青春の日々、教室の風景
教室の風景を思い出すことができる。かつて通っていた教室には確かに、いろんな種類の人がいた。この物語に出てくるこども達。‘‘笑われたい’’人も、斜に構えた人も優等生も、いわゆる不良と呼ばれる人も、いた。特に少年の思春期が描かれているので、自分が実際に通ってきたはずはないのだけれど、何故だか納得させられる。分かる気がするといった感触が不思議と、ある。男の人がこの本を読んだら懐かしく昔を思い出すんだろうか。「笑われたい」「バトンパス」「インステップ」「夏のこどもたち」から成る短編集。
くやしさを捨てながら走る
自転車を漕ぎながら、(教室であった出来事の)くやしさを捨てながら走っている……という始まりに早速心を持っていかれてしまった。くやしさを捨てながら走るっていう感覚、とても身に覚えがある。映画館で働く年上の女性に想いを寄せる高3の主人公植野、と今井。2人の、自分の気持ちを先に悟られまいとする微妙な言動の不自然さにリアリティがあって良い。そして今井の夢である「箏」に対する潔癖さと、それを言葉なくとも理解する植野との関係性が素敵で理想的でとても好きです。まさに青春の日々です。
悩んだり恋をしたり
「こうばしい日々」はアメリカに暮らす11歳の大介、「綿菓子」は小学生の‘‘みのり’’視点の物語です。大介は食堂でパーネルさんだけが器の縁にスープをこぼさないのをちゃんと自分で見て知っているし、お婆ちゃんに「みのりには恋はまだ分からないわね」と言われたって、みのりはちゃんとせつない恋をしています。そして2人とも、当たり前に悩みだってあるのです。11歳の頃の感覚っていくつかしか鮮明には覚えていないけれど、大人が思うよりも一人前に悩んだり恋をしたりしているんだよなぁと、思い出されました。