文芸

現代短歌の代表・穂村弘のおすすめエッセイ文庫本5選!独特の言葉に、ハマる

更新:2016.12.11 作成:2016.12.11

穂村弘をご存知ですか? 現代短歌を率いる歌人でもあり、批評家、エッセイスト、翻訳家でもあります。今回は、短歌という31音の枠から飛び出したエッセイスト穂村のセンスが輝く、珠玉のおすすめエッセイ5作品をご紹介していきます。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

平成を代表する現代短歌歌人、穂村弘とは?

歌人、詩人、エッセイストなど、様々な分野で活動されているので、その名を目にする機会は多いのではないでしょうか。代表的な短歌を詠むことで、その人となりに触れることができるかもしれませんので、一首ご紹介します。

「終バスにふたりは眠る紫の〈降ります〉ランプに取り囲まれて」

優しさに溢れた温もりと、独特の着眼点に触れることができたのではないでしょうか。

90年代、短歌がニューウェーブ短歌に昇華しました。先代の残してきた作品を踏まえながら口語を用いるなどして、現代においても好まれるよう短歌を進化させた人物の一人、それが穂村弘です。

彼の短歌は口語体を器用にリズムに当てはめ、いとも簡単に情景を想像させます。独特な着眼点と言葉選びにより、詠む人の心に寄り添い、笑わせ、泣かせ、楽しませる穂村。

これから、彼の魅力が存分にあらわれたエッセイを5作品ご紹介します。見出しでお粗末ながらも自作の短歌をのせていきます。それだけで伝われば一番なのですが……。

KYと言われたことは数知れず つまりは僕も世界音痴だ

世界音痴という日本語は存在しません。でも、なんとなく理解できてしまいます。世界に対して音痴。シュールかつ斬新な表現ではないでしょうか。

世界音痴については9番目のエッセイで書かれています。周りの人が「自然に」やっていることが、自分は「自然に」できない。「自然に」の輪に入れない。「自然さ」を持たずには、世界の中に入れない。つまりは世界音痴だ、と言うのです。
著者
穂村 弘
出版日
2009-10-06

「自然さ」で出来上がっている世界の中に入れない焦燥感が赤裸々に綴られていて、思わず笑ってしまうエピソードが綴られます。ですが、ときおりはっとさせられるのです。これは自分にも経験があるぞ、笑いごとではないなと。人の振り見て我が振り直せ、ではありませんが、背筋が伸びる瞬間がたびたびやってきます。

穂村はお寿司が好きだそうで、寿司ネタも多くあります。表紙も回転寿司屋の写真ですから、寿司への思い入れがうかがえます。

短歌が散りばめられているのも読みどころです。そのときのエピソードに合わせて選ばれた短歌も素敵ですが、自作の短歌は秀逸です。

「切り替えスイッチ」というタイトルの中で詠まれた短歌が、ずっと頭に残っています。胃に影があるということで再検査を申し渡され、「次元が変わる」ほどの不安にさいなまれます。結果は「問題ありません」。この言葉に世界が「きらきら」して見えてくる。見るものすべてが「きらきら」している。このまま生きていきたいと思っても、その感覚は長続きしない。その切り替えのスイッチは至近距離にあるのに手が届かない。このようなエピソードの最後を締めくくる短歌が、こちらです。

「サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい」
(『世界音痴』より引用)

一首詠むだけでも、穂村弘の感性が強く感じられます。

世界に馴染めないと言いながらも、自分として生きている姿は「自然さ」に悩むすべての人を、大丈夫、こんな感じで生きていけるからと応援しているようです。世界音痴でも、世界に入り込めないわけじゃないんだと、生き証人として存在しているのかもしれません。

妄想とリアルの間行き来する日記じゃないよ にょっ記といふなり

4月1日から始まり、あー、日記ってそう、書かない日もあるんだよ、という具合にときは流れて3月31日までの丸1年が書かれる『にょっ記』。無論、日記の装いですが、本当にこれは日記なのか、と首を傾げたくなるほど妄想が炸裂していて、穂村ワールド全開です。

