ドイツ文学は難解で読みにくく、手を出しづらいジャンルだと思っている方も多いかもしれません。しかし実際は、時代を超えて世界中で読み継がれている作品がたくさんあります。この記事では、ドイツを代表する文豪の代表作や、ドイツ人兄弟が編纂したグリム童話などをご紹介。教養としても読んでおきたいものばかりですよ。
裕福な家庭で育ったウェルテルは、自然や絵を愛する芸術家気質の青年でした。
新しく住むことになった町の舞踏会でシャルロッテという女性と知り合い、彼女に婚約者がいることを知りつつも夢中になってしまいます。1度は諦めて村を去るものの、彼女への想いは消えることはありません。
新しい土地で就いた仕事がうまくいかなくなったことをきっかけに、再びシャルロッテがいる町へと戻ってきてしまいました。しかしすでに彼女は結婚していて……。
恋い焦がれたウェルテルが起こした行動とは。
- 著者
- ゲーテ
- 出版日
ドイツの文豪、ゲーテの代表作。1774年、ゲーテが25歳の時に発表された書簡対小説で、彼自身の実体験をもとにしたといわれています。刊行されるやいなやヨーロッパ中でベストセラーとなり、いまも世界各国で読み継がれています。
物語は、感受性豊かなウェルテルという青年が、友人へ宛てた手紙という形式で進んでいきます。シャルロッテへの許されぬ愛と苦悩、小姑のように煩わしい上司へのいら立ち、そして孤独心が赤裸々に語られているのが特徴です。
「世の中のいざこざの因になるのは、奸策や悪意よりも、むしろ誤解や怠慢だね」(『若きウェルテルの悩み』より引用)
自分にはまったく悪気がないのに、なぜが恋も仕事もうまくいかない。そんなウェルテルの苦しみが口語体で巧みに表現されているので、感情移入しやすいのではないでしょうか。
ナポレオンも愛読したという、時代を超えた名作。教養としても読んでおきたいでしょう。
失業し、生活に困っていた青年、シュレミール。ある日、灰色の服を着た怪しい男に話しかけられました。いくらでも金貨が出てくる財布と引き換えに、「影」を渡せというのです。
こうして影をなくした代わりに大金持ちになったシュレミールですが、まわりの人からは気味悪がられてしまいます。すぐに後悔するのですが……。
- 著者
- シャミッソー
- 出版日
- 1985-03-18
1814年に刊行されたアーデルベルト・フォン・シャミッソーの作品。彼はフランス生まれですが、フランス革命時にドイツに亡命し、ドイツ軍に入隊してナポレオン戦争に出征もしています。
影をなくして周囲からは冷遇され、蔑まれ、辛い思いをする主人公。それまでは影の存在すらも意識していなかったのに、いざなくしてから、影がないと明るい世界ではまっとうな人間として扱ってもらえないことを知るのです。
しかしシュレミールは、そんな状況のなかでも自分の未来を模索していきます。魂と引き換えに影を返すという新たな取り引きに応じることはなく、影がないまま自分が何をするべきなのか見出していくのです。
作中の「影」が何を意味しているのかは、読者の置かれている状況や心境によって異なってくるでしょう。童話のような雰囲気で読みやすいので、ドイツ文学初心者の方にもおすすめです。
過酷な受験勉強を乗り越えて、神学校に2位の成績で入学したハンス少年。町中の期待を一身に背負い、寮生活をしながら勉強に励んでいます。
仲良くなった同部屋のハイルナーは、規則に縛られず自由奔放で、ハンスとは正反対の性格。そんな彼を見ているうちに、ハンスは自分の生き方に疑問を抱くようになっていくのです。
やがて勉強に身が入らなくなり、ついには神学校を退学。繊細で生真面目な少年に起きた悲劇とは……。
- 著者
- ヘルマン ヘッセ
- 出版日
- 1951-12-04
1905年に刊行されたヘルマン・ヘッセの作品。ヘッセは1946年に「ノーベル文学賞」を受賞したドイツ人作家です。
神学校に入学した後にハンスが感じる苦悩や挫折は、同じく少年時代に神学校に行き、心を病んでしまったヘッセ本人の体験にもとづいています。
「きみはどんな勉強でも好きですすんでやっているのじゃない。 ただ先生やおやじがこわいからだ。」(『車輪の下』より引用)
