病院を舞台にした医療ミステリーは、数あるミステリージャンルのなかでも人気があります。ひと口に医療といってもその間口は広く、大学病院の最先端医療から在宅医療までさまざま。なかには現役の医師が執筆しているものもあるのです。この記事では、特におすすめしたい医療ミステリー小説を厳選してご紹介していきます。
諏訪野良太は、大学病院で働く2年目の研修医です。数ヶ月ごとに科を異動して勉強を続けているのですが、最終的に何科の医師になりたいのか、まだ決められていません。
人の心に寄り添うことが得意で、洞察力にも優れているという医者への適正が抜群のようにもみえる良太ですが、各指導医から「この科は向いていない」と言われることもあり、思い悩んでいるのです。
- 著者
- 知念 実希人
- 出版日
- 2018-03-29
医師免許をもち内科医として勤務した経験もある、知念実希人の作品です。2018年に刊行されました。
将来に悩む研修医の良太が、精神科、外科、皮膚科、小児科、循環器内科という5つの科を舞台に、患者と向き合いながら成長していく様子が、連作短編の形式で描かれています。
医者の仕事は患者に寄り添うことではなく治療をすること、と指導医から注意をされるものの、良太は患者を放っておくことができません。たとえば離婚をしてからODをくり返している女性患者が、なぜ毎月5日に退院できるよう病院に運ばれてくるのか……丁寧に話を聞いて状況を観察することで患者がついている嘘を見破り、ハッピーエンドに導きます。
最終的に良太がどの科を選ぶのかも見どころ。読了後は心があたたかくなる、ハートフルな医療ミステリーです。
日本がんセンターで呼吸器内科医をしている夏目のところへ、保険会社の調査部で働く友人から相談が持ちかけられました。
なんと夏目が余命宣告をしたがん患者が、生前保険金を受け取った後、完治している事例が相次いでいるというのです。
夏目が調査をしてみると、湾岸医療センターが浮上。夏目の大学時代の恩師である西條が理事長をしているのですが、その患者は大物政治家などの権力者揃いで……。
- 著者
- 岩木 一麻
- 出版日
- 2018-01-11
2017年に刊行された岩木一麻のデビュー作。「このミステリーがすごい!」で大賞を獲得し、テレビドラマ化もされました。岩木は国立がん研究センターで勤務した経験のある人物です。
がんの完全寛解が頻発する医療ミステリー。患者たちはリビングニーズ特約を使って保険会社からお金を受け取った後に、完治しています。殺人が起こらないのが最大の特徴でしょう。
結果的にがんを治しているのであれば、西條の行為は犯罪には見えませんが、その裏に隠された陰謀は恐ろしいもの。がんをどうやって消すことができるのか、その理由と方法が謎解きの焦点となる医療ミステリーです。
トリックは、医療やがんに対する知識がなくても理解できるもの。病院内部の事情も興味深く、最後まで緊張感を保ったまま読める作品です。
大学病院の総合診療科で10年間働いてきた水戸倫子。ある日、訪問クリニックへの異動を言い渡され、左遷されたのだと落ち込んでしまいます。
余命がわずかのため自宅で闘病する患者たちを訪ねるのですが、抗がん剤を拒否してたばこを吸い続ける女性や、筋ジストロフィーの子どもに関わろうとしない母親など、患者も家族も一筋縄にはいきません。
大学病院とはまったく違う環境で、葛藤しながらも在宅医療の現実に向き合っていきます。
- 著者
- 南 杏子
- 出版日
- 2018-07-12
2016年に刊行された南杏子のデビュー作です。南は編集者として出版社などで務めた後、30代になってから医学部に入学し、内科医として勤務しました。その後、夫の付き添いで通いはじめた小説教室で腕を磨き、本作を執筆したそうです。
登場人物の心情が丁寧に描かれながら、ところどころにミステリー要素が散りばめられているのが特徴になっています。倫子の仕事は、病気を治すというよりは、最期を看取るというもの。患者の心にくすぶっていたものをひとつひとつほどいて、穏やかな最期に向かっていく姿はすがすがしく、悲しみばかりではありません。
