森絵都の最高傑作『カラフル』は、極上の「タイトル回収」が味わえる一冊

更新:2021.2.15

「ホンシェルジュ」編集部の大学生インターン・吉野シンゴのセレクトで、独自のファンを持つ読書ブロガーの方々に書評を寄稿していただきました。 今回は、ブログ「俺だってヒーローになりてえよ」を運営する読書中毒ブロガー・ひろたつさんに、極上の「タイトル回収」が体験できるという傑作児童文学『カラフル』について語っていただきます!

ブックカルテ リンク
  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

皆さんは何フェチですか? 私は「タイトル」フェチ。

どうも、読書中毒ブロガーのひろたつです。
 

皆さんは小説のどこが好きだろうか。「好みの異性(異性じゃない人が好みの方もいるだろうけど)のパーツでどこが好きか」的なアレだ。

ストーリーテリング・キャラクター・リーダビリティなどの中身に関するものもあれば、装丁とか紙の質感とか天アンカット(本の上部をあえて切り揃えないで凸凹のままにしておくこと。新潮文庫が代表例)などの外観に至るまで、色んな好みがあると思う。

ちなみに私は人生の大半を小説好きとして過ごしてきたので、あらかたのフェチは制覇している。やっぱり最初は面食い(装丁)だった。

小説フェチの中でも、超代表的な癖はやはり「タイトル」だろう。読書好きならそれぞれにあると思う、「このタイトルめっちゃ好き」ってやつ。

タイトルは、作品の顔にして本質である。だからこそ、作品に対してどんなタイトルを付けるかによって、読者は作者が言葉にしなかった意図を汲み取れる。

最高の「タイトル」を持つ傑作小説、『カラフル』。

今回の記事では、数ある小説の中でもズバ抜けて「タイトルが秀逸な作品」を紹介しよう。私がこれまでに読んできた1000冊以上の小説の中でも、屈指の完成度を誇る作品で、超オススメの一冊である。

それがこちら。だだんっ。

著者
森 絵都
出版日
2007-09-04

本書『カラフル』は、『風に舞いあがるビニールシート』にて第135回直木賞を受賞した作家・森絵都の、本当の代表作にして最高傑作である。彼女は、本来は児童文学を畑とする作家で、あまり知られていないけれど、名作がごろごろしているからぜひチェックしてほしい。

さて、森絵都の最高傑作『カラフル』の、あらすじとオススメポイントを紹介しよう。

まずは、あらすじ。

生前の罪で輪廻の輪から外れた「ぼく」。暗いトンネルと抜けると、突然現れた天使から言われる。「あなたは抽選の結果、輪廻のサイクルに戻る挑戦権を得ました」。その挑戦の内容とは、他人の身体を借りて一定期間生活を送ること。そして、その間に自らが犯した生前の罪を思い出すこと。

そんな「ぼく」が入れられた身体は、数日前に服毒自殺を試みた14才の少年・小林真だった。

少年になりすまし、日々をなんとか過ごす内に、「ぼく」は少しずつ大事なことに気付き出す。それと同時に、少年の世界の見え方がじわじわと変わっていく……。

『カラフル』は、痛いほど「思春期の青さ」を追体験させてくる。

続いてはオススメのポイントだが、これはもう「思春期の青さを追体験できる」、これに尽きる。いや、本当はもっといくらでも挙げられるのだが、紙幅の都合でこの一点をゴリ押しさせてもらう。

作者・森絵都の主戦場は児童文学である。多感な子どもに向けて長く作品を書き続けているだけあって、彼女は心の機微を描くのがすこぶる上手い。

特に思春期特有の青さや未熟さ、ぐちゃぐちゃ感を文章にして取り出すのが上手い。思わず自分の灰色一色に染まった青春時代を思い出してしまうほど。

『カラフル』はフィクションなので作中のエピソードは極端だ。決して自分が経験したような出来事が書いてあるわけではない。だが、「うわー、この感じ分かるわぁ……」と作品に自我が持っていかれるのである。

例えばこんなシーンがある。

主人公・真には、一つ年下の初恋相手がいた。「ひろか」という名のこの少女は援助交際をしており、真(正確には真の身体を借りている「ぼく」)はその現場を目撃してしまう。

明らかに父親には見えない中年のオヤジとホテルに入ろうとするひろかを、真は衝動的に連れ去ってしまう。

駆け込んだドーナツ店で一息つき、「なんであんなことしてるの?」と聞くと、ひろかは何の悪気もなく援助交際について語り出す。

「自分が欲しいものは高いものばかり」「エッチは好きだし」「あの人は当たり」

恋する少年としては、地獄のような時間である。

このときに真の内面を描写した文章が以下になる。

「ぼくは気持ちを落ちつかせるため、冷めかけたココアを口に運んだ。この世のものとは思えないほど甘く、ひどい味がした。世のなか、なんにでも当たり外れがあるらしい。真の初恋もどうやら大外れのようだけど、それでもひろかを、今さらきらいになんてなれなかった。」
(『カラフル』より引用)

この「幻滅はするけれども、嫌いなれない」といういじらしさ。うーん、青い。青さゆえの苦しさだ。でもきっと誰もが似たような感情を経験したことがあるはずだ。

このように、『カラフル』では青さゆえの愚かさや脆さを描いて、読者の共感を呼び覚ましてくるのだ。だからこそ、読んでいるときの没頭感はピカイチである。

はっきり言って、『カラフル』は苦しい物語だ。でも思春期の少年にとって、苦しみと成長は切っても切れない。そして成長の過程が見えるからこそ、物語に感動は生まれるのだ。

