2017年10月にアニメ化された『宝石の国』。「静けさ」すら感じる神秘的な世界観と、ストーリーに隠された謎に引き込まれる漫画作品です。その独特な魅力をつくっているのが、キャラクター。登場する人物ほぼ全員が宝石で、壊れやすいという宿命を背負っています。一瞬の気のゆるみで「存在」がなくなってしまう彼らは、一見ツンツンしているように見えますが、儚げで美しい魅力があります。 この記事では、漫画『宝石の国』のキャラクターを徹底的にご紹介。年齢や硬度などの「宝石」ならではの細かい設定や元ネタを知ると、より作品世界にのめり込むことができます。
2017年秋にアニメ化もされた人気漫画『宝石の国』。装丁からも分かるとおり、その美しい世界観に定評があります。ちなみに単行本はカバーに特殊なコーティングがされており、キラキラとした装丁はコレクション欲を刺激します。
- 著者
- 市川 春子
- 出版日
- 2013-07-23
物語の舞台は遠い未来の地球。かつては「にんげん」がいたとされていますが、タイトルからもわかるように、住人は「宝石たち」です。
そんな本作は、宝石たちの細かな設定が魅力的な世界観を構築しています。
彼らは壊れやすく、空から舞い降りてくる外敵「月人」たちから絶えず狙われています。 宝石たちは壊れるとその分だけ記憶をなくしたり、性格が変化したり、自分というものを失っていきます。
それでいて壊れない限り、死という概念がありません。今にも破綻しそうな不安定な面と、壊れない限り永遠に存在し続ける不変的な面を抱いた彼らの設定が、私たちを惹きつけるのです。
この記事では彼らの硬度や年齢などの基本的な設定や、ストーリー上でのセリフ、名言などを解説します!
ちなみによくキャラクターの身長や性別が話題に上がりますが、まず性別はありません。作者が明言しており、上半身は少年、下半身は少女を意識して描かれているそうです。(ただし、この記事では「彼」という三人称で呼びます)また、身長に関しても明言されていません。
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不思議なストーリーの主人公がフォスフォフィライト、通称フォス。
フォスフォフィライトという宝石で和名は燐葉石(りんようせき)。年齢は、作中最も若い300歳です。硬度は、3半で、コインなどで容易に傷つけられてしまうような宝石です。アニメ化作品では黒沢ともよが声優をつとめました。
フォスはその世界で誰しも持っている、役割を未だもらっていません。医務や戦略計画、服飾織物など、どれをやらせてもからきしなのです。
そしていつも戦士になりたいと願っていたのですが、先ほどもいったように硬くなく、靭性(じんせい/どれくらい壊れにくいかの程度を表すもの)は最低。さらに宝石たちをいつも空から襲ってくる月人好みの薄荷色なのです。
そんなフォスに宝石たちの先生のような存在、金剛はこんな使命を与えます。
「そこでお前には 博物誌を編んでもらう
現在を保存し未来の不意に備える
重要かつ創造的で知的な仕事だ
頼んだぞ」
(『宝石の国』1巻より引用)(中略あり)
その言葉を口にした金剛は何か考えのある表情をしています。
様々な困難を超えて変化していくフォス。果たして彼が明らかにする、宝石たちを取り囲む世界にはどんな秘密が隠されているのでしょうか?
