ミステリ―小説のなかに「日常の謎」というジャンルがあるのをご存知でしょうか。その特徴は、作中で人が死なないこと。身の回りで起こるふとした謎を、一般人が解決していきます。謎解きの過程が興味深く、文章も読みやすいので、気軽にミステリー小説を読みたい時におすすめでしょう。この記事では、「日常の謎」を描いたおすすめの作品を紹介していきます。
大学を卒業して無職の状態が続いている五浦大輔。亡くなった祖母が所有していた古本に夏目漱石のサインがあったとのことで、母親に頼まれ、サインが本物かどうかを確かめるために鎌倉の古書店「ビブリア古書堂」を訪れました。
すると古書店には似つかわしくないような美女が店番をしていて、紆余曲折のすえ大輔はそこで働くことになるのです。店主の栞子は激しい人見知りでまともに接客できませんが、本に対する情熱は人一倍。店に持ち込まれる古書にまつわる謎を次々と解き明かしていきます。
- 著者
- 三上 延
- 出版日
- 2011-03-25
2011年に刊行された三上延の代表作。「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの1作目で、漫画化やテレビドラマ化もされています。
ビブリア古書堂に持ち込まれる本にまつわる謎を、店主の栞子が持ち前の知識を活かして解決していく物語。人見知りですが誰かに「本の話を聞いてもらいたい」栞子と、とある事情で本を読むことができないため「本の話を聞きたい」大輔の関係性が絶妙です。
古書にまつわる事件は、周囲を巻き込むような大げさなものではなく個人的な出来事で、重苦しさはありません。人が死なない日常の謎を描いたミステリー好きの方にはぴったり。情緒あふれる読みやすい文章も特徴です。
作中には数々の文学作品が登場するので、本好きの方も楽しめるでしょう。
進路が決まらないまま高校を卒業してしまった杏子。アルバイト先を探していたところ、偶然入った百貨店のなかにある和菓子屋「みつ屋」に目をつけました。
当初は何となく働き始めただけでしたが、個性的な店長や同僚たちに囲まれて、和菓子のもつ歴史や遊び心に惹かれていくのです。
やがて杏子は、「みつ屋」を訪れるお客さんたちの謎めいた言動に気づき、秘められた真実を解き明かしていきます。
- 著者
- 坂木 司
- 出版日
- 2012-10-11
2010年に刊行された坂木司の作品。いわゆるデパ地下にある和菓子店が舞台です。
主人公の杏子は、ぽっちゃりとした体形がコンプレックスで、それゆえに異性が苦手で恋愛経験はほとんどありません。そんな彼女が、接客したお客さんの言動や従業員たちの不自然な点に気づき、小さな日常の謎を解決しながら成長していくさまが見どころです。
また、作中に出てくる和菓子のおいしそうなこと。大福、おはぎ、羊羹、最中……それぞれの和菓子に込められた想いや蘊蓄を知ると、ついつい食べたくなってしまうはずです。和菓子の奥深さを堪能できる、ほっこりとしたミステリー小説になっています。
主人公の須川が高校入学と同時に一目惚れしたのは、クラスメイトの酉乃初。彼女は人との関わりが苦手なようで、いつもみんなから距離を置いていて、不思議な雰囲気をしています。
実は彼女の正体は、放課後にレストラン・バー「サンドリヨン」でマジックを披露する凄腕マジシャン。抜群のマジックテクニックを駆使して、須川が巻き込まれた事件の謎を鮮やかに解決していきます。
- 著者
- 相沢 沙呼
- 出版日
- 2012-10-21
2009年に刊行された相沢沙呼のデビュー作。「鮎川哲也賞」を受賞しました。酉乃に恋をした須川の目線で物語が語られる連作短編集です。
酉乃は、魔法使いに憧れるピュアな心をもつ少女。天才マジシャンとしての自分は偽りだらけで、実は弱い人間だということに悩んでいます。そんな彼女と須川が学園内で起こる日常の謎を解明していくのですが、それは人間の弱さや汚れた感情が引き起こすものばかり。高校生ならではの危うさや未熟さが描かれていて、意外にも重く暗いものになっています。
ラストは、これまで解決してきた謎がひとつの真実に繋がっていく構造で、伏線の回収っぷりがお見事。日常の謎を描いた作品ながら、読みごたえのあるミステリー小説です。
女の子らしくなりたいと、フルートを始めたチカ。高校の吹奏楽部で、幼馴染でホルン奏者のハルタと9年ぶりに再会しました。
しかし吹奏楽部は部員不足で廃部寸前。吹奏楽部の顧問である草壁先生に恋をしているチカは、先生を吹奏楽にとっての甲子園「普門館」に連れていきたいと意気込むのですが……。
- 著者
- 初野 晴
- 出版日
- 2010-07-24
2008年に刊行された初野晴の作品。幼馴染のハルタとチカが日常の謎を解決していく「ハルチカ」シリーズの1作目です。
科学室から姿を消した劇薬、すべての面が白いルービックキューブ、演劇部との対決など、校内で起こるさまざまな事件をハルタとチカが解決しながら、吹奏楽部の部員を増やしていく青春ミステリー。ユニークな日常の謎と2人の掛け合いが魅力です。
またハルタとチカは、訳あって恋のライバル同士。複雑ながら爽やかな三角関係の行方にも注目です。
駅ビルの6階にある成風堂書店で働く杏子。ある日、近所に住む老人に本を買ってくるよう頼まれたという男性が訪れました。
しかし老人が書いた探求書リストの言葉は意味不明で、杏子にはまったく見当がつきません。出版社を聞くと「パンダ」と言っていたそうなのですが、老人が求めていた本とは……。
- 著者
- 大崎 梢
- 出版日
- 2009-03-20
2006年に刊行された大崎梢のデビュー作。「成風堂書店事件メモ」シリーズの1作目です。作者の大崎自身も書店でおよそ13年間働いていたそうで、その経験を活かした内容になっています。
納品やレジ打ち、ポップ制作、配達など、書店員の仕事ぶりをたっぷりと知ることができるのが特徴。業務をてきぱきとこなす杏子は、困りごとを抱えたお客さんを放っておくことができず、気づけば事件に巻き込まれてしまうのです。
書店で起こる日常の謎を解決するのは、頭の回転が速く勘が鋭いアルバイトの多絵。持ち前の推理力で事件を解決……するかと思いきや、毎度迎える意外な結末が面白い作品です。
毎日同じ電車の同じ車両、同じ座席に座っている「彼」。毎週月曜日は水玉模様のネクタイをしています。ところがある日、月曜日以外の日に水玉のネクタイしていたのです。
信用調査会社の調査員である萩広海と、彼を観察していた丸の内OLの片桐陶子が、身近に起こる不思議な謎を解決していきます。
- 著者
- 加納 朋子
- 出版日
- 2001-10-19
1998年に刊行された加納朋子の作品。表題作のほか「木曜日の迷子案内」「金曜日の目撃証人」など曜日ごとに区切られた連作短編集です。
優秀ですが少し抜けたところのある陶子と、のんびりとしているけれど観察力が鋭い萩のコンビが、丸の内で起こる謎を解決していくお仕事ミステリー。ありふれた普通の日常で、ふと気になる出来事が起こり、2人が謎を解決していきます。
ほのぼのとしている雰囲気が魅力的。1話完結型ですが、実は驚くほど伏線が張られていて、最後の話を読むとすべてが繋がるミステリーの醍醐味を味わえるでしょう。