「タイトル回収」、4つの黄金パターン。

さらに効いてくるのが、『カラフル』というタイトルである。というか、この作品の真骨頂はタイトルにこそある。物語にのめり込んでいる所に、最高のタイミングで「タイトル回収」の衝撃を放り込んでくる。「そう来たか!」と叫びたくなるはずだ。

ところで、タイトルと一口に言っても、その扱い方には、大きく分けて以下の4パターンがある。

 

  1. 内容でモロに言及する
  2. それとなく匂わせる
  3. タイトルがあらすじになってる
     
  4. まったく言及しない
     

 

どれが正解とかはもちろんなくて、それぞれに味わいがあってよろしい。

ただ、「このタイトルは凄えな」と分かりやすく思わせてくれるのは、やっぱり「1.内容でモロに言及する」というパターンだ。

最初は「このタイトル、どういう意味なんだろう……?」と思いながら読み始める。その時点ではタイトルが物語にどう作用するのかは分からない。

そして次第に、タイトルのことなんて忘れるぐらい夢中で物語を追いかけているところに……最高のタイミングでタイトル回収がぶっこまれる。これは完全にヤラれる。惚れる。エロい。いや、さすがにエロくはない。

私は、この瞬間が本当に大好きだ。最高に気持ちいい。作者の思考と完全にリンクできた達成感がある。きっと分かってくれる読書好きの方は多いと思う。

小説における最強の伏線、それがタイトルなのである。

最高の「タイトル回収」本、『カラフル』。

上記のタイトル回収パターンでいうと、森絵都は完全に①で攻めるタイプの作家である。だから彼女の作品は手に取るたびに、「このタイトルにはどんな意味が込められているのだろう?」とワクワクできる。

では、こちらの『カラフル』にはどんな意味が込められているか、どんな雰囲気の物語が展開されるか、ちょっと想像してもらいたい。

知らない方からすれば『カラフル』というタイトルは、ちょっと凡庸に感じると思う。私も正直、地味なタイトルだなと内心では思っている。

たぶん「人それぞれの色があって、みんないい」的な平和でハッピーな物語を想像されるかもしれない。少なくとも「カラフル」という言葉には、プラスのイメージを持たれることと思う。

しかしそこで、我らが森絵都御大である。なんと彼女は、「カラフル」という言葉を作中で「マイナスな言葉」として使ってくるのだ。

どういうことか説明しよう。

「白黒をつける」という言葉に代表されるように、私たちはとにかく分かりやすいものを好む。「これはこれ」とハッキリとした掴みどころのある答えを欲しがる。

だが世の中を見渡せばすぐに分かるように、我々の周囲にあるもののほとんどが答えのないものばかりだ。色んな良さがあり、同時に負の側面がある。

それは私たち自身にも言えることで、自分の中にはあらゆる顔がある。そのどれもが甲乙のつけがたい私たち自身であり、いろんな色を抱えているのが人間だろう。

これが森絵都の語る「カラフル」なのだ。

この物語の中で主人公の小林真は、幼さのそれがさせる一方的な見方によって、周囲の人間をレッテル貼りし、勝手に嫌いになり、勝手に孤独になる。

これは私たちの誰もが同じようなものだ。

みんな、自分の見たいようにしか世界を見れない。「これは正しい。これは間違っている」と、勝手に世界を切り分けてしまう。多面性があり、見る角度によっていくらでもカラフルになることを、ついつい忘れしまうし、自分自身がカラフルであることも忘れてしまう。

でもそんな愚かさを抱えた人間だからこそ、色とりどりの物語が生まれるのもまた事実である。

「カラフル」というたったの4文字に多彩な意味が込められた作品。それが『カラフル』なのである。大げさじゃなく、私のこれまでの1000冊以上の読書歴の中でも最高と呼べる作品だ。

『カラフル』を読み進めながら読者は、真と共に苦しんだり、悶えることになる。そして夢中になったその先で、物語は最高の結末を迎える。この瞬間に味わう感情は、あなたの一生モノの宝物になるはずだ。

著者
森 絵都
出版日
2007-09-04

私を読書沼に引きずり込んだ作家・森絵都

最後に、個人的な話になって申し訳ないのだが、『カラフル』の作者・森絵都は私にとって非常に特別な作家であるということを語っておきたい。というのも、私を本好きの沼に引きずり込んだのが、森絵都なのである。

中学のときの国語の先生が珍しい人で、授業の冒頭に「数分だけ小説を読み聞かせる」というコーナーを設けていた。ほとんどの生徒にとってそれは退屈な時間だったようだが、私は一気にのめり込んだ。

小説世界の中で繰り広げられるストーリー。主人公たちの息遣い。心の動き。そのいちいちに心を奪われてしまった。

そのときに出会ったのが『カラフル』だった。確か、その年の課題図書に認定されていたと記憶している。

それなりに平凡に多感な時期を過ごしていた私は、「こんなすげえ作品を生み出せる人がいるのか!」と衝撃を受けた。

それからは森絵都作品にのめり込んだ。その内に他の作家にも手を伸ばすようになり……気が付けば『カラフル』のような、強烈な「タイトル回収」にまた出会いたくて、小説を読み漁るような輩になりましたとさ。

著者
森 絵都
出版日
2007-09-04

私が読書好きになるまでの長い長い道のりは、是非とも私のブログ「俺だってヒーローになりてえよ」をご覧いただければ幸いである。

この記事が含まれる特集

  • 読書ブロガー‘‘書く’’語り記

    ホンシェルジュ meets 読書ブロガー! 大学生インターンが偏愛する個性派ブロガーの方々に、愛してやまない一冊を語り尽くしていただきました。

もっと見る もっと見る