「本屋大賞」2020年のノミネート全10作品のあらすじとおすすめポイントを紹介!【前編】

更新:2021.11.21

本を選ぶ時に迷ったら、誰かがおすすめしているものを読んでみようと考える人も多いのではないでしょうか。「本屋大賞」は、読者にとって一番身近な書店員がまさにおすすめしているもの。この記事では、2020年にノミネートされた全10作品を、前編と後編に分けて紹介していきます。

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「本屋大賞」とは。2020年の大賞発表はいつ?

 

「本屋大賞」とはNPO法人「本屋大賞実行委員会」が運営する文学賞。12月1日から11月30日の1年間に刊行された日本の小説を対象にして、毎年選考がおこなわれています。

最大の特徴は、その名のとおり全国の書店員たちが受賞作品を選ぶということ。アルバイトやパートの方も含んでいます。「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本」というキャッチコピーを掲げ、読者ともっとも近い位置にいる書店員が現場から出版業界を盛り上げようと設立されました。1次投票で選ばれた上位10作品がノミネート本として発表され、その後2次投票で大賞が決定します。

第1回は2004年におこなわれ、大賞を受賞したのは小川洋子の『博士の愛した数式』。受賞の2年後に映画化もされました。ほかにも受賞作はメディアミックスされる傾向が強く、読者が求めている魅力ある作品が選ばれているといえるでしょう。

2020年の「本屋大賞」の発表は4月7日です。この記事では、上位10作品にノミネートされたすべての小説のあらすじとおすすめポイントを、【前編】と【後編】に分けてご紹介していきます。

 

青年が水墨画で生命の息吹を取り戻していく小説『線は、僕を描く』

 

大学生の霜介は、交通事故で両親を亡くし、感情の薄まった世界で生きています。ある時、展覧会場でアルバイトをしたことをきっかけに、水墨画の巨匠・篠田湖山と出会い、才能を見出されて言われるがままに弟子入りすることになってしまいました。

これに不満を募らせたのが、湖山の孫の千瑛です。すでに水墨画の道を志していた彼女は、突然現れた素人が湖山に気に入られたことに憤慨し、翌年の「湖山賞」をかけて霜介と競うことを提案します。

2人の関係と、勝負の行方はどうなるのでしょうか……。

 

著者
砥上 裕將
出版日
2019-06-27

 

自身も水墨画家である砥上裕將の、デビュー作です。「本屋大賞」にノミネートされたほか、「メフィスト賞」を受賞しています。

何ごとにも無感動になってしまった主人公が、水墨画を描くことで心の傷と向きあい、ゆっくりと息を吹き返していく物語。タイトルが「僕は、線を描く」ではなく「線は、僕を描く」となっていることからも、水墨画を描くことで生命を吹き込まれていく再構築の様子が想像できるでしょう。

線1本で、墨の濃淡で表現をする水墨画は、繊細でありながら奥深いもの。静謐さを漂わせつつも、己の本質を探り、道を究めていく熱いものを感じる作品です。ほのかに見え隠れする2人の恋模様にもご注目。まっすぐで美しい一冊です。

 

書店員の苦悩と喜びが詰まったお仕事小説『店長がバカすぎて』 

 

主人公の京子は、28歳。吉祥寺の書店で、「契約社員」として働いています。仕事のできない店長をはじめ、関係者のバカさ加減に頭を悩ませながら、本が大好きという一心で働いていました。

そんな彼女の心の支えになっていたのが、憧れの先輩書店員、小柳さんです。ところが、彼女から突然、店を辞めることになったと告げられて……。

 

著者
早見和真
出版日
2019-07-13

 

「本屋大賞」の選考において主役を務める「書店員」を主人公にした、早見和真の作品。彼女たちが抱える苦悩や「あるある」がコミカルに描かれ、リアルすぎると話題になったそうです。

京子の時給は998円。このまま書店で働き続けるか、辞めるか常に迷っています。バカすぎる店長の様子を見ていると最初は呆れてしまいますが、読み進めるうちに愛着がわいてきてしまうのが不思議な魅力。何はともあれ、本に対する愛情にあふれていることがわかるからでしょう。

