文芸

歴史改変SF小説おすすめ6選!ナチスや世界大戦がテーマの「もしも」の世界

更新:2020.12.1 作成:2020.3.17

長く紡がれた時間の先に成り立っている「現在」。しかしその歴史は案外些細な出来事に支えられているだけで、通過してきたいくつもの分岐点の何かが異なれば、まったく別の世界になっている可能性もあるでしょう。この記事では、「もしも」が描かれたおすすめの歴史改変SF小説を紹介していきます。

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歴史改変SF小説のパイオニア『高い城の男』

第二次世界大戦で戦勝国となったドイツと日本は、敗戦したアメリカ合衆国を3つに分断して、それぞれ統治しました。

それから15年後、アメリカでは「もしも第二次世界大戦でアメリカが勝利していたら」という内容の仮想小説『イナゴ身重く横たわる』と、「易経」による占いが流行します。

その小説は、ドイツが支配するアメリカ合衆国とヨーロッパで発禁本に指定され、謎の作者「高い城の男」は保安警察に命を狙われることになるのです。

著者
フィリップ・K・ディック
出版日
1984-07-31

アメリカのSF作家、フィリップ・K・ディックが1962年に発表した長編小説です。歴史改変SF小説を主流文学に高めたと評価されている作品で、最高のSF小説に贈られる「ヒューゴー賞」を受賞しています。

物語の舞台は、第二次世界大戦で枢軸国が勝利したという歴史改変パラレルワールド。世界は、厳しい統制が敷かれるドイツ支配下と、多少の自由が利く日本支配下の2つの陣営に分かれています。圧倒的権力に従うしかない状況で、登場人物たちが易経によって互いの運命を占い、選択し、変えていくのです。

物語の根底に流れる「本物であることに意味はあるのか」という作者からの問いかけを感じる、哲学的側面をもった名作になっています。

ヒトラーの友人がアメリカ大統領に就任したら……『プロット・アゲンスト・アメリカ もしもアメリカが…』

時は1940年のアメリカ。大西洋単独無着陸飛行に成功した英雄飛行士リンドバーグが、戦争不参加を唱えて大統領選挙に当選しました。

彼はヒトラーの友人で、反ユダヤ主義者。そのため、ニュージャージー州のユダヤ人地区で暮らす7歳の少年、フィリップも徐々に差別を受けるようになります。しかし、以前からリンドバーグに憧れを抱いていたフィリップの兄サンディは、差別政策に同調していって……。

著者
フィリップ・ロス
出版日
2014-08-26

2004年に刊行されたアメリカの作家フィリップ・ロスの作品。作者自身が「日本でこの作品を出してほしい」と切望した歴史改変SF小説です。実在していた人物が実名で登場するので、小説と史実の境界があいまいになり、読者に悪夢を見せるような巧妙な技法にはまっていってしまうでしょう。

もしも第二次世界大戦時に反ユダヤ主義者が大統領だったら……という世界をユダヤ系少年の視点で描いています。亀裂が生じた家族と周囲の人々に翻弄されるフィリップ。 集団心理で差別が増長していくさまは、かなり恐ろしいものです。

また、第二次世界大戦という大きなテーマが背景にありますが、描かれているのはそのなかで生きる現場の人々。主人公とともにアイデンティティを探りながら、歴史がひとつの家族に与える影響の大きさを考えさせられる一冊です。

スチームパンクでありサイバーパンクでもある歴史改変SF小説『ディファレンス・エンジン』 

蒸気機関が発展し、蒸気で駆動するコンピューター「ディファレンス・エンジン」が普及した産業革命時のロンドン。社会は蒸気が支配していて、日本の福沢諭吉もなんとか「ディファレンス・エンジン」を輸入しようと画策しています。

そんななか、名前を偽って生きていた革命家の娘シビル・ジェラードは、ある日謎の紳士と出会い、「新しい人生を保証する代わりに仕事を手伝ってほしい」と誘われて、事件に巻き込まれていくのです。

一方で古生物学者のエドワード・マロリーは、首相の娘を暴漢から助けたことをきっかけに、社会勢力の陰謀に巻き込まれていき……。

著者
["ウィリアム ギブスン", "ブルース スターリング"]
出版日

ウィリアム・ギブスンとブルース・スターリングが共著で1990年に発表した歴史改変SF小説。両者が得意とするサイバーパンクを代表する作品です。

「コンピューターの父」と呼ばれ、世界で初めてプログラミングできる計算機を考案したチャールズ・バベッジ。彼は実際に蒸気機関で動く機械式計算機の開発にとりかかっていて、それがもしも完成し、普及していたらという世界が描かれています。

