絵柄、空気感の美しさが独自の世界観を築く、漫画『宝石の国』。絵の綺麗さに惹かれて読み進めると、謎だらけの世界に隠された伏線が徐々に明らかになっていく気持ちよさに、読む手が止まらなくなってしまうでしょう。累計140万部を突破し、2017年にはアニメ化もされた人気漫画です。 この記事ではそんな本作のストーリーをご紹介!ミステリアスな魅力に取り込まれてしまうこと間違いありません。
美しく静かな世界観と、魅力的なキャラクター、それらに隠された謎に引き込まれる本作。
まずはあらすじをご紹介しましょう。
宝石たちの住む世界で、何の仕事も任せてもらえず、落ちこぼれだったフォスフォフィライト、通称フォス。ある日、宝石たちの「先生」のような存在である金剛から、世界の過去と未来を記録する仕事=「博物誌の編さん」を頼まれます。
はじめは与えられた仕事に不満を持つフォス。しかし、今自分が住んでいる世界の成り立ちについて興味を持ったフォスは一番詳しいであろう金剛に聞きます。はっきりとした答えは返ってこず、むしろ何かを隠しているようなのでした。
そこからフォスは宝石たちへの聞き込みを重ね、自分たちのルーツを探っていくことに。徐々に全容が明らかになるこの世界の成り立ちには、空から宝石たちを襲ってくる月人、そして金剛自身が関わっていて……。
各巻の内容に入る前に、まずは設定をご紹介します。ネタバレを含んでいるので、未読の方はご注意ください。
物語の舞台はかつて「にんげん」が存在したといわれる星。
しかし過去に6度の流星の衝突に遭い、どんどん面積が減少、ついに陸地はひとつになってしまったのでした。
そうなった時、たいていの生物は海に避難しましたが、逃げ遅れたものたちは海底の微小生物(インクルージョン)たちに消化され、無機物へと変化します。
その無機物は長い時間をかけて規則的に配列、結晶となり、新しい生物として再び浜辺に打ち上げられました。それが本作の登場人物たち、宝石です。
彼らに性別はなく、上半身は少年、下半身は少女のような見た目をしています。彼らは全員で28人おり、それぞれに固有の硬度と靭性(じんせい。壊れにくさのこと)を備えています。
彼らは壊れたとしても全てのかけらを合わせれば生き返ることができ、死という概念がありません。また寿命というものがなく、若い者は300年、最年長では3000年以上生きる者もいます。しかし、怪我などで体の一部を失うと、おなじように記憶の一部も失ってしまいます。
そんな宝石たちを絶えず狙ってくるのが、月人。天から舞い降りてくる仏のような見た目をした者たちです。彼らは宝石を「装飾品」にしようとさらっていきます。連れていかれた宝石たちがどのような姿に変えられるのかはわかっていません。
また、世界の歴史も上記に挙げたことのみで、それ以外の仔細は宝石たちは知らないのです。彼らが先生と慕う金剛以外は。
この謎をめぐり、物語が展開していきます。
物語は風が吹く草原に主人公のフォスが寝ているところから始まります。役立たずでもろい彼は自分の居場所を探していました。その他の宝石たちには必ず何かしらの仕事があるのですが、彼にだけはないのです。
しかし、ようやくフォスにも仕事ができます。それが博物誌の編纂。彼は今自分たちが住む、謎だらけのこの世界について調べることになるのです。
博物誌が「自然のすべてを記録して分類するもの」ということを知ったフォスは、夜を見回る係として仕事をするシンシャに話を聞きに行くことにしました。
シンシャは硫化水銀から構成される辰砂という鉱物で、体から無尽蔵に毒液が出ます。それによって周囲の草木はもちろん、他の宝石をも壊してしまう体質を持っており、ほかの宝石から嫌われています。