題材となっているフォスフォフィライト(燐葉石)はエメラルドグリーンの綺麗な宝石ですが、上述したように加工には向きません。そもそも掘り出すことが難しく、今ではほとんど産出されないためコレクターの間では高値で取引されています。「加工できない(宝飾品にはできない)」「人から求められる」「稀有な存在」という3つの特徴を抑えておくと、より深く物語を理解できるでしょう。
先ほども少しお伝えしたように、宝石たちは絶えず月人と呼ばれる存在に狙われています。空に黒点が現れると彼らが来襲する前兆。
宝石たちは硬度や靭性が高い者たちが戦士として月人と戦いますが、彼らでは敵わないことも。しかし彼らには心強い存在・金剛がいるのです。宝石たちは彼を慕って金剛先生と呼んでいます。アニメ化作品では中田譲治が声優をつとめました。
スキンヘッドに袈裟を着た出で立ちは僧のようで、その喝は一発で宝石たちを割るほどの力を持っています。
この金剛こそ、本作の中核をなす人物。月人が彼らを襲う理由に関わっています。
中央部に仏のような見た目をした盃をもった人物を据え、それを取り囲むように「雑」と呼ばれる者で列をなしてやってくる月人。雑たちは弓矢やヤリのようなもので宝石たちを狩ります。
彼らの目的は、はっきりとしていません。当初は宝石たちを宝飾品として手に入れるためといわれていましたが、徐々に異なる真実が見え始めてくるのです。
仏を連れた集団・月人と僧の格好をした金剛、見た目から何かしらの関係性が感じられる両者。さらに金剛は繋がりを匂わせる発言をして、宝石たちに違和感を感じさせることもあります。
彼の名前から由来を考えると、おそらく「金剛石」からきているのでしょうが、彼自身は宝石ではありません。金剛石はダイアモンドの和名として知られていますが、実は古い文献における「金剛石」がダイアモンドをさすものであるかどうかは推測の域をでていません。そもそも「金剛」とは仏教用語で「一番硬いもの」を表す言葉であり、寺社仏閣の名前や地名に使われるのもそういった意味合いからです。宝石としての意味と仏教的な意味の二つをあわせもつというところに着目すると、彼がどんなキャラクターであるのか、探るのが楽しくなってきます。
落ちこぼれのフォスよりもさらに周囲から避けられている辰砂(しんしゃ)の宝石、それがシンシャです。硬度は2と低いものの、戦闘能力は非常に高い人物。年齢は明かされていません。アニメ化作品では小松未可子が声優をつとめました。
彼が疎まれるのは体から放たれる毒液が理由です。それは周囲の空気や自然を汚染し、他の宝石に付着するとその部分が光を通さなくなり、削るしかなくなってしまうという危険を孕んでいるもの。先ほどもいったように宝石は削られると記憶も同時に無くしてしまいます。
シンシャは月人が今まで一度も来たことのない夜の見張り役を任されています。光を栄養とする他の宝石は夜に活動が鈍ってしまいますが、シンシャだけは自身の毒液によって光を集め、歩くことができるから。
……というのは建前上の理由で、その実シンシャを他の宝石と接触させないようにするため、というのが大きな目的です。彼は夜に閉じ込められ、存在を持て余されているのです。
「俺が息をするだけで土も草も死んでいくのに
これ以上 汚したくない 見られたくない
こんな恥ずかしい
戦いたくない」
(宝石の国1巻より引用)
そんな孤独な気持ちを抱えながらもフォスが危険に晒された時に月人から守ってくれたシンシャ。フォスはもう一度彼に会いにいきます。
シンシャがいた場所は虚の岬といって、以前も宝石が連れ去られた最も危険な場所です。そこでシンシャはフォスにこう語ります。
「俺はここで攫われるのを待っている
月でなら俺に価値を付けてくれるかもしれない
ずっと待っているがこない」
(『宝石の国』1巻より引用)
それを聞いて、いたたまれなくなったフォスはシンシャにこう言います。
「夜の見回りよりずっと楽しくて 君にしかできない仕事を
僕が 必ず見つけてみせるから!
