問題作といわれるミステリー小説おすすめ6選!賛否両論、あなたはどっち?

更新:2021.11.21

絵画や音楽、映画などの芸術作品のなかには、万人には理解してもらえないけれど、傑作といわれる作品があります。小説も例外ではありません。特にミステリー小説では、そのトリックや技法がミステリーとして成立するのかをめぐり、「問題作」として話題にのぼる作品が多数あります。この記事では、賛否両論が巻き起こるおすすめのミステリー小説をご紹介しましょう。

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知力と妄想力を尽くした問題作『ディスコ探偵水曜日』

 

主人公のディスコ・ウェンズデイは、迷子探し専門のアメリカ人探偵。誘拐事件をきっかけに6歳の山岸梢を預かることになり、一緒に暮らしています。

しかしある日から、梢が突然17歳に成長し、時間が経つともとの6歳に戻るようになるのです。

梢を異変から救うため、ディスコは時空を超えて大活躍。この世を地獄に変える漆黒の男と対決し、世界の子どもたちを守るため、大規模すぎる対抗策に挑みます。

 

著者
舞城 王太郎
出版日
2011-01-28

2005年から雑誌「新潮」で発表された舞城王太郎の代表作。「21世紀の奇書」と評されています。

ディスコは、梢の魂が迷い込んだという謎の館「パインハウス」へ向かうのですが、そこでは名探偵たちがある殺人事件について謎解き合戦をくり広げては死んでいて……。意味がわからない出来事が次々と発生。とにかく情報量が膨大で、猛烈なスピード感をともなっているので、読者はわからないなりに物語に乗っかっていくしかありません。

しかし途中で投げ出さなければ、終盤の推理でこれらが繋がっていきます。理解できたと思った矢先にまた投げ出され、意味があるのかないのかわからない、それでも「面白い」と思わせてくれるのが舞城王太郎のすごいところでしょう。SFなのかミステリーなのかもわからない問題作。とにかく1度、手にとってみてください。
 

常識を捨てた芸術的文章のミステリー小説『ニンギョウがニンギョウ』

 

17番目の妹が死んでしまったため、映画を観に行くことにした「私」。道中で熊の少女と出会います。手渡された荒縄で足首をつり、さかさまになって映画を鑑賞しました。

その後右足が腐ってしまったので、5番目の妹とともに人体交換屋へ行くことに。すると右足が妊娠していると言われ、これ以上妹を増やせないと思った「私」は、生まれた子を熊の少女に預けるのです。

5年ぶりに目を覚ました「私」。14番目の妹が作ってくれた「私」の脳髄入りのスープを食べ、迎えに来た熊の少女と一緒に言葉学園商店街へ買い物に行きました。熊の少女はそこで大量の脳髄を購入します。

たまたま読んだ新聞で、熊の少女が住んでいる山が火事になったと知った「私」。熊の少女が24番目の妹ではないかと思いつき、映画館へ行って本人に訪ねてみると、熊の少女は、自身が「私」の姉であることを告げるのです。

 

著者
西尾 維新
出版日
2005-09-06

 

2004年に発表された西尾維新の作品。作者いわく「わかりにくさ」を追求したという4つの物語が収録されています。

出てくる単語は知っているものばかりだけど、その内容は支離滅裂。常識が欠如していて、意図的に歯車を狂わせた文章が淡々と綴られています。まるで夢の中に迷い込んだような意味不明な物語で、正当性を求めて理解しようとするのは無粋なのかもしれません。

4つの物語にはそれぞれオチがつけられているのですが、きっと何度読み返してみても「わからない」問題作。これは言葉遊びなのか、比喩なのか……作者の意図が「わかりにくさ」であるならば、大成功だといえるでしょう。

 

作者の主張が波紋を呼んだ問題作『クリスマス・テロル』 

 

「本物の衝動」につき動かされた女子高生の冬子。船でとある孤島にたどりつき、そこで知りあった青年から、ある男を監視するよう依頼されました。

男は小屋に引きこもり、1日中パソコンに向かっています。冬子も彼をひたすら監視するのですが、少し目を離した隙に、男の姿が消えてしまいました。

 

著者
佐藤 友哉
出版日
2002-08-06

 

2002年に刊行された佐藤友哉の作品です。本作が問題作といわれるのは、あとがきの内容からです。作者の佐藤友哉は、自身が置かれている状況や文学界、出版社、そして自分の小説を理解しない読者に怒りを向け、さらには断筆を宣言します。