しかしほとんど月人がこない夜の見回りをするという、あってないような仕事を任されている彼は、夜に閉じ込められているような存在でした。それを聞いたフォスは複雑な気持ちになりながら彼に話を聞きにいくことにしました。
時刻は夕方。普通は月人は出ない時刻なのですが、彼らに好かれやすいフォスはいきなり襲われそうになってしまいます。そこにシンシャが登場。
大量の毒液とともに月人と戦います。毒を口から吐き出し続けるおぞましい姿から、シンシャは本当は戦うことが嫌でした。しかしフォスのために仕方なく毒液で月人と対峙するのです。
シンシャは戦いの末に崖から落ちそうになります。そこを助けたのがフォスでした。
翌日、フォスはシンシャがいた岬へ行きます。そこは過去にヘリオドールという宝石も連れ去られた危険な場所でした。
そこでシンシャはなぜそこにいるのかと問われこう言います。
「攫われるのを待っている
月でなら俺に価値を付けてくれるかもしれない
ずっと待っているがこない
だが昨日おまえが現れた途端ああだ
お前はいいな 敵にすら愛されて」
(『宝石の国』1巻より引用)
それを聞いたフォスは博物誌の編纂を手伝ってほしいと申し出ますが断られ、こう続けます。
「よ よし じゃあ
夜の見回りよりずっと楽しくて 君にしかできない仕事を
僕が 必ず見つけてみせるから!
月に行くなんて言うなよ!」
(『宝石の国』1巻より引用)
シンシャは何も言わずにその場を去っていきます。
そしてこの約束こそが物語の始まり。『宝石の国』はここから予想もつかない展開で読者を楽しませてくれます。
手始めにフォスはダイヤモンドに「すっごく変わってみるのはどう?」というアドバイスを受け、ある変化をするのですが……。
あとから読み返すと様々なストーリー上の伏線が張られてる1巻。最新巻まで読んだあとも何度も読み返す価値のある、発見の多い巻です。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2013-07-23
1巻で巨大なナメクジのような生物に取り込まれたものの、宝石たちの協力によって復活したフォスはその時に保護されたナメクジのような生物の声が聞こえるようになります。それは自分のことを「全アドミラビリス族を束ねる王ウェントリコスス」だと名乗りました。
他の宝石たちには聞こえない声と会話することで気味悪がられるフォス。しかし優しい王を故郷へとつれていくため、危険を犯して海にいくことにします。
そこでフォスはアドミラビリス族に伝わる、月人に関わる伝説を聞きます。
「この星にはかつて にんげんという動物がいたという
この星が五度欠けたときまではしぶとく陸に生き残ったが
六度目にはついに海に入り 魂と肉と骨 この三つに分かれたという(中略)
魂はついに清らかな新天地を得 再興のため
肉と骨を取り戻すべく さまよっていると言われている
やつらにそっくりだ」
(『宝石の国』2巻より引用)
徐々に3種に変化して生き残った「にんげん」という存在。それを聞いて大きく前進したフォスですが、これは罠。実は王は連れ去られた同胞と引き換えにフォスを月人に引き渡す目的があり……。
アドミラビリス族の王としての葛藤、それに対してある決断をしたフォスとのやりとりが切ない展開です。そしてその決断により、フォスは両足を失うことになってしまうのです。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2014-01-23
2巻で両足を失うも、別の新しい足を得たおかげで初めて戦いに出たフォス。しかし一緒に同行してくれた双子のアメシストたちを危険にさらすだけで協力もできず、ボルツに「何をしていた……!」と睨まれてしまいます。
そのことに怒りもせず、自分たちが油断しすぎたと言うアメシストたち。フォスはそのことが悔しく、「冬眠」の時期ではありますが、眠らないことを選びます。