月に行くなんて言うなよ!なあ!」
(『宝石の国』1巻より引用)
フォスの言葉を聞きながらも背を向けて歩き去ってしまうシンシャ。しかし本当は夜から出たいと渇望し、フォスの言葉に期待してしまっているのです。
果たしてフォスはシンシャの傷を癒すことができるのでしょうか。
「賢者の石」とも呼ばれ、その赤く毒々しい見た目が特徴的な辰砂(しんしゃ)。かつては水銀をとるための石として広く活用されていました。しかし熱を加えると水銀を蒸気として発するなど、扱いの難しい石でもあります。現在では水銀は、既存の製品で使っているものをリサイクルすることでまかなえるため、水銀をとるために使われることもありません。またその色から、そのまま砕いて古くは着色のために用いられてきましたが、その有毒性が知られるようになると活用の道は閉ざされていきました。そんな辰砂の歴史は、作中のシンシャと重なる部分があるのかもしれません。
宝石といえばやはりダイヤではないでしょうか。この物語に登場するダイヤは硬度10で靭性2級、物語でもひときわ輝く存在感を放っており、優しい物腰で女口調で話すキャラクターです。アニメ化作品では茅野愛衣が声優をつとめました。
ある日フォスはダイヤモンド属への憧れと嫉妬を隠しもせず、優しいダイヤに偉そうに相談します。
「とにかくアイデアの出し方出せや」
(『宝石の国』1巻より引用)
それに対し、怒ることもなくダイヤはこう返します。
「すっごく変わってみるのはどう?
いつもやらないことをしてみると良いんじゃない?」
(『宝石の国』1巻より引用)
それに対していつも自分じゃないものに変わりたいとは思ってきたとすねるフォス。ダイヤはそんな面倒くさいい彼にも優しく謝ります。
そんな時、月人がふたりを襲ってきました。新しい戦い方をマスターしたというダイヤですが、戦うたびに壊れるような音がして、徐々に劣勢になってきてしまいます。そしてついには腕が折れ、戦闘不能に。
それを見てチャンスだと月人がダイヤをさらおうとしたその時、同じダイヤモンド属のボルツが助けにきます。ボルツはカーボナードの宝石。金剛についで2番目に強く、多結晶体であるためダイヤモンドより壊れにくく、硬度は10、靭性は特級です。アニメ作品では、佐倉綾音が声優をつとめました。
そんなボルツはダイヤが苦戦していた月人をあっというまに一掃してしまいます。その姿を見てダイヤはこう語るのです。
「変わりたいのは僕 あんな風になりたいの
強くなければダイヤモンドではない
だからボルツだけが本物のダイヤモンドよ
そう だから でも たまに ほんの一瞬
ボルツさえいなければ
なんてね 思っちゃうの
とても愛してるのに ダメね」
(『宝石の国』1巻より引用)(中略あり)
いてもいなくても苦しい存在。ダイヤはボルツに複雑な、そして強い感情を抱いています。しかしボルツもまたダイヤを大切に思っているのです。
ダイヤが新しい戦いで負傷したことを知ると、ボルツはこう詰め寄ります。
「どっかいったと思ったら またあの妙な戦い方試してたのか…!
おまえには負担が大きい無理な芸当だと言ったはずだ!
何を考えている!」
(『宝石の国』1巻より引用)
言葉は乱暴ではあるものの、ダイヤを大切に思う気持ちが伝わってきます。
複雑な感情を抱えたダイヤモンド属のダイヤとボルツ。選ばれた素質を持った宝石ならではの苦しみを感じさせるふたりです。
ダイヤもボルツも炭素から形成された宝石で、ダイヤモンドの一種です。通常ダイヤと呼ばれるものは無色透明のものをさしますが、ボルツはカーボネードとも呼ばれさらに結晶が密になっているもののことをいいます。見た目が黒く、断面もギザギザになるため装飾用などに加工されることはあまりなく、むしろ工業によく使われます。透明のダイヤに熱を加えることで、ボルツ(カーボネード)を作ることも可能です。構成している物質が同じでも、「宝石」として求められるダイヤと「鉱石」として求めらるボルツ。上述したように、金剛石もまたダイヤの異名と考えると、この3者の関係性と役どころが、今後謎を解き明かすヒントになるかもしれません。
硬度3というフォスとほとんど変わらないほどもろいのが、アンタークサーチライト、通称アンターク。アニメ作品では伊瀬茉莉也が声優をつとめました。