妄想、想像、空想、が綴られていますが、その中にリアリティはちゃんと存在しています。そのアンバランスな融合がおかしくて、クスクスと笑ってしまうのです。
著者
穂村 弘
出版日
2009-03-10

ときおり天使が登場し、天使と穂村とのやりとりが妙に奥深く、何度も読んでしまいます。

「7月31日 理解
天使が、私の背広をみている。
背広の襟をみている。
いつまでもみている。
やがて、何かがわかったらしく、その顔が輝く。
これ、大切なの?
と、社章を指して云った。」
(『にょっ記』より引用)

深遠さに圧倒されます。

他にも「うこん」について3日にわたって書いていたり、たった1行で笑わされる日があったり、長い短い関係なくおもしろいので、ペラペラとページをめくってしまいます。就寝前の読書には向かない本かもしれません。読み始めると、本を閉じるタイミングを逃し続けてしまうのですから。

おすすめは「4月16日 山崎勉」「6月10日 計算」「8月12日 実況」「8月22日 濁点」「11月3日 夢」……書き出すとキリがないですね。どれを読んでも独特な感性が感じられるので、実際に手に取って読んでほしいです。

ただ外出時に読んでしまうと、思わず笑ってしまったときの周囲の視線が怖いですから、要注意です。

聞き耳を立ててるわけじゃないのだよ あなたの言葉、引力凄し

冒頭「外の世界のリアリティ」というタイトルで、本作『絶叫委員会』の説明が書かれています。

「『絶叫委員会』では、印象的な言葉について書いてみたいと思います。映画や小説の名台詞、歌謡曲の歌詞、日常会話、街頭演説、電車の吊り広告の見出し、怪しいメール、妻の寝言など、いろいろなところから言葉を拾ってくるつもりです」
(『絶叫委員会』より引用)

これはつまり、穂村弘が見聞きした「印象的な言葉」=「絶叫」を選出し、まとめた本なのです。絶叫を選別する委員会なるものがあったならば、委員長は穂村弘が務めたのでしょうか。絶叫委員会、ぜひ入りたいものです。
著者
穂村 弘
出版日
2013-06-10

他人の言葉に耳を傾けてしまうときは、おそらく誰にでもあると思います。電車の中、飲食店、路上、人のいる所すべてがそのシチュエーションになります。しかし、実際に生活を送っていると、聞き逃したり、見落としたりすることはたくさんあるはずです。それは、好きな音楽を聴いているからだったり、たまたま下を向いていたからだったりするからだと思います。せっかくおもしろい言葉が溢れているのに、気づかないことが多いのは悲しいことかもしれません。

私たちが聞き逃し、見落としてしまっていたユーモラスな言葉たちを、穂村弘が拾って、よりおもしろく調理し、提供してくれます。彼の独特の観察眼が羨ましくも感じられ、普段から周りの言葉に注意してみようかなと思わせてくれます。どこに素敵な言葉があるのかなんて、誰にも分からないですからね。

「こんばんは、やどかりなんですけど」
(『絶叫委員会』より引用)

数ある絶叫の中から1つ選んでみましたが、前後のやりとりが気になりませんか。詳細は実際に読んで確かめてほしいです。ふとした瞬間に見聞きした言葉が、時には衝撃的で、価値観を揺さぶることがあるのかもしれませんね。

好きな音楽を聴く日だけではなく、たまには絶叫に耳を澄ませる日もつくってみませんか。

物事の見方がちょっと独特なこの1冊がたまらなく好き

独特な感性と観察眼、自意識を持つ穂村弘が考えるさまざまな「本当はちがう」ことが、おもしろおかしく語られる『本当はちがうんだ日記』。切り口が独特なので、なんじゃそりゃと笑い飛ばしてしまうのですが、読んでいくとあまりにも物事の見方が斬新なので、そういう見方もできるのかと感心してしまうことも多いでしょう。
著者
穂村 弘
出版日