物語のキーワードは、「追体験」です。本好きであれば1度は考える、書店で働きたいという夢をまさに追体験できるでしょう。目まぐるしくスピーディーに展開し、一気読み必至の一冊。ラストの意外なオチまでお楽しみください。

 

出産についてさまざまな価値観を投げかける小説『夏物語』

 

小説家として生計を立てている夏子。「自分の子どもに会いたい」と思い、パートナーも性行為も必要としない出産方法を考えます。

そんななかで、精子提供で生まれて本当の父親を探している、逢沢潤という男性と出会いました。夏子はしだいに彼に想いを寄せていくのですが、彼の恋人は出産に対し「親たちの身勝手な賭け」だと言い、子どもを求める夏子を問いただすのです。

 

著者
川上 未映子
出版日
2019-07-11

 

これまでも命や生にまつわる作品を発表してきた川上未映子の小説。この世に生命が誕生する意味とは……果てしなく深層にある問いを読者に投げかけてきます。

子どもをもつか、もたないかというシンプルな2択に見えて、出産というものについて登場人物たちはそれぞれの意見をもっています。多面的でフェアな姿勢を崩すことなく、どれも否定しないように描かれているのが特徴でしょう。

哲学的で難しく考えてしまいがちですが、夏子の軽快な関西弁の語りと美しい文章で、読者を先のページへと導いてくれます。果たして夏子は、どんな選択をするのでしょうか。

 

「直木賞」受賞!少数民族の生きざまを描いた歴史小説『熱源』

 

物語の舞台は、2020年現在も日本とロシアが互いに領有権を主張しあう島「樺太」です。

日本から文明を押しつけられ強制的に移住させられたアイヌ人と、ロシアの厳しい同化政策によって支配されているポーランド人。2人の主人公が、日露戦争後に樺太で出会います。

 

著者
川越 宗一
出版日
2019-08-28

 

デビュー作である『天地に燦たり』で「松本清張賞」を受賞した、川越宗一の2作目。本作は「直木賞」を受賞しています。

本作に登場する2人の主人公は、実在する人物。アイヌのヤヨマネクフは、開拓使から北海道へ集団移住を強いられ、天然痘やコレラで家族を亡くすものの、船を使って自力で樺太に戻ります。一方でリトアニア人のブロニスワフは、ロシア皇帝暗殺計画にかかわったとして樺太に流刑されてきました。

彼らはそれぞれ、アイデンティティを奪われそうになりながらも、命を懸けてありのままに生きることを守り抜くのです。力強く描かれる樺太の自然の風景描写が、彼らのもつエネルギーを体現しているよう。文明や民族、そして生きることについて考えさせられる作品です。

 

消えた一家を建築士が追うミステリー『ノースライト』

 

主人公の青瀬は一級建築士の資格をもっていましたが、バブルの崩壊とともに仕事が激減。妻とも離婚をしてしまいます。

しかし、ある日「あなたが住みたいと思う家を」という依頼を受けて設計した「Y邸」が絶賛され、仕事への情熱を取り戻しました。

ところが、依頼者の一家が「Y邸」に移り住まずに、消えてしまったとのこと。急いで向かってみると、「Y邸」には電話機と、ぽつんと置かれた一脚の椅子があって……。

 

著者
横山 秀夫
出版日
2019-02-22

警察小説の第一人者で、これまでも数々の文学賞を受賞してきた横山秀夫の作品。

「Y邸」は、北から入る柔らかい光「ノースライト」を取り入れて設計した、青瀬の理想の家でした。しかしそこに住むはずだった一家が謎の失踪。清々しい信濃の風景のなかに建つ無人のデザイナーハウスが、序盤からもの悲しさを投げかけてきます。

残されていた椅子は、伝説の建築家であるタウトが手掛けたものでした。タウトの歴史と青瀬の過去が絡みあい、謎を追うことで青瀬がひとりの男として再生していくさまは、徐々に光が差していくようです。家族の再生と、建築士としての生きざまも感じられるミステリーになっています。

 


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