「本屋大賞」2020年のノミネート全10作品のあらすじとおすすめポイントを紹介!【後編】

更新:2021.11.21

読者にとって一番身近な書店員が選ぶ「本屋大賞」。受賞作品はドラマ化や映画化されることも多く、毎年注目が集まっています。この記事では、2020年にノミネートされた全10作品を、前編と後編に分けてご紹介。気になるものから読んでみてください。

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「本屋大賞」2020年のノミネート全10作品のあらすじとおすすめポイントを紹介!【前編】

おなじみの昔ばなしがミステリーに⁉『むかしむかしあるところに、死体がありました。』

 

誰もが知っている日本昔ばなしを、ミステリーにした5つの短編集です。

アリバイトリックを使う「一寸法師」、ダイイングメッセージを残した「花咲かじいさん」、叙述トリックを利用した「鶴の恩返し」、竜宮城で密室トリックを使った「浦島太郎」、「桃太郎」では鬼が島がクローズドサークルに……。

 

著者
青柳 碧人
出版日
2019-04-17

 

学習塾で子どもたちに勉強を教えるかたわら、数学ミステリー小説を執筆してデビューした青柳碧人の作品。本作の最大の魅力は、昔ばなしをパロディやコメディにしたのではなく、しっかりとしたミステリーに仕上げている点でしょう。

また清廉潔白なイメージのある登場人物たちが、「人間くささ」をさらけ出してヒューマンドラマを見せてくれるところに斬新な面白さが詰まっています。

どの話もバラエティに富んでいて巧妙に練られているので、いつの間にか謎解きに夢中になってしまうはず。ミステリーの基本の手法が使われているので読みやすく、ミステリー初心者にもおすすめの一冊です。

 

眠り続ける奇病と殺人事件の謎を解く小説『ムゲンのi』 

 

精神科医をしている愛衣のもとに、ずっと眠り続けて起きることのない難病「イレス」の患者たちが搬送されてきました。

原因不明の奇病に戸惑い治療方法を探せない愛衣ですが、霊媒師をしている祖母から、患者の夢幻の世界に入り魂の救済「マブイグミ」をすることが、彼らを救う唯一の方法だと聞きます。そして祖母から受け継いだ能力を使い、患者の夢幻の世界に飛び込んでいくのです。

 

著者
知念 実希人
出版日
2019-09-18

 

現役医師である知念実希人の作品。ファンタジー色の強い医療ミステリーになっています。

「イレス」は、その人の葛藤や絶望によって引き起こされるものでした。夢幻の世界に入ってマブイグミをすることで、彼らのトラウマが現実世界で起こっている連続殺人事件と関係があることがわかってきます。さらにその事件は、23年前の愛衣自身のトラウマにも繋がっていて、さまざまな出来事が絡みあいながら加速する展開に、息つく暇がありません。

4人目の患者の正体がわかった時のどんでん返しと、タイトルの意味に気づく終盤には、胸がいっぱいになるはず。最後はあたたかい気持ちになれる物語です。

 

すべてが伏線!3冠を獲得したミステリー小説『medium霊媒探偵城塚翡翠』

 

これまで数々の難事件を解決してきた、推理作家の香月史郎。正体不明の連続殺人鬼を追っていたある時、死者の言葉を伝える能力をもつという霊媒師の城塚翡翠と出会います。

事件解決の糸口をつかむために翡翠の力を借りようとするのですが、彼女の発言には証拠があるわけではありません。

香月は、翡翠の力を手掛かりに推理をし、論理的な証拠をつけて事件を解決していきます。

 

著者
相沢 沙呼
出版日
2019-09-12

 

「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」「2019年ベストブック」で1位を獲得した相沢沙呼の作品。ミステリー作家の香月と、霊媒師の翡翠がタッグを組んで殺人事件に挑みます。

4章それぞれで事件が起きるのですが、最後まで読むと全部をひっくり返されます。帯に書かれた「全てが、伏線」という言葉通り、真実を見極めるためにはどんな些細なことでも見逃してはいけないのです。衝撃的な裏切りの展開に、唖然としてしまうかもしれません。

読後はつい「お見事」と言ってしまいたくなるほど。爽快に騙されるミステリーの醍醐味を体感できるでしょう。

 

死と向き合う主人公の強さを描いた感動小説『ライオンのおやつ』

 

若くして病に侵された雫。33歳のある日、余命を告げられました。

最後の場所として、瀬戸内海に浮かぶ島のホスピスを選びます。そこでは毎週日曜日に、もう1度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があるのですが、雫はどうしてもおやつを選べないでいました。

 

著者
小川 糸
出版日
2019-10-08

 

これまでもたびたび「本屋大賞」にノミネートされている小川糸の作品。デビュー作の『食堂かたつむり』と同様に、本作でも食べ物の描写が光ります。

主人公の雫は、やがてやって来る死と向き合う強さをもっています。瀬戸内海に浮かぶ島のホスピスで食事を楽しみ、ゆっくり眠り、おいしい空気を吸いながら穏やかな景観に包まれて、人生で本当にやりたかったことについて考えをめぐらせるのです。

病状が進むにつれてできないことが増えていき、葛藤して心を揺らす様子を見るのは辛いですが、柔らかく優しい文章が同時に読者の心を癒してくれるでしょう。雫の死は、立派だったとまで思わせてくれる一冊。死ぬことと生きることについてじっくり考えられる作品です。

 

誘拐犯と少女の心のつながりを描いた小説『流浪の月』

 

家に居場所がない9歳の少女、更紗。公園で出会った19歳の青年、文から家にくるかと声を掛けられました。

それから2人は、文の家で楽しく幸せな日々を過ごすのですが、2ヶ月後、文は誘拐犯として逮捕されてしまいます。

「小児性愛者による誘拐事件の被害者」として扱われる更紗。しかし彼女は、文を求め続けていました。

 

著者
凪良 ゆう
出版日
2019-08-29

 

BL漫画の原作者としてその名を知られている凪良ゆうの作品です。

文を心の拠り所としていた更紗。しかし世間は、更紗を守ろうとするがゆえに、正義をかざして加害者と被害者というレッテルを押し付けます。誰にも理解されず、孤独に傷ついていく更紗に、世間を納得させる術はなかなかありません。真実と事実は違うという言葉が胸に刺さるでしょう。

15年という時を経て再会した2人は、どんな道を選ぶのでしょうか。胸が苦しくなるほど切なくて細やかな心理描写が響き、読後も深い余韻を残す作品です。

 

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