「ディファレンス・エンジン」によって、飛行船や自動車、タイプライターなどがあふれるロンドン。イギリスの詩人ジョージ・バイロンは首相になり、実際に首相だったベンジャミン・ディズレーリは小説家になりました。存在していないけれど、あったかもしれない世界を読めるのが小説の醍醐味でしょう。

メタフィクション、スチームパンク、サイバーパンクとさまざまな要素が絡みあい、やや難解な部分もありますが、巻末には解説もついているのでぜひ挑戦してみてください。

歴史改変された世界を歴史改変する小説『プロテウス・オペレーション』

物語の舞台は1974年。第二次世界大戦で勝利を収めたドイツは、ナチスのもとで各国を次々と支配してました。連合軍は抵抗を続けていましたが、その力は徐々に弱まっています。

そこで、危機的状況に陥ったアメリカは、「プロテウス作戦」を決行することを決めるのです。それは、時空を超えて過去に精鋭部隊を送り、歴史を変えるというもの。しかしチームには、すでに未来から来た科学者と指揮官が紛れ込んでいて……。

著者
ジェイムズ・P. ホーガン
出版日
2010-07-10

1985年に刊行されたジェイムズ・P・ホーガンの作品。彼はデビュー作『星を継ぐもの』で一躍有名になったイギリス人作家で、ハードSFの巨匠として知られています。

ナチスが権力を握っている今の世界も、実は別の集団がタイムマシンで歴史を改変したためにできたもの、という設定が秀逸。複数の時間軸が絡むことで、世界が史実に近づいていくのも興味深いです。スピード感のある展開と、畳みかけるように二転三転する事態に、孤立無援になったプロテウス部隊は作戦を実行することができるのでしょうか。

アインシュタインやチャーチルなど、実在した人物がいきいきと描かれているのも魅力でしょう。誰かのひとつの選択が、後の世界を動かすかもしれない、壮大な可能性を感じさせてくれる一冊です。

歴史改変SF小説の最高傑作『パヴァーヌ』

1588年、イギリスのエリザベス女王が暗殺されました。その混乱に乗じて、スペインの無敵艦隊がイギリス本土を掌握。イギリスはローマ・カトリック教会協会の支配下となりました。

それから時が経った1900年代。イギリス南部のドーセット州では、科学が弾圧され、蒸気機関だけが発達しています。人々は宗教と身分によって差別を受けていましたが、やがて不満が溜まり、不合理な世界を変えようと反乱の動きが見えるようになって……。

著者
キース ロバーツ
出版日
2012-10-01

1968年に刊行されたイギリスの小説家キース・ロバーツの作品。「歴史改変SF小説の最高傑作」といわれています。「パヴァーヌ」とは、エリザベス1世が好んだ行列舞踏曲だそう。タイトルどおり、粛々としながらも力強く物語が綴られている印象を受けるでしょう。

中世の封建体制のまま20世紀を迎えたイギリス。舞台を、あくまでイギリス南部のドーセット州に局限して描いているので、そこに生活する人々の生きざまをよりリアルに感じることができるのも魅力的です。

黄色人種が白色人種を支配する歴史改変SF小説『モンゴルの残光』

強大なモンゴル帝国が、アメリカやヨーロッパ、アフリカ、日本を席捲している世界。帝国内では白色人種が奴隷として虐げられていました。

秘密結社に身を置く白人の主人公シグルト・ラルセンは、モンゴル帝国が世界を支配している歴史を変えるため、タイムマシンで元の創成期へと旅立ちます。

現地で出会った2人の皇子は、シグルトを人間として扱い、親切に接してくれました。しかし、彼らこそが後にモンゴル帝国の礎を築く人物。友情と使命の間で揺れるシグルトは、未来のために任務を果たすことができるのでしょうか。

著者
豊田 有恒
出版日

1967年に刊行された豊田有恒の作品。モンゴル帝国が力をつけ、黄色人種が世界を征服した20世紀を描いた歴史改変SF小説です。

主人公のラルセンがタイムトラベルをして出会った皇子たちは、未来の白人の敵。しかし元帝国での彼らは良き仲間で、そこに居場所を見出したラルセンは、殺害をためらうのです。物事には多面性があり、立場によって見え方が変わることを教えてくれます。

その一方で、たとえ白色人種を黄色人種に置き換えたところで、差別自体がなくなるわけではなく、世界が良くなるわけでもないということも考えさせられるでしょう。