せきやてつじの新連載『寿エンパイア』は、令和にふさわしい漫画!天才は、苦労をしないのか?

更新:2023.3.9

本作の作者はせきやてつじ。松本潤主演でドラマ化した『バンビ〜ノ!』そしてその続編『バンビ~ノ!SECONDO』を2005年から2012年まで連載していました。そんなせきやてつじの新作『寿エンパイア』がスマホアプリ・マンガワンで連載スタート! ハワイ育ちの寿司作りの天才・松田湧吾が日本で寿司修業を始め、様々な障壁と戦いながらも実力を開花させていく爽快な物語です。この記事では、本作のあらすじや見所を紹介します。

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ハワイ育ちの主人公が寿司を握る!漫画『寿エンパイア』のあらすじ

寿司職人の世界を描いた『寿エンパイア』。『バンビ〜ノ!』を知っている人からすると、青年漫画のようなイメージを持つかもしれません。しかし本作はむしろ、少年漫画のようにアツい主人公を応援したくなる漫画が好きな方にこそ、とくにおすすめな作品です!

本作の舞台は隅田川沿いに店を構える老舗寿司屋「華山」。江戸時代から160年続き、現在は4代目の華山剣蔵(はなやまけんぞう)が取り仕切っています。

しかし剣蔵は病に侵されており、寿司をいつまで握れるか……先は長くない状況。そんな中集められた華山の職人たち。告げられたのは、「血筋は関係なく、今後、店の中で目覚ましい働きをした者」を後継者にするということでした。

この日から、華山の王座を巡って職人らがしのぎを削る日々が始まりました。

出典:『寿エンパイア』

本作の主人公である松田湧吾・アービング(まつだユーゴ・アービング)は日本生まれ、ハワイ育ちの19歳の大学生。

彼の亡き母・松田美咲は凄腕の寿司職人でした。幼い時に握ってもらった寿司の味を忘れられない彼は、独学で寿司の勉強をしています。

そんな折、日本から旅行でやってきた鶴岡朝里(つるおかあさり)に出会い、人生が変わっていきます。

実は朝里の祖父・竹部は、美咲が亡くなっていることも知らず、剣蔵から命じられ彼女を探していました。何の手がかりも掴めていなかった竹部ですが、朝里から送られてきた湧吾の動画を見て何かを確信します。そしてハワイを訪れ、華山で修業しないかと湧吾を誘います。

跡取り問題や伝統的な年功序列のしがらみがあることも知らずに、華山で修業を始めた湧吾。待ち受けていたのは、壮絶なパワハラやいじめ。そんな環境でもめげずに、母親に負けない寿司を握れる理想の寿司職人を目指して突き進んでいきます。

湧吾は「ハワイ育ちの天才」と、主人公にしては少し突飛な設定です。しかし、どこまでも真っ直ぐな性格の持ち主で、読めば読むほど応援したくなる魅力があります。

そして上司からのパワハラなど、現代でもよく目にする問題などが反映されています。読んでいて辛くなるシーンもありますが、逆境に立ち向かう彼の姿に、元気や勇気をもらえる作品です。

この記事では、アイディアや行動力で立ち向かう湧吾たち若手寿司職人の魅力を紹介します。

漫画『寿エンパイア』の作者・せきやてつじが描く圧倒的にリアルな職人の世界

作品の魅力に入る前に、まずは作者について紹介させてください。せきやてつじの描く物語の魅力は、大きく分けて2つあります。

1つめは、画力の高さ。繊細かつ迫力がある作画が大変魅力的です。1話と2話の冒頭で描かれるカラー絵は、色使いが独特で美しく、まるで海に入っているような気持ちになります。

また、特徴的なシーンにはカラー絵が差し込まれるなど、さまざまな仕掛けは読んでいて飽きがきませんし、なによりもかっこいい。鮮やかな寿司の世界を体感することができるでしょう。

そして2つめは、取材力。『バンビ〜ノ!』を描き始めたときは、様々なレストランを取材したり、実際に働くなどして世界観を固めていったと言います。自分でイタリアンを作ってみるなど、物語を作る上で徹底的な取材を本人が行っています。

漫画的に大袈裟に描く部分はあるけれど、非現実的にはしたくない。という思いで描かれた『バンビ〜ノ!』。本作についてどのような取材を行ったかは公表されていませんが、たしかに本作も現実とリンクする部分が垣間見えます。

鮮やかに、そしてリアルに描かれた本作。新しいせきやてつじワールドをぜひご堪能ください。

 

「天才」に待ち受ける苦悩とは?パワハラに耐え、そしてやつれていく

ハワイでは、独学ながら順調に握る技術を覚えてきた湧吾。竹部に誘われ日本に行き、寿司のさらなる魅力に虜になった彼は、父親の反対を押し切って日本に行くことを決意しました。

そうして華山で修業を始めた湧吾に待ち受けていたのは、想像を超える過酷な環境の職場。美咲がハワイに移住してから結婚し、父親となったウィルは湧吾が日本に行くことは反対していました。

「美咲は日本でとても嫌な目にあったと言っていた。」
「人が多すぎてストレスの多い街だ。」
「湧吾はヨソで暮らした事がない。
 だからここが天国だって事が分からない。」
(『寿エンパイア』より引用)

これが現実のものとなってしまいます。見ているのが辛く、悔しくなるような理不尽が続きます。

初めて日本に来たときに華山で行われた「腕試し勝負」で勝利した彼は、すぐに寿司を握る現場に入れるのかと思いきや、なんと最初の仕事は生ゴミ倉庫の掃除。

出典:『寿エンパイア』

 