終末医療をしていくなかで、何がベストな選択なのか、考えさせらるでしょう。
大学病院の新生児室から、生後3日の女児が誘拐される事件が起こりました。その女児はダウン症と先天性心疾患を患っていて、数時間ごとに水分を与えなければ命にかかわる危険な状況。一刻も早く救出しなければなりません。
警察の捜査が進むなか、今度は入院中だった妊婦が急死する事態に。当初は看護師による医療ミスかと思われましたが、事故ではなく意図的な殺人だということが判明。さらにその看護師も遺体で発見され……。
- 著者
- 岡井 崇
- 出版日
- 2015-09-08
2011年に刊行された、小説家であり産婦人科医でもある岡井崇の作品。テレビドラマ化もされた医療ミステリーです。
タイトルにもなっている「デザイナーベイビー」とは、出生前に遺伝子の調整をされ、両親が望む見た目や能力をもって生まれてくる赤ちゃんのこと。遺伝子操作や卵子売買の是非、倫理観が作品のテーマになっています。
誘拐された女児も、殺された妊婦のお腹のなかの子も、不妊治療のすえに授かったこどもでした。複雑化していく2つの事件はやがて繋がり、衝撃の事実がわかってきます。
病院関係者や警察関係者、そして患者とその家族など登場人物は岐にわたり、舞台もアメリカへ移る壮大な物語。ストーリーは終盤で急展開し一気に解決へと向かうので、最後までお見逃しなく。
チーム・バチスタとは、心臓移植の代替治療で、難易度の高い心臓の手術である「バチスタ手術」をおこなうチームのこと。驚異的な成功率を誇っていましたが、手術中に患者が亡くなる事例が3件立て続けに起こってしまいました。
病院長の命で真相解明に駆り出されたのは、不定愁訴外来の医師である田口。厚生労働省の役人で、傍若無人に振る舞う白鳥とともに、真相を探ります。
- 著者
- 海堂 尊
- 出版日
- 2015-09-19
2006年に刊行された海堂尊のデビュー作。「このミステリーがすごい!」で大賞を受賞し、映画化やドラマ化もされたのでご存知の方も多いでしょう。
バチスタチームという少数精鋭集団のメンバーから、手術中に患者を死に追いやった犯人を見つけ出すというストーリー。作者の海堂も外科医や病理医を経験しているため、大学病院の人間関係や手術シーンのリアリティはさすがのものです。
医療技術そのものよりも人間関係にスポットを当てているのが特徴。特に田口と白鳥タッグの会話はコミカルで、医療系エンターテインメントミステリー小説といってもいいでしょう。読みやすい作品です。
研修医として心臓血管外科で働いている氷室夕紀。病院の医療ミスを暴く脅迫状を見つけてしまいました。警察に相談すると秘密裏に捜査が進められましたが、2度目の脅迫状が届いたことで明るみになり、患者たちは続々と転院していきます。
そんななか、自動車会社の社長である島原の手術がおこなわれることに。執刀医は、夕紀の指導医である西園です。
西園は、夕紀が中学生の時に彼女の父親の手術も担当していましたが、父親は手術中に亡くなっていました。夕紀は、その死因を疑って医師となったのです。
脅迫状の差出人、島原の手術の行方、そして西園が抱えている秘密とは……。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
2006年に刊行された、東野圭吾の医療ミステリー。テレビドラマ化もされました。
夕紀の父親の死因、父親の手術を担当していた医師のもとで働く夕紀、夕紀の母親は医師と再婚を考えていて……となかなか複雑な状況。さらに元警察だった夕紀の父親が当時追っていた事件なども絡み、ハラハラした展開が続きます。
「人間というのは、その人にしか果たせない使命というものを持っているものなんだ。誰もがそういうものを持って生まれてきてるんだ」(『使命と魂のリミット』より引用)
医師と患者、親と子など、それぞれの関係で自分が果たせる「使命」とは何なのか、考えさせられる一冊です。