古典名作海外推理小説おすすめ7選!

更新:2021.12.14

エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』から始まったと言われる推理小説というジャンル。推理小説というジャンルを盛り上げ、多様な謎やトリックを生みだし、現在に繋いだ古典的名作をご紹介いたします。

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時代を越えて愛される名作、名探偵シャーロック・ホームズ

どれほど時代が変わっても、変わらず愛され続けるシャーロック・ホームズ。彼が活躍するのはヴィクトリア朝時代のイギリスです。

自動車が流通する少しだけ前の時代を生きるシャーロック・ホームズは、背が高く鷲鼻、そして皮肉屋で女嫌い。相棒のワトスンと共に住む下宿・ベーカー街221のBから馬車で移動し、様々な事件を解決する大人気シリーズです。

著者
コナン ドイル
出版日
1953-04-02

本書はその初の短編集。トップを飾る「ボヘミアの醜聞」を少しだけご紹介しましょう。

シャーロック・ホームズが回顧する時、常に「あの女」とだけ呼ばれる女性アイリーン・アドラー。彼女は、ボヘミア王国の国王と深い中であったという証拠をもって、国王を脅す悪女です。国王から依頼を受けたホームズは、解決に乗り出しますが……。

この作品はホームズとワトスンの軽妙な掛け合いが人気ですが、この話では結婚して体重の増えた相棒ワトスンを、冷ややかに指摘するシーンがあります。そのいまいましげな様子から、結婚や女性に対する冷ややかな態度が伝わります。

そんなホームズが苦々しく思いつつも特別な意味を込めて回想で「あの女」と呼ぶにいたる彼女の正体、事件の顛末とは。

この後生みだされた数多くの探偵達すべての原点ともいえる要素が詰め込まれた小説です。『モルグ街の殺人』が推理小説の走りと言われていますが、それを踏襲したこの作品ものちに多くの推理小説のモデルとなったという意味では元祖と言えます。

ホームズがなぜ人気があるのか、その秘密はホームズのキャラクターとそのレトロなイギリスの雰囲気、小説としての起承転結や構成がしっかりと感じられるから。映像化作品でのみ彼の姿を知る人も多いことでしょうが、小説でしか知ることのできない驚きを楽しんでみませんか?

木の葉を隠すなら?ユーモアが光るセリフを楽しむ古典名作

まんまるい顔に小柄な体。黒い帽子にこうもり傘。見た目のインパクトも十分なブラウン神父が探偵役の短編小説群、その最初の一冊目が本書です。後年さまざまな物語の中で引用される「木の葉を隠すなら森の中」という名言の元がこの短編集の中に出てきます。

著者
G.K. チェスタトン
出版日

それを知った上で読んでも、一歩上を行く新たな驚きがあるのがこのシリーズ。とぼけているようで鋭い視点を持つブラウン神父が短編ならではのテンポの良さで次々と事件を解決していきます。

名言の元になったのは本書の中の「折れた剣」という物語。ブラウン神父と一作目の「青い十字架」にも登場する大男・フランボウは一作目の「青い十字架」にも登場する大男・フランボウと共に、歴史上の英雄・アーサー・セント・クレア卿をたどる旅に出ます。短編集第を聞き役に、ブラウン神父がを語ります。関係者に取材をしても曖昧なまま真相が見えないクレア卿の死。ブラウン神父はフランボウと問答を繰り返しながら読者とフランボウを真実へと導きます。

シャーロック・ホームズと並んで、多くのトリックを生みだし、後の作品に大きな影響を与えたシリーズです。海外ではドラマ化されたりもしていますが、それに触れる機会はホームズやポアロと比べると少ないですね。

