第二次世界大戦が終わってから、世界経済のグローバル化が進み続けています。そのような国際情勢で、通貨価値の安定を目的に発足したのが「IMF」です。この記事では、加盟国数などの基本情報、設立された背景、役割、「世界経済見通し」と「4条協議」などをわかりやすく解説。また、おすすめの関連本も紹介していきます。
IMFとは「International Monetary Fund」の頭文字をとった名称で、日本語では「国際通貨基金」と訳される、国際連合の専門機関です。
第二次世界大戦中の1944年、アメリカなど44ヶ国が、大戦後の世界経済に関する国際会議(ブレトン・ウッズ会議)を開催しました。その席上で、通貨価値を安定させるための国際組織の必要性が提言され、この会議で結ばれた「ブレトン・ウッズ協定」にもとづき1945年に創設、1947年から業務を開始しています。
ほかにも「ブレトン・ウッズ協定」では、国際貿易に関するさまざまな規則が定められました。たとえば大戦で疲弊した経済を復興させるため、IMF以外に「IBRD(国際復興開発銀行、現在の世界銀行)」の設立も決定。これらの組織は、第二次世界大戦後の経済を安定させるために創られたといえるでしょう。
日本は、1952年にIMFに加盟。その後もIMFは順調に加盟国を増やし、2020年現在189ヶ国が参加しています。
IMFが設立された背景と目的には、第二次世界大戦の勃発が大きく関わっています。
1929年に「世界恐慌」が発生した後、資本主義圏の主要各国は相次いで経済混乱に陥り、自国産業の保護に走りました。そして「ブロック経済」を形成した結果、植民地や資源をあまりもたない日本やドイツ、イタリアは貿易圏からはじき出され、「第二次世界大戦」が起こる原因となったのです。
この時、各国が通貨を切り下げる「通貨安競争」をおこなったことも、経済の混乱に拍車をかけました。通貨を切り下げると自国産業の輸出が有利となりますが、一方で輸出相手国の経済を疲弊させ、失業者を生み出してしまうからです。
当時は国を超えて金融政策や為替を管轄する機関が存在せず、「通貨安競争」を抑止することができませんでした。その反省を踏まえて、各国間の金融政策を調整する国際機関として、IMFが設立されることになったのです。
ではIMFは、通貨価値を安定させるためにどのような活動をおこなっているのでしょうか。
IMFの主な役割は、主にこの3点です。
まずひとつ目についてです。IMFは国際収支に問題が生じた場合、加盟国と協力して金融支援を提供するための計画を立案します。そしてその計画を遂行することを条件に、短期的もしくは中期的な融資を通じて経済回復を援助しています。
ふたつ目の「サーベイランス」は、日本語で「政策監視」といい、金融危機を防止するために、加盟国の政策や、世界的な経済・金融の状況をモニタリングすることです。国別、地域別、グローバルの3種類が存在します。またIMFは、加盟国に助言をするだけでなく、地域経済の見通しについて発表をしています。
最後にみっつ目です。IMFは加盟国の能力開発のため、技術支援や研修を提供しています。具体的には税制や行政、支出管理、金融・為替政策、銀行・金融システムの監督と規制、法的な枠組みや統計などについて、政府や中央銀行の職員を対象に研修しています。
IMFは世界経済の中長期的な動向について、各国の経済状況を分析して「世界経済見通し(World Economic Outlook、略称WEO)」を発表しています。
「世界経済見通し」は、世界全体の経済成長率のほか、アメリカやユーロ圏、日本などの先進国、中国、インド、ブラジルなど新興国それぞれの経済成長についても分析をし、4月と10月に通常版、1月と7月に改訂版を発表しています。
同様の発表は世界各国がおこなっていますが、IMFは中立性の観点から評価されていて、今後の経済動向を見通す重要な指標としての役割を果たしているのです。
また先に述べた国別サーベイランスは、IMF協定第4条に規定されていることから「4条協議」とも呼ばれています。
4条協議は、基本的に1年に1回、加盟国に対しておこなわれるもの。IMFの担当者が加盟国を訪問し、その国の経済および金融部門における政策について調査・評価をおこないます。そしてその結果を踏まえて、財務担当者や国会議員などに助言をし、対策について協議をするのです。
このような活動を通じてIMFは、加盟国の経済や金融動向を監視しながら、経済危機を未然に防ごうとしています。
- 著者
- ["井出穣治", "児玉十代子"]
- 出版日
- 2014-05-16
本書の作者たちは、それぞれIMFと世界銀行の職員を務めた経歴があります。第1部ではIMF、第2部では世界銀行の実務について、職員の目線から解説しているのが特徴です。
どちらの組織も、名前こそ有名ですがその実態は意外と知られていません。国際金融機関の具体的な職務風景や、IMFが抱える目下の課題など、さまざまな側面を知ることができるでしょう。
組織の全体像を概観したうえでエピソードを紹介する構成となっているので、具体的にイメージをしやすくなっています。
- 著者
- デヴィッド・グレーバー
- 出版日
- 2016-11-22
本作は、IMFの解体を提言するなど刺激的な内容に満ちているもの。しかしただ批判するだけでなく、貨幣の根源にまでさかのぼって論考をまとめています。
通底するテーマは負債が人類の社会にもたらした影響と、負債が生み出す暴力が、どのような変化を生んだのか考察すること。さまざまな知見を駆使していて、800ページを超える大作ですが、文章は平易なので決して読みにくくはありません。
資本主義の行き詰まりが指摘される昨今、今後の情勢を考えるためのヒントを与えてくれるでしょう。