「ファンタージエン」シリーズの魅力を全巻紹介!『はてしない物語』の別の物語

更新:2021.11.21

ドイツの児童文学作家、ミヒャエル・エンデの代表作『はてしない物語』。「ファンタージエン」シリーズは、エンデの死後に複数のドイツ人作家によって描かれた、『はてしない物語』のいわばサイドストーリーです。原作では描かれなかった「別の物語」の魅力を紹介していきます。

ブックカルテ リンク

ファンタージエンとは。『はてしない物語』の「けれどもこれは別の物語」

 

ドイツの人気作家ミヒャエル・エンデが手掛けた『はてしない物語』。1979年に発表された児童向けのファンタジー小説です。

主人公のバスチアン少年は、愚鈍ないじめられっ子。ある日、意地悪をしてくる級友から逃れるために駆け込んだ古本屋で、あかがね色の美しい装丁本「はてしない物語」に出会います。

そこには、「虚無」に浸食されて滅亡寸前の国ファンタージエンの世界が描かれていました。物語のなかのアトレーユ少年は、女王の命令によって「救い主」を探す旅に出かけます。そして、「救い主」が自分のことだと気づいたバスチアンは、ファンタージエンへ導かれ、国の危機を救うヒーローとなるのです。

作中では、ストーリーが本筋からそれた際に「けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときにはなすことにしよう」というフレーズが用いられ、メインストーリーに戻ることがくり返されます。

「別の物語」というのをエンデは作中ですべて語ることはなく、読者はおのおので想像を膨らませていました。

1995年にエンデが亡くなった後、ドイツの作家たちが外伝や続編を創作するプロジェクトを始動させます。さまざまなスピンオフ作品が発表され、ファンタージエンの世界が21世紀に蘇りました。

ここからは、『はてしない物語』の「別の物語」である「ファンタージエン」シリーズを紹介していきます。


▶『はてしない物語』の魅力をくわしく知りたい方はこちら
『はてしない物語』における「虚無」を考察!布張り装丁や続編の魅力も紹介

 

『ファンタージエン 秘密の図書館』のあらすじと魅力を紹介

 

バスチアンが逃げ込んだ古本屋の店主カール・コンラート・コレアンダーの、若き日の冒険を描いた『はてしない物語』の前日譚です。

ブルドッグにたとえられるほどの年寄りで、無愛想なカール。彼はなぜ、あのあかがね色の本を持っていたのでしょうか。

本を愛するカール青年もまた、バスチアンとは違う方法でファンタージエンの世界へ誘われていきました。そして、書かれなかった本、失われた本を所蔵する秘密のファンタージエン図書館で起きている危機に直面します。カールもまた「救い主」だったのです。

 

著者
ラルフ・イーザウ
出版日
2005-09-29

 

2003年に刊行されたラルフ・イーザウの作品。日本では2005年に翻訳出版されました。イーザウは、システムエンジニアの仕事の傍らでファンタジー小説を書き始め、ミヒャエル・エンデにその才能を見出され作家デビュー。代表作「ネシャン・サーガ」シリーズで、児童文学作家としての地位を確立しています。

秘密の図書館では次々と本が姿を消し、図書館長のトルッツも行方不明に。カールは本とトルッツを探すために奔走します。

作中の時代は、ドイツがヒトラー独裁下にあった1938年。反体制と見なされた本が焚書処分されていた暗黒の時代と、ファンタージエンを浸食する「虚無」を重ねているのです。

『はてしない物語』にも出てくる人物やアイテム、セリフなどがファンの心をくすぐり、原作では語られなかった伏線や謎が明らかに。ミヒャエル・エンデに見出されたラルフ・イーザウのセンスを感じられるでしょう。『はてしない物語』で感じられたダークな部分はあえて取り除いた、エンタテイメント性の高い作品になっています。

 

『ファンタージエン 愚者の王』のあらすじと魅力を紹介

 

ファンタージエンにあるじゅうたん織りの村シリドムで生まれた、レスという少女を主人公にした物語です。

レスはごく普通の女の子ですが、日ごろから機織りとなる自分の運命に疑問を抱いていました。さらにファンタージエンに「虚無」が広がっているにも関わらず何もしない大人たちに嫌気が差し、世界を救うために旅立つのです。

レスが旅立ったのは、アトレーユが「救い主」を探す旅に出たのと同じ時。あの時、アトレーユ以外にも使命感にかられて冒険していた者がいたかもしれない……と思いをめぐらせ、生まれた物語です。

 

著者
ターニャ・キンケル
出版日
2006-03-08

 

ドイツの人気作家ターニャ・キンケルの作品。キンケルは10歳から小説を書きはじめ、18歳で最初の文学賞を受賞した才媛で、ドイツの代表的な歴史物のベストセラー作家です。

旅に必要な魔法の絨毯を手に入れるために、レスは自らを傷つけます。さらに思いがけず絨毯の持ち主を焼き殺してしまい……彼女の旅は前途多難です。血と罪でできた道に多くの敵と試練が現れるのですが、それでも勇敢に進んでいきます。

しかし最終的にレスは、「虚無」に対して何もすることができません。それが、ファンタージエンに「救い主」を呼び込むための伏線ともいえる物語になっているのです。もしかしたらほかにも、彼女のような物語がたくさんあるかもしれないと、さらに想像を膨らませてくれる一冊になっています。

