毎年冬から春にかけて流行をくり返すインフルエンザ。学級閉鎖をはじめ、社会にさまざまな影響をおよぼしていることはご存知でしょう。この記事では、インフルエンザの種類や症状、予防や治療などの対策、歴史上の死者数などをわかりやすく解説していきます。関連本とあわせてぜひご覧ください。
インフルエンザウイルスに感染することで発症する感染症「インフルエンザ」。
1504年に、イタリア語で「影響」を意味する「インフルエンツァ(influenza)」に由来して名づけられました。毎年冬になると流行し、春過ぎには収まるため、当時は天体や寒気などから影響を受けて発生すると考えられていたそうです。
インフルエンザとみられる感染症の記録は、紀元前の古代ギリシャ、ヒポクラテスの時代からありました。日本でも古くから流行していて、江戸時代には「琉球風」や「お七風」、明治期に流行した際には「流行性感冒」と呼ばれています。その名残で、現在でもインフルエンザを「流感」と呼ぶことがあります。
大きく分けると、インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型と3種類が存在します。同じ型のなかにも、亜型や株と呼ばれる細かな違いがあり、異なった型、亜型、株には免疫が効かないため、1度インフルエンザにかかった人でもくり返し発症することがあるのが特徴です。
なかでもA型は、ヒトからヒトだけでなく、トリやブタ、ウマなどにも感染する「人畜共通感染症」に分類されます。たびたび世界的な大流行(パンデミック)を引き起こし、多くの犠牲を生み出してきました。
またA型は、動物からヒトに感染する際、別の型に変異することがあります。こうして誕生した「新型インフルエンザ」は誰も免疫を持っていないため、大きな被害を生み出しかねません。
たとえば2009年から2010年に豚由来のインフルエンザがヒトに感染した際も、新型インフルエンザの拡大が警戒され、WHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言しています。
インフルエンザは、主に感染者からの飛沫感染、ウイルスの経口感染や接触感染によって広まります。「国立感染症研究所」のHPによると、潜伏期間は1日から3日ほどです。
症状は3つの型によってそれぞれ異なりますが、特に感染力が強く、病状も重くなりがちなのがA型です。
一般的にA型インフルエンザに感染すると、38度以上の高熱や頭痛、全身の倦怠感、筋肉痛、関節痛などが突然現われ、次いで咳や鼻水などの上気道炎症状が発生します。これらの全身症状は一般的な風邪と似ていますが、症状が重いのが特徴です。
その後約1週間で快方に向かいますが、場合によっては呼吸器などに合併症を引き起こし、最悪の場合死亡することがあります。
合併症のリスクが高いのは
など。これらに当てはまる方は注意が必要です。
またB型インフルエンザはヒトからヒトへの感染でのみ発症します。病状は一般的な風邪に似ていて、比較的軽くなる傾向があります。
C型インフルエンザは主に5歳以下の幼児がかかりやすく、鼻水が多く出るのが特徴。季節を問わず、年間を通じて発生しています。
紀元前よりしばしば大流行をくり返してきたインフルエンザ。有史以来、多くの犠牲者を生み出してきました。
特に最悪の被害を生み出したのが、第一次世界大戦前後で大流行した「スペインかぜ」と呼ばれるインフルエンザです。
まずアメリカでインフルエンザが発生。その後アメリカ軍がヨーロッパに派遣されたことで、ヨーロッパ中に拡大します。大戦が終結すると、帰還兵を介して世界中に拡散しました。
当初戦時下にあった各国はその被害を隠蔽し、中立国だったスペインだけが実態を報道したそう。そのためこのインフルエンザは「スペインかぜ」と呼ばれています。
石弘之の『感染症の世界史』によると、当時の世界人口約18億人のうち、3分の1から半数ほどが感染。世界人口の3~5%が死亡したそうです。この被害者数は1回の感染症流行によるものとしては、史上最大になります。
現在でも、国内外で多くの人々がインフルエンザに感染しています。厚生労働省のHPによると、近年の日本におけるインフルエンザの感染者数は毎年およそ1000万人。2000年以降の死因別死亡者数を見ると、インフルエンザによる死亡数は214人(2001年)から3325人(2018年)です。
そのほか、インフルエンザの流行によって間接的に亡くなった人数を推計する「超過死亡」では、世界で約25万人から50万人、日本でおよそ1万人が亡くなったと推計されています。
このように、現在でもインフルエンザは大きな被害を生み出しています。私たちにできる対策や治療法は、どのようなものがあるのでしょうか。
インフルエンザの主な感染経路は、感染者からの飛沫感染、ウイルスの経口感染や接触感染です。つまりこれらの要因でウイルスが体内に入らないように工夫することが、予防策のポイントとなります。
具体的には、帰宅時や食事前などに、小まめに手洗いやうがいをすること。手やのどに付着したウイルスが体内に入ることを予防できます。手洗いの際は水だけでなく、石けんやアルコール消毒液を用いることで、より確実にウイルスを防ぐことができます。
またマスクを着用し、せきなどによる飛沫の拡散を抑止することも、ウイルスの拡散を防ぐ重要な手立てです。また加湿器などで湿度を保てば、のどの粘膜の防御力を高める役に立つでしょう。
これらの個人でできる予防策以外にも、医療の発達によってさまざまな対策が打ち出されています。
たとえば、あらかじめ流行する株を予測してワクチンを生産し、予防接種が実施されています。予防接種をすることで、感染の抑止や、感染した際の重症化リスクを低減させることが期待できます。
ほかにもインフルエンザウイルスの迅速診断キットを用いれば、大規模な病院でなくてもインフルエンザの陽性、陰性を判定することができるようになりました。
発症後48時間以内に感染が確認された場合、抗インフルエンザ薬が有効です。抗インフルエンザ薬を服用することで、早期の解熱など病状の軽減が可能に。そのためインフルエンザが疑われる場合は、なるべく早めに医療機関を受診することが推奨されています。
もっとも、熱が下がってもインフルエンザウイルスは感染力を保ち続けているため、学校などでは感染を防ぐために、発症後5日間、かつ解熱後2日間が経過するまでは出席停止の措置がとられています。
社会人の場合、法的に出勤停止期間が定められているわけではありませんが、やはり解熱後2日間程度は自宅で療養するべきとされています。
- 著者
- 木村 知
- 出版日
タイトルのとおり、社会の構造上の問題から感染症について考える作品です。
作者は毎年インフルエンザが拡大する要因として、迅速診断キットの落とし穴や、「風邪程度では休めない」「薬を飲んですぐ出勤する」といった日本の労働環境の問題点を挙げています。
また「健康自己責任論」や、新自由主義的な価値観が医療に与える悪影響にも言及。インフルエンザはもちろん、新型コロナウイルスなど他の感染症の拡大を考えるうえでも、さまざまな示唆を与えてくれるでしょう。
- 著者
- ["アルフレッド・W・クロスビー", "西村 秀一"]
- 出版日
本文中でも取り上げた、「スペインかぜ」をめぐる一連の動向をまとめた作品です。世界情勢から個人の動き、大都市で流行が拡大する様子やそれに対する人々の反応を見ると、個人の危機管理がいかに重要であるかが実感できるでしょう。
また作者は、罹患者が膨大な数に達したために、かえって死者数に目がいかず過小評価を招いていることに警鐘を鳴らしています。インフルエンザは「死ぬ」病気であることと、その怖さを考えさせられる一冊です。