彼はフォスよりもさらに特異体質の宝石です。通常日照時間が短くなると宝石たちは活動量が下がり冬眠に入るのですが、彼は寒い冬に活躍します。
アンタークは通常は液体状になっており、気温が下がると結晶化。そしてどんどん強くなります。なので冬の間に海で発生した流氷が擦れる音がみんなの眠りを妨げないよう、氷を砕く仕事をしているのです。
しかし他の宝石たちは冬眠に入ってしまうのでアンタークサーチライトはいつもひとりぼっち。そこで彼はいつも夏場の休息期間を終えると金剛に「例年の」ものをお願いします。
それはハグ。キリリとした第一印象からは考えられないような可愛らしい要求です。
彼はかなり金剛が好きなよう。今まで一度も仕事で失敗したことのない彼がフォスのせいでミスをした時には絶望感を漂わせながら先生に話しかけたり、自分が壊れても体のことよりも「先生のこと忘れたらどうしてくれる!」と言ったりするほど。
しかしフォスをかばったことで月人に連れていかれてしまい、かけらだけが地上に残されました。連れて行かれる間際、彼がフォスにかけた言葉は「先生がさびしくないように冬をたのむ」。最後まで先生のことを気にしていました。
そして自分のせいで連れていかれてしまったアンタークのことが忘れられないフォスはそこから変化していきます……。
おそらくアンタークチサイトがモデルでしょう。和名は南極石。彼が流氷を砕く仕事をしていることも関係していそうです。この石の特徴は、なんといっても常温で溶けてしまうこと。もちろん装飾品にはできませんし、実際にこの石を保有する場合は瓶に入れて冷蔵庫にしまっておくことになります。気温でも溶けてしまうような彼が金剛にハグを要求する…なんだかここに金剛の秘密もありそうです。
金紅石という硬度6の宝石で医療の仕事をしているのがルチル。変化前のフォスとはよく口喧嘩をしながらも仲良くやっていました。年齢は不明で、アニメ化作品では内山夕実が声優をつとめました。
かつてはパパラチアと組んで戦っていました。彼が動かなくなってその穴に合わせて様々な改造を加えていたことがきっかけで医療技術の腕が磨かれ、作品中では医療班として活躍します。
パパラチアが久しぶりに目を覚ました時には自分の無能さが悔しいという風に唇を噛み、「あなたの不運を克服できなければ私の技術は何の意味もありません」と言うほど彼につぎこんでいまです。
光の当て方や石によって色の見え方が異なることで有名なルチル。人工的に生成されたルチルは透明で、ダイヤモンドの代用品となることもあります。セラミック塗料から化粧品まで、私たちの日常に幅広く活用されています。そんなオールマイティさは、医療を担当する彼らしい点であるといえます。また、針状になった結晶が、ルビーやサファイヤといった他の宝石に入ることで美しい模様となることもあります。「他の宝石と組み合わさることで違った輝きを持つ」という特徴はルチルを理解する手がかりとなりそうです。
硬度9で靭性が準一級のパパラチア。彼はかつてルチルと組んでいましたが最近はまったく動かなくなってしまった人物です。生まれつき体に多くの穴があいており、そのせいで動けないよう。アニメ作品では朴璐美が声優をつとめました。
5巻では220年ほど、30万回ほどの改造の結果目を覚ますことができました。そんな彼をつかまえて「月人と話してみたい」と打ち明けるフォス。考え詰めている様子の彼を見てパパラチアはこう言います。
「たとえば 俺はルチルに俺のパズルを諦めてほしいと思ってる
でもアイツはどう受け取るだろうな
清く正しい本当が 辺り一面傷つけ
全く予想外に変貌させるかもしれない
だから冷静に 慎重にな」
(『宝石の国』5巻より引用)(中略あり)
眠っていながらもルチルに迷惑をかけているという苦悩を抱えている宝石です。
モデルとなっているのはおそらくパパラチアサファイアでしょう。華やかな赤い髪がサファイアの美しさを表現しています。パパラチアはスリランカの言葉で「蓮の花」を意味します。蓮の花は散ったあと、穴だらけの核が残り、やがて種子になりますが、彼の穴だらけの体と通ずるものがあるように思えてなりません。
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