冬は日照量が少なくなることから活動エネルギーが減ってしまう宝石たちは冬眠するのですが、温度が下がれば下がるほど強くなる宝石もいます。それがアンタークサーチライトです。
彼は金剛を本当に好いていて、期待に沿えるように仕事も完璧にこなしました。そして冬に眠りたくないというフォスがそこに同伴することになるのです。
アンタークの仕事は、流氷同士がぶつかる音で眠っている宝石たちを起こさないようにするというもの。
ある時、足のように腕も強度のある物質でつくることができればと願ってしまったフォス。宝石の心を反映して話しかけてくるという流氷に惑わされそうになります。
土壇場のところで踏みとどまったものの、手を滑らせて海に落ちてしまったフォス。そこで結果的に両腕を失ってしまうことになってしまいました。
そこで彼らが生まれたという「緒の浜」へと向かい、宝石になり損ねた鉱物たちのなかからフォスにあったものを探せと金剛は告げます。
初めての仕事上の過失に、気落ちするアンターク。なかなかフォスに合うものも見つかりません。しかしとりあえずつけた鉱物が彼の両腕から離れなくなってしまったところで、急に空が晴れ始め、月人がやってきてしまいます。
金剛もそのことに気づき、彼らのいる浜に向かうのですが……。
フォスが大きな変化をする3巻。彼は両腕を失い、それと一緒にある大切な記憶を失ってしまうことになります……。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2014-08-22
両腕を緒の浜で見つけた金と白金の合金に付け替えたフォス。それは彼の性格、そしてシンシャとの記憶を失わせてしまいそうになるのです。
どうにか重要な記憶だと思い出したフォスですが、彼は確実に変わっていきます。性格も以前のような陽気で口うるさいものではなく、強さと冷静さを兼ね備えたゆるぎないものになっているのです。
そして宝石たちのなかでも最強と言われるボルツはフォスの能力の高さを認め、一緒に組もうと誘うのですが、彼と深い絆で結ばれる現パートナーのダイヤのこともあり、フォスは迷います。この三角関係はぜひ作品でご確認ください。
結局ボルツと組むことになったフォスは初めて一緒に見回りをすることになります。そこに月人が現れる予兆である黒点が出るのですが、それは今までに見たことのないような二重のものでした。
そしてそこから現れた月人は金剛のもとへと一直線。お昼寝中の金剛は堂内の騒がしい様子を察してやっと起きてきます。
そして宝石たちが苦心する犬のような月人を見て、こう言うのです。
「……しろ おまえ 手はどうした」
(『宝石の国』4巻より引用)
その犬のような月人の中に紛れ込んでいたフォスは金剛のそのつぶやきを聞き取り、「しろ」と呼びかけた月人について聞きます。しかし、金剛はしらばっくれるのでした。
自分たちよりも月人との方が、親しいような雰囲気を感じたフォスは、ある考えにたどり着きます。
そんな時、シンシャと出くわしこう言われます。
「みんな知ってる
正確には全員が勘づいているだけで
本当のことは誰も知らない」
(『宝石の国』4巻より引用)
それについてどう思っているのかとフォスに聞かれ、シンシャは「審判中だ」と返します。
フォスは当初戦いたい理由を先生が好きだから、と答えました。かつての彼らしい、まっすぐでシンプルな答えです。
しかし今、フォスは最初の願いを忘れてしまいました。
そしてある決断をするのですが……。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2015-05-22
金剛と月人の関係性についてそばにいて見極めることにしたフォス。しかし知れば知るほど金剛が宝石たちの味方なのか、月人たちの味方なのか分からなくなってきます。