ですが、「木の葉を〜」に代表されるような、風刺の利いた台詞は目で追ってこそ印象に残るというもの。ブラウン神父の機知に富んだ台詞の数々を堪能してみてください。

アガサ・クリスティーの実力が感じられる、叙述トリックの古典作品

アガサ・クリスティーといえばエルキュール・ポアロとミス・マープルという二人の探偵を生み出したことで有名ですよね。本書は「灰色の脳細胞」で有名なエルキュール・ポアロの登場する作品で、シリーズ3作目の作品です。

著者
アガサ クリスティー
出版日

序盤から登場し、本書を牽引するのは語り手のシェパード医師、ポアロの隣人です。村の名士、アクロイド家で起きた変死事件。その第一発見者である医師が隠居していた探偵・ポアロに助力を乞う形で登場します。この物語は「叙述トリック」と呼ばれる手法が使われていますが、それがとても重要な要素になっています。

ちなみに有名すぎる作品なので、すでになにかしらのきっかけで犯人をご存知のかたもいるでしょう。しかしこの作品は名作とだけあって、犯人がわかっていても楽しいもの。多くの人が事前に犯人を予想したり、知っていたりしても楽しかったと思うはず。それは構成や言葉遣いの巧みさなど、ストーリーとしての完成度が高く、読者に挑んでくるような、対話的な作品だからでしょう。

もちろん推理小説なので、できるだけ何も知らない状態で読むのが一番ですが、犯人がわかっていても楽しめる本作品。小説家・アガサ・クリスティーの実力が感じられる1冊です。

幻想的な世界で理知的に謎解き!見立て殺人の古典名作

探偵ファイロ・ヴァンスの活躍するシリーズ4作目にして最高傑作と名高いのがこのお話です。

ファイロ・ヴァンスはニューヨークの屋上庭園付き高級マンションに住み、親族からの遺産で、美術品を収集したり、スポーツをしたりと気ままに暮らしています。桁違いの博識で、探偵の仕事も知的好奇心からくる趣味のようなもの。

著者
S・S・ヴァン・ダイン
出版日
2010-04-05

現代風に、身も蓋もない説明をすればセレブのイケメン。そんなファイロ・ヴァンスを、ヴァン・ダイン自身がその友人として語る形で物語は進みます。

マザーグースを題材にした本書は、いわゆる「見立て殺人」ものと呼ばれる形式になっています。

「クック・ロビンを殺したのはだあれ」
「わたしって雀がいった」

まるで詩を再現するかのように、ロビンという名の男が、弓と矢で殺されていました。
おあつらえ向きに、スパーリング(雀)が登場し、ぼくが殺しましたと自白します。
けれどそれは、一連の事件の幕が開けたにすぎない出来事でした。

マザー・グースはイギリスやアメリカで古くから親しまれている童謡です。日本ではあまり馴染みのないものですが、独特の残酷さと幻想が合わさった詩はそれだけでも魅力的。

意味ありげな紙片や、事件現場の見取り図が差し挟まれ、まるで現場にいるような臨場感のある本書。童話の中のように幻想的に進んでいく見立て殺人を、理知でひも解く推理小説となっています。その2つの雰囲気が混ざり合った独特の世界観の中、パーフェクトボーイの名探偵・ファイロ・ヴァンスが活躍する様子をどうぞご堪能ください。

日本で大人気の「悲劇シリーズ」。「館もの」の名作

今でこそエラリー・クイーンの傑作ミステリとして有名な本書ですが、刊行当時は「バーナビー・ロス」という、エラリー・クイーンとは別名義で書かれていました。

著者の作品は、同名の探偵・エラリー・クイーンが父・リチャード・クイーンと共に活躍するシリーズが有名ですが、本書を含む悲劇シリーズの探偵はドルリー・レーン。耳が不自由になって引退した、元舞台俳優です。ハムレット荘という名の家に住み、使用人たちをシェイクスピア作品の登場人物の名で呼ぶ小粋な初老の男が事件に挑みます。