教師や牧師に言われるがままに勉強を続けていたハンスは、自分を非難するハイルナーに反感を覚えるどころか、惹かれていきます。大人の言うことを聞くいい子でいたい気持ちと、そんなものは無視して自分の思うがままに生きたいという葛藤は、大なり小なり誰しも経験したことかもしれません。
結局、神学校を辞めたハンスは、挫折感や劣等感に苛まれながら救われることなく人生を終えることに。人生において本当に大切なことは何なのか、考えさえられる名著です。
借金を抱えた両親を支えるため、そして妹を音楽学校へ進学させるために、必死で働いていたグレゴール。ある朝ベッドの上で目を覚ますと、巨大な毒虫に変身していました。
これまで必死に支えてきたはずの家族は、彼のことを気持ち悪がって見て見ぬふりをし、家計の心配をしています。
孤独と無力感を募らせるグレゴールの運命とは……。
- 著者
- フランツ カフカ
- 出版日
1915年に発表された、フランツ・カフカの代表作。カフカは現在のチェコで、ユダヤ人の家庭に生まれました。
朝目を覚ますと虫に変身していた、という驚くような冒頭ですが、なぜ虫になったのかということは一切触れられずに物語が進んでいきます。
変わらずに人間の心をもっていたとしても、毒虫になってしまったグレゴールに対し、家族は冷たく接します。暴力を振るい、やがて食べ物も与えなくなるのです。たとえ家族であろうとも、姿かたちが変わってしまい、意思疎通をはかれなくなった時、愛情をもち続けるのは不可能なのでしょうか。
グレゴールが自室でひっそりと息を引き取るなか、残りの家族は数ヶ月ぶりに揃って外出するシーンはあまりにも残酷。「不条理文学」といわれる本作をどうしてカフカが書いたのか、思いをめぐらせてみてください。
時は第一次世界大戦前。造船会社に就職することが決まっていた青年ハンスは、結核を患ういとこをお見舞いするために、スイスの山奥にある療養施設サナトリウムへ向かいます。
当初は3週間で帰る予定でしたが、なんとハンス自身にも結核の初期症状が見つかり、治療のためにそのまま滞在することになりました。世界中から患者が集まる隔離された山の上で、自分の生き方を見つめ直します。
- 著者
- トーマス・マン
- 出版日
- 1969-02-25
1924年に刊行されたトーマス・マンの作品。執筆になんと12年間もかけたそうで、マンはその後1929年に「ノーベル文学賞」を受賞しました。
また本作は、ゲーテ以降ドイツで形成された「教養小説」のひとつとして知られています。教養小説とは、主人公がさまざまな体験をすることで心身ともに成長する様子を描いたもの。作中でも、山の上の隔離された場所で、ハンスが自己の在り方を模索し続けていきます。
結核患者たちは、死生観や宗教、時間概念、愛情表現などありとあらゆるテーマについて議論と主張を重ねます。これがとにかく示唆に富んでいて濃厚。死と病が常に隣あわせにある魔の山には、どこか非現実的な空気が流れ、そのなかであらゆる思考をめぐらせる様子を堪能できるでしょう
不幸な境遇にも負けない強さを持つ灰かぶり、命がけの戦いをくり広げるヘンゼルとグレーテル、実の母親に恨まれた白雪姫……絵本や児童書などで親しまれているグリム童話ですが、もともとのストーリーは、今日知られているものとは大きく異なっています。
グリム童話の、本当の結末とは……?
- 著者
- グリム兄弟
- 出版日
『グリム童話』は、ヤーコプ・グリムとヴィルヘルム・グリムという兄弟が集めた、ドイツに伝わる昔話を集めたもの。彼らが創作したわけではありませんが、1812年に初版が発表されて以来、編纂者であるグリム兄弟によって何度も書き換えられています。
本作は、彼らが書き換える前のグリム童話が36編収録されているもの。子ども向けになる前の、残酷で不思議なストーリーを読むことができるでしょう。
欲まみれの者や残酷すぎる者が登場したり、理不尽すぎる出来事が起こったり、驚くべき急展開を迎えてバッドエンドとなったりと、収録されている物語はまさに大人向け。常識を覆させられる一冊です。