そして彼らについて月人たちから何かを聞こうと考えたフォスは、戦いの合間で至近距離になって話しかけてみます。
言っていることが分かるかと聞くと、月人は「ふ」そのあとしばらくして「あ」と言います。
それがフォスの言葉に反応して言ったことなのか、それとも単純に空気が漏れて音となっただけなのか、フォスは資料を読み漁ります。しかし収穫はゼロ。
その途中で、かつてラピスラズリと一緒に仕事をしていたゴーストに何でも手伝うと言われてつい心が動いてしまいます。彼は過去にラピスラズリを自分の力不足で月に奪われてしまったと思っており、フォスと似たような経験をしている人物です。
金剛を疑っていることを打ち明けようかと思うフォスですが、そう思っているのは自分だけだと言い聞かせて話を終わらせます。
その翌日、昨日言いかかけていたいたことは何なのだと聞かれたフォス。なかなか口を割ろうとしない彼に、ゴーストは自分と組んでくれないかと申し出ます。
ボルツがジルコンと組むことになり、ペアがいなかったフォスはそのまま受け入れます。
そして実戦の時、フォスはゴーストに援護を頼み、できるだけ近づいて月人に話を聞こうとするのですが……。
ちなみに5巻では1話しか登場しないものの存在感のありまくりのパパラチアが登場するのでそちらもお見逃しなく。「不完全」な者同士、フォスとパパラチアとの会話は物悲しいものがあります。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2015-11-20
月人に連れて行かれそうになったフォスに代わり、連れて行かれてしまったのはゴーストでした。もともと彼は二重構造の宝石だったので、表層だけを奪われ、彼が「中の人」と呼ぶ人格が出てきます。
ゴーストは中の人格にフォスを守ってと言い残し、月に連れ去られてしまいます。
そしてフォスが目を覚ました時、黒くなった顔のゴーストによって何度も殴られます。これが「中の人」カンゴームです。
彼はしばらくは名前のない状態だったのですが、フォスの申し出により、金剛からそう名付けられました。フォスは戦いを経て自分だけで月人と接触するのは難しいと気づきます。金剛を疑う気持ちを抑え、大事な友達であるゴーストの中の人格の名をつけることを彼に任せたのでした。
しかし、そんなフォスの考えとは別に、金剛はまたしても月人とのつながりをほのめかす言動をします。それは月人の黒雲にフォスが手を伸ばして手に入れたものについてでした。
フォスはかつて奪われた宝石たちを取り戻そうとその雲の中に手を入れるのですが、つかんだのは宝石ではなく、それらを載せるための皿のようなものだけでした。それを金剛に渡し、帰るフォス。金剛はその皿を懐かしそうに見つめるのです。
ますます謎が深まる6巻、続く巻ではさらなる波乱の展開が待ち受けていました……。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2016-09-23
前巻6巻で月人に頭を奪われてしまったフォス。ラピス・ラズリの頭を結合するようゴーストが提案しますが、金剛は断ります。
しかしゴーストが自分の頭をさし出そうとするのを見て苦渋の決断で結合することになりました。
そしてそれから100年。
フォスが目覚めないまま、また冬がやってきます。彼の代わりに冬の仕事を引き継いだゴースト。そのまま冬が過ぎ、また春がやってきます。
と、いきなり何の前触れもなく目を覚ますフォス。
今までアゲートと貝殻を合わせた足、金と白金の腕を得てから少しずつ記憶と性格にブレが出てきた彼。周囲は改造の結果がどうなるのか固唾を呑みます。
フォスは目を覚まして自分の顔を見てこう言いました。
「美形〜!
