いまや本好きでなくても知っている文学賞「本屋大賞」。毎年受賞作に注目している人も多いでしょう。「本屋大賞」で選ばれるのは、過去1年間に刊行された作品ですが、実はそれ以前に刊行されたものから選ばれる「発掘部門」があるのをご存知でしょうか。この記事では、そのなかでも「超発掘本!」に選出された作品を紹介していきます。
「本屋大賞」は、紙の本の売り上げが低迷している現代の出版市場の改善を目指し、2004年に設立された文学賞です。
最大の特徴は、書店員が投票すること。過去1年間に刊行された本から、書店員が「面白かった」「お客さんにもすすめたい」「一番売りたい」と思った本を選んでいます。業界では出版社も書店も縮小傾向にありますが、本屋大賞はそのような状況を打開し、毎年新しい風を吹かせているのです。
ただ、「本屋大賞」が設立される以前の本は選ぶことができないため、発掘部門という既刊本を対象にした賞も設けられています。国内外、ジャンルは問いません。2016年からは、さらにそのなかから「超発掘本!」として1冊が選ばれ、発表されています。
ではここからは、これまで「超発掘本!」を受賞した全作品のあらすじとおすすめポイントを紹介していきます。
カメラマンをしている矢島拓海のもとに、1枚の絵ハガキが届きました。差出人は、血の繋がらない兄。2年前に南極で死んだはずです。
同じ頃、拓海は南極の越冬隊に密着取材をすることになりました。しかし越冬隊に事件が起こり、拓海はその犯人として疑われることになってしまいます。
- 著者
- 神山 裕右
- 出版日
- 2008-09-12
2019年の本屋大賞発掘部門で「超発掘本!」に選ばれた、神山裕右の作品。南極という極寒の地を舞台にしたミステリ―です。「超発掘本!」の推薦コメントでも、越冬隊が殺されていく展開に震えながら読んだと感想がありました。
南極で取材をしながら、義兄の事件の真相を探る拓海。そんななかで越冬隊の殺人事件も起き、2つの謎が複雑に絡みあいながらやがて繋がっていく構成が見事です。
南極という広大すぎる「密室」で起こるミステリー。登場人物も多く、誰が敵か味方かもわからないスリル満点な展開を楽しめる一冊になっています。
主人公は、売れない作家の島崎潤一。ある日、「富士の樹海で行方不明になってしまった息子の伝記を書いてほしい」と、ゴーストライターの仕事が舞い込みました。
乗り気はしないものの高額のギャラにつられて、仕事を引き受けた島崎。依頼人の館で膨大な資料と格闘し、息子・小松原淳の関係者にも取材を進めていきますが、彼の周りでさまざまな異変が起こるようになります。
- 著者
- 折原 一
- 出版日
- 2016-11-10
2018年の本屋大賞発掘部門で「超発掘本!」に選ばれた、折原一の作品。ホラー要素をはらんだミステリー小説です。
使い分けられた5つの文体、所々に挿入される童謡「赤い靴」の歌詞、誰のものかわからないモノローグ……技巧を凝らした構成が特徴。折原は「叙述トリックの名手」と呼ばれる作家で、本作でも計算されつくしたトリックに騙されてしまうでしょう。
練られたプロットで先が気になって仕方なく、文庫本で600ページ超えの大作ですが、一気読みしたくなってしまう作品です。
人は何かに熱中したり注目したりしているとき、目の前にゴリラの着ぐるみを着た人が現れても見逃してしまう……。
私たち人間は、自分の見たものや記憶しているもの、また自分の考えた因果関係を信じてしまいがちです。しかし、それらすべてが「信用できない」ものである可能性に気づいている人は、少ないのではないでしょうか。
人の心を科学する「心理学」を用いて、日常生活に潜む「錯覚」について語ります。
- 著者
- ["クリストファー チャブリス", "ダニエル シモンズ"]
- 出版日
- 2014-08-06
2017年の本屋大賞発掘部門で「超発掘本!」に選ばれた作品。クリストファー・チャブリスとダニエル・シモンズという2人の心理学者が執筆したノンフィクションです。
本作を推薦したのは、「文庫X」という中身の見えない本を売る企画を実行した、さわや書店フェザン店の書店員。「文庫Y」として売り出そうかと考えたほど、多くの人に知ってほしかったといいます。
心理学というと、「心理テスト」や「人の心を読む」というイメージがあるかもしれません。しかし実際は、人の心、認知を解き明かす学問。注意、記憶、自信、知識、原因、可能性という6つのテーマにまつわる錯覚をとりあげ、人の認知の曖昧さ、不十分さを立証していきます。
日常的な場面を当てはめて説明してくれているので、わかりやすいのが魅力的。人間の限界を知ることができる一冊です。
早稲田大学出身の女性編集者、二階堂奥歯がWEB上で公開していたおよそ2年分の日記と、彼女の関係者のコラムをまとめた作品。
二階堂奥歯は2003年4月まで日記を書き残していましたが、自死により、25歳という若さでこの世を去ってしまいました。そんな彼女の愛読書や、日常生活、そして苦悩が綴られています。
膨大な読書経験をもとに自らの心と向き合い、真摯に生きてきたひとりの女性の姿が浮かび上がってくるでしょう。
- 著者
- 二階堂 奥歯
- 出版日
- 2020-02-06
2016年の本屋大賞発掘部門で「超発掘本!」に選ばれた、二階堂奥歯の作品です。
本作を読みはじめてまず驚くのが、彼女の圧倒的な読書量と関連する知識でしょう。幻想文学を愛していた二階堂奥歯ですが、実に多岐にわたるジャンルの本を読み、レビューを残しています。どこで出会い、何を思ったのかが無邪気なまでの文章で綴られているのです。
しかし後半になるにつれて、希死念慮よりももっと強い思考の渦が、彼女からあふれていることがわかります。全身で世界のあらゆるものを感じ、それを自分の言葉で表現した聡明な二階堂奥歯。この日記を書いていなければ違った未来があったのかもしれないと思うほど、本作に書かれている言葉たちは鋭く、純粋で美しいのです。
本作を読む前と後で、二階堂奥歯を知る前と後で、きっと読者の何かが変わるはず。けっして明るい内容ではありませんが、「超発掘本!」にふさわしい一冊です。
既刊本からおすすめ作品を選ぶ、本屋大賞発掘部門の「超発掘本!」を紹介しました。魅力ある作品は、時が経っても色あせないことがわかるでしょう。気になったものがあればぜひ読んでみてください。