著者
["エラリイ クイーン", "宇野 利泰"]
出版日

物語は富豪ハッター家の当主が死亡したところから始まります。このハッター家、不思議の国のアリスに登場するマッドハッターを彷彿とさせる、それぞれが何かしら問題を抱えた一家。死亡したヨーク・ハッターの妻エミリーとその息子・コンラッド、そして娘達。更にコンラッドの妻に子ども達など、登場人物全員がみんなどこか病的で、誰もが怪しく見えてしまいます。

そんな一家が住む家が主な舞台。本書は「館もの」に分類されるもので、閉ざされた空間(館)の中で、一見不可能と思われる殺人が次々と起こります。

そんな閉ざされた空間で人間の心理が光った作品です。みんなどこか壊れた登場人物、そこで起こる殺人は謎や闇が深いように感じます。そして巧みに張り巡らされた伏線、緻密な描写はより一層作品の深みを増しています。最後の犯人の顛末は予想外、かなりひねりのはいったものとなっています。

本国アメリカよりも日本に愛好家が多いという本書。刊行順ですと「Xの悲劇」が先行、「Zの悲劇」「レーン最後の事件」と続きます。四部作をじっくりと読んでみたい方は「X」からどうぞ。

お好きな真相を選んでください

『毒入りチョコレート事件』は、新製品のチョコレートとしてユーテス・ペンファーザーにあててチョコレートが送られてくることから物語が動き出します。ペンファーザーはチョコレートをベンディックス夫妻に譲ります。しかし実はそのチョコレートは毒入り。ベンディックス氏は重体に陥り、夫人は死亡するという事件が起こってしまうのです。

事件の捜査が難航するなか、「犯罪研究会」の六人がそれぞれ自分たちの推理を披露していきます。

著者
アントニイ・バークリー
出版日
2009-11-10

この作品は「多重解決型」と呼ばれる推理小説の手法を使っています。「多重解決型」とは、ひとつの真実を探偵役が解決するものではなく、事件の真相がいくつも複数の人物によって考えられる、という手法です。

犯罪研究会のメンバーが、一人一晩ずつ自分の推理を披露していくのですが、前の発表者に対し「ここがちがうのではないか?」という反論や、納得する推理を取り入れて自分なりの推理に変換したり、という犯罪研究会の中の人間関係も垣間見ることのできる作品になっています。

一人の探偵が事件のすべてを見抜くのではなく、全員が全員なりの「真実」を持っています。ぜひ、一緒に事件の推理をして誰の推理に一番近いのか、考えてみてくださいね。

いい人?犯人?正体が暴かれていく……

『皇帝のかぎ煙草入れ』は、主人公のイヴ・ニールは向かいに住む婚約者の父親の殺人容疑者がかかってしまいます。イヴには、殺せるはずがありませんでした。なぜなら、アリバイもあり、殺す動機もなかったからです。しかし、イヴはアリバイを婚約者の家族に話すことはできません。その時刻、被害者の死んでいた書斎の向かい側、イヴの寝室には別れた夫ネッド・アトウッドがいたのです。

著者
ジョン・ディクスン・カー
出版日
2012-05-18

この作品の魅力は「登場人物の心理描写」「登場人物たちの本性」「トリック」です。

まず、「登場人物の心理描写」についてです。推理小説によくある地の文が事実だけを記す、第三者視点だけではなく、主人公のイヴはもちろん登場人物の一人称視点にもなっていて人物たちがなにを考えているのかよくわかります。

つぎに、「登場人物の本性」は、物語が進むにつれ登場人物がどんな人物なのかよくわかってきます。登場人物たちの一枚ずつペリペリと音を立てて剥がれていく化けの皮をお楽しみください。

「トリック」は、物語が進み新しく怪しい人物が出てくるのではなく、序盤で出てくる登場人物が全員怪しくなっていきます。事件の全体の描写も序盤ですべて描かれているので、誰がどんな風に殺したか、イヴと探偵役のキンロス博士と一緒に推理してみてくださいね。

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