悪くないわぁ〜 こういう顔好き〜」
(『宝石の国』7巻より引用)
見まごうことなくフォスです。むしろ腕を変えた時よりも明るい性格が戻っているような気さえします。
しかしやはり大掛かりな改造は変化があります。フォスの夢の中に頭部のもともとの持ち主であるラピスが登場するのです。そして誰かの一部になることを考えてインクルージョンに言付けを頼んだのだと言います。
その夢を見た翌日から目がさえるフォス。月人たちから動作に合わせてヒュウヒュウと聞こえてくる音、彼らの周囲に散らばる花のようなものの匂いは意思疎通を図るためのものなのでは、何か法則性はないかなどと分析し始めます。今までのフォスからは考えられない発想です。
そんな時、宝石のような形をした異形がやってきます。金剛はそれを見て「博士」とつぶやきました。そして近づいてまじまじとそれを見て「偽物…」とこぼすと、自分以外の誰かにこれを壊すよう頼むのです。自分はこれを壊せない、と。
そしてそのあと質問攻めしてくるフォスにこう言うのです。
「お前の疑いは尤もだ 疑念を抱かない方が難しいだろう
すべてわかっている だが 答えることはできない
すまない それでも
おまえたちを愛しているよ」
(『宝石の国』7巻より引用)
そしてこの話はうやむやにされてしまいました。
そんな時、かつて救ったアドミラビリス族王家の末裔と出会ったフォスは、かつて海で聞いた伝説を再び聞きます。
その昔「にんげん」という生き物がいたこと、星欠けた6度目に彼らは海に入り、徐々に魂と骨と肉に別れて進化していったこと、アドミラビリス族はそのうちの肉であること、他の生物と契約して進化した骨はおそらく宝石であること、清らかな新天地を手に入れ、肉と骨を取り戻そうとしている魂は月人であろうということ。
それを聞いて過去を思い出したフォスは、やはり先生の口から真実を聞きたいと願います。「まだ先生を愛してる」から。
そして先生にこう言うのです。
「かつて地上にいた物とはにんげんですね?
それを知ってる先生は
にんげんが三つに分かれる前からいらっしゃるということになります」
(『宝石の国』7巻より引用)
それを受けた先生はある衝撃的な事実をフォスに話します……。続きは作品でお楽しみください。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2017-05-23
秘密を解き明かすべく、あえて月人にさらわれたフォス。月人の王子・エクメアに出会い、彼らの目的を聞くことに成功します。彼は星の成り立ちを語った後、こう続けます。
「魂の分解には質は問わないが
生きている別個体の人間の祈りが必要だ
誰の祈りも得られないまま月に座礁し
変容した人間の魂の集合体 それが私たちだ」
(『宝石の国』8巻より引用)
そして金剛の正体についても淡々と明かすのです。
「君たちが先生と呼んでいるあれは
人間が最後に作った祈りのための機械だ
元々は最後の人間が寂しくないようにという
叙情的見地から作られたようだが
実質は人間の肉体は元より魂までも瞬時に分解する
恐ろしいほど協力な破壊装置だ
だがあれはいつからか壊れてしまってね
仕事をしなくなってしまった
まだ我々という分解されていない魂があるというのに
そこで我々はどうにかしてあれを刺激し 働かせるため
日々努力と試行錯誤を繰り返しているわけだ」
(『宝石の国』8巻より引用)
すべては金剛の心を揺りうごかすための戦いだったのです。
「あれはどういうわけか
君たちを大切に思っているから」
(『宝石の国』8巻より引用)
金剛が隠していることはあっても嘘をついている訳ではなく、それでいて自分たちへの愛は本物だということを知って動揺するフォス。今まで様々なことを試してきたが、何もうまくいかなかったと語り、寂しげな顔をします。そこにわらわらと集まってくる月人たち。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2017-11-22
実は王子は、今のこの環境を仲間のために憂いている人物だったのです。
「皆を早く自由にしてやりたい
楽しそうに見えるだろうが 皆 無理をして疲れ果てている
夜眠り 朝起きて食事を摂り 糞をして
誰かと対話し 和解し 愛し合う 啀み合う
絶えず進展していない不安に侵され
むりに問題を探し出し 小さな安心を得る
永久にその繰り返し
永くを彷徨う我々にこの人間の野生はもう合わない 苦痛だ
だがなぜかずっとこびりつき逆らえない ひどい呪いだ
はやく 金剛を動かさなくては……」
(『宝石の国』8巻より引用)
そしてフォスを砕かずに部屋を用意し、こう言うのです。