最初に書かれているのは、エスプレッソのことです。エスプレッソが好きなのに飲んでは、「苦い。地獄の汁のような味だ」とこぼします。本当のエスプレッソは果実の薫りがして、キャラメルの味わいがするはずなのに、目の前のエスプレッソは苦い。ここで穂村は考えます。

「私のエスプレッソがこんなに苦いのは何故なのだろう。(略)それは、おそらく、私自身がまだエスプレッソに釣り合うほどの素敵レベルに達していないからだ」
「私のエスプレッソは今日も苦い。舌が痺れるほど苦い。地獄の汁かと思うほど苦い。おそらくは明日も苦いだろう。(略)だが、と私は思う。本当はちがうのだ。エスプレッソは果実の薫り、そしてキャラメルの味わいなのである。本当の私はそのことを知っている」
(『本当はちがうんだ日記』より引用)

自分は素敵ではないという自意識の塊である穂村だからこそできる見方なのかもしれませんが、こんな考え方ができる人は素敵ではないでしょうか。

他にもあだ名のこと、素敵のこと、恋愛や将来、様々な物事を独自の視点で語ります。これらに触れることで、新しい物事の見え方を知ることができ、生きる上でのスパイスとなって、今後見聞きする出来事に新たな色合いを与えてくれることでしょう。

余談になりますが、あだ名について語っているところで「僕にはあだ名がない」、それによって人間界に溶け込めないのだと嘆いているのですが、ファンの間では、愛をこめてこう読ばれているようです。

『ほむほむ』

どこか不可思議で愛らしい、柔らかな印象の穂村弘にピッタリの愛称だと思いませんか?

嵐でも走ってきてよ颯爽と 男も女も白馬に乗って

これまでご紹介した4冊の中でも恋や愛については書かれていましたが、本作『もしもし、運命の人ですか。』は恋愛についてのみ書かれた、これまで同様、独特な切り口の恋愛エッセイです。一つひとつがこれまでのエッセイより長めに書かれており、読み応えもあります。長く書いているのは、それだけ恋愛における疑問や謎が多いのだろうと想像します。
著者
穂村弘
出版日
2010-12-21

「私の心を縛っている自意識。心配、そして効率。これらを突き詰めれば、命の惜しさ、勿体なさということにいきつくのではないだろうか。そのために自分の安全と損得のことが一瞬も心から離れない。これでは保身を忘れたセクシーなオーラを身に帯びることはできない」
(「理想の男性像」より引用)

「目の前のカップルが、いつかどこかで出会い、時間の経過とともに微妙な眼差しや言葉や行為を交し合って、少しずつ関係を深めていったのだ。こいつらの全員がそれをやったのだ。『ふたりのやりとりの複雑さ』×『道のりの遠さ』×『カップルの数』を思って、ふーっと気が遠くなる」
(「1%のラブレター」より引用)

上記はどちらも『もしもし、運命の人ですか。』の各章からの引用ですが、独特な視点と言葉選びから名言が生まれていることが伝わってきます。

たくさんのカップルを見て数式を作ってしまう感性には、心底感服です。また独特さゆえに迷言も多いのです。声を出して笑いたくなるようなポイントは、実際に読んで見つけてみてくださいね。

所々で短歌も紹介されています。そちらも心に響くものが多いので、あわせて楽しんでほしいです。ここで、最初の章「恋にかかる瞬間」で詠まれる短歌をご紹介します。恋人と一緒にいる時間のやすらぎを、分かりやすく、ほっこりと伝えてくれる短歌です。

「冷蔵庫が息づく夜にお互いの本のページがめくられる音」

以上、穂村弘のおすすめ文庫本5選でした。穂村弘の魅力は伝わってきたでしょうか。エッセイ作品、そもそも穂村弘という人物がおもしろいので、実際に読んでもらいたい!と強く思ってしまいます。独自の世界観が、読書家の皆さんの新たな発見に繋がることでしょう。ぜひ一度手に取ってみてくださいませ。