 

『ファンタージエン 忘れられた夢の都』のあらすじと魅力を紹介

 

バスチアンがファンタージエンを「虚無」から救った直後の物語です。

主人公は2人。両親を「虚無」に奪われ、ファンタージエンで唯一「忘却」から守られた夢の都「セペランサ」を目指す少年カユーンと、「セペランサ」の長老の娘サラーニャです。

 

著者
ペーター・フロイント
出版日
2006-09-29

 

ドイツの人気作家ペーター・フロイントの作品。フロイントはミュンヘン大学に在学中からフリージャーナリストとなり、その後、小説家や脚本家として活躍した人物です。

『はてしない物語』では救世主だったバスチアン。しかし彼はそれまでのファンタージエンにはなかった場所や怪物を作りあげ、本作ではバスチアンに対して感謝をしつつもあまり好意を抱いていない人たちが描かれるのが面白いところでしょう。

自分が捨て子だと知ったサラーニャは、本当の両親について調べはじめます。一方で、妹と旅をするカユーンは、夢狩り人に追われることに。やがて彼らは「忘れられた夢」を探すところで交錯し、ひとつの運命に導かれていくのです。

『はてしない物語』に登場する邪悪な魔術師サイーデや、盲目の鉱夫ヨルなどが登場するのも魅力的。バスチアンが変えたファンタージエンは一体どんな世界になっているのか、覗いてみてください。

 

『ファンタージエン 夜の魂』のあらすじと魅力を紹介

 

バスチアンがやって来る前のファンタージエン。青い髪族の村には、タハーマという少女が暮らしています。

村の長老であるタハーマの父は、「虚無」に襲われるなか、ファンタージエンの女王「幼ごころの君」のもとへ助けを求めて旅立ちました。

しかし、村人たちは彼の帰りを待つことなく、ファンタージエンで唯一「虚無」に襲われないといわれる桃源郷ナザグルを目指し、村を出ていってしまうのです。タハーマは父を待つため、ひとり村に残ります。

 

著者
ウルリケ・シュヴァイケルト
出版日
2007-03-17

 

2007年に刊行された、ウルリケ・シュヴァイケルトの作品。作者は中世を舞台にした歴史小説を得意としています。

瀕死の状態で村に帰ってきた父から、青い水晶クリソドゥルを受けとったタハーマ。村人の後を追うかたちで、ひとり旅に出発します。

「虚無」の影響を受けないというナザグルですが、膨張を続けているようで、しかも「影の王」と呼ばれる謎の男が次々と人を殺しているという噂が。道中で出会った黒山の狩人族のセレダス、地霊小人のヴルグルックとともに、その謎の解明に挑みます。旅と冒険、そして少女らしいロマンスも楽しめる物語です。

 

『ファンタージエン 言の葉の君』のあらすじと魅力を紹介

 

緑の肌族の少年アトレーユ。『はてしない物語』では、ファンタージエンの危機を知り、「救い主」を求める旅に出ていました。原作では「救い主」がバスチアンであることに気づきつつも、ファンタージエンは崩壊してしまいます。

本作では、アトレーユが「救い主」を探す旅の道中における「別の物語」が描かれています。霧小人の村に立ち寄り、高名な語り部の子孫だというキーライという少女と出会うのですが……。

 

著者
ペーター・デンプフ
出版日
2007-09-28

 

2007年に刊行された、ペーター・デンプフの作品。ペーターはドイツ語や身体言語、修辞学など「言葉」に関する専門家で、中学校や高校の教員を務めながら、歴史小説やノンフィクションなどを発表してきました。

霧小人はもともと、ファンタージエンに伝わるさまざまな「言葉」を集めていた種族。「言葉」を集めることで物語を紡ぎだしてきました。しかしその末裔で最後のひとりであるキーライは、いわゆる吃音で、すらすらと話すことができません。

アトレーユはそんなキーライに、「言の葉の君」を探す使命を託すのです。そしてキーライも、何かに突き動かされるように冒険の旅に出発。次々と謎めいた人々が近づいてきますが、彼女はひとつひとつ自分の眼で判断し、危機を乗り越えていきます。

果たしてキーライは、ファンタージエンを救えるという「言の葉の君」と出会うことができるのか、そして「言の葉の君」とは一体誰なのでしょうか。

 

『ファンタージエン 反逆の天使』のあらすじと魅力を紹介

 

「救い主」となったバスチアンのおかげで、世界中が喜びに沸いているファンタージエン。蝶乗りの少年ナディルは、師匠と仲間とともに音の町マンガラートへ旅行に出かけます。

しかし、何か様子が変です。実はナディルの祖父も数週間前にマンガラートを訪れ、行方不明になっていました。ナディルは祖父の居場所を探すのですが……。

 

著者
ヴォルフラム・フライシュハウアー
出版日
2008-03-25

 

2008年に刊行されたヴォルフラム・フライシュハウアーの作品。「ファンタージエン」シリーズのほか、ミステリー小説も手掛けています。

祖父について調べるうちに、マンガラートの地下に、封印された都市シランドルがあることを知ったナディル。しかし、「虚無」に打ち勝った正義の英雄であるはずの「番人」から敵視されます。

どうやらファンタジーエンでは、新たな異変が起こっているよう。マンガラートの謎とともに、ファンタージエンの成り立ちも描かれる壮大な物語になっています。

 

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る