きな戦いの渦をつくる!

作品の魅力:登場人物たちの過去、思いが明かされ、大きな戦いの渦をつくる!
出典:『虫籠のカガステル』7巻

本作の序盤の印象は、駆除屋の青年と父親を失った少女の、荒廃した世界でのロードサイドストーリーといったものです。2人がトラブルに巻き込まれながら徐々に心を寄せ合っていく様子が描かれます。

しかし物語は、当初からは想像もできなかったような大戦へと流れていくのです。登場人物たちの過去や伏線が、カガステルの謎や国家の思惑などとからみ合い、大きなうねりをつくります。

特に登場人物それぞれの抱えたものに、読者は心を動かされるのでしょう。

キドウはもちろんのこと、物語の鍵となるのはイリ。イリが登場してから伏線が張り巡らされ、物語が進むにつれてそういうことだったのか、と唸る機会も増えていくでしょう。

なぜイリの父は母と会わせてやってほしいと、キドウに頼んだのか。イリの抱えるものはなにか。キドウはなぜE-05区へ来たのか。それぞれの過去や思惑が複雑にからみ合います。

特にキドウの過去を知れば、2人の出会いに運命を感じずにはいられません。ともに暮らしながら、心を寄せ合っていく姿が、また違う意味をもって読者にうったえかけてきます。

取り返しがつかないほどの戦いに発展していく終盤。誰もが異なる理由で、引けない決断を下すとき、運命が与えるのは生か、死か。怒涛のような展開に息もつけません。

『虫籠のカガステル』7巻完結と思えない、圧倒的なラスト!【ネタバレ注意】

 

先ほども説明したように、物語終盤では、どんどん戦争の色が濃くなっています。自身の理想を実現しようと東邦連合E区の総監をしている軍人、アドハムらが戦いをはじめ、キドウたちが住んでいたE-05区も激戦となってしまいました。

イリは自身の出生と隠されていた秘密を知り、覚醒します。人と一緒には生きられないと思いながらも、人のためにできることを模索し、立ち上がります。

一方キドウは、ライバルである駆除屋殺しの少年、アハトと激闘をくり広げていました。

ポイントとなるのは、人々が淘汰され、選ばれた者のみ生き残るのか、カガステルとともに荒廃した世界の中で滅びるのか……。その結末はご自身の目でご覧ください。

 

ラストは丸く収まるというわけではありませんが、戦いに一応の決着がつきます。誰かが悪いというのではなく、それぞれが生きる方向性を模索した結果起こった複雑な戦い。その様子が、読者としては心中複雑になるような内容です。

そんななかで、純粋に「どう生きたいか」の答えを出したキドウとイリ。困難にあいながらも前だけを向いて進む姿に心を救われます。

どれだけ心を閉ざしても、結局人は1人では生きていけない。人とのつながりを避けてきたキドウだからこそ得た答えが胸に響くラストです。

 

著者
橋本花鳥
出版日
2016-06-13

原作を踏まえて、アニメ『虫籠のカガステル』の見所を解説!

 

本作は2020年に映像配信サイト「Netflix」にてアニメが配信される予定となっています。場面カットがいくつか公開されました。愛らしいイリと、虫を駆除するキドウの躍動感あふれる姿に、期待が高まります。

それをふまえ、アニメ版での見所は、やはり戦闘シーン。カガステルが巨大な虫という設定もあって、動きも大きくアクションシーンは豪快。無敵の駆除屋としてのキドウがどんな戦い方をするのか、虫たちがどう応戦するのか、ダイナミンクな戦いは見逃せません。

虫が苦手な方は要注意かもしれませんが、人がカガステルに変質する場面も気になるところ。動きがあるからこその異様さ、得体のしれない気味の悪さが作品世界の過酷な状況を際立たせるのではないでしょうか。

もちろん、イリとキドウの心の交流も忘れてはいけません。場面カットの冷たい表情のイリからは隠された事情の重みが表現され、笑顔とのギャップが感じられます。どんどんと大人びていくイリや、人と生きることを決意し成長していくキドウの表情の変化も、見所の一つです。

詳細は公式サイトでご覧ください。


 

虫籠のカガステル|Netflix(ネットフリックス)公式サイト

 

砂漠が広がる荒廃した未来都市に生きる少年少女の物語。生きることとは、という問題を真っすぐに描き、胸に響く作品です。虫が苦手な人もいるかと思いますが、それだけで避けるのはもったいない名作、漫画から慣らしていくのもよいのではないでしょうか。

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