月人の現状に多少の共感してしまったフォス。まるで月人たちと王子は、宝石たちと金剛の関係のようでした。
しかし王子の言葉を受け、フォスは月で過ごすうちにある恐ろしい考えに至ってしまい……。続きは作品でお確かめください。
ここまででお伝えした内容は全体の約半分弱。しかもまだまだ仔細にお伝えしていない情報もいれると、どれだけ8巻が密度の濃い内容かがお分りいただけるかと思います。
彼らが話す「にんげん」は「人間」であることも気になる巻。自分の目でぜひ確かめてみてください。
9巻ではついに一定数の宝石たちをつれてフォスが月へと向かいます。
そこで今まで見たことのないような技術に触れる宝石たち。ルチルがずっと胸を痛めていたパパラチアもエクメアの技量で目を覚まします。さらにフォスはエクメアに粉になった宝石たちをもとに戻すように交渉するのですが……。
一方、地上では金剛が残った宝石たちに真実を話していました。そしてフォスの行動は正しく、一緒に月についていくのもよいだろうと語るのです。もはや自分が機械だということを隠さない彼はシステマチックな話し方をしますが、ところどころに人間らしさも見せます。
その後、月から戻ったフォス一行と金剛とあることを決意した宝石たちは、再び顔をあわせます。そしてここから予想もつかない展開に巻き込まれていくのです。
1回読んだだけでは簡単には理解できない、登場人物たちの複雑な心理描写やストーリー展開に引き込まれる本作。8巻でひと段落したかと思いきやさらに謎が深まる内容に続きが待ちきれません!
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2018-10-23
表紙の雰囲気からしてガラッと変わった10巻。「何のために生き延び続けるのか」というテーマが重苦しく続いたなか、フォスはいよいよ地上の宝石たちと向き合おうとします。
宝石対月人の戦いは、フォス側につき月人とも歩む宝石たちと、金剛を信じる地上の宝石たちとの対立へと変わっていくのでした。
破壊と改造を繰り返し、変わっていくフォス自身も、自分が自分であるのかわからなくなってきます。月人、宝石、金剛といった人の種別による戦いではなく、「無になることを望むもの」と「存在し続けることを望むもの」といった思想のぶつかりあいへと物語が変化していきます。
言葉ひとつで宝石を連れて行ったフォスを怖がる、地上の宝石たち。金剛を守ろうと必死な様子は痛々しいほど。
フォスは自身が再生するためには、多くのものを傷つけると知り、地上へと向かいます。無抵抗で訪れたものの、大きく破壊されたフォスはもはや彼らに弁解することすらかなわないのでした。フォスはバラバラに保管されます。
そして次のシーンではまた長い時がたったことがわかります。宝石たちがフォスの存在を忘れるタイミングを待って金剛はフォスを元に戻そうとします。しかし、目が覚めたフォスは金剛の「祈り」を求めます。全てを終わらせることをボロボロになりながら願うフォスの姿は、なにか読み手までを苦しい思いにさせる力があります。
物語世界そのものが終わりへと近づいていく10巻。
続く巻が読みたいような、怖いような不思議な気持ちに駆り立てられます。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
砕かれてから永いときを経て、金剛によって再び組み立てられたフォス。
10巻で痛々しい姿で祈りを求めたのとは裏腹に、祈りを途中で止めてしまった金剛に荒々しくとびかかります。しかも金剛のことを「機械」呼ばわり。僕のために祈れというのです。
まるで血のように液状化した体を口から流しながら、お前さえいなければ、と金剛に恨み言を言うフォス。その体で金剛を覆っていたところを、異変に気付いたボルツによってフォスは薙ぎ払われ、金剛から引き離されます。祈りは完全に止まってしまいました。
計画の失敗に再び月へと戻っていくフォス。月と地上の宝石たちの溝は、埋まるどころかより深まったようでした。
そして月では、金剛を祈らせる条件が明かされます。
その一つは金剛が人間と認めた者であること。そしてもう一つは他力本願であるということ。
自らの願いによって、金剛の祈りを欲する人間が必要だということです。さらに、本物の「人間」よりも、金剛の愛する宝石を主とした疑似人間のほうが金剛は反応しやすいということでした。
そこでエクメアはフォスを人間にしたのでした。もともとの宝石は骨、アドミラビリスの脚は肉、そして月での月人とのふれあいで魂。たびたびの破壊と改造を経てフォスは人間たる要素をそろえていたのです。
しかしフォスを人間にしても、金剛は故障しているため祈りません。そこでエクメアがフォスに求めたこととは……?