地下厨房の総括・橋元に生ゴミをいきなりかけられ、「クセー奴に魚は触らせねーよ」といきなり理不尽な言葉を浴びせられてしまいます。

「若い時は、苦労しろ」という彼の言葉に疑問を抱きながらも、それでも毎日めげずに、一生懸命自分に与えられた仕事をこなしていく湧吾。

 

出典:『寿エンパイア』

あまりの仕事量の多さに寝る時間もままならなくなり、どんどんやつれた姿になってしまいます。それもそのはず。生ゴミの処理は、普段は専門業者に依頼している仕事であり、パワハラなのは明らかです。

しかしどんなに辛い状況でも、母親からの教え通り笑顔を絶やさない湧吾。自分に挑まれた勝負だから、と拒否することも、逃げることもしないのです。

そんな時に、同じく見習い職人の藤原幸太郎に誘われて「東京寿司職人若獅子杯」に一緒に出場することになります。

若獅子杯の展開がアツい。若手たちの快進撃を見逃すな!

「若手だから」「女性だから」と、職場で不当な扱いを受けてきた若き職人たち。これはきっと、誰にでも経験があるのではないでしょうか。「もっとできるのに……」そう思って耐えてきた人たちも多いでしょう。しかし現代では、自分の実力を発揮する場が多くあります。

本作では「東京寿司職人若獅子杯」(以下、若獅子杯)というコンテストが行われます。若手の才能を発掘する場というのでしょうか、30歳以下の寿司職人が2人1組で出場できます。

実力だけが評価されるこのコンテスト。優勝を目指して彼らが健闘するシーンは見所満載です。

出典:『寿エンパイア』

「華山本店」からは湧吾と幸太郎コンビだけではなく、橋元を含む他2組も出場することに。偶然か必然か、初戦から天敵である橋元・宮崎コンビと戦うことになりました。

湧吾に対してねちねちとした嫌がらせを続けてきた橋元ですが、この戦いの場においてもやはり陰湿な手口で湧吾を蹴落とそうとしてきます。術中にはまってしまった湧吾は、本選のために1週間前から用意していた魚を腐らせてしまったのです。

そのことに本選前日に気付き、窮地に立たされた湧吾たち。夜を徹して東京湾へ漁に出て、なんとか魚を確保し間に合わせます。といっても、用意できたのは小さいアジのみ。

対する橋元コンビが用意してきたのは、巨大なマグロの頭。脳天と呼ばれる貴重な部位を使って握ります。

勝ち目がないかのように思えた湧吾たちでしたが、アジにある工夫を加えて旨みの詰まった寿司を振る舞います。結果は満場一致、橋元らに勝利を収めることができました。

ここまででも爽快な展開ですが、さらに印象的なのは戦いのあと。今までひどいいじめをしてきた橋元に対して、湧吾は敬意をもって手を差し伸べ握手するのです。

正々堂々と実力を発揮し、勝利を収めたあとも清々しい湧吾の姿に、人間として学べる部分があるでしょう。

また、この若獅子杯は様々な若手が登場。自分と同じ気持ちのキャラクターを見つけられます。

出典:『寿エンパイア』

神楽坂・「いしだ」で修業する桃乃木彩花・柿原萌コンビもまた、見所あふれる勝負を展開します。

彼女たちは、美大出身で回転寿司のバイトで出会いました。寿司職人は、アートディレクター兼パフォーマーだと語り、自分たちのお店を持つことを夢見る2人。

実力は十分だったものの、さらなる修業として「いしだ」で働くことを選びます。しかしそこで待っていたのは華山での湧吾同様、ハラスメントの数々……。

そんなお店の人たちを見返すために出場した若獅子杯の初戦で、大番くるわせが起こります。味の美味しさだけでなく、見た目の独創的な美しさにこだわった彼女たちだから握れる寿司。

信じるものを貫いた結果それが認められるという展開に、読んでいるこちらまで胸がスカッとする気持ちになります。

若獅子杯はまだ始まったばかり。どのコンビが優勝するのか、今後も目が離せません!

伝統を進化させる若手たち。漫画『寿エンパイア』は、野心に火をつけてくれる物語

今の日本の企業でも年功序列の時代から変わりつつあり、若手でも実力があればどんどん結果を残し、昇進することができるようになってきています。しかし、それでもまだ全てが平等になったとはいえないでしょう。

そんな風に、経歴や性別で理不尽な扱いを受けながらも、決して諦めることなく自分の才能を信じて突き進んでいく主人公たち。「伝統」の本質を理解し、そして時代に合わせて進化させていく姿に胸を打たれます。

出典:『寿エンパイア』

これは寿司職人の世界のお話ですが、どんな業界で働く読者にとっても勇気をもらえるのではないでしょうか。

湧吾のどんな相手にも敬意を持つ姿や、辛い状況でも笑顔を忘れない姿、そしてどんな状況も楽しむ姿は応援したくなるだけでなく、学ぶところもたくさんあります。

現実世界では、若獅子杯のように実力だけを公平に評価してもらえる機会はない……という人もいるかもしれません。そして、信念を貫けぬけば、確実に結果に結びつくとも言えません。

しかし、自分の信念を持っていなければ、戦いの土俵に残ることはもっと難しいはずです。

理不尽な立場であっても屈せず実力で上を目指す彼らの姿に感化され、自分自身の仕事もがんばっていこうと思わせてもらえる漫画です!


参考URL

従来のグルメ漫画とは一線を画す世界観。『バンビ~ノ!』作者・せきやてつじ「厨房版の『ER』を描きたいと思った」-exciteニュース

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