怒りや憎悪、憤り、焦燥感などが綴られ、まるで私小説か独白のよう。いわば「批判」が語られていくのですが、読者はこれを読むことで、「見る側」と「見られる側」の正体に気づくのです。

「問題作中の問題作。あるいは傑作」という帯の言葉に、偽りはありません。読んでしまえば、なかったことにはできない作品です。ちなみに断筆宣言はしたものの、作者は本作以降も作品を発表しています。ぜひそちらも読んでみてください。

ミステリー小説を根本からひっくり返す問題作『黒い仏』

 

名探偵の石動戯作は、ベンチャー企業で社長をしている大生部から「秘宝を探してほしい」と依頼を受けます。

その秘宝は、9世紀に天台宗の僧侶が唐から持ち帰ろうとしたものらしく、福岡県にある安蘭寺に隠されているそう。さっそく石動は助手のアントニオとともに調査を始めることにしました。

しかし同じ頃、福岡県で男性の変死体が発見され、容疑者として大生部が浮上。石動は、大生部のアリバイ工作に利用されたと憤慨し、独自に捜査を進めてアリバイ崩しに取り掛かります。

著者
殊能 将之
出版日

 

2001年に刊行された殊能将之の作品。「名探偵・石動戯作」シリーズの2作目で、「賛否両論、前代未聞、超絶技巧の問題作」といわれています。

物語の前半は、名探偵の石動が得意の推理でアリバイ崩しをし、事件を解明していくミステリ―小説。しかし後半から様相が異なり、すべてがひっくり返されるのです。

いわゆるアンチミステリーともいえるもので、物語における「名探偵」という役割に一石を投じるもの。神話の融合、過去の改変、異形の化け物などファンタジー要素が絡まり、ミステリーを読みなれている人ほど引っかってしまいやすく、受け入れがたいかもしれません。

ただ文章はすっきりとしていて読みやすく、秘宝探しと殺人事件が人類の滅亡に結び付くスケールは魅力的。その意外性を堪能してみてください。

問題作だけどアンチミステリーの傑作『虚無への供物』

 

先祖がアイヌ民族を虐殺したと伝えられている氷沼家。蒼司と紅司兄弟、そして従弟の藍司は、それぞれの両親を「洞爺丸沈没事故」で亡くしていました。

推理小説家の奈々村久生は、氷沼家の遠縁にあたる婚約者から、「近々氷沼家に死神がさまようだろう」という不吉な報せを受け、起こるであろう事件を未然に防ごうと、氷沼家へ向かいます。

しかし、紅司が風呂場で急死。久生と氷沼家の面々は推理合戦をするのですが、事態は混迷し……。

著者
中井 英夫
出版日

 

1964年に刊行された中井英夫の作品。『黒死館殺人事件』『ドグラ・マグラ』とともに、日本推理小説界の「三大奇書」と呼ばれる一方で、「アンチミステリ―の傑作」ともいわれています。

久生をはじめとする素人探偵たちが、思い思いに展開する推理に対し、想像の産物として切り捨てていく皮肉が込められた内容。事件について他人の思惑を勝手に想像する人々を批判し、殺人者の最後の告発は、傍観者である我々読者に突きつけられます。

最後まで読み終えてこそ、本作の価値を知ることができるはず。他の「三大奇書」よりも読みやすい文章なので、おすすめです。

これぞバカミス!「メフィスト賞」を受賞した問題作『六枚のとんかつ』

 

保険調査員をしている小野由一は、これまで手掛けてきた数多くの奇妙な事件を、記録にまとめることにしました。

たとえば富豪の一人息子が誘拐された事件。脅迫電話には、背後に「ガッツ石松」という音声が入っていました。それを頼りに小野はプロボクサーであるガッツ石松の事務を張り込むのですが、実はこの誘拐事件自体が息子のいたずら。脅迫電話も偽物で、「ガッツ石松」と聞こえたのは実際はトラックから発せられた「バックします」という音声でした……。

著者
蘇部 健一
出版日
2002-01-16

 

1997年に刊行された蘇部健一のデビュー作。「メフィスト賞」を受賞している連作短編集です。

くだらないと批判される一方で、絶賛の声も多数ある問題作。あまりにばかばかしい事件の真相に、あなたは呆れるでしょうか、爆笑するでしょうか。

読者の思い込みを巧みに利用した意表を突くオチが用意されているので、推理小説のおもしろさを存分に味わうことができるでしょう。くだらないのになぜか読み進めてしまう、癖になる作品です。

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