対立が深まった11巻。フォスの痛々しいまでの変化には、読み手までも苦しい気持ちにさせます。数々の謎が明かされていく中、希望はあるのでしょうか。
フォスと呼ばれている本作の主人公。身体は燐葉石(りんようせき)という鉱物でできており、物語開始時では、300歳という1番の若さ。
身体の一部を欠損しても、体内の微生物であるインクルージョンが自分以外の鉱物とも馴染みやすいという、珍しい特性を有しているため、比較的早く欠損部位を補完することができます。
辰砂と書き、硫化水銀からなる鉱物でできています。
そのため、銀色の毒液を大量に出して操る能力を有しているめ、高い戦闘能力が期待できます。
宝石たちを教育してまとめる、「先生」と呼ばれ親しまれている人物。
しかし、「にんげん」という言葉に異様に反応を示したり、月人と関わりがあるような行動を取ったりするなど、怪しい動きを見せることがあり、フォスに疑念を抱かれています。
ダイヤと呼ばれているダイヤモンドに属する物質。
中性的な宝石たちが多い中で、物腰の柔らかさや仕草をもつ女性的な存在です。無色ですが、光を反射して7色に輝きます。
カーボナードという、天然の多結晶ダイヤモンドです。
黒く長い髪の毛が特徴的で、振り回して武器にしたり、攻撃を防いだりと金剛先生に次ぐ戦闘力の高さを持っています。
モルガと呼ばれている緑柱石(りょくちゅうせき)という鉱物の1種、モルガナイト。
やんちゃで、口も粗いのが特徴的で、見回りの際、ゴーシェナイトとコンビを組んで行動しています。
モルガと同じく緑柱石(りょくちゅうせき)の1種で、ゴーシェと呼ばれています。
モルガとコンビを組んで行動していますが、正反対の落ち着いた性格です。
金紅石(きんこうせき)と呼ばれる鉱物。
医療を担当しており、割れた宝石たちの修繕・修復を行っています。
以下の記事では、登場キャラクターについてもっと詳しく解説しています。よろしければあわせてご覧ください。
漫画『宝石の国』のキャラクター紹介!年齢や硬度など設定も解剖!
2017年10月にアニメ化された『宝石の国』。「静けさ」すら感じる神秘的な世界観と、ストーリーに隠された謎に引き込まれる漫画作品です。その独特な魅力をつくっているのが、キャラクター。登場する人物ほぼ全員が宝石で、壊れやすいという宿命を背負っています。一瞬の気のゆるみで「存在」がなくなってしまう彼らは、一見ツンツンしているように見えますが、儚げで美しい魅力があります。 この記事では、漫画『宝石の国』のキャラクターを徹底的にご紹介。年齢や硬度などの「宝石」ならではの細かい設定や元ネタを知ると、より作品世界にのめり込むことができます。
2017年10月よりテレビアニメが放送されていた本作は、黒沢ともよや小松未可子など、有名な声優陣が携わりました。詳しくはTVアニメ『宝石の国』公式サイトをチェックしてみてください。
敵がいながらも「死」という概念がない無機物・宝石たちの日々が綴られる『宝石の国』。戦闘シーンはあるものの、死なない永遠の世界にはどこか心がひんやりとする静かな雰囲気が常に漂っています。
果たしてその世界の中に隠された秘密が明らかになった今、今後の展開は一体どういうものになっていくのでしょうか?ぜひ作品でその結末を見届けてみてください。